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第12話 Dランク昇格戦

「すみません、Dランクへの昇格試験を受けたいんですけど」


「はい。昇格試験ですね。冒険者カードを見させていただいてもよろしいでしょうか?」


 ミクから差し出された冒険者カードを確認していくギルド職員。そして、チェックが終わり、手にした冒険者カードをミクに返す。


「レベル30以上であることを確認しましたので、Dランクの試験を受けることが可能です。本日の試験内容はゴブリンキング一味の討伐となっております。準備ができましたら、お声をかけてください」


「大丈夫。話しかける前に準備しておいたぜ」


「それではついて来てください」


 ギルド職員に案内された扉を開けると、ただ広い室内に冠を被った巨大なゴブリンキングと剣や杖を持ったゴブリンソルジャーやゴブリンメイジたちが取り巻きとして待ち構えていた。


「Dランク昇格試験、開始!」


 ギルド職員の宣言と同時にゴブリンソルジャーが駆け出してくる。彼らの足は並のゴブリンと比べると確かに早い。だが、そんな彼らに対し、血の球がゴブリンソルジャーの脳天にあたり、頭部を陥没させる。


「ワンアウト!」


「ゴブゴブゥー!」


「ゴブゴブうるせえ、もう一球!」


 同じようにゴブリンソルジャーの頭部を狙った影の球。だが、今度はゴブリンメイジのバリアによって阻まれる。


「ゴブゴブwww」


「ぜってー馬鹿にしただろ。まずはお前たちから倒す!【加速】」


 ゴブリンソルジャーを置き去りにしてゴブリンメイジに向かっていく。急接近するミクに火球を放つも、所詮はゴブリン。でたらめなエイムでは高速で動く彼女をとらえることができず、首を切り落とされてしまう。


「これでツーアウトってところか。ダークスラッシュ!」


 闇の斬撃で近くにいたゴブリンメイジを切り倒す。残る一匹は仲間が倒されている間に周りに障壁を張って万全な構えだ。


「そのやり口は知っているんだよ。足元にはバリアがないってこともな、隷属:人食い植物!」


 ゴブリンメイジの足元からツタが伸びていき、ゴブリンメイジの動きを封じ込める。その間に置き去りにしたゴブリンソルジャーに対処していく。


「【魅惑の魔眼】!」


「ごぶう」


「動くなよ!ブラッディボール」


 距離をとって血の球を投げつけて攻撃する。完全にこちらのぺースに持ち込み、手下のゴブリンたちを倒すと腕組みしていたゴブリンキングが雄たけびを上げながら、巨大なこぶしを振り下ろしてくる。


「おっと……素手でクレーターみたいにへこんだぞ。一発食らったら致命傷だな、これ」


「ゴブ!」


「ひとまず離れて……シャドーボール!」


 ゴブリンキングの目に向かって影の球を投げつけるも、目をつむりながら猛突進を仕掛けてくる。ダンプカーのように突っ込んでくるゴブリンキングをあわやといったところで躱す。


「こうなりゃあ、パワーにはパワーで対抗だ!隷属:サイクロプス!」


 サイクロプスとゴブリンキングが突撃し、取り組みあう。互いのパワーは互角。その隙に背後に回ったミクがゴブリンキングの首筋に牙を向ける。倒れこんでミクを押しつぶそうにも目の前にいるサイクロプスがそれを許さない。血を吸われ意識を失ったゴブリンキングは膝をつき、力尽きるのであった。




「試験合格です。Dランクになったことで受けられるクエストが増えました。これからのご活躍期待しております」


 ミクが更新された冒険者カードを見るとDの文字が刻印されていた。そのカードをしまい、改めて掲示板を見ると今まで受けられなかったクエストに挑戦できるようになっていた。簡単な採取クエストも集める素材や種類が増え、何個かのアイテムを集める必要がある。


「カエデと一緒に集めていた分もあるから採取クエストは簡単にクリアできるな。あとは討伐や探索クエストか。人食い植物のこともあるしパーティーを組むしかねえけど……」


 事情を知らない人と組めばそれだけ【吸血姫】のことがバレてしまう恐れがある。ゆえにパーティーを組むのに二の足を踏んでいた。目の前にあるクエストとにらめっこしていると一つの依頼に気づく。


「彼氏のために吸血魔城にある秘薬のレシピを探してくださいか……カーミラに聞いてみるか」


 吸血魔城ならば自分の本領を発揮できるフィールド。ソロでもなんとかなりそうだと考えて、吸血魔城がらみのクエストを複数受けてから城へと向かっていく。もはや敵ではなくなった蝙蝠や吸血鬼の雑魚を倒しながら城内に入り、ヴァンパイアロード戦に入る。


「キシャアアア!!」


「そういや、お前とはまともに戦っていなかったな。行くぜ!」


 ヴァンパイアロードが血の爪で襲おうと襲い掛かるのをブラッディボールで牽制する。それを見切って最小限の動きで躱そうとするヴァンパイアロードであったが、球が曲がり脳天に突き刺さる。


「モンスターってのはストレートに敏感に反応する分、変化球に弱いのは分かっているんだよ、シャドーボール!」


 今度はわざとらしいほどまでに大きく避けるヴァンパイアロード。それにより、ヴァンパイアロードは壁を背にして戦う羽目となった。


「これで逃げ場はねえ!隷属:アクアクラブ!」


 自分を苦しめったカニが現れてヴァンパイアロードを泡まみれにしていく。【霧化】で逃げようとしても広範囲に広がる泡からは逃げられず、大ダメージを受けざるを得ない。それでもミクの背後に回り込んだヴァンパイアロードが噛みつこうとしたとき、ミクの体が霧になる。


「カーミラと同じ戦術で来ると思ったよ。だがな、こっちも成長しているんだ。ブラッディファング!」


 ヴァンパイアロードに噛みつき、HPを減らしていく。前からはアクアクラブの泡、後ろにはミクの吸血。先に【霧化】を使った以上、逃れるすべのないヴァンパイアロードはやられるしかなかった。



「一人で来るなんて良い度胸じゃない!今日こそ決着をつけるわ」


「ちょっと待て!今日は戦いに来たんじゃない。ここにある秘薬のレシピってのをもらいに来たんだ」


「秘薬? それ、惚れ薬のことかしら」


「惚れ薬?」


「そうよ。蝙蝠の羽、吸血鬼の血、そして自身の体液、いくつかの薬草を組み合わせて作る秘薬よ。それの惚れさせたい相手に飲ませるの」


 ガサコソと自身の机から1枚の紙を取り出す。おそらくはカーミラ戦後に調べる必要があったのだろうが、カーミラが説得に応じたことで彼女直々に受け取ることとなった。そこには必要な素材と個数が詳しく書かれていた。


「集めてくれたら作ってあげてもいいわよ。これでも生前は錬金術をたしなんでいたから」


「ちょうど素材はある……このレシピだけ渡せばいいんだろうけど興味あるし、頼んでもいいか」


「構わないわよ」


 ヴァンパイアロードが出てくる拷問部屋とは違う部屋に案内されると、空のフラスコやビーカーがそこらに放置されていた。ミクが取り出した素材をゴリゴリとすりつぶしたり、煮詰めたりしてどろりとした液体を固めて小さな飴が出来上がる。


「これを相手に飲ませたら良いのか?」


「そうよ。久しぶりに作ったけど、我ながらさ――パクッ。ごくん」


「おっ、効き目はどうだ?」


「なに、人の口に放り投げるのよ!思わず飲み込んじゃったじゃない!」


「それで惚れているのか?」


「惚れているわよ!惚れてなちゃ、惚れ薬なんて作ってあげてないんだから」


「ん? それだと惚れ薬飲む前から――」


「はっ、今のなし!無しよ!とにかく惚れ薬の効果が切れるまでそばにいて」


 ミクにべったりとくっついてくるカーミラを見て、いたずらごころとはいえ、惚れ薬を投げ込んだ責はあると思い、しばらくの間、カーミラのなすがままにしてあげた。


「なあ、カーミラ。生前のお前ってどんな感じだったんだ」


「昔のことよ。小さいころは天才だのなんだのとちやほやされたけど、大人になったら二流の錬金術師。賢者の石の追求も道半ばであきらめて、子供のころに戻りたい……次第にそう願って研究して、色々とあって吸血鬼になったわ」


「ってことはカーミラはおば――」


「だれがおばさんよ!もう、こんなにも好きなのに」


 腕を組み、ぎゅっと膨らみかけの胸を押し付けてくる。本物のプレイヤーのような色仕掛けをするカーミラにミクは照れながら、次の言葉を探していく。


「あーそうだ。そもそも吸血姫ってなんなんだ? カーミラ、何か知っているか」


「そんなことも知らないの。良いわ、教えてあげる」


 カーミラが吸血鬼についての歴史について語り始める。そもそも吸血鬼というのは錬金術師が永遠の命を得ようと魔物と融合した際に生じた種族。日の下は歩けない欠点も建物の中で研究する彼らにとって欠点になりにくく、人よりも高い知能を持ち、永く生きられる身体は賢者の石を探求するには必要不可欠であった。


「高い知能って言われても雑魚吸血鬼からはそんなふうには見えなかったぜ」


「ここに住んでいる吸血鬼は私を除いて、永劫の時の果てに発狂して理性を失ったわ。研究素材としては利用できるから生かしてはあげているけど」


「そう考えるとカーミラってすごいんだな」


「あーしたい、こーしたいって欲望が強いだけよ、私は。話を元に戻すわ」


 人が吸血鬼になっていく過程で、吸血鬼としての素養が高い者がイレギュラー的に現れる。初期は適合者と呼んでいたが、確認された適合者は女性のみ。男性の適合者がついぞ現れなかったことから、適合者は吸血鬼に愛された女性、【吸血姫】と呼ばれるようになった。


「そして、吸血鬼が吸血姫の血を得るとその者も吸血姫になれると言う――私が知っている吸血姫の伝承はここまで。永く生きている私も、【吸血姫】を直で見るのは貴女が初めて。詳しいことは知らないわ」


「いや、助かったよ。吸血姫がなんなのかさっぱり分からなかったからさ」


「ふふふ、惚れ薬の効き目も切れたわね。昔話して気分もいいから、今日は見逃してあげる。さっさと城から出ていきなさい」


「ああ、そうさせてもらうぜ」


 カーミラの気分が変わらないうちにと城から出ていき、クエストの報告へと向かう。その道中、自身に起きたことについて頭の中で整理する。

 一番の疑問は無数にある平行世界の中で真逆ともいえるこの身体がなぜ選ばれたのかだ。無論、たまたま真逆の自分と入れ替わった可能性はある。だが、周りから話を聞いている限りは入れ替わる前の平行世界の紅葉は元の世界と同じ性格のようだ。母親との電話で俺やお袋と言っても、何も気にされないことから関係性は変わっていない。つまり、大きく変わっているのは自分と【吸血姫】という種族が突如生えたゲームだけなのだ。


(『誰がやったか(フーダニット)』『どのようにやったか(ハウダニット)』は皆目見当もつかないけど、事故や偶然でもない限りは『どうしてやったのか(ホワイダニット)』はある)


 そして、ミクはカーミラから聞かされた吸血姫についてのことを考える。ゲーム中の設定とはいえ、今自分に起こっていることに当てはめたらどうだろうかと。


(もし、俺が男性の適合者でガチャから引いたのが普通の【吸血鬼】だったとしたら、吸血鬼の力を得た俺は【吸血姫】になる必要があったのかもしれない。 だとしたら、無数にある平行世界の中でも【吸血姫】という種族がゲーム中に存在し、女性の体を持つ世界が選ばれてもおかしくはないのか? だったら、この吸血姫ってのを調べていけば手掛かりは見つかるはず!)


 伝承ということはこの先に吸血姫について調べている人がいてもおかしくはない。この先にある真実を追い求めるため、ミクはクエストを進めるのであった。

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