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第22話 配信実況

 入学して初めての土曜日。カーテンから漏れる陽の光を浴びて、目が覚めた三雲は軽い筋トレを行っていた。


「29……30。ふう、軽く腹筋と腕立て伏せにスクワットするだけでこの疲労感。マジで体力ねえな、この身体。ゲーム内だと元の身体と同じくらいには動かせるのに」


 自分のひ弱な体にあざけるような笑いが漏れた三雲は、汗を流そうと大浴場へと向かう。この時間帯ならば、誰もいないだろうと高を括っていたが、浴場の方からシャワーの音が聞こえる。


「朝練している連中が利用しているのかねえ」


 タオルを巻きつけた三雲が中へ入ると、そこにはギャル三人組が笑いあっていた。そして、彼女たちが獲物を見つけた猛禽類のような目で三雲をロックオンする。


「ミクミクじゃん。こっち来なよ!」


「おい、引っ張るなって!シャワー浴びたらすぐ帰るんだ」


「またまた。部屋のシャワールーム使わずに、わざわざここに来たってことは朝風呂派でしょう?」


「ミクミク、今日暇? 暇だよね。ちょっと買い物しようか」


「こんな素材良いのにおしゃれしないなんてもったいない。神への冒涜じゃん」


「勝手に予定決めるな。俺にも予定はあるんだ」


「へえ~、何する予定? あたしたちも混ぜてよ」


「ゲームだ、ゲーム。World Creation OnlineっていうVRゲームだよ。知らねえとは思うけど」


 ギャルたちがゲームなんてしないだろうと思っていた三雲に対し、にやにやした様子で由美が顔を近づけてくる。


「な、なんだよ」


「その感じ私たちのこと知らないみたい」


「なにが?」


「何を隠そう、私たちは!」


「西村中学で名を馳せた美少女配信グループ『みゅ~』とは私たちのことだ!」


「どこだよ!範囲狭すぎだろ!知り合いしか知らねえじゃねえの!認知度はどれくらいだよ」


「チャンネル登録者数は四捨五入して1000人くらい」


「くそ、少なすぎるわけでも多いわけでもねえからツッコミにくいな、おい!本当は505人とかで無理やり1000とかいうオチじゃねえだろうな。そこ、なぜ目をそらした!」


「おお、するどいきれあじ」


「これは待望の新人」


「かおるっちの部屋へレッツゴー!」


「おい、俺の意思は無視か!」


「ミクミクに拒否権はありませ~ん」


「善は急げ!」


「ごーごー」


 シャワーを浴び終えた三雲を強制的に香の部屋へと連れていくと、そこにはモニターやパソコン、見るからに高そうな機材が置かれていた。


「女の子の部屋とは思えねえな。人のこと言えねえけど」


「久しぶりに生配信。機材は美香、いつも通りで」


「OK!」


「一緒にやる」


「別にいいけどよ、一つ言って良いか?」


「「「なぁに?」」」


「俺のゲーム機、持ってきてねえよ」


「「「あっ……」」」


「少し待ってろ、付き合ってやるから」


 自室から自分のゲームデータが入ったヘッドギアを持ってきた三雲は、香・由美と一緒にゲームの世界へと入っていく。ゲームの中で香が待ち合わせに選んだフォーゼの時計の下で待っていると、香と由美にそっくりなキャラが話しかけてくる。


「ミクミクもリアルベースじゃん、ラッキー」


「うん。ついてる」


「つくるの面倒だからな。それで二人の種族と職業は? 猫耳ついているから同じ種族なのはわかるけど」


「ちっちっ、違うんだなぁ。あたしはゆっちー。種族はケットシー、猫の獣人。職業は召喚士」


「今の私は猫にゃん。種族はフェアリーキャット。職業は錬金術師」


「どう違うんだよ」


「物理も魔法も行けるの、たしか両刀型っていうんだっけ?」


「うん。私のは魔法職タイプにゃん」


「ミクミクはどうみても吸血鬼だよね~」


「でも、リアルも吸血鬼っぽいから実は違うかもしれない」


「見ての通り吸血鬼だよ。職業は戦士だ(嘘だけど)」


「なるほど。じゃあ、自己紹介を終えたところで配信スタート」


「うん。カメラ型ゴーレム展開。配信モード起動にゃん」


 一つ目の蝙蝠のようなモンスターがパタパタと羽ばたき、上空から三人の姿をとらえ、目の前に現れたウィンドウにはコメントが次から次へと流れてくる。


『引退したんじゃないのΣ(・□・;)』


「みゅ~、JKでも活動することにしました!YEAH!!」


『YEAH!!』


『隣の子だれ!?』


『新メンキタ――(゜∀゜)――!!』


「ミクミク、何かしゃべりなよ」


「いきなり言われても……初めまして、ミクです。よろしくお願いします」


「猫被らなくていいにゃん」


「どうせ化けの皮すぐはがれる」


「うるせえ!」


『wwwwww』


『wwwwww』


「さてと、今日はどこ行くー?」


『決めてないのかよwww』


『初めてか? 行き当たりばったりで決めている連中だぜ』


『計画性ゼロだよなwww』


『変わってない安心感』


「行ってほしい場所あるかにゃん?」


『ファイズ』


『ファイズ』


『水着!水着!水着!』


「あたしたちのレベル覚えてる? まだ63だよ~」


『1年以上前から始めてるのにwww』


『レベル上げしろよwww』


「めんどくさいにゃん」


『間違ってねえけどさ』


『新人ちゃんは?』


「俺か? 79だけど」


『俺っ娘キタ――(゜∀゜)――!!』


『このそっけない感じもイイ』


「というわけで、吸血魔城で決定にゃん」


『俺たちの意向ガン無視Σ(゜д゜lll)ガーン』


『アンケートの意味は!?』


「レベル70まで上げたら行くってことで」


『カーミラさん、手加減してレベル上げの手伝いしてください』


『平抜き3人は無理だろ』


「ミク、ヒラの知り合いいるかにゃん?」


「いるにはいるが、どっちも今日は用事でいない」


 紅葉はメインアカで【星の守護者】のメンバーにミクたちの入団の根回しと周回、部長たちは錬金術の研究と忙しい。唯一、予定を知らない麗華も今はログインしていないようだ。


「ってなると、パーティー募集か。めんど」


「いや、多分、大丈夫だと思う。色々と魔法覚えたいから、SP稼ぎで吸血魔城付近のDランクのクエスト消費しようぜ(カーミラと会うと面倒ごとになりそうだから、吸血魔城に行かなさそうなクエストを選んで……っと)」


『吸血鬼ってそんなに強かったっけ?』


『昼間は糞雑魚だけど、夜だと馬鹿みたいに強い』


『ワンチャンあるのか?』


『D消費とか言っているあたり、初心者だろ? 無理だって』


『大半Cだもんな』


『Bは廃人しかいねえ』


「意見が出そろったので、いっちゃおう!」


「おー」


『結局、いつもの流れwww』


『死ぬ未来が見えるwww』


『死兆星が輝いているぞ』


「死ななかったらどうする?」


『1万投げ銭するわ』


『じゃあ、俺2万なwww』


「円じゃなくてペリカとか言うなよ。男同士の約束に二言はねえよな」


『ミクちゃん、女やんwww』


『見ている人に女がいたらどうするんだよwww』


「細かいことは気にするんじゃねえ!」


 ミクはニヤリと悪い笑みを浮かべ、三人で吸血魔城へと向かう。今回受けたクエストは娘の呪いを解くため、吸血魔城近くにある古びた洋館に潜む悪魔を退治してほしいというものだ。別段、吸血魔城にいるカーミラを倒す必要もないが、行き掛けの駄賃として倒すプレイヤーも多い。その道中、吸血鬼に襲われる三人だが、通いなれたミクにとって臆するようなものではない。


「隷属:アクアクラブ!」


「すげー、ほぼ一撃じゃん」


「これは楽にゃん」


「お前たちも戦えよ!」


「はーい。ほたるん召喚」


 ゆっちーが大きい蛍のようなモンスターが現れて、お尻からビームを放って吸血鬼たちを打ち抜いていてく。弱点攻撃とはいえ、その破壊力に感心していると、今度は負けじと猫にゃんが魔法を唱え始める。


「錬成:大砲……発射」


 地面から大砲がにょきと生えてきて、砲弾が吸血鬼たちに向けられる。だが、弾速の遅い大砲の弾では俊敏な吸血鬼をとらえることができない。


「むっ……にゃん」


「素が出ていただろう、お前」


「出てないニャン。戦闘は苦手だから支援に回るにゃん。ラブリーダンシング」


 猫にゃんがかわいらしく踊ると、吸血鬼たちが見惚れて動きを止める。その隙を逃さず、ゆっちーとミクが攻撃を仕掛けて吸血鬼を葬っていく。


『ここまで過去最速ペースだね byみっちー』


「みっちーって誰?」


「美香だよ」


 視聴者に聞こえないように小声でゆっちーが話してくれたことで、ミクがうんうんとうなづく。そして、三人は古びた洋館の敷地へと足を踏み入れるのであった。

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