第21話 vsタイタン
「まずは俺がひきつけるぜ。【挑発】」
タイタンの攻撃対象がミクになったところで、自慢の足で逃げていく。とはいえ、いくら広いと言っても、野球ドームで走るようなもの。逃げ場所は限られていく。ミクが追い込まれないうちにとカエデたちはタイタンの後ろに回り込む。
「マジックソング!」
「行くよ、シャイニングレイ!」
「私もシャイニングレイ」
「アイススピア!」
「ロケランでどーん!」
タイタンの背後にぶち当たった攻撃がクリティカルヒットし、タイタンの体を吹き飛ばし、大穴が空くほどの大ダメージを負わせる。
「やったか!」
「みっちゃん、それフラグ!」
「えっ?」
「グオオオオオ」
ゴーレムがうなり声をあげると、再び岩壁を材料として自分の体を再生していく。その影響か減っていたはずのHPも少しだけ回復する。
「あんなのアリかよ!」
「基本的にはないけど、錬金術師吸収イベントは1%くらいで起こるからね~」
「あれ起こるとめんどくさいんだよ。弾の消費増えるし」
「でも、ドロップアイテム量は2倍になるから、基本的にはおいしいイベントでもあるんだよ」
「なるほど理解した。だけど、走り回る俺の身にもなってくれ!」
タイタンのパンチを見切って躱し、ヘイトが途切れないようにシャドーボールを投げていく。攻撃しないとヒールヘイトを稼ぐAYAKA、与えるダメージが大きいSORAにヘイトが移ってしまう。だが、攻撃に専念すると、あわや攻撃が当たりかねない。
「だけど、攻撃は鈍い。これなら……」
「ゴオオオオオオ」
タイタンの手のひらに魔法陣が浮かび上がると、ファイアーボールを放ってくる。突如、変わった攻撃パターンに1発被弾するも、タイタンの知力自体が低いおかげで大したダメージにはなっていない。
「さっきよりよけずらいが、これくらいなら!」
ファイアーボールを掻い潜ってタイタンに接近し、ダークスラッシュの一閃を与える。この距離なら、体躯を生かした踏み付けくらいしかできないだろうと考えての行動だ。だが、再び別の魔法陣が浮かび上がると、タイタンの肌に銃火器が取り付けられ、銃口から火が吹く!
「銃弾じゃなくて火炎放射器かよ!これじゃあ、うかつに近づけねえぞ!」
「だからめんどくさいんだよ」
「ごおおおおおお」
「……さっきより、ファイアーボールの数多くなってね!?」
「HPが減るとタイタンの攻撃も激しくなる仕様だから耐えてね」
「耐えられるか――!」
「私が回復するので大丈夫です」
ダメージは大したことないとはいえ、ミクへの被弾が増えていく。それに伴い、AYAKAのヒールの割合が増えて、タイタンへのダメージもわずかではあるが減っていく。順調にHPが減って残り30%を切ったところで、タイタンが自身の体の一部を礫のようにミクに飛ばしてくる。
「あんなの食らったらひとたまりもねえぞ、隷属:アクアクラブ、打ち落とせ!隷属:サイクロプス!俺の盾になれ!」
アクアクラブの泡で迎撃し、サイクロプスの陰に隠れるも、泡ごときでタイタンの礫が壊れるはずもなく2体のモンスターはあっという間にずたずたに引き裂かれ、ミクのHPを一撃で吹き飛ばす。
「【自己再生】!なかったら死んでいたぞ!こうなりゃあ、空飛んだ方が逃げ場あるだろ!【飛行】!」
ビュンビュンと飛び回るミクに向かって、己の体を飛ばしていくタイタン。彼女の逃げに徹したスピードに追い付けず、ダメージを与えることができない。そのため、ミクの治療でヒールヘイトを稼いだAYAKAにその魔法陣が向けられる。
「プロテクションで耐えれるかな―!」
「強化イベなかったら防御に振っていれば」
「強化後は無理だよね」
「助けて、部長!」
「アイドルに戦闘は無理なのだ☆ガードソング歌ってあげるから後は頑張れ!」
「ぎゃあああああ!こないで――!」
「させねえよ!お前の相手は俺だ!ブラッディレイン!」
タイタンの礫攻撃の上から血の礫をぶつけて相殺していく。それでも迎撃できなかったプロテクションにカンカンとぶつかっていく。ピシピシと音を立ててプロテクションが割れ、AYAKAにダメージが入るも仕留めきれるほどのダメージはなかった。
「やい、タイタン!俺との決着ついてねえだろうが!」
「ゴオオオオオオ!!」
タイタンが目障りなミクに再び攻撃を仕掛けているうちにと、AYAKAは自身を回復する。まだ削り切れないのかと、思っていると背後をとったSORAのバズーカが頭部にクリティカルヒットし、ようやく倒れる。
「なんでドロップ率30%のタイタンの素材が落ちねえんだよ!ドロップ量増えているんだよな!」
「あるあるだね」
「1%引いてあれだけ苦労したってのにそんなのアリかよ!」
「う~ん、これは運がカス。こっちはレアドロップのタイタン装備も出てから売りに行ける。これだけで消費した銃弾以上の稼ぎだよ」
「ぐぬおおおおおお。せめて、そういうの寄越せよ!もう一回だ、もう一回!」
「私は構いませんわよ。明日の授業に差支えのない範囲であれば」
「現実の23時くらいまで周回しようか。SPICAたちもそれでいい?」
「良いのだ☆」
「はい。火力不足だったので助かります」
冒険者ギルドへと戻り、クリア済みとなったクエストを受けて再び洞窟内へと戻ると、今度は錬金術師が踏みつぶされてあっけなく死亡する。そして、二度目のタイタン戦ではファイアーボールや火炎放射器を使ってこないため、懐に飛び込めば最後の礫攻撃だけを注意すればいいという比較的楽に事が進む。
「なんだこれ……最初の戦いのきつさはどこに行ったんだ……」
「これが本来のパワーバランスだから」
「そして、こんなにあっけなく落ちるものなのか……」
「30%だよ。だいたい当たるよ」
「苦労とみあってねええええ!」
「君たちと一緒にいると楽しそうだから、よかったら僕とフレンドにならない?」
「ああ、良いぜ」
SORAとフレンドになると、さっそく彼女から個人向けにチャットが来る。
『ところで、高レベルで覚えるはずの【飛行】が使えるのって、どういう理由?』
『誰も言わねえ?』
『うん。きっと言いにくいことだろうから、こうしてチャットすることにしたんだ』
(そうだよな。この場で聞けばいいだけの話だもんな)
SORAのいうことを信じて、自分が吸血姫というレアな種族であることを伝える。そして、吸血鬼のスキルも早期習得できる代わりに職に就けないデメリットも話した。
『僕からしたらつまらない種族だね。好き勝手できるのがゲームの魅力じゃない?』
『そうだな』
『秘密も教えてもらったし、僕も秘密を教えよう』
『無理しなくてもいいんだぜ』
『へーきへーき、実は僕……死んでいるんだ。君たちよりずっと年上だよ。倍……ごめんサバ呼んでた3倍くらいはあるんじゃないかな。生きていたらだけど』
『わざわざ与太話に乗らなくてもいいのに』
『う~ら~め~し~や~、なんちゃってね』
ミクがSORAを見ると、舌を出してテヘッとする。幽霊が最新ゲームまでに手を伸ばすわけないだろうと思っているミクはSORAのお茶目なチャットだと思い、夜遅くまで周回作業に入るのであった。