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第2話 吸血姫になった少年

 森の中で不気味な顔をしたキノコの化け物、マタンゴがひょこひょこと歩いている。近づかれるとキノコの胞子をばら撒いて状態異常を仕掛けてくる難敵だが、幸いにもミクたちのことに気づいていないようだ。


(敵をキャッチャーだと思って集中……肩を気にせずに、思いっきり……)


 ミクが手に持った石をマタンゴに向けて思いっきり投げる。スパーンと気持ちいい音が鳴り響き、マタンゴは倒れる。


(こんなに気持ちよく投げられるのは久しぶりだぜ)


 女の身にはなったものの、いや女の体になったからこそ、現実とは違う実感が得られ、肩の力が抜けて速球を投げられるようになっていた。この体ならば、野球を続けられただろうなと惜しみつつも、倒れたマタンゴから落ちたアイテムを手に入れる。


「すごいね。このあたりだと敵なしだよ」


「これでレベルも5だ。次はレベル10で、覚えた固有スキルは【魅惑】?」


「女性の種族に多い固有スキルだね。戦闘開始時に一定確率で魅了状態にして、先制攻撃を可能にするスキル」


「へえ~、結構強そうだな」


「これがあるから、パーティーには女性キャラが入っていることが多いんだよ。上の方になれば先に攻撃できるかできないかでクエストの成功率や消費するアイテム量も変わるから。さてと、ジャイアントボアはレベル8。回避技がないとちょっと厳しいかもしれないけど、奥に進んでボスを倒そうか」


 経験者でヒーラー役のカエデがいるため、即死さえしなければ無限に耐久はできる。旅人シリーズ装備ならクリティカルをもらわなければ、落ちることもないため、討伐は可能と判断したのだ。森の奥へと進んでいくと、カエデが違和感を感じて、パラメーターや装備をいじり始める。


「どうしたんだ?」


「私の記憶が正しいなら、このあたりで逃げ出すモンスターと遭遇するはず。それがないからマズイかも」


「それって……来るってのか!」


「うん。一応、ポイント振っておいた。装備もメインから移してある上位の装備に切り替えてある。有効打は与えられえるはずだけど……どうなるかはわからないよ」


「やるだけやるか!」


 二人が恐る恐る森の奥にある開けた広場に着くと、ごろりと転がるジャイアントボアの死骸。そして、それをむさぼるグリーンドラゴンがこちらに近づき、咆哮を放つ。


「プロテクションで防ぐから逃げて!」


 グリーンドラゴンのブレスを光の盾で防いだカエデはすぐさま、ミクと逆サイドに離れる。盾が割れると同時に焼かれるのは誰もいない大地。ドラゴンはカエデを厄介な相手と見て、ミクに背中を向ける。


「俺は眼中にねえってわけかよ。シャドーボール!」


 影の弾を投げつけるもドラゴンに与えるダメージは1桁。それに対し、カエデは2桁、3桁のダメージを与えてその差に愕然とする。あまりにも小さすぎるダメージに自分の力がどれだけ小さいか思い知らされたからだ。


「くそ……俺にできることはねえのかよ……」


 カエデとドラゴンの激しい戦いを見学しかできないミク。ドラゴンが自身の巨大な体躯を生かして攻め立てているが、カエデは致命傷に至る攻撃だけは避けて、しかも反撃までしている。だが、その攻撃もどんどんと激しくなる攻撃に押され、ダメージがめっきりと入れられなくなっている。


「俺が……やれることは……」


 ゲームは素人。しかもレベルが低い足引っ張り役。だが、それでも、今、自分ができることはコレしかなかった。


「ブラッディボール」


 手に握られたのは血の塊。そして、ミクはドラゴンに気づかれないように場所を移動する。狙うはドラゴンのある一点。外せば、カエデの邪魔になるかもしれない。絶対に外せない一球。胸がドクンドクンと高ぶる。この高揚感を久しく感じてなかったミクは少し、うれしく思いながらも、この一投に全力をかける。

 カエデに鋭い爪を振り下ろそうとしたとき、カーブを描きながらドラゴンの目に血の塊が入る。突然、視界が防がれたドラゴンは無防備な隙を作る。


「俺の自慢のスライダーはどうだ!」


「ナイス、シャイニングスパーク!」


 ドラゴンが天から降り注ぐ巨大な雷光によって焼かれる。だが、カエデの最大の攻撃を受けてもまだなおドラゴンは生きている。片目を失ったドラゴンは見境なく攻撃をしており、そのはちゃめちゃな攻撃はパターンを読むことは困難だ。


「ダメージは与えられるけど、パターン化できない分、きついかも……」


「もう一度、変化球投げるか。いや、同じ手は向こうも警戒しているはず。他に何かないか観察するんだ」


 ミクが持ち前の動体視力でドラゴンを観察する。だが、こうしている間にもカエデへのダメージは増えており、ゆっくりとしている時間はない。そんなとき、焦げているグリーンドラゴンの首の付け根に1点だけ焦げていない鱗を見つける。


「1つだけ違う鱗……聞いたことあるぞ、逆鱗ってやつだ。確か、ドラゴンの弱点の。あれを狙えば……」


 ミクは再びその一点に集中する。さっきの目よりもさらに小さい的。気分は2アウト満塁でストライクゾーンぎりぎりを狙わなければ、アウトが取れない強打者を打ち取らなければならない状況。


「こいつでゲームセットだ!!」


 血の塊が首の付け根にある一点に突き刺さり、グリーンドラゴンが硬直する。これならいけると、CT回復アイテムを使ったカエデが再びシャイニングスパークを放ち、グリーンドラゴンを討伐する。



 ミクのレベルが27に上がった

 HP108/108

 MP108/108

 攻撃138/128+10

 防御71/53+18

 知力128

 敏捷170/160+10

 器用さ87

 運28


 固有スキル【闇の力Lv1】(闇属性の攻撃力がアップする)

 固有スキル【動物会話】(動物と話すことができる)

 固有スキル【真祖Lv1】(【吸血鬼】の一部の能力がさらに上昇する)

 固有スキル【隷属】(血を吸った魔物を一定確率でしもべにすることができる)

 次の固有スキルの解放はレベル30です


 汎用スキル【ジャイアントキリング】(相手とのレベル差が10以上の場合、レベル差に応じて与えるダメージが増える)を覚えた

【吸血鬼Lv2】にアップしました

【吸血姫Lv2】にアップしました

【投擲Lv2】にアップしました



「意図せずパワーレベリングしちゃったね」


「ステータスがもう3桁だし、レベル20超えたからもう少しいい技覚えられるぞ」


「この世界だとレベル20超えると一人前らしいからね~」


「1個しかクエストクリアしてないのにな」


「ふふ、そうだね」


「そういや、カエデのステータスはどんな感じなんだ?」


「私? 自分以外だと装備の補正値込みの数値しか見せられないけど…」


 カエデLv37

 種族:エルフ

 職業:白魔導士

 HP164

 MP332

 攻撃24

 防御469

 知力609

 敏捷139

 器用さ74

 運42


「装備の差はあるとはいえ、レベル10個差とは思えないんだけど」


「2年間のイベント蓄積分のSPがあるからね。それにサブのお金を巻き上……メインに渡すのに強力な装備を送っていたから、これくらいはね」


「ところで、職業ってのは?」


「レベル20になるといろんな職業につけて、それぞれの専門に特化した魔法や技を覚えられるんだ」


「へえ~、今の俺は無職ってわけか。どういうのがあるんだ?」


「ヒーラーなら白魔導士1択だけど、アタッカーの剣士や騎士、黒魔導士に生産職の錬金術師や鍛冶師……他にもあるから、レベル20になるまで遊んでいるうちになりたい職を探せばいいって言おうと思ったんだけど」


「あがっちまったわけか」


「上がったね~、本当にどうする?」


「ゲームの仕様もよくわかってないからいったん保留」


「でも、職業のスキルもあるから、スキル上げをしたいなら早く職業を選んだほうが良いよ」


「マジか……どこで職業につけられるんだ?」


「冒険者ギルドのジョーさんに話しかけると、いろんな職業を選べるよ」


「わかった。クエストクリアの報告もかねて覗いてみるよ」


 森から抜けた二人は冒険者ギルドにグリーンドラゴンを討伐したと報告すると、特別報酬でさらにお金とSPがもらえる。そして、ジョーとかいう怪しげな青年に声をかけて、職業手続きをしようとすると、首を横に振る。


「残念だが、あんたに斡旋できる職業はなさそうだ」


「該当なしって初めて聞いた。吸血鬼だとなれる職業はあるのに」


「そうなのか?」


「吸血姫ってのが種族でもあり、職業でもあるんでな。その分、覚えられる固有スキルも多いはずだ」


「そういえば、普通なら固有スキルの習得レベルはレベル20の次はレベル30なのに、みっちゃんはレベル25でも覚えられた」


「つまり、俺は固有スキルを多く覚えられる代わりに一生プー太郎ってわけかよ」


「カスタマイズ性低いのは欠点ね」


「ははは、すまんな。何か困ったことがあったら相談に乗るぜ」


『吸血姫』のデメリットの多さにこれを選んでよかったのかと思いつつも、現実ではお昼時ということもあり、二人はログアウトすることにした。




 まばゆい光が晴れて、外気が肌に触れる。三雲がヘッドギアを外すと、紅葉がわなわなと震えていた。まるで目の前で何か信じられないものを見たような目だ。


「みみみみ、みっちゃん……」


 紅葉が指をさしていたので、後ろに何かあるのかと思った三雲は後ろを振り返る。そこにあったのは大きな姿見。本来ならば、三雲が映る鏡には、赤目銀髪の女の子、初期装備ににたスカート姿のミクが映っていた。自分が手を動かすと、鏡の少女が手を動かし、恐る恐る自分の目線を下に向けると、そこには男にはない大きな胸の膨らみがあった。


「な、なんで……」


 声も少女らしい甲高い声に。そのあまりの出来事に、二人は言葉も出なかった。

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