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第126話 入れ替えられた真実

 時は少し遡り、麗華は九朗の書斎に忍び込んでWCOに関する情報がないか探していた。九朗は海外出張中。ばれたとしてもすぐ戻ってくることはない。父親のパソコンをカタカタと叩いてもそこにあるのは普通の業務連絡のみ。別段、おかしいものは何もない。


「そう簡単には尻尾が掴めませんわね。それにしてもデスクトップ、散らかりすぎですわ」


 デスクトップに乱雑に置かれている『新しいフォルダー』。その下には『新しいフォルダー(2)』かと思いきや(4)があって(2)や(3)はない。中をのぞくと最終案コピー(2)などどれが最新版かさえわからない状況だ。


「お父様がこういうタイプの人間だとは思っていませんでしたわ。こうなるとゴミ箱をフォルダー代わりにしてもおかしくはありませんわね」


 中に入っていた(3)を復元して中を覗き込むと鍵のかかった書類データが入っていた。確か、意味の通じない文字の羅列が掛かれていたWordファイルがあったはずと思い『新しいフォルダ(6)』を開き、『メモ1016コピー』を開く。その中にある文字の羅列をコピーして、パスワード欄に入力するもはじかれる。


「全部アウトですわね。横読みではなく縦読みという可能性も考えて……いけた!?」


 いくつかあるページの内の1列を入力すると、資料のページが開かれる。その資料を読んでいくと、麗華の目が大きく見開き、しまいには机をたたいてしまう。


「こんなの許されるわけありませんわ。大量の屍の上で成り立って、何が幸せですか」


「娘とはいえそれは心外だな」


 麗華が振り返るとそこにはバリバリと電撃を迸るスタンガンを持った九朗がいた。それでも、麗華は逃げるそぶりを見せるような真似はせず、九朗を睨めつける。


「いつの間に……」


「ついさっきだよ。持つべきものは吸血鬼の友人だね」


「隠そうとしないのですわね」


「真相を知られたからには処置をしないと。()と話すのはこれが最後になる。せめて父親らしくリップサービスくらいしてあげないとね」


 名前や娘と呼ばないあたり、本気で始末するつもりなのだろうと麗華は悟る。だが、それでも麗華は目の前にいる父親だった男に立ち向かう。


「この計画を止めるつもりはないのですね」


「当たり前だ。この計画には数百年の時をかけた。今更止めることなどできん」


「数百年? お爺様より前から受け継がれたとでも?」


「この計画は私のものだ。全人類を幸せに導く。それが私に課せられた命題。生きる意味だ。そしてそれはまもなく成就する」


「そのために平行世界の人間を犠牲にするのですか!」


 数百年の意味は分からずとも麗華は知っている。平穏な生活から巻き込まれた三雲たちのことも、故郷を今まさになくされようとしているカーミラのことも、帰る故郷すら失い文字通り駒扱いされたエリーたちのことも全て知っている。被害者のことを思えば目の前にいる男のしでかしたことを認めるわけにはいかない。


「そのとおりだとも。考えてみたまえ。人が幸せに満ち溢れた生活を送るのにどれだけの資源がいると思う。地球1つでは足りないのだよ。だから平行世界に手を出した」


「それが多元世界統一計画……通称『幸せの刻』」


「そうだとも。無数にある平行世界を一つにまとめ上げる。いや、正しくは1つの世界かのように運営する。この『World Creation Online』のようにな」


「まさか、このゲームはモデルケースとして……」


「そう。君たちが町やダンジョンと認識している場所は元は別の世界から引っ張て来たものだ。そして、それらの街には類似する平行世界を燃料として徴収する機構を取り付けてある」


「それが『Secret OS』」


「まさか終盤にきていくつも壊されるとは思いもしなかったがな。だが世界の反抗も間もなく終わる。さてと、リップサービスはこれまでだ」


「くっ……」


「何も心配する必要はない。目が覚めたら、新しい君がインストールされるだけだ。さよなら、不要になった私の大切な……(スペアボディ)よ」


「それはどういうーー」


 スタンガンを押し付けられた麗華は意識を失い、九朗の手で別室に担ぎ込まれるのであった。




「ん、んんん……」


 麗華が目が覚めると、そこは鳳凰女学園の学生寮。意識を失っている間に連れてこられたのだろうかとい訝しげに思いながらも、部屋の外に出る。誰かの監視されているわけでもなく、拘束されているわけでもない。不思議に思いながらも、まずはカーミラに例の計画のことを話そうと彼女の部屋へと向かう。


「は~い、どちらさま?」


「えっ……?」


 部屋から出てきたのはメガネをかけたおさげの女の子。カーミラではない。彼女の背中越しに見える部屋も麗華の知るカーミラの部屋の内装とは全く違う。


「間違えましたわ」


「変なの」


 バタリと閉じられるドア。まさかとは思い、三雲の部屋を調べるもそこにいたのは別人。次は紅葉の部屋に行くと、紅葉が出てきて少し安心する。


「大変ですわ。カーミラと三雲が別人になっています」


「えっ、鈴星さん。カーミラさんって誰? 三雲って私の知っている三雲はみっちゃんだけど、男だし……」


(カーミラがいなくて、三雲が男性。そして紅葉のこの反応……平行世界に来ている?)


「いえ私の知っている三雲は女性ですから、別人ですわ」


「ごめんね、力になれなくて」


 ドアが閉まるのをみて、今いる世界が平行世界、おそらくは三雲が男性として過ごしたことで、WCOでの出来事がほぼ無くなり、オカルト同好会の面々は見知らぬ人、同好会そのものも廃部になっていることは想像に難くない。自室に戻った麗華はひとまず、この世界の情報を知るためネットニュースをみてみる。


「これは三雲が言っていたWCOが生活に結びついている世界!」


 以前、三雲が迷い込んだ平行世界の話に酷似しているニュースがインターネット上に飛び交っている。だとすればと思い、龍堂にコンタクトを取ろうと龍堂のメールアドレスに連絡を入れてみる。


(ryud019q8@...同一世界かはわかりませんが、可能性があるなら確かめる必要がありますわ)


 それから数分後、龍堂からメールが返ってくる。このアドレスは三雲のレスを見てから、龍堂が作ったもの。この世界が件の世界である可能性が高まる。


『ミクの種族と職業、テイムしているレアモンスター2種を答えてよ』


『吸血姫。職業はなし。ウラガル、ヴァンパイアドラゴン』


『日本の通貨の単位は?』


『円ですわ』


『OK。ミクの関係者だってのは分かった。合流しよう、どこにいるんだい?』


『鳳凰女学園ですわ』


『奇遇だね。俺も近くまで来ているんだ。どこか近くのサ店で待ち合わせしよう。おすすめ、ある?』


『ではCAFE CAT'Sに。あそこのコーヒーはおすすめですわ』


『了解。あと30分くらいかかる』


 麗華が身支度を済ませて、近くの喫茶店へとむかう。老夫婦が営んでいる小さな喫茶店のコーヒーは平行世界でも健在だった。それから数分後、この辺りでは見かけない黒Tシャツの男性が入る。


「龍堂様ですか?」


「君がレイカちゃん? ミクのお友達と聞いたけど、本当にお嬢様っぽいな」


「ぽいではなく本物です」


「わりい、わりい。とりあえず意見交換しようぜ」


 麗華は三雲が現実世界に戻ってからの出来事、おそらくだが自分が龍堂と同じくこの世界の自分と入れ替わっていること、そして自分の父親が何をしようとしているのかを龍堂に話す。


「いやいや、待て待て。それどこのロボットアニメだっていう壮大すぎる計画だろ。いや、まあ、この状況がアニメって言われたらそうなんだけどさ。それにしてもリアリティってのが……」


「ですが、真実ですわ」


「……まあ、その計画が本当だとしても、今の俺達じゃあミクたちに伝えることもできないぜ」


「三雲から聞いた通り、ログアウトできませんわね」


「出来たら、元の身体に戻っているよ。つーか、俺、気絶とかさせられた覚えないんだけど」


「……三雲から聞いた話によると世界には意思があって、龍堂様はそれに巻き込まれたのかもしれませんわ」


「マジかよ……俺、ただのプレイヤーなんだけどな」


「No.1なのが悪いですわね。豹変した際に目立ちますから」


「だろうな。で、こっちの情報はまずはコレを見てくれ。この街に来る前に寄った鈴星デジタルエンターテイメントがある街中の写真だ」


龍堂のスマホを見ると、一見すればただのコンビニの店内。だが、とある一点が異様な雰囲気を醸し出している。


「この黒い棒は何ですの?」


「聞いて驚くなよ。コレはサーバーだ」


「何でコンビニにサーバーが?」


「知るかよ。店員や街の人に聞いても、売り物じゃない。前からあった。おかしくないとか異常だと認識してないんだ。わけわかんねえし、他の場所もそうなのかと鈴星コンツェルンとゆかりのある地ってことで、ミクの母校のあるココに来ようとしたらお前さんからのメールが来たってわけだ」


「そういうことでしたか。無理やり仮説を作るなら、現実世界で計画に必要な大量のサーバーを購入・管理できないから、肩代わりしてもらっているとか。仮想世界から現実干渉は実際起こっていますし」


「結構当たりかもよ、それ。ミクから聞いたと思うけど、渋谷の行方不明事件の創造主。もし、運営のことならこの世界に手を加えることができるし、さっき言っていたネロって奴の事例もあるしな」


「もしそうなら、この世界のサーバーを壊したいところですが、何が起こるか分かりませんし、下手すれば元に戻れれない可能性すらある。確証がない限り、下手に手を出せませんわね」


「だな。とにかく元の身体に戻れるのはミクがギルド対抗戦で勝たないといけねえし、半年後まで気長に待つとするか」


「ええ、それまではこの世界に現実世界の設備を肩代わりしているような施設がないか調べる程度でしょうね」


 意見を交換し終えた二人は会計を済ませ、三雲たちが助けに来てくれることを期待しながら別れるのであった。

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