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第125話 黙示録の獣 part4

 2日目の深夜に差し掛かるころ、リリスが第2形態へと変身する。レイドボスと設定されているせいか、以前よりも一回り大きくなっており、真逆の存在になった彼女に驚いたプレイヤーもいるが、ダイチが事前に掲示板にリリスのことを書き込んでいたため、大きな混乱は起こらなかった。とはいえ、テレポートを駆使した高速戦闘、当たればタンクだろうと吹き飛ぶ火力にたじろぐプレイヤーは多い。


「こいつに接近戦挑めとか無理に決まっているだろうが」


「どう戦えば良いんだよ」


「遠距離職と自信の無いプレイヤーはネロの方に行ってくれ。アルゴ、今度はこっちを頼む」


「おう!」


 昨晩はぐっすり寝たから、今晩は大暴れしようとアルゴが元気に大槌を振るう。そのダメージは以前、ミクが与えたのとは比ではない。テレポートで彼の背後をとり、大腕を振ろうとしたリリスに大口径の弾が飛来し、爆発を起こしてよろけさせる。


「着弾、命中」


「距離を詰めざるを得ないが、バズーカ砲でも動きがワンパターンなら当てるのは容易だ」


「次弾装填します」


 本能のままに動くということは戦術がパターン化しているということ。実際、ミクもそのパターンを見切って勝利している以上、冷静に対応できる上位プレイヤーからすればこれほどカモりやすい敵はいない。むしろ、第1形態の方が強かったと言われる始末だ。


「……リリスはアルゴたちに任せた方がよさそうだ」


 ネロはどうなっているかと見ると、偽龍堂とRISAがドラゴンになって大怪獣バトルを繰り広げていた。


「ほらほら、どうした!」


 周りのプレイヤーよりもゴリゴリに削っており、ヘイトを奪っているが、廃課金勢なだけあって多少の被弾はごまかせるようだ。そんな彼らに意識を向いているからこそ、後ろはがら空きで他のプレイヤーはそこから攻撃を加えている。


「結構削っているけど、目玉は無しか……」


 初日に抱いた違和感の眼の有無。気にはなるものの、ミクも攻撃に参加する。25日23時59分時点でネロのHPは約7割ほど。予定より遅れているほどではないが、まだまだ気を抜くわけにはいかない数字だ。



 26日の朝。第2形態のリリスがかもりやすい相手ということもあって、三雲は徹夜ではなく早めに寝ていた。そのおかげで、多少眠気はあるものの午前中から戦えそうだ。


「みっちゃん、おはよう。身体、大丈夫?」


「多少眠いくらい。朝風呂でも入ってさっぱりするよ」


 食堂のテレビでは相変わらず異常気象を伝えている。オーストラリアでは降雪が止み、住民たちが雪かきをしている様子が映し出されている。その後はアメリカでM8の大地震がカリフォルニア州で発生し、支援募金のCMが流れ、ヨーロッパでは35度を超える猛暑日になる見込み、日本には7つに増えた台風が沖縄や小笠原諸島に上陸したそうだ。


「本州に上陸するのは明日くらいか~」


「公共交通機関もあちこちで運転取り止めだって」


「まあ、俺たちのやることは変わんねえけどな」


「うん、頑張ってリリスを倒そう!」


 と気合を入れて、ログインするも、すでにリリスは虫の息。1時間もかからずに倒されるのであった。


「所詮は役立たずか。ならば、我が貴様らに直接引導を渡してやろう」


 そして、残ったローマ兵を自身の身体に吸収し、赤黒い炎を纏い始める。能力値の上昇は単純な攻撃力や防御力はわずかに上がった程度。リリスたちを抑えていた人材がネロビーストに専念できるようになっているため、その影響はほぼないと言っても差し支えないだろう。だが、問題はブレスの間隔が少なくなり、単発で仕掛けていた尻尾やクローによる近接攻撃まで織り交ぜ、絶え間ない連続攻撃を仕掛けてくる。


「拘束技も効かない……陣形を組め、横バフ入れて何としてでも耐えるぞ」


 ダイチたちが近くに居たタンクたちを呼び掛けて隊列を作り、ネロビーストの攻撃を耐えようとする。複数回のブレスだけならばヒーラーの回復が追い付くレベル。だが、防御貫通のあるクローがそれを阻む。


「固まっていたら逃げ場が……ぐあっ」


 下位のタンクがやれ、バフが削られ、そこから戦力が劣るプレイヤーが順番に落とされていく。


「【ALL FOR ONE】からの援護も追いついていない……雪見さん!」


「ええ、私たちの力で凍てつかせましょう」


「ダイヤモンドダスト!」


【絶対氷血】を発動したミクが雪見と一緒に吹雪をネロビーストに浴びさせるも、ネロビーストが黒い炎で応戦する。だが、応戦している間は手が止まっている状態。偽龍堂やアルゴをはじめとしたアタッカー陣が畳かける。


「ドラゴンブレス」


「ギガトンハンマー!」


(GWの時みたいにちょっかいをかけてくるかと思っていたけど、真面目にやっているな)


 ミクがそう思うのも無理はないが、PKのやりすぎやギルド対抗戦で醜態をさらしたことによる人材流出が激しい【漆黒の翼】にとっては、再起をかけた一大イベント。ここで未だトップ勢であることをアピールしないと自然消滅もありえるのだ。そういった事情もあり、今回のイベントでは協力的だ。


 冷気を相殺されたものの、攻撃の反動で隙ができたところに、レッドアイのリフレクタービットによる狙撃がネロビーストの眼を捕らえる。


「ぐぬぅ……」


「ひるんだ……? 眼が弱点なのか?」


 攻撃モーションを中断させるほどのひるみ。これを狙わない理由など無いと、スポッターのセツナに集中して狙うように指示する。乱戦になっているため、ネロビーストがプレイヤーたちの陰に隠れており、眼を直視することはできない。ネロビーストの全体の動きから攻撃する瞬間を見計らい、カウンターに近いレベルで直撃させないと支援できない。


「適当に撃たないでくださいよ。周りの攻撃に巻き込まれてドローンも減っているんですから」


「そうだな。B3を狙えばいけるか?」


「C2が適当ですね」


「了解した。喰らえ!」


 跳弾による狙撃。プレイヤー間のわずかな隙間を縫うように放たれた一射はネロビーストの眼をまっすぐ射抜き、口内に溜めていた魔力が暴発する。


「ふう。これを毎回当てろっていうのは骨が折れるね」


「次はD1です」


「あのさ、君、生真面目すぎない? もう少し余韻ってのをさ……」


「役目をきっちり果たすのが性に合っているので」


「そうかい。でも、肩の力を抜かないとリアルでも苦労するよ」


「……覚えておきます」


 レッドアイは不愛想な相方の指示を受けて狙撃を続けていき、プレイヤーへの支援を続けていく。だが、3日目はともかく4日目、5日目と同じことを繰り返すこととなれば、プレイヤーも飽きが出てくる。

 本州に上陸することなく台風が消えたとはいえ、繰り返し作業のせいで次第にログインするプレイヤーも減り、ネロビーストのHPの減少速度も少しずつ減っていく。だが、6日目に差し掛かったところで、残りHP30%程度。このままではマズイと思ったのか、ログインするプレイヤーが少し増える。


「昨日、おとといの10%減少だと間に合わねえぞ」


「うん。せめて初めの頃くらいの速度に戻さないと」


 ミクたちが必死に殴っていき、中だるみした4、5日目以上のスピードでネロビーストのHPが減少していく。


(間に合うのか……)


 ネロビーストのブレスを躱しながら切り付けていくも、じわじわとしか減らない。それでもあきらめず、攻撃を続けていき、正午になった時点でようやく残り25%を下回る。あと24時間。1時間で1%超のダメージを与えなければならないプレッシャーがかかりながらも、初心者も上級者も関係なく、ネロビーストに攻撃を与えつづける。


「諦めが悪い奴らだ」


「うるせえ!試合は最後までやらないとわかんねえだろうが!」


「ならば、灰塵に化してくれよう」


 7つの首が大きく口を開けてブレス攻撃を仕掛けようとする。それを阻止しようとレッドアイの狙撃が行われるが、キャンセル不可の攻撃らしく、ひるみモーションが生まれない。


「焦土と化せ――」


 ネロビーストが大技が放とうとした瞬間、黒い斬撃が7つの首を同時に打ち落とす。何が起こったのかと思いながら、ネロビーストの足元を見ると、イベントの最初で倒されていたはずのラースがリリスに支えられながら、剣を握っていた。


「油断したな……我が一振りするだけの時間をむざむざ与えるとは。我らも加勢を……ぐっ」


「さっきまでのびていたんだから無茶はできないわよ」


「まだだ……まだ死なんぞ……」


 ネロビーストの首から黒い瘴気のようなものが吹き出て、一つの首に変貌していく。その巨大な頭部の額にはミクたちが見慣れたSecret OSの眼がくっきりと浮かび上がっている。


「いやはや、生命力は化け物ですな。立ち上がるのが精一杯な拙僧たちは退散させていただきましょう」


 ラースたちがその場から離脱する。残されたのは変貌したネロビーストとプレイヤーたちだけだ。そして、ミクがネロビーストの眼を狙うと周りよりもはるかに大きなダメージを与えることができる。


「みんな、あの眼を狙え!」


「おっ、弱点部位か?」


「残り1日になったら弱点用意してくれるとか運営優しいな」


「1週間かけてクリアできなかったら暴動起こりそうだもんな」


(……なぜ、我がここまで追い込まれる?)


 活路を見いだしたプレイヤーたちの猛攻に耐えながら、ネロビーストは心の中でごちる。世界のバックアップ付き、影という弱点をつけることで現実世界でも災害を起こしたというのに、肝心要の日本へのダメージは極小に抑えられてしまい、今、残されている力では猛暑を引き起こす程度しかできない。

 もし、ラースたちにとどめを刺していれば弱点をさらすことなく、現実世界への顕現、その儀式は完遂できたというのにと後悔の念がよぎる。


(裏切り、醜い姿に身を堕とした者の末路としては十分だな……)


 もはや皇帝としての矜持さえ捨てたネロにあるのは破壊しつくさんとする獣の心。そして、それすらも、目の前にいる『敵』は打ち砕こうとする。


「ならば、見せてみろ。貴様たち、人間としての矜持を!選択を!未来を!」


 ネロビーストが吠え、最後の力を振り絞っての反撃。プレイヤーたちをなぎ倒していく。だが、彼らも止まらない。互いのもつすべての力を振り絞った戦いは深夜を乗り越え、31日10時31分、ネロビーストの陥落という結果を迎えるのであった。

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