第17話 大浴場
入部届を提出した三人は自分たちの寮へと帰っていった。新入生歓迎会には少々遅れることとなったが、時間的にはまだ始まったばかり。しれっと戻れば、怒られることはないだろうと思い、パーティー会場となっている食堂に入る。
「うわ、すげー高そうな料理」
「うん。ブッフェ形式でおいしそう」
「ワタクシからすれば食べ飽きたものですわ。とはいえ、頂かないのも失礼」
「屁理屈言わずに食べようぜ……じゃなかった食べましょう」
「別にワタクシに気を使わなくて結構。ゲームでのしゃべり方が素なのでしょう。たとえ無礼であっても、取り繕って誤魔化してくる方が嫌ですわ」
「ありがとうよ、麗華」
3人で料理をとって、テーブルに着く。麗華はカロリーを気にしているのか少量、紅葉は野菜や肉をバランスよく、ミクは肉料理を中心にドンとお皿の上に載せており、それぞれの個性が出ていた。
「そういえば、レイカと一緒にいたメイはどこにいるんだ?」
「冥でしたら、実家のお屋敷にいますわ」
「まじもんのメイドだったりする?」
「メイド、お目付け役……好きに呼ぶといいですわ」
「本当にいるんだ。あんなお手本のようなメイドさん」
「失礼ですわね。それにしてもオカルト? とやらには疎いので、明日はその部長様に話を伺いに行きましょう」
「俺たちも部長に聞かないといけないことがあるんだ」
「聞かないといけないこと? 興味はありますが、この場で聞くのはナンセンス。明日、その事情を聞かせてもらえれば力添えくらいはしてあげてもよろしくてよ」
(どうする? 俺が元男ってのはバラした方が良いか?)
(う~ん、話がややこしくなりそうだから、そこははぐらかす感じで。あくまでも平行世界に来たってことで)
「お二人でこそこそと……複雑な事情がありそうですわね」
「そんなところだ。全部は話せないけど大筋は話せると思う」
「では、楽しみにさせていただきますわ」
「もう食べ終わるのかよ。少ししか食べてないじゃん」
「私の完璧なボディを維持するには余計な食事は不要ですわ」
そう言い残してパーティー会場を立ち去る麗華を見送り、二人はまだまだ残っている料理をとっていくのであった。
「ふぅ~、食った、食った。女子校だけにニンニク料理は出てなかったのが幸いだ。さてと、風呂でも入って……ってシャワールームがあっても風呂は自室にはないのか」
入学時にもらったパンフレットを見ると学生寮には大浴場があるようだ。これくらいは仕方がないかと思い、着替えをもって大浴場に向かっていく。大浴場の扉を開けると、そこに広がるのは無防備な女性の裸体。裸体。裸体。
(女の子初心者の俺には刺激が強すぎる!)
慣れるようにと紅葉の裸体も見たが、相手は身内も当然。裸の付き合いは幼いころを除けば、その時が初めてだが、罪悪感は薄れていた。だが、今、彼女の眼前に広がるのは赤の他人。男には目の置く場所が困り、罪悪感に苛まれながらも自分も着替えていく。
「確かタオルはこう巻いて……」
「肌すごく白くない!?」
ひょいと覗き込んでいるのはクラスでも珍しいギャルっぽい外見の女の子。その後ろには金髪に染めている彼女の後ろに褐色ギャルっぽい子と大人しそうな子もいる。
「えっ~と、確か遠藤さん?」
「ぴんぽ~ん、大当たり。遠藤なんてよそよそしく呼ばずに美香で良いよ」
「腕もほっそ!歓迎会で結構食べていたのに、あの量はどこへ行くの」
「この胸と予想……」
「お、おいつかむな!」
「三雲は着やせするタイプなんだ」
「いや、これは押し込んでいるタイプだね。適正のブラはもう少し大きいと見た」
「週末、買い物……良い」
「良いね。4人で買い物」
「ちょっと待て。俺を無視して勝手に話し進めるな!」
「ちょっ、俺っ子路線とか受けるんだけど」
「かおるっち、動画撮った!?」
「脱衣場・浴室内は撮影禁止……くっ」
「「真面目か!」」
「斎藤さんが真面目で良かったよ!」
ギャル三人組から抜け出そうとするも、この中では一番ガタイの良い褐色ギャルの辻井に首根っこをつかまれ、大浴場に突入するのであった。
「マーライオンからお湯が出るとかどこの高級ホテルだよ」
「素でしゃべっている三雲ってなんか強がっている妹感あって可愛くない?」
「わかりみー。なんだかぎこちない、不器用な感じも妹感あるよね。ミクミク、あたしのことを由美お姉ちゃんって呼んでもいいよ」
「誰が呼ぶか!ミクミクってなんだ!」
「妹でも可」
「斎藤さんは俺より小さいけど、同級生だろうが!」
ギャル三人組のボケにひたすらツッコミを入れていく三雲。今度はこちらの番と言わんばかりに、質問をぶつけることにした。
「本当にこの学校に受かってきたんだろうな」
「もちろんでーす。中学の頃はこういう恰好を禁じられていたけど、この学校って服装ってあまり縛られてないでしょう」
「まあ、偏差値高いから変なのは入らないからな」
「だからあたしらはこの学校に入った」
「頑張った」
「頑張ったで入れるものなのか……まあ、(平行世界とは言え)俺も入ったけど」
このまま彼女らのペースに乗せられまいと湯船から出て、体を洗っていく。すると、誰かが後ろから背筋を撫でてくる。
「白いだけじゃなくてすべすべじゃん」
「えっ~、マジ。本当だ。これ、反則っしょ」
「せこい」
「せこくねえよ!お前たちも洗えよ!」
「じゃあ、背中洗って」
「ったく、しょうがねえな」
まずは自称妹を名乗る斎藤の背中を洗う。ツルペタな体に欲情することなくクリア。続いては白ギャルの美香の体を洗っていく。肉付きは紅葉と似たようなものなので難なくクリア。そして最後に立ちふさがるは褐色ギャルの由美だ。
(でかっ……あんなに胸が大きかったら下見えねえだろ)
グラマラスな体にどきどきしながら、洗っていくとわざとらしく嬌声を上げてくる由美。からかっているのだと頭では理解しているが、心はピュアな男の子。感情の処理が追い付かない。
「どう、あたしの豊満ボディ?」
「去年着ていた水着、布面積が少なすぎてチャーシューだったじゃない」
「ぐぬっ……」
「それに部活やめたせいで去年と比べると体重が――」
「ストップ!シャラップ!」
ギャーギャーと騒いでいる今のうちに逃げ出そうと、体についている泡を流してこそこそと露天風呂へと逃げていく。
(嫌がっている人間がまだ浴場にいるとは思わねえだろう。それに脱衣場に逃げたら髪を乾かしているうちに捕まるからな)
物陰に隠れながら様子をうかがっていると、ギャル三人組が脱衣場へと向かっていくのを見て一安心する。ちゃぽんと浸かっていると夜風が当たって、温まった体に心地いい。
「ふう~、やっとほっとする」
満天の星空を見ながら、心の中で100を数えてみる。そろそろほとぼりが冷めた頃合いかと思い、脱衣場に向かうとギャル三人組の姿はなく、安心して着替えることができる。
自室に戻った三雲は今までの疲れがどっと来たこともあり、ログインボーナスだけ受け取った後は、そのまま就寝に入るのであった。