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第11話 新しい装備のために

 じりじりと焼けつくような朝日と共に三雲は目覚める。昨日と違って、紅葉が着替えている最中ではなかったようだ。あくびをしながら起きると鏡に映るのは見慣れた吸血姫の自分。


「まだ3日目だってのに、大分と見慣れた気がするぞ……」


 ゲームでもこの見た目だ。体感時間であれば現実と大きく変わらない仮想空間で何日も過ごしているのだから無理もない。このまま自分の女体に慣れてしまうことに怖がりながらも、冷たい水で顔を洗う。そして、悪戦苦闘しながら服を着替えて台所へと向かうと、紅葉が朝食を温めなおしてくれていた。


「みっちゃん、おはよう。お寝坊さんだね」


「ああ、おはよう。今日はどこに行くんだ? 装備はまだそろってないけど、吸血魔城で戦ってもレベルが上がりにくくなってきたぞ」


「ゲームもいいけど、まずやるべきことがあるの忘れてない?」


「ん? なんかあったか?」


「今日は制服を受け取りに行く日なの。さっき、おばさまに電話したら、みっちゃんも同じ店で買ってたみたい」


「このあたりで制服を取り扱っている店なんてほとんどねえからな……女子の制服マジで着るのか」


「うん。きっと似合うよ。シックな感じの制服だから深窓のお嬢様感があるかも」


「付き合うならともかく、なりたくはねえ……」


「黙っていたらの話だけどね~それとも、お嬢様口調で話す?」


「レイカみたいな感じでか? ヤダね」


「制服を買ったらみっちゃんの私服を買って……」


「いらないだろう、そんなもの。一応、この世界の俺が着ていたものがあるんだし」


「駄目だよ。あんなネクラみたいな服ばかりじゃ。というわけで、今日はみっちゃんコーディネート会です。ゲームは夜から」


「マジか」


「それに今日も魔城周回だろうからね。吸血鬼の場合、海は装備を整えてからじゃないと。吸血鬼オンラインを終わらせた元凶ステージだもの」


「元凶? そんなにやべーのか? そもそも吸血鬼オンラインってなんだ?」


「そこから話するね」


 ゲーム当初、種族ガチャにおいてはSSR間の格差は多少あるとはいえ、そこまで大きくなかったため、SSRが引けたらガチャ終了といわれていた。そんな中、0.5周年でSSRの中では扱いづらく採用率の低い吸血鬼に壊れスキル【真祖】や【隷属】の追加、有利なフィールド、専用装備の追加がなされ、廃人たちは課金アイテムを使い、こぞって吸血鬼へと転生した。アタッカーどころかタンクやヒーラーも全員吸血鬼となるのも珍しくない、吸血鬼以外に人権無しといわれた暗黒期、それが吸血鬼オンラインだ。

 しかし、新年に実装したフィールドで繁栄を極めた吸血鬼は死滅する羽目となる。


「海だと日光の影響を強く受ける、昼間の時間が長い、弱点の水属性の敵がうじゃうじゃと逆境になったの。1年目に新種族である【竜人】の実装も相まって、吸血鬼の数は一気に減少。元々使っていた種族に戻す人や【竜人】狙いで爆死する人が続出したわ。それでも一時期の繁栄で味を占めた人が吸血鬼をほそぼそと使っているけど、その後に実装されたのは、倍率の低い【怪力】、成功率の低い【魅惑の魔眼】、自爆する【飛行】と追い打ちをかけられたわ。今では不遇種族の仲間入り」


「【魅惑の魔眼】ってそんなに成功率の低いってイメージないな」


「みっちゃんだと【魅了強化】あるからね。それに攻略サイトによれば【自己再生】って本家だとレベル110スキルでまだ誰も習得してないらしいよ」


「誰かと組むときは使わないようにしねえとな」


「というわけで、今日は新しい日傘作り。海の雑魚をものすごく頑張って倒そう!」


「ただでさえ不利なフィールドで戦うのに必要な日傘の材料を得るのに不利なフィールドで戦えってことか。矛盾しているだろう」


「だから滅びた……」


「そりゃあ滅びるわな」


 納得しながら朝食を終える。身支度を済ませた後、近くの商店街に赴き制服を受け取りに行く二人。手にした制服が入っている袋の重みを感じながら、うきうきしている紅葉を横目で見る。


「とりあえず、これとこれとこれ!」


「っておい、多くねえか!」


「いいの!いいの!さあ、着替えた!着替えた!」


「わかったよ。着ればいいんだろう」


 紅葉が選んだ服を何気なく着始める三雲。そして、ガバリと試着室のカーテンを開ける。胸元が大きく見える服なため、恥ずかしがっているようだ。そして、次の服を着始め、今度は露出の少なめの服装。今、持っている服と比べると明るい感じだ。そして、最後に残った服を着始める。


「って、コスプレ服じゃねえか!」


「吸血鬼メイド良いね!」


「道理ですげー着にくいと思ったよ」


「次はチャイナ服。ゲーム内で好きなだけ服着るって言ったでしょう」


「……ああ、言ったよ。男に二言はねえ」


 というわけで、今度は普段着るような服装から一転して紅葉の趣味が始まる。手にカメラはないが、彼女の生まれ持つ二つのピンホールカメラで脳裏に焼き付けたあと、試着した服の中でお気に入りの服を選んで購入する。


「お昼も色々と買うよ!おー!」


「お……」


 精神的に疲れた三雲は紅葉に引っ張られながら、商店街をめぐるのであった。



 そして、その日の夜。ゲームの世界へと飛び込んだ二人は港町ファイズへと向かっていく。市場にはたくさんの海鮮物やそれらを用いた料理店が立ち並び、競りの声が響き渡るほど活気にあふれている。まずは雑魚が出る浜辺に行くと、人間大の大きなカニがこちらへと向かってくる。カニのレベルは65に対し、二人のレベルは64。互角に渡り合える数値だ。


「って、すげー勢いでHPが減っているぞ!」


「これはヒールも大変だね」


 カエデのヒールを受けても現状維持が必死なミクに対して、カニの口から無数の泡が吹き出て襲い掛かる。前面に展開された泡に触れた瞬間、ミクのHPはあっという間に溶けて倒されるのであった。


「無理じゃねえか!」


「ね」


「ねじゃねえよ。どうやってあんなの回避するんだ?」


「それを考えるのもゲームの醍醐味だよ」


「まずは遠距離から攻撃してみるか。ブラッディボール」


 血の球を思いっきりカニのモンスターにぶつけてみる。すると、HPがわずかに減りはしたものの、こちらに気づいたことで泡を発射。続いて投げた一投で泡を破壊しても、そのすべてを破壊できるわけでもなく再び敗北する。


「近距離はダメ。遠距離もダメ。となると……う~ん、相手は水属性なんだろう。確か、このゲームの水の弱点は……木か。それなら、隷属:人食い植物!」


 地中から出たツタによってカニの手足を封じると、その束縛から逃げようと泡を吹きまくるも、木族性のツタを破壊することができない。その隙にとミクが背後に回る。


「ブラッディファング!」


 血の力で強化された牙は堅牢なカニの甲羅を貫き、カニの中身をすする。抵抗したくともツタでからまれるかにはじたばたと動くこともできない。そして、中身を吸いつくされたことで、カニは倒れるのであった。


「よし、この調子でカニを眷属してやる!」


(目的変わっているけど、どのみち倒さないといけないし、まあいいか)


 浜辺にいるカニに向かって突撃していくミク。だが、ここにいるカニは1匹だけでなく複数体いる。うっかり他の個体に近づくと……


「ぎゃああああああ!」


「まあ、私がいるからトレインにならないだけマシか。シャイニングレイ!」


 泡まみれになって死んだミクが復活するまでカエデが代わりにカニを倒して、他のプレイヤーの邪魔にならないようにする。万全なアフターフォロー体制でカニを倒していくこと数時間。ようやくレベルもあがり、レアドロップの水の石も必要分手に入る。



 レベル65に上がった

 固有スキル【闇魔法Lv1】(闇属性の魔法攻撃がアップ)を覚えました

 隷属:アクアクラブを覚えました



「今度は黒魔導士の職業スキルだね」


「悪くはなさそうだ。さてと、この水の石をどこに持っていったらいいんだ?」


「もちろん、鍛冶師のところ。できればNPCよりもプレイヤーが良いんだけどなあ」


「どっちも作れるなら、差はないんじゃないか?」


「NPC産だと最低保証の装備しかできない。でも、プレイヤー産だと例えば水に強いとかの特殊効果が付与できるの。良い効果が付与するとその分、値段は跳ね上がるけどね」


「安く抑えるならNPCってのもありだな」


「といっても、日傘は長らく使うだろうから、良い装備狙いしてもいいと思うよ」


「でも、レイカたちから装備を買ったからあまりお金がないんだよなぁ」


「金策となるとレアアイテムを売るかクエストを受けるしかないね。みっちゃんのレベルならDランクはサクサクに終わるよ」


「よし、Dランクに上がるか」


「そのあと、クエストも消化するんでしょう。今日はメインでレイドに向けて準備しておこうかな」


「良いぜ、待ってろよ。Dランク!」


 カエデはログアウトし、ミクは昇格試験を受けるため、冒険者ギルドへと向かうのであった。

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