第24話 ホラーハウス(後編)
2階のドアをあけると、そこにはベートーヴェンやモーツァルトなどの著名な音楽家の肖像が飾られており、部屋の中央には大きなピアノが置かれていた。
「音楽室か」
「何もない。他の部屋に行こう!」
「う、うん」
「何言っているんだ。こういうピアノに仕掛けがあるってのは定番だろ」
「だからやめよって言ってるじゃん!」
「うん、2対1で否決」
「こっちは視聴者とみっちーが味方にいるから2対3な。論破」
『勝手に頭数入れられてるwww』
『そっちの方が面白いからGO byみっちー』
「「裏切者おおおおお!」」
「まずは鍵盤鳴らしてみるか」
♪ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド
「音は鳴る。だったら♪~」
『やるやる』
『猫ふんじゃった弾くなよwww』
『雰囲気台無しすぎるwww』
「やめてください」
すっーと現れたのは青白い女性の幽霊。手が細長く、いかにもピアニストっぽい感じだ。
「このピアノ、あんたの?」
「はい。生前はよくここでピアノを弾いていました。でも、コンテストを前日に控えたあの晩、現れた悪魔によって殺されました」
「そりゃあまた……残念だったな」
「婚約者は悲しんでいましたが別の女に取られ、今では私の墓参りなんてせず、孫までいます。私の存在意義とはなんだったんでしょうか?」
「存在意義か……難しいな」
「私にはもう……このピアノしかないんです。だから、ピアノを傷つけようとするなら出ていってください。さもなくば、貴方たちを倒してでも――」
「わかったよ。でも、その前に」
「なんですか?」
「お前のピアノ聞かせてくれよ」
「えっ?」
「だって、コンテストで弾くつもりだったんだろ。それを聴くくらい俺たちでもできる。審査員と比べたらレベルの差はあるけど、いい曲かどうかくらいは分かると思うぜ」
「は、はい!」
ピアニストの女性がピアノの前に座り、嬉しそうに音を鳴らしていく。流れる曲は著作権の都合上、このゲームの主題歌のピアノアレンジだが、それをおとなしく聴くミクたち。ピアノの音を聞きつけたのか幽霊たちもぞろぞろと部屋にやってくるが、害を与えようとする気配はない。
そして、弾き終えた彼女に待ち受けたのは部屋いっぱいにいる幽霊と拍手を送るミクたち。
「ブラボー!」
「ありがとうございます。これで思い残すことはありません。死んでからたくさんの人を殺めてしまった私は地獄に落ちるでしょう。ですが、この思い出があれば――」
「それはどうかな。地獄ってのは生前の罪を償う場だろ。幽霊になってからの罪を問う場所じゃないはずだ。つまり、ノーカンだ。きっとあんたなら天国に行けるはずさ」
「そうだといいですね」
「そういや、あんたの名前聞いてなかったな。聞かせてくれよ。元婚約者の代わりとは言わんが、墓参りくらいはしてやるからさ」
「マイ。マイ・ノーランドです」
「マイの曲、忘れないぜ」
周囲にいた幽霊ごとマイの姿が消えていき、残ったのは壊れたピアノの残骸と、ぼろぼろになった肖像画が散乱している部屋だ。今まで、ミクたちが見てきた光景はマイの力によるものだったのかもしれない。
「さてと、マイの墓参りするためにもここから脱出する方法を探さねえとな」
「こんなイベントあったんだねー」
『知らん、そんなの……』
『誰か知っているか?』
「ん? 隠しイベント的なものか?」
『音楽室イベントは悪霊ピアニストを倒すと普通に経験値が手に入る。おとなしく従ってまた入りなおすと、ピアノの残骸から闇の魔石が1個手に入る』
『どっちが得かは議論はあったけど、おおむね魔石側が多かったか?』
『実装当時はカーミラが強敵だったからな』
『あからさまな2択だったから、ピアノのおねだりとか誰もしてない』
『どっちも手に入っていないあたり、別のフラグ入ったぽい。この後、何が起こるか楽しみです』
うどん\500
「どっちも手に入らないパターンかもしれないから、期待はするなよ」
『おそらくない』
『ぜってー何か変わったことが起こる』
『うどんさん、ありがとう。視聴者数ふえてきたよーbyみっちー』
視聴者の応援を受けながら、2階の部屋の探索を続けていく。今度は反対側の館を調べていくと、書斎が見つかる。そこに置かれている机には日記と鍵が置かれていた。
「えっ~と、なになに……」
そこには達筆な文字で様々な記録が書かれていた。そして、ある日、悪魔を呼び出す方法を得ることを知り、日記にもその詳細が描かれている。一族の安寧をより一層強固にするため、呼び出した悪魔。それが悲劇の始まりだった。
『〇月×日。私たちはとんでもない悪魔を呼び出してしまった。妻と娘たちは殺され、使用人たちは化け物に変えられ、無事なのは私しかいない。幸い、悪魔の本体を地下に封じることができた。あとは子規を倒せば、これ以上の被害の拡大を防ぐことができるだろう。もし、これを読んでいる者が強者であるのであれば、私がなせなかった悪魔の討伐をしていただきたい。鍵を持てば秘匿した1Fのドアが見えるはずだ』
「このおっさん何者だよ」
『それな』
『だいたいの後始末をしているすごい親父』
『元凶なんだけどね』
「とにかく、この鍵を持って1Fに行けばいいんだな」
攻略のヒントになるかもしれない日記と金色に輝くカギを持ったミクたちは1Fに降りて、再び探索を始める。すると、部屋と部屋の間にうっすらと南京錠のついたドアが見える。鍵を使ってその扉を開けると、地下へと続く階段が現れ、それを降りていく。その先には禍々しいオーラを放つ扉が1枚。
「きっとボス戦だろうな。ワクワクするぜ」
「がんばるにゃん」
「よ~し、開けるよ!」
ゆっちーがドアを開けると、そこに広がるのは空を飛べるほどの巨大な空間。その中央にはぼろぼろの鎖でつながれた黒い悪魔が待ち構えていた。そして、鎖がその役目を終えたかのように千切れる。
「ククク……同族を助けるためにまた来たようだな、人間ども。貴様らを食い殺し、完全に復活した我がこの世界を統べてやろう」
「そうはさせるかよ。デカブツ!」
悪魔が巨大な手でミクを捕まえようとしたとき、みっちー召喚した鳥のモンスターの背中に乗る。
「サンキュー、ゆっちー」
「ここまで良いところなかったから、頑張るよ。とりっぴー、エアカッター!」
「ボス戦ならこっちも切り札を使う。錬金生物、召喚にゃん」
とりっぴーが真空の刃を飛ばし、猫にゃんが召喚した金色のゴーレムが悪魔に受かってタックル。ひるんだところに、ミクがダークスラッシュで切り付ける。
「どうだ悪魔野郎!俺たちの即席コンビネーションは!」
「ぐぬお、ならばその連携を乱してやろう。コンフュージョン」
同士討ちを始めさせようと全体混乱を仕掛けようとしたとき、どこからともなくピアノの音が聞こえ始める。
ピアノの音がプレイヤーの精神異常を打ち消した
「マイ、助けてくれるんだな!負けるわけにはいかねえぜ!」
主題歌のピアノアレンジが流れる中、悪魔に向かって攻撃を加えていくミクたち。それを迎撃しようと炎を吐いて迎撃するも、その攻撃をホムンクルスが壁となって防ぐ。
「噛みついてやるぜ。ブラッディファング!」
「ぐぬおお。ならば、貴様を我が眷属に堕としてやる。マインドコントロール」
ごく低確率で発生するイベントで本来ならば、単体に高確率の混乱を与える呪文でさえ、ピアノの音の効果によって打ち消されてしまう。
「効かねえよ!」
「我が雷を食らえ!」
自身に雷を当ててミクを迎撃する。まともに食らったミクだが、【自己再生】によりすぐさま復活する。二度目の復活はないが、自傷により悪魔のHPは大きく削れているため、損得を言うのであれば得だろう。
「ふう、危なかったぜ」
「おのれ……ならば堕落の夢を見よ!」
プレイヤー全体にかける睡眠魔法もピアノの音によって無効化され、ミクたちの反撃にあってしまう。特殊行動がなくなった悪魔にこの場を打開する方法はなく、彼女たちの攻撃を受け続けた悪魔は倒れるのであった。
そして、ギルドの依頼を終えたミクたちはフォーゼの郊外にあるノーランド家の墓へと向かう。はびこっていたツタを取り除き、きれいにした後、花を添えて手を合わせる。
「ありがとうな、マイ。お前のおかげであの悪魔に勝てたよ」
「マイがNo.1ピアニスト!」
「そうにゃん」
一陣の風が吹き、花びらが舞う。すると、ミクたちの前にウィンドウが現れる。
汎用スキル【守護霊】(確率でプレイヤーにかかった精神異常を無効化する)を手に入れました
「これって……」
「マイが俺たちを守ってくれるってことだろ」
しみじみとしたところで、視聴者のコメント欄を見ると阿鼻叫喚のコメントが寄せられていた。
『俺たちの知らないスキル!?』
『確率次第とはいえ、強くないか?』
『えっ、俺クリアしているんだけど……』
『これクリアしたら手に入らない系イベントだよな』
『今まで両方とった報告はない。意味わかるな』
『経験値、アイテム、スキルの3択だった……ってこと!?』
『やっちまった……』
『こういう2択イベント、他にもあった気がする……』
『やめろよ、今まで取り逃していたスキルがあったなんて思いたくねえぞ』
『攻略サイトも阿鼻叫喚ものやろ、コレ』
『とりあえず、クリアおめでとう』
たぬかす¥10000
うさかす¥20000
『たぬかすさん、うさかすさん、ありがとうございます。配信はここで一度切らせてもらいますbyみっちー』
『88888888』
『88888888』
館内の探索に時間が勝ったこともあり、現実ではもうお昼だ。良い時間になったこともあり、ミクたちはログアウトするのであった。