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第31話 結成、NPC連合!

 変身を解いたミクは自分の庭ともいえる吸血魔城の森の中を走りだしていた。一番友好的なNPCとも言えるカーミラに助力を求めるためだ。だが、みゅ~の配信で吸血魔城付近の森を根城にしているのはばれており、ここにいるかもしれないと踏んだプレイヤーたちが血眼になってミクを探している。


「見つけたぞ、殺せ!」


「【加速】」


「城の中に入られたら、同じパーティーじゃないと同じチャンネルには入れない。決して逃がすな!」


「アクアバレット!」


「だったらそれまで逃げ切るまでだよ!【飛行】」


「空へ逃げたぞ!」


 ミクが上空へと逃げると、今度はハーピィや飛行が可能なワイバーンに乗ったプレイヤーが攻撃を仕掛けてくる。しかも【霧化】を警戒しているのか、弱点である水と光属性の魔法攻撃ばかり。上空と地上、どっちも地獄。遮蔽物のある地上の方がまだマシかと思い、地上に降りてプレイヤーとの鬼ごっこが再び始まる。


「はぁ、はぁ……もうすぐ吸血魔城だ。中に入れば……げっ!?」


 吸血魔城の城門前には数十人のプレイヤーたちがずらりと並んでいた。SORAやアクアの姿が見受けられるあたり、【ENJOY!】主体のパーティーなのかもしれない。


(やべえぞ……向こうのレベルは100越えといっても、俺のレベルも上がっているせいで【ジャイアントキリング】による火力補正はもう使えない。どうする……)


 このまま草影に隠れても見つかるのは時間の問題。後方に引くか、一か八かで突入するしかないかと思っているとき、ダイチたちが現れて、アクアたちと話をしている。少しでも気を引いている隙にと、ミクが飛び出して城内への決死行を仕掛ける。


「全員、総攻撃!」


「させねえよ!ビッグシールド!」


 ダイチがミクに直撃するはずの攻撃を防ぎ、すぐさま大楯を解除してミクの侵攻を妨げないようにする。


「俺たち、【星の守護者】はいつでもギルドメンバーの味方だ!」


「お前ひとりの道くらいは開けてやる、アースウェイブ!」


「贄は十分。亡者の怨念を炎に変えよ、ヘルフレイム!」


 アルゴとダクロの大技で門前を固めていたタンクたちを吹き飛ばし、ミクがその隙に中へと入っていく。そして、ダイチたちの周りには敵だらけの【ENJOY!】の面々。


「ギルメン一人逃すのにPKされるとか正気?」


「アイテムロストくらい覚悟の上さ。それに――」


「我らはゲーマーとして、このクエストの顛末を知りたい」


「そういうことだ。俺のことを脳筋馬鹿って罵る二人の方がもっと馬鹿ってわけってな」


「はあ……多少は犠牲がでるけど、何人かはPKされたし、報復PKするけど良いわね」


「おう!だが、このクエスト中だけにしてくれよな」


「わかっているわよ!全員で【星の守護者】に攻撃!」


「【漆黒の翼】を食い止めている別動隊もいるんだ。こっちもただでやられるつもりはないぜ。俺たちで退路を確保するんだ」


 アクア率いる【ENJOY!】のレイドパーティーに向かって突撃していくダイチたち。彼らの犠牲を受け入れたうえでミクはカーミラが待つ部屋の中に足を踏み入れる。


「またやりあうつもり?」


「いや、今度は違うんだ。実は……」


 ミクはこれまでのいきさつを話し、王国から追われている身となっていることを話した。それを聞いたカーミラがゲラゲラと笑った後、真剣な顔つきに戻る。


「で、私と協力したいというのね」


「そういうことだ。嫌なら無理しなくてもいいんだぜ」


「何言っているの。魔族のサンプルは貴重。元錬金術師としての血が騒ぐわ」


「サンプルって……」


「人の欲を食らい、永遠ともいえる命を持つ長命種。吸血鬼とは違うアプローチで寿命を克服した存在。興味を持たない方がおかしいわ」


「欲を食らうねえ……王様なら食う欲には困らないわな」


「エサは勝手に来る。賢い彼らなら国を動かすのも他愛ない。彼らにとって王は天職でしょうね」


「される方はたまったものじゃないけどな。それじゃあ、カーミラ、よろしく頼むぜ」



 NPCカーミラがパーティーに入りました



「私のほかに当てはあるの?」


「とりあえず土産物の娘たちに事情を話すか。協力してくれるかもしれない」


 助けたばかりの彼女たちに助けを求めるのは心苦しいが、それを言っている暇はない。だが、その前にやることはある。吸血魔城の外には【ENJOY!】のレイドパーティーが続々と集結して、すでに100人超のプレイヤーが外に出てくるのを待ち構えているのだ。

 無論、ダイチたちもゾンビアタックを仕掛けて気を引き付けてくれてはいるが、あまりにも多勢に無勢。退路を確保するには至っていない。


「この包囲網をどうくぐり抜けるかが問題だな」


「そんなの蝙蝠に化けて逃げればいいでしょう?」


「俺の【変身】スキル、動物に化けられるかな?」


「それなら蝙蝠に化けた私に化けなさいよ。【変化】」


「ああ、その手があったか。よし、それなら【変身】」


 蝙蝠に化けてカーミラの手下の蝙蝠と一緒に外へと飛び出していく。動物に紛れて逃走しているとはプレイヤーたちは微塵も思わず、ミクたちをスルーしてしまう。ゼガンの村へと向かっていくと、村の中に入らないように検閲所のようにプレイヤーたちが立ち並んでいる。


(村や街の中はPKできないからな。こうしてくるとは思ったけど)


 蝙蝠の団体で飛ぶと怪しまれるリスクがあるので、彼らとは別れてカーミラと一緒に木陰で様子を伺っていた。現実世界で夕方に近づくにつれて、次第にプレイヤーの数も減っていき、誰にも見られずに村の中に侵入することができたミクは変身を解き、土産物の娘たちに話しかける。


「ミクさん!? その……」


「ちょっと誤解されたみたいでさ。これから潔白を証明するところなんだ」


「そうだったんですか。心配していましたよ。すみません、私たちではなにも手伝うことができなくて」


「そんなことない。その気持ちだけでもうれしいよ。それよりも、ウラガルの蔵っての見せてもらってもいいかな。もしかすると、潔白を証明する証拠があるかもしれないんだ」


「はい、いくらでも持って行ってください!」


 店の裏にある蔵にある2つの錠穴に赤と黒の鍵を差し込み、開いていく。そこには若干ほこりが積もっているも、いかにも高そうなアイテムがゴロゴロと転がっていた。


「すごいわね。この魔導書、本物なら高く売れるわよ」


「おいおい、俺が欲しいのは戦力の増強になるようなアイテムだ。あと手鏡みたいなアイテム。このクエストが起こった理由はそれが原因だろうからな」


「精霊の手鏡って変化前の姿を映すだけの大した効果のないアイテムよ」


「それがあるとマズイんだろうな王様は。大方、誰かが王様を拉致して化けているとかだろ」


 自分の推察をカーミラに話しながら、がさこそと探すこと数十分、カーミラが古びた魔導書を見つける。


「あら、これは……」


「ん? 何か見つかったのか?」


「これ悪魔を呼び出す魔導書よ。そのウラガルってのもこれを使ってその身を悪魔に食われたのね。悪魔召喚術式なんて人の手には余る者よ」


「悪魔を呼び出すか……カーミラ、それ使えるか?」


「元錬金術師舐めないでくださる。錬金術は魔導の本流、錬金術を極めし者は魔導を極めたも同然よ。戦闘になるかもしれないけど、大丈夫?」


「大丈夫だ、使ってくれ」


「ではさっそく……」


 どこからともなく眼鏡をかけ出したカーミラが魔導書を読み始めると、あたり一面が真っ暗な闇に包まれ、かつて倒したウラガル(悪魔の姿)が姿を現す。


「我を呼び出したのは貴様らか?」


「ん? 俺のことを知らないのか」


「それは前の我だ。新たに契約するのに、以前の記憶は不要だからな」


「なるほどな。呼び出したのは俺たちだ」


「貴様らは何を所望する?」


「俺たちの仲間になってくれ」


「仲間、我の力を寄越せということだな。ならば、その代償を支払う覚悟はあるか」


「代償か……」


「悪魔にささげるものは最も大切な者を渡すのが常識よ。もし、似つかわしくないと判断されれば、即座に自身を食われる」


「要は人柱か……そうだ、これならどうだ」


 ミクはお化け屋敷で手に入れた日記を手に取る。そこには別の悪魔を呼び出す術式が描かれていた。


「まさか、悪魔と契約するために別の悪魔を人柱にする気!?」


「そのまさかさ。おい、ウラガル(仮)!俺が捧げる人柱は悪魔そのものだ!なんたって、この悪魔は人を化け物に変えて、挙句の果てには人を洗脳することができる悪魔。本領を発揮すれば、お前なんかよりもずっと強いぜ!ここで断っても別の悪魔と契約するだけだって忘れるなよ」


「我よりも強い悪魔だと? 笑わせてくれる。良いだろう、その悪魔は無かったことにしてやろう」


 手にした日記が消え去っていき、ミクのスキル欄に新たに一つのスキルが追加される。



【悪魔召喚術式(魔)】:魔法を操る悪魔を召喚することができる(同じ種類の悪魔は1パーティーに1体まで)。このスキルを習得している限り、他の悪魔を呼び出すスキルを習得することができない。



「これで貴様とは契約が結ばれた。いつでも、貴様の力になってやろう」


 そういうとウラガルの姿が消えて、元の蔵の中へと戻る。これで戦力はミクを含めて3人分。守りの薄いところへの奇襲ならともかく、相手はプレイヤーも含めて守りが固い。3人だけではアリスの救出は困難だ。


「この際、ヒーラーは切り捨てて陽動できるNPCが欲しいな」


「陽動ってなると脅威と思われるほどの数か力が必要よ」


「数は無理だから力か……とにかく話し合ってみるか」


 蝙蝠に化けた二人は今度は火山へと向かっていく。そこには火使いの魔導士が住む洞窟がある。夕食時なので、洞窟前にたむろっているはずのプレイヤーはちょうどいない。自身の幸運に感謝しながら洞窟の中に入って人の姿に戻ると、火使いの魔導士が出迎えてくれる。


「侵入者め、覚悟しろ!」


「ちょっと待ったぁ!俺たち、お前たちのホムンクルスに興味があって来たんだ」


「我らの研究成果にだと?」


「俺たちの研究を横取りするつもりか?」


「あら、横取りできるほど貴方たちの研究は浅いのかしら。『元』錬金術師がパクれるくらいに」


「貴様、言わせておけば!」


「良かろう!我らの研究がすさまじいことを教えてやる」


 魔導士たちに案内されてボス部屋までやってきた二人。そこにはタイタンに食い殺される予定のボス錬金術師がいた。


「我々の研究が浅いというのは貴様たちか!」


「ええ、そうよ。龍脈を利用したホムンクルスの製造なんて制御できずに暴走して失敗するのがオチよ」


「だったらこれを見てみろ!私が開発した術式を組み込むことで暴走のリスクを極限にまで減らしたんだ」


「へえ~、少しはやるじゃない。だけど、これを組み込むなら、ここの術式も変えないといけないわ。そうしないと、魔力のオーバーフローが起きて暴走するリスクが増える」


「暴走するリスクは1%程度。ここを下手にいじると、ここの稼働率が低下する」


「なら、ここをこうして、この術式をこうすれば……スペースができて」


「ふむふむ……言いたいことは分かるぞ。ならば、これはこうだな。ならばここをこうすれば……乗り込むだけの……」


「あら、人間の癖についてこれるとか生意気」


「元の癖に生意気な」


「「ふん!」」


「すげえ……ボスとまともにやりあっている」


「俺達ではついていけない」


(俺、錬金術師にならなくてよかった。無職だけど)


 熱い議論を交わしていく二人。デッドヒートなやり取りがどこまで続くかと思いながら見ていたが、弟子の一人が声をかけて中断させにきた。


「はあはあ……確かにその知識量認めざるを得ない」


「そちらもやるわね。気に入ったわ」


 ガシッと固く握手を交わしたところで、本題に入る。ミクのいきさつを聞いて、一歩間違えれば国家反逆罪と聞いて弟子の魔導士たちが震え上がる中、ボス錬金術師は高笑いし始める。


「面白いではないか。我が完全体タイタンのお披露目式として最高のシチュエーションだ」


「ええ、私の錬金術師の知恵も入れて史上最大のホムンクルスに仕上げましょう」



NPC狂乱の錬金術師がパーティーに入りました



「お、おう。ほどほどに……いや、もうやれるところまでやれ」


 二人のマッドサイエンティストにたじたじになりながらも、ミクはログアウトして夕食を済ませに行く。フォーゼ攻略戦はその後だ。

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