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第32話 フォーゼ城攻略戦

 緊急クエストが出たその日の夜、多くのプレイヤーがミクを探し回る中、夜空に溶け込む蝙蝠に化けたミクたちはフォーゼの街に忍び込んでいた。


「さてと、そろそろ時間だな。カーミラ、タイタンの様子はどうだ?」


「問題ないわ」


 カチカチと時計の針がリズミカルに刻んでいく。そして夜の10時を示した瞬間、火山のボスであるはずのタイタンがフォーゼの外に現れ、城壁を壊し始める。


「なんでこんなところにタイタンが!?」


「城壁のHPを失ったら、緊急クエスト強制敗北だと!? ふざけんな」


「だが、奴は雑魚!水属性の攻撃で消し去ってくれる」


「フフフ、このグレートタイタンは一味違うぞ。【アストラルシフト(木)】」


 タイタンの体内に乗り込んだ錬金術師が呪文を唱えると、タイタンの表皮が緑色に変わり、プレイヤーが放った水流や氷結攻撃を半減してくる。そして、タイタンが魔法陣を展開し、そこから放たれたのは種爆弾。本来仕掛けて来ないはずの木属性の攻撃に面を食らったプレイヤーが次々と撃ち落とされていく。


「木属性のタイタンだと!? だったら火属性だ」


「甘い。【アストラルシフト(水)】」


 今度は青色に変わり、巨大な水の本流が地上にいたプレイヤーたちを飲み込んで葬り去っていく。


「まさか、コイツ。弱点属性に対応してくるのか」


「だったらバラバラの属性か互いに弱点攻撃になる光か闇属性の攻撃を仕掛けるまでだ」


「これは小手調べだよ諸君。吸血鬼の力を得てパワーアップしている。食らえ、ドレインパンチ!」


 タイタンがプレイヤーを直接殴り倒すと、その分だけ自身のHPを回復していく。これはカーミラの支援もあって完成させた吸血鬼の【吸血】スキルを応用した技だ。


「自己修復もできるこのグレートタイタン、倒せるものなら倒して見せろ!」


 グレートタイタンが獅子奮迅の活躍を見せ、数多くのプレイヤーとNPCがそちらの処理に回される中、ミクたちは城内へと侵入することに成功していた。と言っても、クエストの特別仕様で城の中では【変身】スキルが使えないようになっていた。そのため、忙しく走り回っている騎士に見つからないようにこっそりと移動している。


「陽動したとはいえ、意外と人が残っているな」


「こういうの私の性に合わないのよね」


「【変身】が使えないんだから仕方ねえだろ」


「う~ん……姫様はどこに監禁されているのかしら」


「普通に考えれば関係者以外に立ち入らせないようにした自室。アリスをわざわざ別の場所に移動させるのは他の人に見つかるリスクが高まるからな。そこにいないなら、地下牢とかかな」


「自国の姫をそんなところに閉じ込める、普通?」


「自分が変身できるなら、他者を変身させることもできるかもしれないぜ。それなら誰にも気づかれずに閉じ込められるし、他の人が手助けしようなんて思わないからな」


「だとしたら、私が上に行くわ」


「二手に分かれるってか……戦力の分散は避けたいが、どっちも見つかるよりはマシだな。派手にやってくれ」


「それじゃあ、行くわ!」


 カーミラが飛び出し、兵士をあっという間に血まみれにしながら階段を上っていく。賊を見つけたことで城内にいた騎士たちが一斉に上の階へと駆けあがっていく中、ミクは手薄になった地下へと向かっていく。


「だれだ、ぐはっ……」


「悪いな。さてと、アリスはどこかなっと」


「ミクモ様!」


「俺をそう呼ぶってことはアリスだな。ずいぶんと悪そうな面になっちまって」


「うう……気にしているのに」


「わりい。一か八かになるが、解除できるか頼んでみるよ。【悪魔召喚術式(魔)】発動、来い、ウラガル!」


「我を呼んだか!」


 ボスの時とは違い、人間サイズまで縮小したウラガルが姿を現すと、怖がったアリスが後ずさりする。


「怖がるな。今のウラガルは仲間だ。ウラガル、アリスにかかっている変化系のスキルを解いてくれ」


「安い御用だ」


 ウラガルが指パッチンするだけで元のアリスへと変わっていく。抱き付いてくるアリスは抱きしめようと思ったが、今は一分一秒が惜しい。安心するのはまだ早いと言い聞かせて、上の階で孤軍奮闘しているカーミラと合流しようとする。

 床に広がる血の跡をたどっていくと、激しい戦闘音が聞こえる。それを聞いて彼女の無事に安心しながらも、ミクはアリスをウラガルに任せて騎士たちに奇襲を仕掛けていく。


「そこをどきやがれ!」


 背後から現れたもう一人の敵によって乱された騎士たちは混乱の最中、二人の高速軌道を仕掛ける敵に対応しきれず、一人また一人と倒れていく。


「あの、この者たちは……」


「今は生きるのが優先よ。どんな人生を送るにしても生存競争である以上、殺さない人生なんて無いというのは覚えておきなさい」


「……はい」


「返事ができるだけマシね。姫様の救出はできた。あとは――」


「王様の正体を暴くだな!」


「お父様の部屋はその先にあります。お父様ではありませんが……」


「わかった。必ずこの国を取り戻してやる」


 ミクたちが部屋の中に入ると、そこには屈強な近衛騎士数人と魔族が化けた国王がいた。国王がウラガルの姿を視認した瞬間、たじろいで後ずさりする。


「賊め、姫様を離せ!」


「ああ、後で解放する。だが、その前にやるべきことがある。ウラガル!」


「その姿をさらけ出せ!」


「ぐおおおおおおおおおおお!!」


「へ、陛下が魔族に!?」


「悪魔め、陛下を元に戻せ!」


「いいえ、違います。魔族が父様に化けていたのです。私もその者の魔法で先ほどまで賊に姿を変えられておりました」


「ひ、姫様が!?」


「まさか本当に……」


「くくくく……こうなっては仕方あるまい。この国を焼き尽くしてくれるわ」


「そうはさせねえぞ!」


 窓から飛び出した魔族の青年を追いかけるようにミクたちが飛び出す。その瞬間、全プレイヤーに緊急クエスト失敗の案内が届く。クエストには参加できないとはいえ、この戦いを間近で見たいプレイヤーは大勢いる。


「はあ? なんでカーミラが一緒にいるんだよ」


「いや、待って。あの悪魔って配信で見た奴じゃね?」


「本当だ。小さいけど、仲間にできるの?」


「攻略班がまた死んでおられるぞ!!」


 グレートタイタンも足元からのロケット噴射で空を飛び、ミクたちに並び立つ。どこでどう間違えたらボスオールスターズになるのか、一般プレイヤーにはわからない。そして、先陣を切ったのはカーミラとミクの吸血鬼コンビだ。


「「ブラッディネイル!」」


「その程度の攻撃、俺には通用しない」


「ちっ、こいつもウラガルと同じくらいの闇耐性があるのか。だったら鉄球に【魔力付与(火)】!」


「吸血鬼の力を封じたところで勝てると思ったら大間違いよ。術式展開、空間固定、私の銃口が火を噴くわ」


 空中にずらりと並んだ銃が逃げ場を防ぐように弾を放ち、本命であるミクの鉄球を確実当てるためのサポートをする。だが、魔族はそれを身動きもせずに、片手でミクの鉄球を止める。


「なに、俺の渾身のストレートを!?」


「その程度か。つまらん」


「我を忘れては困るな!」


 ウラガルが魔族の背後から殴り飛ばす。その先には胸の銃口に魔力を充填しているタイタンがいる。


「エネルギー充填率100%、タイタンビイイイイイイイイム!!」


 胸から迸る高魔力のビーム。普通のモンスターであれば何も残らないほどの圧倒的火力。それを当てたのだから、絶対に勝ったと思うほどだ。だが、煙が晴れた先には平然としている魔族がいた。


「ふむ、修正してやろう。少しは驚いたぞ」


「こっちの持てる最大火力でもほとんど効かねえのかよ」


「これが絶望だ、人間ども」


「だが、防御できないくらいのスピードなら【灼熱の血】!そして、今度は剣に【魔力付与(火)】」


「そうね、アンリミテッドブラッド!」


「我も本気を出すとしよう」


 タイタンがエネルギーを充填している間、巨大化したウラガルに、吸血鬼の真の力を発揮させた二人が再度、襲い掛かる。カーミラの高水圧の渦で相手を削り取るブラッディスパイラルに対し、直撃はまずいとでも思ったのか、こkでようやく魔族が闇の波動による攻撃を行い、打ち消してくる。その間、背後に回ったミクが高熱の剣で切り付ける。


「少しはマシになったか」


「バックアタック込みでもほぼ減らねえとか。属性攻撃への耐性が高いのか?」


「では、今度はこちらから行かせてもらうぞ。サバキノツブテ」


「むっ、いかん。相殺せねば」


 天に現れた球体より降り注ぐ黒い光が無差別に地上を襲う中、ウラガルが溜めていたエネルギーをぶつけて天球を即座に破壊する。


「ほう、思ったよりも死ななかったな。やはり、貴様らから始末せねば国一つ滅ぼすのも無理か」


「俺たちを脅威と見たわけか」


「ああ、貴様以外はな」


「なにを!だったらこいつでも食らいやがれ」


 ミクは閃光の盾をブーメランのように投げつけてみると、魔族が大きく躱す。それを見たカーミラが魔族に一撃を加えて、ダメージを与える。


「今、わかったぜ。お前は光属性以外の属性攻撃をほぼシャットダウンするんだな!」


「だが、それがわかったところでどうしようもない差を見せてやろう。ブラックホールカノン」


「ぐっ……体が吸い込まれ……【加速】!」


 速度を上げて、ブラックホールに飲み込まれないように距離をとっていく。だが、地上にぶつかったブラックホールはその場所に巨大なスプーンでえぐり取ったかのようなクレーターを形成する。


「こうなればやられる前にやれだ!剣に【魔力付与(光)】、これなら!」


「私が魔族の目を引き付けるわ。魔道具再度展開、空間固定、魔法攻撃との一斉掃射!」


 魔族の眼前に広がる魔法と銃弾の雨、いや壁が襲い掛かる。これを見た魔族が魔導波を放って相殺しようとしたとき、別方向から高魔力のビームが襲い掛かる。


「私を忘れては困る。今度は【アストラルシフト(光)】を使ったうえでエネルギー充填率120%だ!」


「ちっ、余計な時に!」


 溜めていた魔導波をタイタンビームに放って減衰させたことで、カーミラの攻撃をまともにくらってしまう。そして目をそらしたことで、高速移動するミクの姿を見失ってしまう。


「アイツはどこに……」


「ここだ!」


 背後から投げつけられた閃光の剣は魔族の胸を貫き、ミクはすぐさま距離をとる。ウラガルのチャージが完了したからだ。


「今度は無属性の攻撃だ。貴様自身でその威力、味わうといい」


 ウラガルの極大の魔導波を喰らい、魔族に大ダメージを与える。魔族が肩で息をしているとき、死角から光属性を付与した鉄球が頭部にぶち当たる。その衝撃でふらついているとき、カーミラが魔族の右目付近を切り付ける。


「よくも、よくも、俺の眼を!」


「かすっただけであれだけのダメージ……目が弱点なら狙わせてもらうぜ!」


「吸血鬼風情が!」


「【霧化】」


 魔族が多数の魔導弾を放ってきた瞬間、ミクは霧状態になってその攻撃を躱して魔族の眼前に現れる。そして、手には光属性を付与した剣が握られている。


「これで終いだ!」


 弱点属性で弱点部位である目にクリティカルヒットしたことで、魔族のHPを削り取り、魔族は消滅するのであった。



 ミクはLv90にアップしました

 固有スキル【幻影の血】(現状のHPを半分にすることで、自身の分身を作ることができる)を覚えました

【闇の力Lv5】にアップしました

【怪力Lv4】にアップしました

【使役強化Lv2】にアップしました



 フォーゼの戦いから一夜明け、ミクたちはフォーゼ城に呼び出されていた。謁見の間に入ると、やせ細った本当の王様が出迎えてくれた。魔族に凶悪犯に姿を変えられたらしく、死刑執行をまさにしようとした瞬間、国王の姿に戻ったそうだ。そのときの処刑人は慌てようは想像もつかない。


「冒険者諸君、君たちはまさにこの国の英雄だ。私にできることがあれば遠慮なく言ってくれ」


「それなら、王族にしか閲覧できない禁書の閲覧許可を貰おうかしら」


「私もそれで!タイタンのさらなる強化をしたい!」


「我はすでに報酬を得ている。どうしてもというのであれば、我の分は主に回すがよい」


「ってことは俺は2つか。1つは偽王様が用意した5千万Gもらえたり……とか」


「構わんぞ。あやつめ、すでに予算を確保しておった。どうやら私の知らぬところで汚職を働いた貴族から根こそぎ奪っておいた金のようだ。その剛腕、右腕としてほしいくらいには有能である」


「話し合えば、いや立場が違えば分かり合えたかもしれないってわけか。残る1つは、アリスと向き合ってくれ。王じゃなく親としてな。王として後継者の娘を大切にするのは分かるが、閉じ込めるのはどうかと思うぜ」


「ふむ、今まで一番難しい願いじゃ」


「簡単と言わないだけ信用できるよ。それだけ真面目に考えているってことだからな」


 謁見の間から出ていこうとしたとき、王のそばにいたアリスが呼び止めて近寄ってくる。


「どうしたアリス?」


「ミクモ様、またお会いできますよね」


「もちろんだとも。頻繁には通えなくなるかもだけど、必ず会いに来る」


 アリスからもらったペンダントを取り出す。すると、宝石が輝き出し、アイテム名がアリスのペンダントから約束のペンダントへと変わっていく。



 約束のペンダント:闇属性のダメージを大きく軽減+状態異常耐性アップ+即死耐性付与



「私の思いがそのペンダントに宿ったのですね。つけて差し上げますわ」


 ミクは装備品の腕輪を外して、アリスに約束のペンダントをつけてもらう。ペンダントの宝石が二人の門出を祝うようにきらきらと光りながら、ミクたちはフォーゼを後にするのであった。

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