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第116話 激闘終えて

「私が負けた……?」


 戦闘終了後、リリスは元の(?)サキュバス姿に戻っていた。だが、本気の姿をさらけ出しても勝てなかったことに茫然自失となり、横たわっている。そんな彼女にミクが手を差し伸べる。


「おーい、大丈夫か」


「人間に手を差し伸べられるなんて屈辱よ」


「勝負の後はノーサイド。敵味方無しだろ」


「なにそれ? スポーツマン気取り?」


「気取りじゃない。スポーツマンだ」


「はは、面白い子。今まで人間を家畜程度にしか思っていなかったけど、貴女みたいな子がいるなら、本当に人間との共存、考えても良いのかもしれないわね」


 リリスがミクの手を取って立ち上がる。そして、駆け寄ってきたカエデたちにパーティー申請して、再度加入する。これでクエストも終わりかと思いきや、ミクたちの前に転移の魔法陣が浮かび上がり、中から目元を隠した仮面をつけた男が現れる。


「リリス、お前ほどの者が人間に絆されるとはな」


「ネロ……」


「敗者にかける言葉は無い。俺が用あるのは勝者のみ」


「なんだ?」


「お前に余の黄金劇場のチケットをくれてやろう。普段は我が結界を張っている故、認識も触れることもできないが、それを持っているとその結界を解き、入場することができる」


「それはどうも。で、その肝心の劇場はどこにあるんだ?」


「ロクスタは……居なかったな。座標を送ってやる」


 同時にミクのマップに赤く表示されている地点が浮かび上がり、それと同時にネロはどこかへと消え去る。その表示された場所は海の上。どうやら黄金劇場は魔界ではなく人間界側にあり、何の目印もなく探すのは困難だ。

 唐突に現れたものの、ネロとの戦闘は今受注しているクエストの進行には関係ない。今度こそルビーを店主に返そうとしたとき、リリスに呼び止められる。


「まだ何か用があるのか?」


「私に勝った報酬。まだ払ってないわ」


「何をくれるんだ?」


「報酬は2つ。まずはその宝石貰っていいわよ。代金は後で建て替えておくから」


「もう一つは?」


「私が書き起こしたレシピ。使う気が無いなら鍛冶師なりなんなりに売り飛ばせば、高値で売れるわ」


「サンキュー」


「……近々、人間との大規模戦闘が起こるって言うのにこっちの手の内がバレて最悪よ」


「次も負けるつもりはないぜ」


「それはこっちの台詞よ。次はこうはいかない。覚えておくことね」


 リリスが飛び去り、自力で開けたゲートへと飛び込んでいく。そして、これでクエストクリアとなったところで、リンがミクに頭を下げる。


「レシピ、売って下さい」


(おいおい、あのリンが頭を下げたぞ)


 フリードが信じられないものを見たような顔をするも、その理由は即座に納得できる。リリスとタイマン勝負で勝たない限り、ミクが手に入れたレシピは手に入らない。だが、リンは生産職。戦闘で、しかも相性が最悪のリリスに手も足も出ないのは戦う前から勝敗が決まっているようなもの。となれば、プライドなぞ捨てるしかない。


「いいぜ。いつも装備強化してもらっているからちょい安くしておくよ。金欠だって言っていたしな」


「助かった……」


 リンがミクから売却価格を聞くと、手持ちのお金ではわずかに足りなかったので、現金をゲーム内マネーに変えて購入することとなった。無理しなくてもとミクが言うも、やはりリンもプレイヤー。知らないレシピは早く知りたいのである。


「へえ~、いろんな宝石で装備を強化できるようになるみたいだ。新装備もいくつかある」


「それって、やばくない?」


「何がやばいんだ?」


「みっちゃん、考えたらわかると思うけど換金用アイテムを手に入れたらどうする?」


「そりゃあ、店に行って売るだろ。持っていてもしょうがな……あっ」


「手持ちに換金用アイテムの宝石を持っている人ほぼいないよね」


「コレクターなら別やけどな」


「後はウチみたいに売るのもめんどくさがりなタイプもや」


「それは売れや。いや、売らんかったから助かっとるけど」


 なるほどとミクが納得しかけたところにフリードが手を上げて反論する。


「確か、今までも宝石を使ったレシピはあったと思うが……」


「今までは実用性乏しい見せかけの装備だが、コレなんて火属性の攻撃が付与できるレシピだ。他にも、新属性の極光と深淵もある」


「新属性を習得しているプレイヤーは少ない。独占すればギルドの利にはなるか。イベントの発生条件は――」


「①全プレイヤー敵対イベントのクリア又はAランクの到達、②アーリアで依頼を受けられるようにする、③大罪の悪魔の全討伐は必須やろうな。③のおかげでリリスが興味もったみたいやろうし」


「……こう列挙すると、情報提供しても手に入れられる人はごく少数だろうね。①のAランクの達成は増え始めているから問題ないにしても③、特に暴食の足きり性能が高い」


「ギャ〇曽根連れて来い案件とは聞いたで(見るだけで胸やけしたからやってない)」


「ウチも試したけど、しばらくラーメンは見たくもないわ(クリアしたけど二度とやりたくない)」


「俺も一生分の甘味を味わった(クリアしたとは言っていない)」


 ギルドメンバーの悪戦苦闘に未だラースの情報が攻略サイトに上がらないのも納得するミク。当面の間はリン専用レシピになりそうだと思っていると、レシピを眺めていたリンが声をかけてくる。


「何か用?」


「お前が手に入れたそのルビーを使ったレシピがあるんだが、王家の剣も使うみたいなんだ。名称も効果も不明だけど強くなるだろうし、良いだろ」


「……いや、駄目だろ。これは返す」


「駄目か?」


「借りものだからな。王様の許可が下りないと……」


「じゃあ、アタシから交渉すれば良いってわけだ」


「それなら……宝石なんて持っていても仕方ないし」


「決まりだ。早く城へ戻ろうぜ」


 リンに手を引っ張られながら、ミクたちは王城へと戻っていく。そしてえ、リリスに勝ったこと、そしてネロとの戦いがあることを王様に伝える。


「ネロ、暴君と言わしめ、人間界までその悪名を轟かせた彼と戦う羽目になるとは……」


(暴君ネロ、名前だけ聞いたことあるな。昔のローマの人だったはず)


 おそらくモチーフにしているのだろうと思いながら、王様の話を聞く。弱者のことを考えず、敗者は切り捨て、強き者が統治すれば良いという思想のもと魔界の一部を牛耳ていたらしい。この時代の彼の行動が今の人間界における『魔王』のイメージになったそうだ。だが、前魔王に敗れたことでその下に付き、前魔王の失踪後はその地位を引き継いだ今の魔王であるラースに不満を抱いているそうだ。


「ネロを倒した前魔王ってどういう人物なんだ?」


「私の父から聞いた話によれば威厳のある方と聞いたが、その姿、その名に関する資料は一切残っていない。一説によれば下手な資料を残すことで、呪いなどによる暗殺を畏れたとか」


「王様ってそういうの多そう……」


「私も狙われましたからな。とそれはさておき、その当時の魔界は荒れていたこともあり、前魔王が失踪したとしても、それが暗殺の結果なのかそれとも自らの意思によるものかは今となっても分からぬ」


「そして空白の座をラースが引き継いだってわけか」


「うむ。ネロはリリスと比べるまでもなく強敵。ミク殿には引き続き、王家に伝わりしその剣を預ける」


「その剣なんだけど……」


「使いに勝ったのであれば、別の武器に変え――」


「その王家の剣を改造したいです」


「なんとぉ!?」


 後ろにいたリンが大きく手を上げて進言する。目をキラキラと輝かせて嘘・偽りのない表情を浮かべている。冗談で言ったわけではないことを知った王様はリンに話しかけることにした。


「ミク殿のお仲間とはいえ、さすがに王家に伝わる武器をやすやすと手放すわけには……」


「Aランクになったらどのみち渡すつもりだったんだろ。だったら、今、渡してもちょい早くなっただけだ」


「であれば、ミク殿がAランクになるのを待てばよろしいのでは?」


「でも、ネロって強いんだろ。王家の剣を鍛えたほうが良いと思うんだけどな」


「う~む、それは確かに……」


「鍛えてなくて負けた。王様のせいだなんてなったら、騎士たちはどうなるか」


「……では、こうしよう。王家の剣を鍛えても構わん。ネロに勝てば譲ることも約束しよう。だが、もし万が一負ければ、それ相応のペナルティを負ってもらう。それで構わんな」


 王様がリンを威圧するような目つきで見る。少したじろぎながら、小さな声でミクに大丈夫だよなと話しかけるほどだ。


「良いぜ、それで。負けるつもりはねえから」


「よろしい。それではそ王家の剣の鍛造を許す」


 王様の許可が下り、ミクたちは一度ギルドへと戻る。ギルマスたちに受けてきたクエストの顛末を話している間、リンがさっそく鍛造を始めるのであった。

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