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第34話 緑竜、再び

 ヨーコに案内されながら大樹海の中を進んでいくと、ツリーハウスで暮らしている集落が見えてくる。弓矢で武装したエルフの青年に話しかけて集落の中に入れてもらうと、そこには多くのエルフが暮らしていた。


「ここが大樹海の拠点になる場所、エルフの村じゃ」


「へえ~エルフの村にも冒険者ギルドがあるんだな」


「昔は他の種族に排他的だったけど、スプリガンやドラゴンなどの強力なモンスターが住み着いたからやむなくって流れらしいよ」


「なるほどな。じゃあ、この討伐クエストを受けますか」


 ミクたちが手にしたのはスプリガンとグリーンドラゴン討伐クエスト。村からさらに奥へと進んでいき、日があまり当たらないのか地面もぬかるんでいる。滑らないように注意して歩いていくと、目つきの悪い小さな妖精が突如現れて、こちらを睨め付けてくる。


「てめえら、エルフじゃねえな」


「私はエルフだけど?」


「あん? 異種族とつるんでいるエルフも同罪に決まっているだろ。出てこい、スプリガン!奴らを八つ裂きにしろ!」


「問答無用かよ!」


 ミクが地面から生えてきた岩肌の巨人が振り下ろす大槌の攻撃を躱し、上空へと逃げる。すると、自身の体にまとわりついている植物から種子をマシンガンのように撃ちまくる。


「プロテクション!大丈夫、みっちゃん」


「ああ、なんとかな。あの種マシンガンをどうにかしないとうかつに近づけねえぞ」


「こういうときに私たちがいるのですよ」


「まずはワシからじゃ。【式神変化(鳥)】、奴を惑わせよ」


 手にした紙が無数の鳥に化けて、スプリガンの目の前をウロチョロと飛び回って、ヘイトを奪っていく。うっとうしくなったスプリガンが種マシンガンで一掃しようとしたとき、大樹海に吹雪が吹き始めて花がカチコチに凍り始める。


「私が放つ冷気は氷点下。これで種子は飛びませんわね」


「どうしたスプリガン。そんな小手先の技が使えなくても、お前には自慢のパワーがある!」


 スプリガンの頭部の影に隠れている妖精がエールを送ると、スプリガンにバフが付き、攻守が上昇する。攻撃に転じたミクが切りかかっても、はじき返されるほどの強固なボディ。HPが一向に減らない様子に、これを突破するのは中々困難そうだ。


「さてとどうしようかねえ。火属性を付与しても効果なしときたら……SPICA、良い方法はねえか?」


「アイドルに無茶言わないで~ギターフォームになっても魅了が効かないのに」


「と、とにかく攻撃あるのみです」


「カエデ、それで良いか?」


「ん? それで良いんじゃない」


(紅葉のあの素っ気ない態度……もしかして、俺たちの攻略方法間違っているのか? そういや、雪見さんたちも種攻撃を止めただけでスプリガンにあまり攻撃してねえな)


 ミクの前にいるのは手に持った大槌をぶんぶんと振り回してくるスプリガンと後方から支援をしてくる妖精。そして、上級プレイヤーの態度。もしや、スプリガンに攻撃しなくてもスプリガンを倒せる方法があるのではないかと思い始める。


「そうなると……これが正解か!」


 ミクがスプリガンの脇をすり抜けて、後方にいた妖精に向けて火属性を付与した鉄球を投げつける。すると、妖精が受けたダメージと連動するかのようにスプリガンのHPが減少する。


「わかったぜ。スプリガンってのはデカブツのことじゃない。すぐ後ろにいた妖精のことを指し示していたんだ。頭部にいたのは自分の頭上にあるHPゲージをデカブツと誤認させるためか!」


「みっちゃん、大正解」


「よくわかりましたね」


「初見だと引っかかる罠なんじゃがな」


「てめえら、知っているなら教えろよ!」


「初心者が何も知らずに無駄行動をしているのを眺めることでしか得られない栄養があるから」


「嫌な栄養だな、おい!」


 手品の種さえわかればこちらのもの。ギミックを理解したことで、雪見がデカブツの足を凍らせて動きを封じている間にミクとヨーコがスプリガンを殴り始める。正体がバレたスプリガンはなすすべなくやられるのであった。



「ぐっ……」


「どうして俺たちに襲い掛かって来たんだ?」


「決まっている。ここは天よりの使いが舞い降りる神聖なる土地。ここに住まうエルフはそれを理解し、信奉してきた。ゆえに許す。だが、それを後からやってきた野蛮人どもが私利私欲のために荒らしてきた。嫌う理由は十分であろう」


「現実でもある問題だな」


「だが、エルフも野蛮人と手を組むようになってしまった。俺は悲しい。ゆえに!貴様らたちは滅ぼさなければならない。俺の命を引き換えに高位の存在を呼び出す」


 魔法陣に包まれた妖精の姿が消えるとそこから、巨大な緑色の竜、グリーンドラゴンが召喚される。グリーンドラゴンが吠えると、周りの木々の枝がムチのように伸び始め、ミクたちに襲い掛かる。


「凍てつく波動!」


「ブラッディレイン!」


 雪見が一瞬にして枝を凍らせることで、もろくなったところに血の雨が降り注いで破壊されていく。そして、今度は足元の地面が赤く光った瞬間、そこから岩のとげが無数に飛び出してくる。


「あぶな!攻撃方法、森のざざめきのときと全然違うじゃねえか!」


「だから厄介なんだよ。次はブレス、AYAKA、プロテクション!」


「は、はい!」


 広範囲にまき散らす炎のブレス。雪見に向かって吐かれたそれをしっかりと防ぐ。すると、今度は巨大な体躯から繰り出される爪攻撃でプロテクションを破壊しようとしてくる。


「魔法攻撃を仕掛けて来ない、ここが一番のチャンスだよ!」


「わかった。【属性付与(火)】、俺の渾身の一球、受けやがれ!」


「式紙爆裂!」


 グリーンドラゴンの眼球に熱い鉄球が突き刺さり、さらに取り付いた式紙が爆発してダメージを与える。すると、周りの植物を枯らしながら目の傷をいやしてくると同時にHPも回復する。


「回復もしてくるのかよ」


「これが厄介なんだよね」


「こうなったら奥の手だ。【悪魔召喚術式(魔)】起動、ウラガル!何かいい方法は無いか」


「ふむ、あれは植物の生命エネルギーを吸収する魔法だ。つまり、あたりに植物がなければ回復はできない」


「ここ樹海なんだが……」


「では我の炎で燃やすとしよう。攻撃範囲はこのあたりで十分か」


 ウラガルが指パッチンすると、黒い炎がぐるりと取り囲んで木々を一瞬にして燃やしていく。役目を終えた黒い炎が消え、回復が中断されたグリーンドラゴンに大きく吠えると同時に攻撃力が上昇する。翼をはばたかせて、空を飛んだグリーンドラゴンは地上にいるカエデたちに向かって炎を吐く。


「私の周りに集まって、ホーリーバリア!」


 カエデの周囲に貼られた球体のバリアで炎のブレスを防いでいる間、【灼熱の血】を使って特攻したミクの手には丸まった火炎トカゲが握りしめられている。大きく口を開けているグリーンドラゴンの口内に火炎トカゲを投げ込み、体内から燃やそうとする。


「火山地帯にいたお前なら耐えれるはずだ。そして!」


 雪見たちの攻撃に巻き込まれないようにミクが距離をとり、体内から内臓を燃やされて悶えているグリーンドラゴンに向かって一斉に攻撃をする。これを数回繰り返しているうちに、グリーンドラゴンのHPが尽きるのであった。



 グリーンドラゴンが倒されたことで、自身が吸収した樹海の木々がもとに戻っていく。ウラガルが燃やした分が大半ではあるのだが、そのあたりは無視されたようだ。


「ふう~、ドラゴン1匹倒すのにそれなりに時間がかかったな」


「いや、早いからね。高レベ周回パテでも、回復回数が尽きるまで殴る必要があるせいでそこそこ時間かかるから」


「あの悪魔の習得方法を教えて欲しいくらいです」


「あー、それはギルドのメンバーと話したんだけど、しばらくの間は俺たちのギルドが情報を独占することになったんだ。ギルマスの許可が下りたら教えるよ」


「仕方ありませんわね」


「そうじゃな。ワシらは時間はあるが、おぬしらはどうじゃ?」


「こっちもまだあるぜ。投擲グローブ分、周回させてくれ」


「みんなで頑張ろう!」


 ミクたちは夜遅くまでスプリガン&グリーンドラゴン周回をし続け、ミクが必要とする素材が集まったことで解散の流れとなった。


「ふふふ、雪女は実在していたわね」


「そうです、部長!」


「おーい、SPICA。素が出ているぞ」


「いけない☆」


「それに雪見さんは遅れた中二病だろ。雪女じゃねえよ」


「でも、雪女であることは否定していないよ」


「そうだけど……SORAみたいに俺たちに合わせてくれたんだって」


「それなら、夏休みにオフ会をしましょう」


「向こうが乗ってくれるならな。無理をさせるなよ」


「わかっています。都合の良い日程、チャットで聞いておきますね」


 AYAKAが雪見たちと連絡を取り合うことが決まり、ミクたちはゲームからログアウトするのであった。

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