第23話 ホラーハウス(前編)
吸血魔城からさらに奥へと進んだ先にある古びた洋館。ミクたちがギギギとさび付いた扉を開けると、床には血しぶきが広がっており、何らかの惨劇があったことを伝えてくる。そして、三人が入り切った途端、扉がバタンと閉まり、ガチャリと鍵がかかる。
「吸血魔城よりホラーテイストなんだな」
「お化け屋敷みたいで雰囲気出てるぅ」
「早く終わらせよう……ガタガタ」
『猫にゃん、ビビっているじゃねえか』
『提案したの猫にゃんだろ』
「れ、レベルの都合上仕方がないにゃん」
「じゃあ、サクッと終わらせるか。まずは右側から調べていくぞ」
『ミクちゃん、鉄の心臓やな』
「こんな子供だましにビビらねえよ」
視聴者たちと話していると、カサカサとと音を立てて何かが近寄ってくる。その音は一つではなく複数。まずは先制攻撃でも仕掛けてみるかと、ミクが目のやめに向けて石を低めに放り投げる。すると、ガサガサとさらに大きな音を立てて、その発生源の主が現れてくる。
「でっかいゴキブリだな。ってか、幽霊とかじゃないのかよ」
「幽霊はともかくゴキは無理!」
「生理的に無理」
「俺だって触れたくねえよ!噛みたくもねえよ!」
気合を入れて投擲した1球は人の子供くらいのサイズのあるゴキブリの額を貫く。だが、その後ろからわらわらと襲い掛かろうとする巨大ゴキブリ。
「ええい、数がいるなら!ブラッディレイン!」
範囲攻撃を覚えておいてよかったと心底思いながら、隷属させる気も起らないゴキブリたちを一掃していく。生き残りのゴキブリたちがミクに体当たりを敢行するも、ゴキブリの数が減ったことで落ち着きを取り戻した二人が召喚獣や支援を行い始め、特に苦戦することなく戦闘は終わる。
「今、思ったけど、この二人のレベルのいまいち高くない理由って……」
『気づかれたか。PSの低さに』
『リアクションは面白いけど、すぐやられるから戦闘はつまらないんだよね』
「あたしたちをリアクション芸人みたいに言うな!」
「一生懸命やっている……にゃん」
『職業と種族の方向性がバラバラなみゅ~が言いますか』
『猫にゃん、たまに素でているやんwww』
「にゃに……?」
「バラバラってどういうことだ?」
『ケットシーは魔法支援も行える前衛、要は魔法剣士にするのが鉄板。後方支援の召喚士だと攻撃のステが死んでる』
「みてよ、このほたるん!お腹ぷにぷにして可愛いよ。すらりんだって……」
『錬金術師は知力が必要だけど、バランスタイプのフェアリーキャットだと伸びが悪い』
「き、器用さは高いから……」
『ミクちゃんは見た目から吸血鬼+戦い方からして魔道系? でも剣を使っていたから戦士系?』
「戦士だが、ダイチさんみたいに両刀にしようと思っている。スキルで知力も伸びるからな」
『ああ、あの人を目標にしているのか』
『強いし、人当たりいいもんな』
『なるー。中途半端になりがちだけど、応援している』
きつねん¥500
『きつねんさん、ありがとうございますbyみっちー』
視聴者からの投げ銭をもらったところで、部屋の中を探索しようとドアに手をかけようとした瞬間、ペタペタと血の手形が張られていく。急なホラー演出にミクも驚く。
「び、びっくりした。とりあえず、あけるぞ」
「えーん、えーん……ママ、どこ?」
部屋の中にいたのは赤いワンピースを着た女の子。たった一人で泣いているあたり、迷子かもしれない。モンスターが襲い掛かってくるかもしれないので、ミクが周囲を警戒しつつ話しかける。
「どうしたんだ?」
「ママとはぐれたの」
「ママはどこにいるんだ?」
「わからないよぉ」
「ってことは、フォーゼまで連れていくしかねえか。歩けるか?」
「脚くじいて歩けないよぉ」
「しょうがねえな。おぶってやるよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「って重っ!」
「ミクミク、あたしが代わりにおぶるよ。よいしょ」
「へえ~、結構力あるんだな」
「あたし、元運動部」
「マジ? そんなふうには見えねえけど」
「ゆっちーがギャルメイクしだしたの2年の夏大会終わってからにゃん」
「早々に敗北したから、みっちーとやりだしたんよね」
「私たちが実況しだしたのもその時期」
『なつかしいな~』
昔のことを懐かしんでいる視聴者たちのコメントを流し読みしながら、ミクたちは館の中を探索していく。誰もいない厨房から皿が飛んできたり、子供部屋に転がっているおもちゃが動き出して襲い掛かってくるなど、ホラーじみた攻撃を仕掛けてくる中、右側を探索し終え、今度は左側を調べていく。窓の外に落ちてくる雷は三人の影を映し出す。
「シャアアアア――!!」
「今度はでっけえ蜘蛛か!」
「すらちゃん、守って!」
ゆっちーが使役するスライムが巨大化して蜘蛛が吐き出した糸を飲み込み、消化していく。その間、懐に飛び込んだミクが巨大な脚を一本一本へし折っていく。
「動かない的なら当てられる」
とどめに猫にゃんが錬成した大砲が当たり、どでっぱらに風穴を開けさせる。命中率が低くても火力は一級品のようだ。
「怖かったでしょう、大丈夫?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「そういや名前なんて言うんだ?」
「ヒメ」
「ひめちゃんか。良い名前じゃん」
「うん」
迷子のヒメを背負いながら、左側の館を調べていく三人。窓の外にはゴロゴロと雷が鳴っている。
「雷、怖くない?」
「そうか? それにしても幽霊のモンスターが多いかと思ったけど、ゴキブリや蜘蛛の化け物も多いな」
「うん」
「そうだね」
「ひめちゃんもそう思うんだ」
近くに雷が落ちる。雷光によって照らし出されたのは三人の人影と――
「蜘蛛の化け物って……」
「こんか感じぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
背後から蜘蛛の頭部に変身したヒメが全く警戒してなかったゆっちーをかみ砕き、バックアタックからのクリティカルヒットしたこともあり、そのHPを全て吹き飛ばす。
「ゆっちぃぃぃ!てめえ!!」
「こざかしいスライムはもういないわ。スパイダーウェイブ!」
「絡まって動けない……にゃん」
「ちっ、猫にゃんも捕まったか。1体1で戦えっていうのかよ」
『出たな。必ずバックアタックされるうえに初回2回行動仕掛けてくる糞罠イベント』
『ヒラと魔導士持っていかれたときは死を覚悟しました』
『ボス自体の強さはD級。怖さはA級』
『これをみるために待っていたと言わざるを得ない』
『笑いをこらえるのに必死でした』
『俺たちが受けた苦しみを味わうがいい』
「そういうイベントは先に言えよ!こんな狭いところじゃあ、かわし切るのは無理か。だったら……」
「どうするつもり?」
「【加速】」
猫にゃんを助けようともせず、スキルを使ってすたこらさっさと距離をとっていくミク。要は逃げたのである。
『アイツ見捨てやがった!?』
『最低だ!』
「なんとでも言え!奇襲された上に相手の得意なフィールド、狭い廊下で戦えるかよ!」
中央のエントランスホールまで戻ったミクは手にしたアイテムを握りしめて、迫ってくる蜘蛛に向かって放り投げる。
「どこを狙っているの? このノーコン」
「まっすぐしか知らねえのか、この蜘蛛女!」
「なっ、弾が曲がって!? うっ、目が……」
『ペイント玉か!』
『追尾用なのに目つぶしに使うのか』
『なにアレ? すげー曲がったけど、自動追尾系のスキル?』
『アーチャー系の職業スキルにはあるが、戦士にはないはず』
「ほら、もう一球食らいやがれ!」
「まだ視界の半分は残っているわ!スパイダーウェイブ」
蜘蛛の糸で頭部を狙ってきた弾を捕まえようとするも、目を半分潰されえたことで距離感がくるっている上にその弾が沈んだことで脚をへし折っていく。
「ふう、ツーストライクってところか。これで三振だ!」
「ふ、ふざけるな!小娘ええええええっ!!」
今度はべちゃりとした毒液を口からはいて球を溶かしながら迫っていく。その先にはミクもいるが、吸血鬼パワーを発揮できる館内において彼女のスピードをとらえるほどではない。
「はやい!」
「蜘蛛の巣がなければ!ダークスラッシュ!」
「逃げなければ……」
「だから脚を切って背後をとった。お前の攻撃は前面だけだろ、ブラッディファング!」
背中に噛みついたミクは蜘蛛を吸血していく。じたばたして振り落とそうとする蜘蛛であったが、しがみつくミクを倒すことはできず、干からびて倒れるのであった。それと同時に戦闘が終わったので、戦闘不能だった二人がHP1で戻ってくる。
「お、おんなの子、怖い……」
「頭から食われた……蜘蛛怖い」
「トラウマできているな、こりゃあ。どこか適当な部屋で休むか」
まだ未探索な部屋を求め、ミクはぷるぷると震えている二人を引き連れて2階へと上がっていくのであった。




