第28話 Cランク初クエスト配信
Cランククエスト【土産屋の復興】を受けることにしたミク、SPICA、AYAKA、レイカ、ゆっちー、猫にゃんの6人。カエデはすでにクリア済みということもあって、メインアカに切り替えていた。レベルは追いついてきたのだから、そろそろメインのキャラと遊びたかったミクではあったが、レベル100になるまでお預けらしい。
「受注場所はゼガンの村か……俺、ここは素通りしたから、このあたりのことよくわかってねえんだよな」
「私たちも同じだよ☆フォーゼ実装されていたからね」
「SPICAって、あたしたちと同じ時期に始めたんだ」
『これは長丁場になる予感』
みゅ~初のCランククエストということもあって、パーティーメンバーの同意を得た上での配信だ。今のところ、吸血姫プレイヤーがミクしかいないこともあって、視聴者数も以前よりも大幅に増加している。
「それにしてもCランク昇格戦のボスラッシュ、俺はヒット&アウェイでなんとかなったけど、みんなはどうやってクリアしたんだ?」
『おっ、ミクちゃん、良い質問』
『気になる~』
『教えて、教えて』
「ワタクシは各弱点属性攻撃で倒しましたわ。そういう試験でしょう」
『弱点さえつければ、少々レベルが低くてもクリアできるからな』
『優等生の戦い方。悪く言えば普通』
「なんですの!この失礼な方は!」
『俺たち、面白い戦い方を見たいんで』
「SPICAはみんなをメロメロにしたよ」
『出たよ、サキュバス+アイドルの魅了地獄コンボ』
『対策しないと、対人でもやられるからな』
『急に身動きが取れなくなるのは恐怖なんだよな。疑似永続スタンはやめちくり』
「私は回復が間に合うので、無限耐久していました」
『ヒーラーによくある光景』
『日 常 風 景』
『無 間 地 獄』
『耐久は良いけどMPとか枯れないの?』
『隙見てアイテム回復、消費SPは高いけどマジックドレイン習得すればカバーできるはず』
「よくわかりましたね。みなさんが優秀だと、使わなくてもMP回復が間に合うんですよ」
「お待ちかね、真打のみゅ~は……じゃじゃ~ん、ほたるんたちの物量任せで突破しました」
「各属性のホムンクルス事前に用意していたにゃん」
『知ってた』
『脳 筋』
『レベル上げでごり押し。それしかできない女』
「みんなひどいにゃ」
「そうだ!そうだ!」
『でも事実でしょう?』
「ぐぬぬ……助けて、ミクえもん!」
「しゃあねえな、ぷりんどらで手をうってやるよ」
『ぷりんどらwww』
『どら焼きちゃうんかい!』
『微妙に手に入れにくいものをwww』
「別に良いだろ。それにしても試験だけに人それぞれの突破方法はあるんだな」
『廃人しかできなかったらエンドコンテンツになっちゃうからね』
『ところで、このクエストの攻略法とか見てる?』
この配信コメントに対し、パーティーメンバー全員が首を横に振る。初見プレイでしか得られない楽しみもあるのだからと、攻略サイトによるクエストの攻略法はよほど詰まらないと見ないようにしていた。そういうこともあって、配信コメントもネタバレは控える雰囲気だ。
村の中にあるぼろぼろの一軒の店、その中で途方に暮れているおじいさんに声をかけるとクエストが発生する。
「どうしたんだ、爺さん?」
「この前、盗賊に襲われてのう。しかも商品だけではなく、娘たちまでさらわれてしもうた。もう、お終いじゃあ」
「でしたら、ワタクシたちに任せなさい。その盗賊を懲らしめてあげますわ」
「おお、それは!盗賊は西の洞窟をアジトにしておる。頼む、娘を助けてやってくれ」
(こういうのってなんで襲われた側がそういう詳細を知っているのか疑ったらダメなのかねえ?)
RPGあるあるなのだろうと思い、ミクたちは疑いもせずに西の森の中にある洞窟を目指すことにした。それから一時間ほど経過し……
「西の洞窟はどこですの――!」
『www』
『絶対迷うと思っていた』
「攻略サイトを見るのは最後の手段として……鳥とかリスがいるな。【動物会話】発動。おーい、西の洞窟の場所教えてくれよ」
【それならこの先にあるぜ】
「道案内してくれないかな」
【タダで教える義理はねえな】
「じゃあ、赤い果実渡すから、それならどうだ」
【いいぜ】
鳥が羽ばたいて、西の洞窟まで案内する。そして、報酬としてイチゴのような果物を渡すとどこかへと飛び去っていく。
「あれは何ですの?」
「【動物会話】っていうスキル。近くにモンスター以外の動物がいれば、攻略のヒントを教えてくれる。いなかったら役立たずだけど」
『攻略サイトの下位互換』
『吸血鬼や獣人系で役に立たないスキルNo.1』
『全スキルで最も不要なスキル』
『初期の頃は動物の台詞を集めていた熱心な人もいたけど、途中でやめちゃったんだよなぁ』
『Dランクくらいまでは網羅していた人だよね。確かは名前はのぞみだったっけ』
「ひでえ言われよう。今、役立っているから元はとれているだろうよ」
「SPICA、盗賊が出てきたらメロメロにしちゃって」
「あなたのハートにラブハートだね☆」
SPICAがキラっと決めポーズをとったところで、西の洞窟の中へと入っていく。すると、盗賊がわらわらと現れる。Cランクのクエストということもあり、序盤の村にもかかわらずレベルは70を超えている。これでは村人たちだと戦いにもならないのは明確だ。
「貴方たちをメロメロにするよ☆」
「SPICAちゃーん♡」
とはいえ、所詮盗賊は盗賊。状態異常耐性が低いのは相変わらずであり、魅了に容易に引っかかった盗賊たちは数の理を生かすこともできずに倒されてしまう。無敵の進軍の前に、部下たちの敵を討つために頭領が現れる。さすがにボス設定されているのか、魅了が効かない相手となり、SPICAの曲が魔法攻撃を上げるサウンドに変わる。
「食らえ、ダークスラッシュ!」
「なら、こっちもダークスラッシュだ!」
互いに同じ技をぶつけあうミクと頭領。互いにしのぎを削っている中、レイカたちは魔法をぶつけ、頭領のHPを削っていく。
「ほたるん、フラッシュ!」
「むっ、目が!」
「隙ありだぜ!ブラッディネイル!」
「ぐあああ!この俺様が、こんなガキどもにいいいい!」
「これで終わらせるニャン。フルバーストアタック」
ミクが後ろに下がったのを見て、猫にゃんがひそひそと召喚していた銃器が一斉に火を噴き、逃げ場のない洞窟を埋め尽くすほどの銃弾が飛び交う。頭領のHPを削り終えたのを確認したミクたちはさらに奥へと向かうと、牢屋に捕らえられた若い娘たちを開放していく。
「土産物の爺さんの娘って聞いたから、もう少し年配だと思っていたぜ」
「思ったにゃん」
「実は養子だったりー?」
「はい、ウラガルさんは孤児だった私たちを育ててくれた優しい方です」
「実の娘みたいに可愛がっていたってわけね☆」
「そういうものかねえ」
「貴女も違和感を感じまして?」
「ああ、少しな。いくら序盤の村といっても辺境だ。儲かるような立地じゃない。ゲームの都合っていえばそれまでだけどな」
「そう、ワタクシが感じた違和感もそれですわ。一人や二人ならともかくこれほどの人数を養うことは、相当儲かっていないとできないはず。ですが、あの建屋を見る限り、設備投資はさほどされていないように思えましたわ」
「観光地によくある土産店って感じだったな。さびれているタイプの」
「ということは別方法で儲けていた方法があるってことになりますわね。しかも娘たちの様子から気づかれない方法で」
「表向きだと見せられない行為、それはつまり……」
「なんらかの違法行為。例えば人身売買。子供だと二束三文しか売れなくても年頃の女性なら引く手あまたとか」
「養殖漁業じゃねえんだぞ」
「こんな推理、確信めいたものがないと妄想でしかありませんわ」
「それならうってつけのスキルがあるぜ。【動物会話】発動、土産物の爺さんとそこの男が取引しているところをみた奴はいねえか!」
【キーッ、そこでのびている男が金貨入った袋を老人に渡していたぜ】
【キキキ、若い女を売ればお金が入るって言っていたな】
【ここじゃなくて東の洞窟だけどな。あそこにはエサもお宝がいっぱいあるのさ】
「なるほど、こりゃあ真っ黒だな」
ミクは蝙蝠たちが話した会話を全てレイカにひそひそと伝える。このことは娘たちに聞かせてはいけない内容だからだ。
「そうなると、この娘たちを容易に渡すわけにはいかなさそうですわね」
「仕方がない。交渉してみるか」
「それならワタクシが、やってみますわ」
「サンキュー、レイカ」
娘たちを救出したミクたちは、再び土産屋の爺さんのところまで戻っていく。爺さんが驚いた様子で娘たちを見た後、互いに駆け出して抱きしめようとする光景は心温まるものになったかもしれない。だが、それを邪魔するかのようにミクとレイカが立ちふさがる。
「な、なんですかな? お嬢さん方」
「三文芝居は結構。貴女は盗賊を利用してこの娘たちを売ろうとしたのでは?」
「ウラガルさんはそんなことしません」
「貴方たちは黙りなさい。ワタクシはこの者と話をしているのです」
「は、はい!」
(蛇に睨まれた蛙みたいになっているじゃねえか……)
「ワシが娘を? 言いがかりはよしてくれ」
「盗賊の首領が吐きましたわ。貴方と西の洞窟で取引をしたと」
「かっかっか、ぼろを出しよったな。ワシを強請ろうと思ったか、このコソ泥め!ワシが行ったのは――」
「東の洞窟ですわね。言い間違えましたわ」
「うぐっ!?」
「これから東の洞窟に調査しに行きますわよ。そこにあるお宝には貴方を告発できるほどの証拠がたくさんあるでしょうねえ。例えば、指紋とか」
「ぐぐぐぐぐ……」
「動機は大方、盗賊に強請られるようになって冒険者に盗賊を討伐してもらい、盗賊と一緒に溜めていた財産を独り占め。このあたりでしょうか」
「ウラガルさん、嘘だよね!」
「ぐ、ぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
びりびりと服が破け、筋肉が膨張しながら、巨大化する。牙が生え、角が生え、肌も黒くなり、背中には禍々しい羽が生えてくる。その姿は悪魔そのものっであった。
「ふん、おとなしくすればよかったものを!こうなれば、貴様らを冥土送りにしてくれるわ!」
「さすがはCランク!一捻りねえと面白くねえよな」
『なにそれ知らん』
『お前らだけ別ゲーム』
『おーい、攻略班。またやらかしてるぞ』
衆人環視のもと、ミクたちはボス戦へと突入するのであった。