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第29話 新スキルと隠しクエスト

 ミクたちが相手の出方をうかがっていると、悪魔が闇の真空波を放ち、逃げ場のない全体攻撃を仕掛けてくる。


「私の周りに集まって、ホーリーバリア!」


 AYAKAが光のバリアで防ぐも、クールタイムは長い。次がないのであれば、攻めるしかないと割り切ったミクが【加速】を使い、駆け出していく。


「ダークスラッシュ!」


「馬鹿め、悪魔であるワシに闇の攻撃が通用すると思ったか!」


「なに、お化け屋敷の奴には通用したはず……!?」


「大方、闇も食えぬほどに弱っていたのであろう。そのような雑魚と比べるとは片腹痛いわ!」


 黒い稲妻が矢のようにミクに襲い掛かるも【加速】で逃げ回ることで一命をとりとめる。姿かたちこそ、蜘蛛屋敷にいた悪魔と同じだが、その強さは比べ物にならない。


「闇以外の攻撃となると、隷属でモンスターを出すくらいしかねえぞ」


「だったら、私たちにお任せなのだ☆ 闇に響け、ホーリーソング!」


 SPICAがギターを弾きながら、優しげな歌があたり一面に響き渡り、悪魔の周りを囲んでいた瘴気を消し去っていく。


「むっ、我が闇を打ち払うだと」


「この歌は癒しの力で闇属性モンスターの耐性を下げる歌。これでミクミクの攻撃も通じるはず」


「よっしゃあ、ブラッディネイル!」


 闇の爪が悪魔の皮膚を傷つける。とはいえ、仲間の、特にキ-パーソンであるSPICAのヘイトを奪うほどの威力は出し切れていない。悪魔がギロリとSPICAを睨みつけて、手のひらから黒い魔導弾を連続で放ってくる。


「まずい、SPICA逃げろ!」


「【幻覚の舞】をしたから大丈夫だにゃん」


 悪魔の攻撃がSPICAの足元にあたるも、本人はノーダメージ。どうやらSPICAの歌で状態異常への耐性も下がっていたらしく、猫にゃんの幻覚に引っかかったようだ。


「今のうちにアイスランス!【連続魔法】でもう一度ですわ」


「これはお返しだにゃん。ホムンクルス、一斉攻撃」


「あたしの可愛いモンスターもレッツゴー!」


 多数の氷の槍に、ごついゴーレムとその陰に隠れた召喚獣が徒党を組んで悪魔に突っ込んでいく。馬鹿正直に突っ込んでくるモンスターたちを見て、悪魔が力を貯めるようなしぐさをし始め、胸元に巨大な闇の球体を作り始める。


「大技か!」


「フフフ、これで葬り去ってやる」


「まずい、ここであれだけのモンスターを失えば再召喚に時間がかかるはず。それだけの時間稼げる気がしねえぞ。なんとかして技をキャンセルしねえと……こうなったら、一か八かやってみるか!これでも食らいやがれ!」


 ミクがアイテム欄から閃光の剣を取り出して、悪魔に向かって投げつける。チャージ中ということもあり、身動きが取れない悪魔は迎撃することもできず、光の力を帯びた剣を背中側から心臓に向かって貫かれてしまう。


「ぐぬうおおおおおおお!!」


「よし、攻撃をキャンセルしたぞ!今のうちに畳みかける!俺の隷属したモンスター、全員召喚だ!!」


 わらわらと召喚されたモンスターが苦悶の表情を浮かべる悪魔に襲い掛かる。数の暴力に任せたその攻撃は悪魔のHPを大きく削り取っていく。


「おのれ、よくも我をここまで……貴様らに真の闇の恐怖を味わらせてやろう」


 辺りの民家も、木々も、空も、大地でさえ一面が真っ暗闇に包まれて黒一色に染まっていく。暗くなったからと言って、敵の姿が見えなくなるというわけではない。第二形態と呼ぶにはいささか迫力に欠けるとミクが思っていると、自分のデバフに気づいたレイカが叫ぶ。


「ワタクシのステが半分になっていますわ!?」


「マジ!? あたしも!」


「しかも継続ダメのおまけつきにゃん」


「回復量も落ちているせいで大変なんですけど!?」


「あれ? でも、俺は下がるどころか上昇しているぜ。しかも夜扱い」


「私もだよ☆」


「闇に適応できぬ者はただ死を待つ。我に挑める者は闇に対応できるものだけだ」


『闇属性をシャットアウトしてまともに戦闘できるのは闇属性主体のキャラとかふざけんなあああ!』


「ってことはだ。俺たちが頑張るしかねえよな、SPICA」


「うん、頑張ろう。いくよ、ロックンロール!!」


 こうなれば、SPICAもサポーターからアタッカーに切り替えるしかなく、ギターをギャンギャンと鳴らし始める。すると天から落雷がウラガルに降り注いでいく。能力値が上昇しているおかげで、普段はアタッカーとして心もとないSPICAもこのフィールドではアタッカーとして機能している。だが、悪魔のHPは残り30%を切っているものの、それらを削り落とすには心もとない数値だ。


「ふん、その程度の閃光で闇を払うことはできんよ」


「だったら、こいつでどうだ!」


 雷で目潰ししている隙に後ろに回りこんだミクが今度は閃光の盾を投げつけて、クリティカルヒットさせる。闇状態であろうと、光が弱点であることは変わりがないようで、ダメージは剣の時よりも高い。


「まずはすばしっこい小娘から片付けよう。ソウルクラッシュ」



 ミクの精神が崩壊した



 即死攻撃を食らったことでミクのHPが一瞬にして0となり、慌てて【自己再生】で復活する。足の速いミクでも逃げることができない必中の即死攻撃。相手のクールタイムは不明だが、次はないと思いながら、ミクは悪魔の懐で戦うことを選ぶ。


「メテオナックル」


「【霧化】!」


 天より降り注ぐ無数のこぶしがミクに向けて降り注ぐも、霧状態になったミクをとらえることができず、またしても後ろに回り込まれてしまう。そして、ミクの手には丸くなった火炎トカゲが握られている。


「俺の渾身の一球食らいやがれ!」


 燃え盛る炎の魔球がウラガルにぶち当たり、HPを削る。無論、ミクに翻弄されている間もSPICAたちも攻撃の手を緩めてはいない。残り10%を切ったところで、悪魔が不適に笑う。


「フフフ、久しぶりの難敵だ。ならば、我が秘術を見せるのにふさわしい。闇を引き換えに貴様たちの魂を葬り去ってくれよう、カタストロフィー」



 レイカの精神は崩壊した

 ミクはピアノの音色に守られている

 SPICAの精神は崩壊した

 AYAKAの精神は崩壊した

 ゆっちーはピアノの音色に守られている

 猫にゃんはピアノの音色に守られている



 闇が消えて元のフィールドに戻ったものの、即死攻撃を受けた3人は帰らぬ者となって、【守護霊】の能力を持ったみゅ~メンバーだけが取り残される。


「なに、我が秘術を受けて生きているだと!?」


「俺たちにはもう一人仲間がいるんでね。いくぜ!」


「あたしも再召喚できるようになったから一斉召喚!」


「うん……脳筋プレイでいくしかないにゃん」


「ならば、我が怒りの炎で燃やし尽くしてくれるわ」


「まずい、こんなところでそんなものを撃たれたら――」


 悪魔が作り出した業火球を見て、思わず後ろを振り返る。彼女の周りには土産物の娘たちや民家もある。村に被害を出させないようにしようにも、ミクはこの戦闘で2つの閃光装備を投げつけており、戦闘が終わるまではロスト扱い。チャージ攻撃を止める手段はない。


「ぐっ……【灼熱の血】。一か八か、やってやるぜ!」


「ふん、何をしようとも、貴様らはこの村と運命を共にするのだ」


「そうはさせねえ!ブラッディファング!」


「我に闇属性の攻撃が通用しないことを忘れたか?」


「俺が攻撃するのは……炎だ!」


 悪魔がチャージ中の業火に噛みつき、その力を奪おうとするミク。本来ならばダメージが入る行為だが、今のミクは炎が通用しない。牙を突き立て、炎そのものをドレインし始め、それ以上の巨大化を防いでいく。


「しまった。この魔法は完遂するまで中断することができん……」


「良いこと聞いたぜ!今だ、ゆっちー、猫にゃん!」


「わかっている。エールダンスで使役しているホムンクルスを強化」


「召喚士専用スキル。チアーアップであたしたちのモンスターを強化!イエーイ!」


 彼女たちの応援を受けたモンスターたちが悪魔に襲い掛かり、対抗すべを失った悪魔のHPを削るのであった。



 汎用スキル【変身】(NPCに姿を変えることができる)を手に入れました



『またしても知らないスキルだwww』


『マジか』


『クリアしちまったよ』


『スルーしてもクリアできるけど、怪しめば隠しボス戦後にスキル獲得のクエストだったのか』


『Cランクほぼ全員クリアしているクエストなのにどうするんだよwww』


『みんなピュアだから』


「ちょっと、それではワタクシが腹黒ということになりますわよ!」


『wwwwwww』


『wwwwwww』


『あんまんお嬢様』


「誰があんまんですって!?」


 レイカが視聴者への対応をしている中、娘たちがミクたちに頭を下げる。


「ウラガルさんが悪魔だとは知らずに……皆様にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません」


「頭を下げなくても良いって」


「そうだよ、私たちにできることなら何でも言って☆」


「それでは、その……店がこうなっては営業を続けるのが難しく……」


「建て直しなり、商品を仕入れたりする必要があるというわけね」


「はい……またご迷惑をおかけしますが、手伝ってくれませんか?」


「構わないしー。あたしたち、元々そういうつもりできたから」


「そうだにゃん」


『本来のクエストに戻ったな』


『アイテム収集がめんどくさいんだけどな』


『種類多すぎ』


「これが納品リストか。確かに種類も数も多いな。でも、パーティーで納品すればOKか。みんなで手持ちのアイテム確認しようぜ」


 ミクたちが納品リストにあるアイテムの個数をリスト化して、できるかぎり平等に分担していく。とはいえ、人によっては持っていないアイテムなどもあるため、他のアイテムの納品する個数で調整していく。


「ざっとこんな感じですわね」


「どれどれ……海に関するアイテムの個数が少ないな」


「あたしたち、まだ行ったことないし」


「しょうがないですわね。ワタクシが連れていきますわ」


「俺も行きたいけど、海はなぁ……このあたりのアイテムの個数増やして、免除してくれねえ?」


「わかりましたわ。ではコレとコレ、おまけにこれも……」


「結構がっつり持っていかれたが仕方がないか。俺は他の探索していくよ」


「わかりましたわ。では、別行動ということで」


 クエスト中なのでパーティーからは抜けずにミクは一度フォーゼへと戻る。そして、ミクの目にはフォーゼの白亜の城が映る。春休みは女の体に慣れることとレベル上げで忙しかった分、今日はじっくりと観光しながら城へと向かう。


「へえ~、こうみると品ぞろえは豊富だな。火炎トカゲの串焼きって、アレ食えるのか? 【灼熱の血】で無理やり吸血したけど、固かったぞ」


 串に刺されたタレのにおいが魅了してくるので、悪魔戦後の景気祝いということで1本食べることにした。


「おっ、ちょっとスジっぽいけど意外といけるな。甘辛のタレとあいまってご飯が欲しくなる」


 クシをゴミ箱に入れて、しばらく歩いていくと城門前にたどり着く。城の警護を任されている180は優にあろう男と気の強そうな女性2人がこちらを睨みつけて呼び止める。


「何の用だ?」


「城の中を見学とかってできます?」


「HAHAHA、面白い冗談を言うね、お嬢ちゃん」


「この中に入れるのは我々のような騎士か王族に認められた者のみ」


「Aランクなら王族からの依頼もあるから、そのときはギルドカードの提示をしてくれれば通すよ」


「俺、Cだから無理だ」


「そういうことだ。このことは聞かなかったことにしてあげるから帰るといいよ」


「わかった」


 ミクは一度、城下町に戻り、うす暗い路地の中に入っていく。そして、あたりをきょろきょろと見渡し、周りに誰もいないか確かめる。


「騎士だったら通れるんだろ。だったら、【変身】」


 ミクが門番の女騎士に姿を化ける。男性の騎士には化けられないことから、余計なトラブル防止のために異性には化けられないようだ。先ほどの城門に戻ると、フラグが成立したのか先ほどの門番はいなくなり、別の門番の男女が見張っている。


「お勤めご苦労様です」


「ありがとう。そちらも頑張ってください(節穴かよ、こいつら)」


 あっさりと通す門番に一抹の不安を覚えながらも、城内への侵入に成功したミクはパトロールの振りをしながら、城内をめぐっていく。


(しかし、庭が広いな。花壇もきれいに整えられているし、庭師大変だろうな)


「きゃ~」


「ん?」


 ミクが声がした方、すなわち上空を見上げるとピンク色の髪の女の子が降ってくる。これは避けたらまずいだろうと思い、思わずキャッチする。


「大丈夫ですか?」


「ええ、なんとか……ってまた捕まっちゃった」


「何をしようとしていたんですか?」


「……もしかして新人さん? これはチャンス!私を外に連れ出してくれないかしら?」


「それくらいならまあ……」


「聞き分けが良い人は好きよ。私をエスコートしなさい」


(着ている服は見るからに高そうだし、気品あふれるオーラってのがびしばし伝わるぜ。もしかして姫様とか?)


 ここで貴方は姫ですかと問いただすわけにもいかず、ミクは彼女を先導して城門へと向かう。すると、見張りの騎士たちが慌てて敬礼をする。


「ひ、姫様!? どちらに行かれるのです」


「(やっぱ姫だったか)姫様はお忍びで市井の様子を伺う。安心しろ、護衛として私がついておく(頼むからついてくるな、ボロが出る)」


「それでは私も――」


「貴公が抜けたら誰が城の守りをするというのだ!(頼むからあきらめてくれ)」


「そうです。それにこの方を信じる私の目が節穴とでも」


「……わかりました。ですが、1時間までです。それまでは見なかったことにしておきます」


「わかった。では行ってくる」


 ミクはおてんば姫と一緒に来た道を戻っていく。火炎トカゲの串焼きを姫様に持っていくと、少し嫌そうな顔をしつつも、かじり始める。


「固いですわね」


「そうですか、私には歯ごたえがあっていけるかと」


「市井の方はこんな暮らしを?」


「……危険を顧みずにモンスターを狩る暮らし。それがこの世界の常識では?」


「そうですけど……私たち王族にとっては肉一つとっても育て上げられた柔らかいものしか知りませんわ」


「畜産も安全があってこそできるもの。それが高貴な身分だけしか出回らなくても、平和を維持している王の働きがあってこそのもの。妬む者はいるかもしれませんが、得るべき報酬を得るのは当然なのでは?」


「ですが、私としては市井の方にも食べて欲しいのです。子供っぽいと言われますけど」


「そんなことはありません。姫様は優しい方なのですね」


「優しさだけでは民を統べることはできないと父様に言われましたわ」


「優しすぎると国は腐敗するか侵略されるでしょうね」


「父様と同じ考えなのですね」


「ですが、厳しいだけでも統べることはできません。厳しくも優しいところがあるからこそ、民は付いてくるのではないでしょうか? 厳しくするのが苦手であれば誰かに頼ればいいのです。陛下も臣下の意見を聞いているように」


「誰かの意見を求める、助けてもらう……私にできると思いますか?」


「できますとも。私に相談できた姫様であれば」


「はい!今日、貴方と出会えてよかった。そういえばお名前を聞いていませんでしたわ」


「(ミクと名乗るのはまずいか?) ミクモです」


「ミクモ、今度はお部屋でお話ししましょう。これを見せれれば、通してくれるはずよ」



 ミクはアリスのペンダントを手に入れました



「わかりました。今度、会いに行きます」


「約束よ、指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます」


「「ゆびきった」」


 ミクは満足したアリスを送り届けた後、市井の見回りと言って城下町へと戻ってから変身を解く。その手の中にはアリスからもらったペンダントが夕日に照らされながら輝いていた。


「さてと、まだクエストが終わってなさそうだから、素材集めにカーミラのところにでも行くか」


 その後、素材周回のために半泣きになりながら付き合ってくれたカーミラがいたのは言うまでもなかった。

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