第19話 幽霊を求めて
ミクがフォーゼの街で待ち合わせしていると、レイカ、カエデがやってくる。約束の時間まであと少しといったところで、前のイベントで一緒のパーティーを組んだSPICAとAYAKAがやってくる。
「やっぱミクが三雲ちゃんだったんだ」
「ってことはAYAKAが綾香か。言われてみるとそうだよ。どこかで見た気がしていたんだよな。で? 部長はどこだ?」
「? 来ているけど?」
「どこに?」
「じゃじゃーん、昼間はネクラなオカルト同好会の部長、その正体はSPICAちゃんなのだ☆」
「気づけるか!もう別人じゃねえか!」
「これが陽の私デース☆」
「足して2で割ったら良い具合になるんじゃねえの!」
「それをやると平凡なのだー」
「なら現実でも似せる努力しろよ!」
「よそはよそ。ウチはウチということで。というわけで幽霊を探すのだ☆」
「といっても、探す先、それに幽霊の姿とか特徴は分かりますの?」
「知っていれば、レベルが80超えるまで遊んでいないのだ」
「前のメンバーとがっつり遊びましたからね~」
「……遊びすぎて幽霊探しを忘れていたとか言い出さないでしょうね」
「YEAH~☆」
「駄目ですわ!部長様にリーダーの資格が見えません!」
「うすうすとは気づいていたぞ」
「うん、むしろAYAKAさんの方が良いと思うくらいには」
「と、ともかく!今は何よりも情報が必要ですわ」
「とりあえず、ダイチさんに聞いてみるか」
フレンド欄から、ダイチがログインしていることを確認したミクはチャットすることにした。
『どうした、ミク?』
「実は本物の幽霊がこのゲームで遊んでいるっていう話を聞いたんだけど」
『小さいころからよく聞く有名な都市伝説だな。そもそも、そんな事件があればゲーム嫌いのマスコミにすれば一大ニュース。そんなのがなかった時点でデマ確定だ』
「だよなぁ~念のため聞くけど、それらしい人って知っている? 長時間ログインしている人とか」
『長期ログインか。俺たちのギルドじゃないが、【ENJOY!】のメンバーにいつ休んでいるんだってくらいの廃人プレイヤーがいるって話は聞いたことはある』
「その人を教えてくれないか?」
『その人とはフレンドではないから直接話はできないが【ENJOY!】のフレンドと話をしてみるよ。ミクはどこにいるんだ?』
「フォーゼ中央の時計の下」
『わかった。俺のフレンドのアクアという青髪の女性がそちらに向かってもらえないか話をしてみる。詳しい事情は彼女に話してくれ』
「ああ、わかった。ありがとう」
ダイチとのチャットを終えて、待つこと数十分。ダイチからの連絡を受けて駆け付けてくれた大学生くらいの眼鏡をかけた知的な女性がアクアと名乗り、その証拠として彼女たちにステータス画面を見せる。
アクアLv101
種族:セイレーン
職業:魔導士
所属ギルド:ENJOY!
HP352
MP752
攻撃301
防御601
知力1107
敏捷503
器用さ505
運305
「アクアさん、よろしくお願いします」
「ダイチ君の頼みだし。で、私たちの廃人プレイヤーの紹介だったけ?」
「はい。都市伝説に出てくる幽霊プレイヤーを探しているんです」
「ああ、あれね。さすがにSORAも幽霊扱いはかわいそうじゃないかな。実際に会わせたらその辺の誤解も解けそうだし、少し待ってね」
アクアが連絡を取り合うと、OKが出たようなので、さらに待つこと数十分。ミクたちと年が変わらない翼の生えた緑髪の少女がやってきて、SORAと名乗ってステータス画面を見せる。
SORA Lv104
種族:ハーピィ
職業:盗賊
所属ギルド:ENJOY!
HP402
MP372
攻撃612
防御208
知力208
敏捷1021
器用さ807
運606
「僕を呼んだのって君たち?」
「そうだ。単刀直入に聞くけど、幽霊だったりしないよな」
「まさか~僕が幽霊なわけないじゃん。嘘だと思うならログアウトしてみるよ。死んでいたらログアウトできないよね」
SORAの姿が消えると、アクアのフレンド欄ではログアウト状態となる。そして、ほどなくしてSORAがログインしてミクたちのもとに戻ってくる。
「ね。これで僕が幽霊じゃないってことわかった?」
「わかりましたわ。デマであることが分かった以上、SPICA様は新しいネタを持ってくるように」
「は~い」
「お手数をおかけしましたわ、アクア様、SORA様」
「別にいいのよ。フォーゼで買い物する予定だったから、少し立ち寄っただけだし」
「僕もこれからダンジョンに潜るつもりだったからね。そうだ。一緒に火山に潜らない? 僕の使っているメインウェポンが火属性だから火の石やら火の魔石が大量にいるんだよね」
「そういうことでしたら、私たちも同行しますわ」
「なんというか、レイカが実質部長になっているよな」
「そうよね」
「会って二日で下剋上!? 明智光秀もびっくり☆」
「新入生に威厳で負けてどうするんですか……」
AYAKAがあきれたような顔をしたところで、6人はゼクロス火山へと向かっていく。火山のふもとには温泉街が広がっており、炎系の武器や火にまつわる道具等も売られている。そして、何よりも温泉だ。あちらこちらで入浴施設があり、ゲームの中といえども体をきれいにしたい女性客を呼び込んでいた。
「ねえ、みっちゃん。温泉入っていく?」
「戦えば汚れるんだから、後だ後」
「2回入ればいいじゃん。ゲーム内のお金なんてたんまりあるし。僕も賛成」
「SPICAも賛成に一票☆」
「部長と同じく」
「4-2で可決されましたわね。仕方がありません」
渋々といった様子でレイカとミクが近くにある温泉施設へと入っていく。ゲームしている層もあり、現実とは違い若年層が多く、女の子1年目のミクにとっては女子寮の大浴場並に目のやり場に困るが、所詮これはゲームだと割り切って脱いでいく。
「ふう~、極楽極楽」
「みっちゃんったら、親父臭いよ」
「別にいいだろ。それにしても、SORAって羽をしまうと何の種族かよくわかんねえな」
「羽があっても天使かと思う場合もありますわよ」
「うん。僕を知っている人ならともかく、一目でハーピィってわからないよね。そういえば、君たちってギルドに入っているの?」
「ワタクシは足切りラインの80は超えたので、決めかねているところですわ」
「SPICAたちもまだだよ。元々部活動用アカウントだったからね」
「俺とカエデは【星の守護者】に入ろうと思っている」
「【星の守護者】はPK宣言されたギルドでしょう。やめた方が良いと思うよ」
「上等だ。俺は龍堂ってやつを許さねえ。今は無理かもしれねえけど返り討ちにしてやる!」
「はっ、お前らごときが龍堂に勝てるわけないだろ!」
ミクの言葉に突っかかってきたのは赤髪の釣り目の女性。グラマラスなボディは男性を虜にするかもしれないが、こうして簡単に激怒するあたり、現実では……と女の子初心者のミクでさえ思わせるほどだ。
「誰だ、おばさん!」
「おば!? お姉さんだ!」
「お・ば・さ・ん?」
「喧嘩売っているのか、ガキ!」
「みっちゃんも、RISAさんもストップ!これ以上騒いだら監獄送りでもおかしくないからね」
「ちっ!」
「そのRISAって誰だよ!」
「アタイの名前も知らないのか。【漆黒の翼】のNo.2!龍堂の右腕のRISA様だ!」
RISA Lv105
種族:魔人
職業:黒魔導士
所属ギルド:漆黒の翼
HP435
MP635
攻撃510
防御1210
知力1210
敏捷605
器用さ1010
運155
「なんだこのステータス!? アクアってやつよりもたけえぞ」
「RISAさんは廃課金者だからね。ステアップの課金アイテムも買ってるんだよ」
「そこの女、よくわかっているじゃないか。前の【漆黒の翼】にでも居たか? どうも弱い者の名前と顔は覚えられなくてな」
「さあ。私も龍堂さんならともかくお姉さんのことはしらないよ(知っているけど。コクエンさんより弱かったくせにイキっちゃって)」
「ちっ、まあいい。夏のギルド対抗戦でアタイの名が轟くことになるからね!」
そう言い残してRISAが立ち去っていくのを見届けた一行は、嫌なことを忘れて温泉をじっくりと堪能するのであった。