第30話 ALL PLAYER ALL ENEMY
GWが近づく中、女騎士に化けたミクはフォーゼの城へと通っていた。アリス姫から外のお話を聞かせて欲しいと言われ、知り合いのことですがと枕詞をつけて男の時の話をしていた。と言っても、巡回の騎士に化けての変装ゆえに長話するわけにもいかず、そこそこ話したらすぐに退出していた。
そんな日を繰り返しているうちに、何度かのおねだりを経て土産物の復興クエストがようやく完了する。かつてあった古びた土産物屋は立派な建屋になり、きれいな娘たちが冒険者を呼び止めてはややぼったくり価格の土産物を買わせていた。
「皆様のおかげで、この店も立派になりました。本当にありがとうございます」
「手伝ってくれた皆様には安くお売りしますよ」
「ただじゃないんだな」
「商売ですので」
「それもそうか。じゃあ、石像シリーズを……ん? 精霊の手鏡?」
「それ、ウラガルさんの遺品から見つかったものです」
「あの悪魔が遺したものか……高いけど、吸血魔城周辺のクエストとカーミラ狩りでダブついた装備を売ったから懐は暖かいし、見るからに重要そうなアイテム……う~ん……」
「お買い上げありがとうございます」
「まだ買うって言ってないんだが……まあいいや、ほら代金」
「お代、確かに受け取りました」
ミクは装飾のついた豪華な手鏡を手にして、自分の姿を映しだした。そこにあるのは女の自分の姿。説明文を読んでも、『精霊の力が宿ると言われている手鏡』と書かれているだけで装備しても効果は得られない。ただの家具アイテムでも、これはこれで姫様に話すネタができたと思い、土産屋を後にして冒険者ギルドへと向かう。
「やっとスキルを覚えられるぜ!ステータスの伸びが悪くなった分、【超加速】を覚えるよりかは手数を増やさねえと」
学業をおろそかにするわけにはいかないが、始めて間もないミクには獲得SPこそ少ないものの時間のかからない未受注のクエストがたくさんあった。それゆえにSPが300ほどたまっていたのだ。それゆえに多くのスキルを選び放題となっている。と言っても、攻略サイトで覚えられるスキルは確認しており、欲しいスキルを素早く選ぶ。
ミクLv87
SP:4
種族:吸血姫
職業:なし
所属ギルド:【星の守護者】
武器1:ヴァンパイアソード(攻撃+50、【吸血鬼】を所持し、夜の場合さらに攻撃+50)
武器2:ヴァンパイアロッド(知力+50、【吸血鬼】を所持し、夜の場合さらに知力+50)
頭:黒魔術の帽子(MP+20、知力+30、闇属性の攻撃アップ)
服:忍びの服(防御+30、敏捷+20、敵に気づかれにくくなる)
靴:ヴァンパイアシューズ(敏捷+50、【吸血鬼】を所持し、夜の場合さらに敏捷+50)
アクセサリー1:パラソル(日光の影響を抑える、水属性の軽減)
アクセサリー2:魔法の腕輪(MP+20)
アクセサリー3:闇のネックレス(MP+50、闇属性の攻撃アップ)
HP331/331
MP421/331+90
攻撃632/582+50
防御202/172+30
知力537/457+80
敏捷654/584+70
器用さ182
運82
技・魔法
ブラッディネイル、ファング、シャドーボール、ブラッディファング、ブラッディアロー、
ブラッディボール、隷属:サイクロプス、ダークボール、ダークスラッシュ、隷属:人食い植物
隷属:アクアクラブ、ブラッディレイン、隷属:火炎トカゲ
固有スキル
【吸血】、【吸血鬼Lv5】、【吸血姫Lv5】、【魅惑】、【闇の力Lv4】、
【動物会話】、【真祖Lv4】、【隷属】、【怪力Lv3】、【魅了強化】、
【自己再生】、【魅惑の魔眼】、【飛行】、【斬撃強化Lv2】、【霧化】
【闇魔法Lv2】、【使役強化Lv1】、【敏捷強化Lv1】、【灼熱の血】、【剣戟強化】
汎用スキル
【投擲Lv5】【遠投Lv5】【見切りLv6】【採取Lv5】【ジャイアントキリング】
【加速】【挑発】【守護霊】【変身】【魔力付与(火)】
【魔力付与(水)】【魔力付与(光)】
「これで剣に火属性を付与させて炎の剣だ」
剣が赤く染まり、高熱を発していく。試しに近くにいたゴブリンを切ると、断面がジュージューと焼かれていた。試しに鉄球に火属性を付与させると打ち抜かれた後も、剣と同じく焼かれた断面となっている。
「3属性の魔法をわざわざ覚えなくても、魔力付与による使い分けで対応すれば(多分)効率的だよな」
必要になる鉄球も他のプレイヤーから見れば使いどころのないアイテムなのか捨て値同然で売られている。大量購入しても懐が痛まないのは大きな利点だ。
冒険の準備を整えたところで、今日もアリスに会おうと女騎士に化けて城内に入る。アリスの部屋の前で護衛している近衛騎士にペンダントを見せると、敬礼をした後、部屋へと通させる。まるで水戸黄門の印籠のようだ。
「ミクモ、今日はどんなお話を聞かせてくれますの?」
「今日はとある店の顛末にてお話ししましょう」
【土産屋の復興】のクエストの顛末について、若干の脚色をしつつ面白おかしく話していく。最後まで話し終えた後、購入した手鏡をアリスに渡すと、きらきらとした表情でその鏡をのぞき込む。
「あれ? ミクモの姿が違いますわ」
「げっ……」
鏡に映し出されたのは吸血姫のミクの姿であった。この鏡には変化系の魔法を打ち消し、真実の姿を映し出させる効果があるようだ。そうとは知らずにそれを手渡した自分の落ち度もあり、ミクは本当のことをアリスに話すことにした。
「そういうことでしたのね」
「だから、やましいこととか考えてないんだ。できれば、穏便にすましてほしいなぁ」
「ふふふ、私がミクモ様のことを告発するとでも? もっと外のことを知りたいですわ」
「ふう~、助かった……別に口止め料ってわけじゃないが、その手鏡は姫様にあげるよ。俺には使いこなせなさそうだ」
「わかりましたわ。大切にします!」
「怪しまれないよう、今日は帰るぜ」
「ミクモ様、また明日お話ししましょう~」
ミクの姿が消え、広い部屋に一人取り残されるアリス。今までなら孤独に押しつぶされそうになっていたが、その手にはミクからもらった手鏡が残されていた。打算もなく、話をするだけで帰る面白い人。それが彼女のミクモ評であった。
「入るぞ」
「お父様……珍しいですわね、私の部屋に来られるなんて」
「ここ最近は騎士の一人をたらしこんでいると聞く。親が娘の心配をして何がおかしい」
「あらやだ、女の方ですわよ」
「駄目だ。同性婚など断固として認めんからな。今後は……ん? その手にしているのは……まさか、ソレを寄越せ!」
「なにをしますの!?」
突如、豹変した国王がアリスが持つ手鏡を奪い取ろとうとする。それを奪われまいとアリスが反抗したとき、ちらりと国王の姿が鏡に映し出される。そこに移っているのは人間ではなく、青い肌を持つ魔族の姿であった。
「お父様じゃない……!?」
「ちっ、成りすまして内部から乗っ取るつもりだったがまあいい。これは預からせてもらう。それとお前にあった騎士の素性を調べないとな。過去視の魔眼起動、お前の過去を調べさせてもらう」
「た、助けて……ミクモ様……」
「ミク、吸血姫のCランクの冒険者。ここまでの情報が分かれば十分だ。人の軟弱な記憶をいじるには少々手間がかかる。準備ができるまではお前を賊に変えて牢屋に入れてやる。安心しろ、命は奪わない。世継ぎを得るには女が必要だからな」
女盗賊に姿を変えられたアリスを近衛兵に突き出した国王は、姫誘拐の実行犯としてミクを指名手配し、ランクに問わず全プレイヤーに緊急クエストとして発令。捕まえたプレイヤー、パーティーには賞金として5千万Gを手渡す。一人で捕まえて賞金を独り占めしてもよし、レイドを組んで山分けしても良し。ミクのHPを0にすれば、緊急クエストは終了となる。
「ふざけんなあああああああああ!!」
一方、ミクに送られた緊急クエストはアリスを救出し、国王の陰謀を止めるというもの。クエスト終了、もしくは自身の身の潔白を証明できるまでは個人チャット機能とギルドホームへの帰還がロック、連絡の取りようができない状態だ。しかも、プレイヤーをパーティーに招待することもできず、さらに5千万Gという賞金につられていつ寝首を搔いてくるかわからない状況。自身以外のプレイヤーはプレイヤーキラーと言っても過言ではない。
「いくら化けれるとはいえ、一人で城攻略は無理だろ。俺がタンクやるにしても火力とヒーラー、後方支援職、最低3人はいる……とにかく今は仲間集めだ。ちくしょー!!」
投げやりになりながら、女騎士に化けているミクはプレイヤーが集結しつつあるフォーゼの街を抜けるのであった。