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第33話 大樹海へ

 GW直前、オカルト同好会のメンバーは部室に集まっていた。話す内容は今後の部活動の方針についてだ。


「――というわけで地盤も固く生徒会長選でワタクシが勝てる見込みは0ですわ」


「順当に考えればそうだよな」


「そのため、当面の目標は9月の文化祭で成果を発表することとなります。部長様、時間を与えたのですから、進展の一つや二つはあるでしょうね」


「は、はい!」


(すげー、声が震えてるけど大丈夫かよ……)


「アレイスター魔法陣はこどもの日の夜7時57分に行います」


「分刻みの予定なのね」


「月と太陽、そして星の並び。それらを踏まえると直近ではこの日が最も成功確率が高いんですぅ……」


「自信を持ちなさいな。専門家である部長様がそう判断したのであれば反対しませんわ。続けてくださる」


「そ、それで……新しいオカルトテーマとして『実在する怪異プレイヤー』を取り上げようと思います」


「怪異プレイヤー? どういうこと?」


「見つけたのは部長じゃなく私だから、私から説明するね。VRゲーの一部のソフトは現実世界の自分の姿をゲーム世界に送り込むことができます」


「World Creation Onlineもその一つよね」


「その際、たびたび吸血鬼や雪女、河童、エルフ……その者がプレイしているのではないかと思うほどの精密なモデリングプレイヤーが発生するの」


「おーい、それって俺みたいな奴か?」


「みっちゃんは事情が事情だからね~」


「むしろ三雲ちゃんという前例がいるからこそ、この噂の信ぴょう性が高まるというもの!どうです、World Creation Onlineで実在する怪異、平行世界から来たプレイヤーを探すというのは」


「探すのは良いけど、SORAのときみたいに迷惑をかけるなよ。向こうが自分は幽霊だなんてノッテくれる良い奴じゃなかったら、怒られていたぞ」


「みっちゃん、それ初耳なんだけど」


「SORAが俺たちの3倍。50歳付近のばあさんだなんていう与太話信じられるかよ。いくら現実と違う姿になれるからって、年取ればしゃべり方やしぐさに違和感が感じられるってものだぜ」


「でも、それが本当なら30年くらい前にお亡くなりになっているということですわね」


「VR黎明期も良いところよね。ほとんど出たばっかの頃じゃない?」


「その時流行ったオンラインゲーって言われてもレトロすぎてわかりませんよ」


「30年前って俺たちどころか、親父たちが子供の頃だもんな」


「歴史の教科書に書いてあるレベルね。ちょうど持ってきているわ」


 部長が持っていた教科書をパラパラとめくり、現代史のページを進めていく。すると、そこには大震災で多くの人命が失われていることが数ページにわたって記載されていた。


「そういや、こういうこともあったって習った気がする」


「うん。授業だと最近のことってあまり教えてくれないよね」


「そうそう、第2次世界大戦過ぎたら巻きで進めていくからな。印象が薄いんだよな、平成とか令和って」


「それでは大震災の被害者リストにSORAさんにそっくりな方がいないか探してみますわ」


「できるのか?」


「当時、行方不明者も多数いたこともあって、遺族から提供された顔写真付きで公開されたこともあったそうです。さかのぼって調べることは容易でしょう」


「それなら、SORAのことは麗華に頼むぜ」


「ええ、子供の日までには調べてあげますわ」


「じゃあ、俺たちは怪異プレイヤーの捜索だな。アテはあるのか?」


「うん。雪見っていう雪女のプレイヤーが超絶美人」


 綾香のスマホに映し出された画像には病的なまでに青白い肌の雪女が映し出されていた。まるでおとぎ話の世界から抜け出したような儚さと妖艶さ。これはいくら自分でモデリングを調整できるといっても、一朝一夕ではできないのが素人のミクでもわかる。実在するのではと思われても納得だ。


「その人とはアポをとれたのかよ」


「有名人だからね。所属ギルドは【厄災PANDORA】。面会条件はミクちゃんと会わせること」


「俺をダシに使ったのかよ……まあいいけど」


「それじゃあ、レッツゴー!」


 調べものがある麗華を除いたメンバーでゲームの世界へとログインし始める。フォーゼにあるカフェへと向かうと、青い髪の雪女がこちらをみつけて手を振っていた。その傍らには狐耳の女の子がおり、仲良く食べていることからお友達らしい。


(うお、すげー和服美人。ハクエンさんと同じくらい、いや存在そのものが違うと思えるぜ)


 見惚れながら席に着き、AYAKAが雪見にインタビューをし始める。といっても、配信やメモはNGということなので、書き留めるのは自分の脳内メモリーだ。そして、自分らの自己紹介を終えたところでAYAKAは気になる同行者のことについて尋ねる。


「ワシは妖狐のヨーコじゃ。こやつだけでは何を言うかわからんからな」


「それはこっちの台詞では?」


「仲がよろしいんですね。雪見さん、単刀直入に聞きます。実は雪女だったりします?」


「ふふふ、よく言われるわね。それなら、私からも質問。ミクちゃん、貴女、吸血鬼だったりする?」


「俺、じゃなかった私もお袋も親父も真っ当な人間です」


「畏まらなくてもいいわよ。それにしてもまだ気づいていないのね、こちら側だということに」


「何が?」


「安心せ、何かあったらワシらが面倒見てやるからな」


「だから何なんだよ!」


「それは……」


「それは?」


「「私たちと同じ妖怪だということに!!」」


(もしかして、この人たち……ただの中二病なんじゃね……?)


 現実でもゲーム内の見た目と似た容姿であっても、中身が残念なら付き合う人は少なくなる。ゲーム内でちやほやされているうちに、現実から目をそらし、自分たちは本当の妖怪なのではないかと思い込んでいる痛い人。ミクはそう思うようになり始めていた。ただ、隣にいるSPICAたちは「やはり本物はいたのね」みたいな顔をしているのをみて、頭を悩ませる。


「リアルのことを聞くのはマナー違反だけど、そっちから話を振ってきたから聞きますが、お二人を普段何をしているんですか」


「普段……と言われても困るのう。いかんせん、社が壊れてしまってほとんどやれることが……少ない妖力で人の集合知、インターネットやらに繋げることしかできん」


「ヨーコさんはその……ネカフェ難民?」


「なんか侮辱された気がするぞ」


「されてませんわ。信奉者がいなくても人を見守る妖狐とおっしゃったのです」


「なるほど。そういうことならよい」


「それで私は山暮らしですからあまり人里には……それに今はオフシーズン。暇な時間が多くてこうしてゲームを」


「山で今がオフシーズン? スキー経営でもしているんですか」


「そんなところですわ」


「部長、これはやはり本物なのでは?」


「間違いない。これは本物よ!」


(んなわけねえだろ。ただのホームレスとスキー屋の人じゃねえか)


(しーっ、みっちゃん、聞こえたら失礼だよ)


「せっかく、ここで会えたのも何かの縁。私たちと一緒にセプテム大樹海に行きましょう」


「俺は良いけど、レベルが低いから足を引っ張るかもしれな……ません」


「【雪女】のスキルをご存じでない?」


「あれだけたくさんのスキル、全部覚えられるかよ。どんな効果なんです?」


「普通、水属性は火に強く、木に弱い属性相性を持つんだけど、【雪女】を持っていると自身と水属性の魔法が火と光に弱くなる代わりに水と木に強くなるの」


「熱そうなものが弱点ってわけか」


「そういうことよ」


「ワシらがいれば、そう簡単には倒されん。大樹海の中ボスのスプリガンはともかく、ボスのグリーンドラゴンはちょいと厳しいかもしれんがのう」


「グリーンドラゴンっていえば、森のさざめきだったかで出てきたドラゴンのことか?」


「そうだよ。あのとは序盤に出てくるから技構成も少ないけど、樹海の方はかなり厄介」


「あのときはほとんど役に立たなかったからな。スプリガンの素材を手に入れるついでにリベンジ戦してやるか!」


「決まりね」


 雪見たちとパーティーを組んだミクたちは港から船に乗ってフォーゼの隣国であるビリオン聖王国へと渡り、しばらく歩いていくと大樹海にたどり着く。うっそうとした森の中を歩いていくと、人サイズのカブトムシやクワガタ等の昆虫モンスターを引き連れたゴブリンキングが3体現れる。


「初手からレベル80越えか。でも、レイドの時よりも俺たちは強くなっているんだ。行くぜ!」


「うん。まずはマジックソング!」


「良い歌ね。雑魚は私たちに任せて頂戴。ヘルブリザード」


 雪見から木々が凍り付くほどの冷気が放たれ、昆虫たちがぞろぞろと凍え死んでいく。それでも、吹雪の直撃を避けた昆虫たちが雪見を背後から襲うとしたとき、ヨーコが回り込む。手には人型を模した紙が握られている。


「ワシが陰陽師の真似事をするのは嫌なんじゃがな。見合った職業がないのだから止むを得ん。陰陽師固有スキル【式神変化】!」


 手に持った紙を投げつけると、ヨーコの姿に化けて狐火で昆虫を燃やしていく。二人で取り巻きの昆虫を抑えている間にミクがゴブリンキングに噛みつき、注意を自分に向けさせる。仲間のゴブリンキングが噛みついているミクを叩き落とそうとしても、素早く空中へと逃げられてしまい、フレンドリーファイアしているに過ぎない。


「せっかく火属性付与できるようにしたけど、ゴブリンキングは無属性だから弱点がつけないのがなぁ」


「それが厄介なのよ。プロテクション」


 死角から迫ったもう一体のゴブリンキングの奇襲にカエデが防ぎ、ミクがその場から離脱する。このままではじり貧と思ったのか、SPICAがギターフォームにフォルムチェンジする。


「行くよ、ギターストリングス!私のハートをチューニング☆」


 ギターから飛び出てきた弦がゴブリンキングに絡まり、弦によって誘導されたハート型のビームがゴブリンキングの体内に直接注入されていく。すると、目がハートに変わり、魅了状態が付与される。


「す、すごい。ゴブリンキングってそこそこ状態異常に耐性あるはずなのに」


「これがギターバンドのSPICAちゃんの力だよ☆」


「そのバンド1人ぼっちですけどね」


「細かいことは言わない約束なのだ☆」


「でも、おかげで1体の動きが封じられているおかげで大分とやりやすくなったぜ」


 火力のあるゴブリンキングからの奇襲におびえる必要もなくなり、ミクが狭い樹海を駆け回り、ゴブリンキングに着実にダメージを与えていく。そして、プロテクションを使ったカエデが守りをAYAKAに任せて、大技の準備をし始める。


「シャイニングスパーク!」


 ゴブリンキングに天からの裁きが下され、焼かれ崩れ落ちていく。魅了状態の1体を除けば、残りの敵のまともな戦力は1体。一人ではその速さに触れもできないゴブリンキングがミクに勝てるはずもないのであった。



「ふう~、初戦闘とはいえ結構きついな」


「そうだね。スプリガンならともかく、グリーンドラゴンはちょっと厳しいかも」


「情けない奴らじゃのう」


「まあまあ、先の戦闘は私たちが楽をしていましたから」


「それもそうじゃな。さあ、いくぞ」


 気合十分なヨーコが先頭に立ち、ミクたちは大樹海の中をさらに進んでいくのであった。

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