第26話 裏切りのPK
イベントエリアであるスライム平原へとたどり着いたミクたちは、スライムたちを探していく。すると、日陰からぴょこりと銀白色に輝くスライムが現れる。ミクがその防御力を確かめるかのようにシャドーボールを投げるも、1桁ダメージしか与えられない。
「これがプラチナスライムか。固いな。もうじき日が沈むし、夜になればなんとかなるか?」
「ガハハハ、そんなひ弱な攻撃じゃあ、上限まで倒すのに何日かかるか分かんねえぞ。こんなのは……ピアースハンマー!」
大槌を振るったアークが一撃でプラチナスライムを葬り、パーティー全員に経験値が手に入る。そして、偵察から戻ったダインがスライムの群れを見つけたらしく、その場へと急行し、アークがぶんぶんと大槌を振り回していく。
「すげー、あっという間にレベル80になったぜ」
「あたしたちもじゃんじゃん上がっていく~」
「うん。この調子なら海岸ロケできる」
「カーン、向こうにダイヤスライムがいたぞ」
「本当か!」
「ダイヤスライムって?」
「レアアイテムを落としてくれるスライムだ。狙っているのは僕たちだけじゃないはず。横取りされる前に急ぐぞ!」
「俺が先に仕掛けておく。【超加速】」
「俺も行くぜ、【加速】」
ダインと一緒に足の速いミクも駆け出していく。だが、このゲームに精通している彼らのほうが足も速く、リードは少しずつ広がっていく。そしてダインの見つけた場所に行くと、そこには全身ダイヤで出来たスライムがのんびりとそこらの草花を食べていた
「でかっ!大人サイズはあるだろ」
「怖気づいたか?」
「んなわけねえだろ!要は火力勝負。隷属:サイクロプス!」
サイクロプスがダイヤスライムをわしづかみにすると、敵意を感じたスライムがサイクロプスにまとわりはじめ、全身から捕食し始める。
「サイクロプスがこうも簡単に……触れたらマズイってやつか!」
「だからこうさせてもらうのさ。スティール!」
ダインはダイヤスライムから2000Gを手に入れました
「ずりい。自分だけアイテムゲットとか」
「外れの金だけどな。俺はしばらくスティール連打しておくから、タゲ取りよろしく」
「キャリーしてもらっている側だから、それくらいはやるよ!」
ダイヤスライムに向かってシャドーボールやブラッディボールを投げても与えるダメージは一桁。ダイヤスライムの動き自体はそこらのスライムと変わらず鈍い。敏捷性で勝るミクにダメージを与える機会はない。逃げ回って時間稼ぎをしているうちに、アークが合流してダイヤスライムを討伐する。
ミクはSSR闇の魔導石を手に入れた
「おおSSR手に入れたぜ」
「あたしもだよ」
「私もにゃん」
「よかったね。そういえば、君たちはどこのギルド所属だい?」
「あたしたちは引退するときにギルドから抜け出したら今はフリー」
「俺は【星の守護者】に入ろうと思っている。友達もいるからな」
「へえ~、そうなんだ」
アークがパーティーから抜けました
ダインがパーティーから抜けました
カーンがパーティーから抜けました
「ん?ああ、そっちも都合あるよな。今まであり――」
「ガイアウェーブ!」
「フレイムサークル!」
「暗剣殺!」
突如として、牙をむいたカーンたちの攻撃を受けてゆっちーたちのHPが全損する。だが、ミクは戦闘中に1回だけ蘇る【自己再生】を使い、HP1になりならがらもその攻撃をしのぐ。
「てめえら、プレイヤーキラーか!」
『配信中に初心者狩りPKとか正気か!? ギルドの評判落ちるぞ』
『どこのギルドだよ!』
『今、有名どころといえば【星の守護者】と敵対している【漆黒の翼】じゃねえの』
「ふふふ、こうして初心者と協力してその成果を奪い取る。このほうが楽にアイテム収集できる」
「てめえらは俺様にとってのスライムってわけだ」
「何のスキルを使ったかは知らんが、強力なスキルは戦闘中に1回しか使えないはず。今度は仕留める」
「仕留められるならやってみやがれ!」
「たった今80になったお前が、俺たちレベル100超えのプレイヤーに勝てるはずねえだろ!」
「やってみねえとわからねえだろ、【加速】」
ミクは立ち向かおうともせず、すぐさま逃げ出していく。そのまま立ち向かってくると思っていたカーンたちは呆気にとらわれていたが、ダインが【超加速】を使って追い始める。
『逃げるのは良いけど、どうするんだよ』
『夜になったからステは上昇しているけど、策はあるのか?』
『オワタ式PKキラーとかできるわけねえ!』
「とりあえず視聴者のみんなはこれから起こることは口外禁止な!」
『∠( ᷇࿀ ᷆ )ラジャ』
『(* ˃ ᵕ ˂ )b』
『(`・ω・´)b』
「よそ見している暇はあるのかよ!」
(食らいついた!これで後ろの連中と差ができてる。1vs3は無理でも1vs1なら!)
「万が一ってこともある。食らいな、パラライズーー」
「今だ、【霧化】!」
「なに!? それは敵専用スキルのはず!」
「ダークスラッシュ!」
「ぐあああああ!」
「ブラッディファング!」
血まみれになった背中から押し倒して、吸血でHPを回復していく。ダインが力づくで押しのけようとしたとき、召喚された人食い植物がその手足の動きを封じる。
「て、てめえ……」
「まずは一人!シャドーボール!」
ダインは元々防御の薄いキャラ。バックアタックを叩きこまれれば、耐えきれるはずもなくそのHPを失う。だが、ダインと戦っている間に詰め寄ってくるカーンの射程範囲に入ってしまう。
「フレイムランス!」
「おっと、今度は当たらねえぜ!【飛行】」
「それはレベル100のスキルのはずだ!なぜ、レベル80で使える!」
「俺がそれに答える義理はねえよ。特に不義理を働いたお前らにはな!ブラッディレイン!」
「プロテクション!」
「おっと、白魔導士専用じゃないのか。とはいえ、それをもう一度使うにはそれなりに時間がかかるはずだ」
「うぐっ……だが、僕には切り札がある。召喚:フレイムドラゴン!」
カーンが巨大な魔法陣を展開し、その中から炎竜を呼び出す。雄々しく燃える背中の炎は夜だというのに、太陽がそこにあるような輝きを放つ。
「召喚士じゃないからサポートはできないが、それを補って余りあるほどの性能!お前に勝ち目はない!」
「確かに見た目からしても強そうだ……だったら一か八か、【魅惑の魔眼】!」
「また高レベルの!? だが、魅了はサキュバスでもないとまともに運用できない!」
「ぎゃるんん♡」
「フレドラアアアアア!?」
「よし成功!これでお前の切り札は無力化したぜ!」
「ぐぬおおおおおおおお!!」
「もう一度出せばいいだけの話だろ」
「それができたら苦労はしない。クールタイムが糞長くてMPも半分近く持っていかれるんだぞ。筋肉だるまとは違うんだ!」
「誰が筋肉ダルマだ!」
「この遠距離攻撃も持っていないくせに!」
「こうすればできるだろ!」
トゲ付きの鉄球を取り出してノックのように打ってくるアークだが、そんな雑な攻撃では空中を縦横無尽に駆け抜けるミクにあたるはずもない。カーンも攻撃に加わり、弾幕を張っていくも一向に当たらない。
「なんなんだ、アイツは!?」
「速すぎる!」
「そんなへなちょこノック、見切るのは余裕だぜ。シャドーボール」
「うぐっ……このまま攻撃を食らったらやられる」
「だったら、こんなへなちょこ玉はじき返してやる!」
「おっ。打席勝負か。良いぜ、乗ってやる!」
アイテム欄から鉄球を選んだミクは打ち返せるなら打ち返してみろと投げつける。猛スピードでカーンに向かってくるそれを大振りのハンマーではじき返そうとするも空振りに終わり、カーンに鉄球が直撃する。
「何しているんだ!さっきより遅かっただろ、あれくらい当ててみろ」
「速い弾になれたせいでタイミングが……」
「もう一球だ!」
「うわわわ!」
「こんな攻撃耐えてやる!カバー」
鉄球の攻撃をアークがかばい、カーンの脱落を封じる。さすがに【飛行】のインパクトによる混乱状態から立て直してきたかと思い、次の手を模索しながらも攻撃を仕掛けていく。
「アクアクラブ、全体攻撃!人食い植物、カーンを捕まえろ!」
「そんな生ちょろい攻撃通用しないぜ、アースクエイク!」
アークが地面を思いっきり叩くと地割れが生じて、地上に出したアクアクラブと人食い植物が飲み込まれて消えていく。あっという間の対処にミクは歯噛みする。
(まずい、こっちは不意を突かねえと勝ち目ねえのに、そんなことができる攻撃手段もうねえぞ。あと残るは……)
「どうした、手品はもう終わりか!」
「今度はこっちからだ!【魔法範囲拡大(火)】付きのフレイムハリケーン、さらに【連続魔法】で2倍。【高速詠唱】でCT無視してもう一発!計3発の極大フレイムハリケーン、これは躱せまい!!」
「ちっ、説明読んでねえけど、一か八か、覚えたての新スキルに賭ける!【灼熱の血】!」
新スキルを使った直後、ミクは巨大な炎の竜巻に巻き込まれる。勝ったと思ったカーンだが、PK勝利のアナウンスが一向に流れてこない。それが意味するのは一つだ。
「まさか!?」
「俺の闘志はてめえらより熱いぜ!」
HPを減らしながらも、燃え盛るような赤い髪をたなびかせて炎を纏ったミクがカーンを切り付けて、そのHPを削り取る。残るはアークだけとなった。アークが大槌をぶんぶんと振り回すもさっきよりも速くなったミクをとらえきれるはずもない。
「ブラッディファング!」
「ぐっ、こいつ俺の背中に!」
「このままHPを削り取ってやるぜ!」
「ならば、後ろに倒れこむまでよ」
「だったら逃げる!」
すぐさま吸血行動をやめて上空へと避難していくミク。地上にはあおむけですぐさま攻撃できない恰好の的となったアークがいた。
「ま、待て!」
「てめえらから仕掛けた戦いに待ったはねえよ!」
ミクがここぞと言わんばかりに魔法攻撃を畳みかけ、アークのHPを削り取るのであった。
プレイヤーキラー:アークを倒したことでSSR闇の魔導石を手に入れました
プレイヤーキラー:ダインを倒したことでSSR盗賊の腕輪(敏捷+50、盗賊ならば盗む成功率上昇、運+50)を手に入れました
プレイヤーキラー:カーンを倒したことでSR闇の魔法石を手に入れました
悪質なプレイヤーキラーを討伐したため、パーティーメンバーに賞金と経験値が入ります
ミクはLv87にアップしました
固有スキル【剣戟強化】(剣による攻撃を強化する)を覚えました
【闇魔法Lv2】にアップしました
「一気にレベルが上がったぜ。盗めたのはイマイチだけど」
「ミクミク、強~い」
『強いじゃねえよ!なにあの強スキル連打!』
『最後のなに? 聞いたことがないんだけど』
「今見る。えっ~と、『一定時間火属性の攻撃無効、攻撃・敏捷上昇+発動時最大HP半減・防御半減・水属性ダメージ倍増。1回しか使えない』要は命削ってパワーアップって感じか」
『エフェクト的に火属性付与くらいしろよ』
『吸血鬼が無効にしたいのは水と光なんだよなぁ~』
『それを無効にしたらだめと判断されたか』
『それどころか水属性ダメがHP・防御半減も組み合わさって2倍から16倍に跳ね上がっているんですが……』
「かすったら死ぬから変わんねえよ」
『いやいや、同レベルだと即死なのとレベル40くらいの格下でも即死は違うだろ』
『おまえら待て、そもそも吸血鬼にそんなスキルねえよ!どうなっているんだ』
「そうだ、チートだろ!運営に通報してやる」
「いいぜ、俺は逃げも隠れもしねえからな」
カーンたちがミクに対して通報をして運営の判断を待つこと十数分。思ったよりも早く帰ってきた結果にカーンたちの顔が青ざめる。
「『調査の結果、不正が見受けられなかったので、申告を破棄します』だとおおおおお!!」
『マジでそういうのあるの?』
『吸血鬼専用スキル、どっかで覚えられるのか?』
『覚えたてのって言っていたぞ。つまりレベルアップで覚えられる固有スキルだ』
『固有スキルが違うってことは吸血鬼じゃない?』
「ああ、そうだ。と言っても基本的には吸血鬼だけどな」
「新種族だと!? そんな情報どこにも……」
「どうせネットからの情報だろ。それに全部が載っているとは限らねえよ。まだ未確認の種族があった。それだけだ」
「うぐっ……こうなったらもう一度戦ってその情報を吐き出させてやる」
「良いぜ、返り討ちにしてやる!」
「おっと、それなら俺たちも参加させてくれないか」
ミクたちにパーティー申請が届いたので、その名前を見た彼女はすぐさま了承する。
ダイチがパーティーに加わりました
アルゴがパーティーに加わりました
闇の支配者がパーティーに加わりました
「げっ、お前たちは!?」
「動画は見させてもらった。【星の守護者】の争いに巻き込まれたなら、俺たちが参戦しないわけにはいかねえよな」
「うむ。我が剣の錆にしてくれようぞ」
「6対3とか卑怯だぞ」
「不意打ちで攻撃を仕掛けた連中に言われたくねえよ」
「ここはひとまず退散だ!」
カーンたちがイベントエリアから立ち去っていく。当面の危機が去ったところで、ミクたちは礼を言った後、ダイチたちと一緒にスライム狩りを勤しんでこの日の配信は終わるのであった。