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第20話 いざ火山へ

 温泉をたっぷりと堪能したミクたちは、冒険者ギルドでクエストを受けたのち、当初の目的地であるゼクロス火山へと向かっていく。火山に近づくにつれて噴煙によって太陽がさえぎられ、木々が一切生えておらず、湯気と硫黄のにおいが立ち込めるこの場所はプレイヤーの視覚と嗅覚を惑わせ、モンスターの急接近を許す場所だ。


「なんだかじわじわHP減ってねえ?」


「火山性ガスが濃いところは毒扱いだから、ガスマスクを装備するかヒーラーがいないと気づかないうちにゲームオーバーになるの」


「他のゲームで言うと毒沼を歩くのと同じか。確かに硫化水素はまごうことなき毒だけどさあ、ゲームでそこまで再現しなくてもいいだろうよ」


 変にリアルにこだわっていると思っていると前からゴロゴロと音を立てながら巨大な岩、いやよく見ると顔がついている岩のモンスターたちが襲い掛かる。


「爆弾岩だね。火属性の攻撃は禁止!魔法攻撃主体で一気に行くよ!」


演奏(バフ)は任せて、マジックソング!」


「シャイニングレイ!」


「アクアストリーム!」


「シャドーボール!」


 SPICAの歌で強化された3人の魔法攻撃が爆弾岩を蹴散らしていく。とはいえ、ゴロゴロと転がってくる爆弾岩は1体、2体どころの数ではない。クールタイムが比較的長い魔法職にとっては、誰かが前線で彼らの目を引き付けないと生死にかかわる問題だ。


「こういう時こそ、イベントで貰ったSPで覚えた【挑発】だ」


 回避タンクとして生きていくならば必須となるスキルを使い、爆弾岩の転がる先を自身に向けさせる。下り坂であれば向こうの方がわずかに速い。だが、【加速】を使ったミクには追いつくことができず、離れすぎない距離を保っていける。


「これだけ時間を稼いでくれたもう一回撃てるよ」


「意外と簡単ですわね」


 楽勝モードだと思いながらさらに進むと、今度は背中から炎が吹き出ている火炎トカゲがうじゃうじゃと岩の影から現れる。


「気を付けてね。最悪火属性の攻撃をぶつけて爆発させればよかった爆弾岩よりも手ごわいから」


 そうこう言っているうちに炎を吐いて攻撃を仕掛けてくる。前面に広がる炎の壁をアヤカがプロテクションを張り防ぐ。だが、炎の壁の中を体を丸めて弾丸のように突っ込んできた火炎トカゲがぶつかり、バリアにひびが入っていく。


「こいつらも【挑発】で俺がひきつける!」


「バカ、こんなところで使ったら!」


 岩陰に隠れていたおとなしい個体もミクの挑発に乗せられて、襲い掛かってくるようになり、右へ左へとかわすも追い詰められていく。


「挑発は周りの敵を見てから使う!でないと囲まれて死ぬよ」


「それを先に言ってくれ!とにかく火には水だ。隷属:アクアクラブ!泡で活路を切り開け!」


 召喚に応じたアクアクラブがブクブクと泡を吐くも、丸まったトカゲには効かない。躱すのも苦しくなったミクは思わず空を飛ぶも、それによりミクのヘイトが外れ、ヒールヘイトを稼いでいたアヤカがターゲットになってしまう。


「しまった!?」


「もう、しょうがないな。僕が片付けてあげるよ。これだけ数がいれば収支はプラスだろうからね」


 いつの間に取り出したのか、両手には拳銃が握られており、こちらに向かってくる火炎トカゲに標準を合わせていた。


「貫通力重視で行く、Fire!!」


 轟音と共に無数の銃弾が飛び交い、背中を丸めて防御態勢をとりながら突進を仕掛けてくる火炎トカゲすら打ち抜いていく。ダダダダダと鳴り響く銃弾の音が消えると、そこには死屍累々となった火炎トカゲの山ができていた。


「一丁上がり」


「ガンナータイプだったんだ」


「まあね。盗賊スキルで稼げるお金も増えるから、銃弾代は賄えるよね」


「やっぱ弾代も必要なのかよ」


「もう一つ言うと銃弾を作るにあたっての火薬とかは火の石が必須。本当、いくら稼いでもすぐなくなっちゃう。手軽に火力出せるってのは強いんだけどね~」


「私も知り合いのガンナーは同じこと言っていた。その人は安く作れる弓の方だけど」


「あっちは予備動作が長いけど、材料費安くていいよね。状態異常もばら撒けるし。でも僕ってソロで活動することが多いから銃一択かな」


「ああ~、魔導士もそうだけど特に弓使いは頼れるタンクがいないと辛いからね。でも、クールタイムほぼ0なのも魅力」


「レイカ、アイツらの言っていることわかるか?」


「やりこんでいるわけでないので、他の職業はそれほど」


「SPICAたちも同じだよ☆」


 なぜ他の職業のことまで詳しいのだろうかと思いながら、二人の後衛職の談義が続いていく。SORAの先導でたどり着いたのは謎の洞窟。この先にボスが居るのだろうかと思いながら、ミクたちが後を追っていくと、SORAが急に立ち止まる。


「どうした?」


「トラップがあるから解除中……これでよし」


「なんでこんなところにトラップあるんだ? 岩やトカゲなんて仕掛けることねえだろ?」


「外にいる爆発する岩や炎を吐いてくるトカゲから身を隠すためだよ、つまり――」


 カツンカツンと音を立てて現れるのは燃える炎を宿した杖を持った怪しげな火使いの魔導士。1体ならともかく、侵入者を撃退しようと来た彼らは数人がかりだ。しかも、ここは洞窟という狭い空間。範囲攻撃が得意な魔導士にとっては、実質回避不可な攻撃となる。


「躱せる自信ねえぞ……せめて魅了が効いてくれたらよかったんだけどな」


「ふふふ、我らに生半可な魅了など効かぬ」


「さよう。貴様らを捕まえて我らの偉大な研究の贄にしてやろう」


「ふ~ん、だったら生半可な魅了じゃなかったら良いんだね。ギターフォーム☆」


 SPICAのマイクがギターに代わって演奏が始まる。するとギターからハート型の音波が敵の魔導士に向かって放たれる。


「その程度の攻撃。プロテクションで防いでやろう」


「私の攻撃はダメージがない分、防御魔法を貫通するよ」


 魔導士の張ったバリアをすり抜けて、ハートのビームを受けた魔導士は急に頭を抱え始める。何が起こっているのかよくわからないミクはひとまず静観することにした。


「な、なんだ。こう胸に熱いものがこみあげてくるような感覚が……」


「我らに研究以上の関心などないはずだ……!」


「頑固なおじさんたちの心がほぐれたところで、SPICAの歌を届けるよ☆」


 マイクに切り替えて歌い始めると、魔導士たちの目がハートマークになったり、杖をサイリウムのように降り始める。それはさながらアイドルのコンサート会場のようだ。


「ぐおおおお、体が勝手に!」


「だが止められん!」


「SPICAの魅了が効いているうちに倒すよ」


「お、おう!」


 ミクたちが魔導士に攻撃を仕掛けて魅了状態を解いても、SPICAの歌が続いている限り、すぐさま魅了状態へと戻されていく魔導士たち。結局、彼らは一度も攻撃することもなく、倒されてアイテムを残して消滅するのであった。


「すごい楽!今はソロで稼いでいるけど、僕が君たちのレベルだと先手必勝!防がれたら即座に撤退!だったから」


「当時の攻略方法が高耐久のタンク前面に出してWヒーラーのごり押しでしたよね」


「そうそう、それに伴って鈍足高耐久アタッカーが見直され……って、そのことを知っているってことは、さてはその時やめた出戻り組かな」


「さあ?」


「詮索しない方がよかった系? だったら聞かなかったことにしてよ」


「良いよ。さてと、このまま奥に進みましょう」


 SPICAが魅了をかけてからの先制攻撃、再度の魅了というハメコンボですいすいと奥へと進んでいくと、怪しげな装飾品を身に着けた錬金術師が魔法陣の前で何らかの儀式を行っていた。


「ククク……一足遅かったようだな、冒険者ども。私の研究はたった今、最終段階に入っている。こうなれば、だれにも止められない!」


「何を言っているんだ?」


「冥土の土産に教えてやろう。この地にはドラゴンが眠っている。その身体から染み出る魔力は龍脈を作り出し、豊富な魔力リソースとなった。我々はそれを利用し、最強のホムンクルスを作る研究をしていたのだよ。いでよ、錬金生物タイタン!」


 魔法陣が赤く光り輝き、洞窟内の岩壁を吸収して巨大な灼熱のゴーレムが姿を現す。錬金術の影響で広くなった空間は逃げ回ったり、飛び回るには十分な広さだ。


「ふふふ、素晴らしい。やれ、タイタン!」


「ゴオオオ、ホオオオオオ!」


 錬金術師の男がタイタンに命じた時、タイタンが錬金術師をつかみ、口元へと近づけていく。そのイベントを知っているカエデとSORAはあちゃ~と嫌な顔をする。


「な、何をする!やめろ!」


「ゴオオオオオ」


「だれかたすけてくれええええええ!!」


 錬金術師がタイタンに食われると、胸元に魔法陣が浮かび上がる。そして、ミクたちを見たタイタンは彼女たちに襲い掛かるのであった。

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