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第115話 vsリリス

 満天の星空の下、周りに何もない砂漠でリリスとミクが対峙する。その一方で、カエデたちは別パーティーを組み、二人の邪魔にならないように遠くから眺めていた。


「一人……じゃないわね」


「あいつらは手出ししない。ギャラリーが居ても別に良いだろ」


「……まあ、確かに。貴女が負けたという証人にはなるわね」


「俺が勝ったっていう証人になるかもよ」


「それはないわ。さあ、始めましょう。大罪の悪魔、そのすべてを倒した実力。私が確かめてあげるわ」


 リリスが片手を付き出した瞬間、空中に複数の魔法陣が描かれ、その中から、口紅やコンパクト、手鏡といった化粧品が出てきて宙にぷかぷかと浮かぶ。


「まずはこれくらいで良いかしら、リップミサイル」


「打ち落としてやる。ブラッディレイン」


 血の雨に撃たれた口紅が爆発し、その爆煙でミクの姿を覆いつくす。その爆煙を隠れ蓑にし、コンパクトがミクの後ろに回り込んで、ぱかりと開いた瞬間、ビームが放たれ、ミクを狙い撃つ。


「当たるかよ、【加速】」


 屈みながら地を蹴り、交差するビームを躱し、リリスとの距離を一気に詰めようとする。だが、リリスもそれを読めていないわけではない。宙に浮いてある化粧台が巨大化し、リリスと見くとの間に壁となって立ちふさがる。さらに化粧台の中からハサミやマスカラが飛び出し、ミクを迎撃しようとしかけてくる。


「今度は逃げられないわよ」


「だったら【霧化】」


 自身を霧状にし、弾丸のように迫ってくるハサミたちを受け流しつつ、霧状になったミクが化粧台の先へと移動していく。こうなれば、周りのものを引き寄せている暇はない。今が最大の好機。そう思ったミクがリリスに向かって剣を振りかざすと、リリスが両手でその剣の腹をつかむ。


「真剣白刃取り!?」


「私の顔に傷つけようとするなんていけない子よね……!」


 ピタリと動かない剣を支点にリリスの頭部を飛び越えつつ、ブラッディアローを放ち、直撃させる。そして、背後に回ったミクはブラッディウェポンで作った剣で彼女の背中に切りかかる。


「かってえ……」


 柔らかそうな肌とは裏腹に鋼鉄でも斬っているかのような感触。先ほどの白刃取りと言い、何らかの肉体強化魔法を使っているのは明白だ。となれば、接近戦で戦うのはむしろ分が悪いまである。


(近づけば高いフィジカル、遠くにいたら弾幕攻撃と化粧台という盾……どっちの方が楽かと言われると)


 防御力の低いミクにとってすべての攻撃を躱し続ける必要があり、リリスの弾幕を一時的にはしのげたとしても何度も凌ぐのは不可能。しかも、こちらには化粧台を貫通できるような攻撃は限られてくる。となれば選べる選択肢は一つしかない。接近戦だ。


「覚悟を決めた眼をしているじゃない。いいわ、その眼!ダークネスクロー」


(1発1発が重い……!)


 あの細身の腕のどこにその力が隠されているのか聞きたくなるほどだ。数回受け止めるだけで刀身にひびが入る。ブラッディウェポンで作った剣だから替えが効くとはいえ、【鮮血の世界】を使わない限り、連打することはできない。


(防御は下がちまうけど、使わざる得ないか――!)


「その様子だとまだ奥の手が残されているようね」


「さてな。案外いっぱいいっぱいかもしれねえぞ」


「冗談。この程度で負けるようなら滞在の悪魔に勝つことなんて不可能よ。奥の手をだしやすくしてあげようかしら。リップミサイル」


(接近戦中にもあの誘導ミサイル、使えるのかよ。だったら、下手に防御下げられねえぞ)


 こうなると接近戦はリスクがでかすぎると、ひび割れた剣を放棄し、サブウェポンの杖で魔力弾で目くらまししつつ【超加速】で距離をとっていく。再び、最初の状態に戻ったわけだが、あれだけのスキルの使用とリスクを背負っても1割もダメージは入っていない。


(なかなかにキツイな……接近戦をもう一度仕掛けようにも、加速系のスキルはクールダウン中。となれば、大罪の悪魔系列とかの一部のスキルは使えなくなるけど……)


「あら、もうお終いかしら?」


「慌てんなって。とっておき、みせてやるよ。【絶対氷血】」


 ドレス姿に変わったミクが空中へと飛び、それを口紅が追いかける。十分に引き付けたところで氷の散弾でまとめて撃ち落としていく。


「もう少し本気を出してあげるわ。マニキュアガトリング」


「まだ物量増やせるのかよ……だったらこれしかねえ。アブソリュート・ゼロ!」


 飛来してくる口紅もマニキュアも凍り付かせて粉々になるほどの吹雪。それを見たリリスが化粧台の陰に隠れるも、その化粧台すらも粉みじんに凍てつかせて、リリスのHPと防御力を削る。


「アイスコフィン」


「脚が……!」


「もう逃げ場はねえぞ、フロストタワー!」


 リリスの頭上に振ってくる3mほどはあろう氷塊。デバフをかけ、逃げられなくした上でのミクの渾身の一撃。一気にHPを削る算段であったが、リリスがまだ自由に動かせる腕を伸ばし、その氷塊をキャッチする。


「マ、ジ……!? 」


「これは私からのプレゼントよ!」


「クーリングオフは受け付けてねえぞ、閃光弾&【PRIDE】!」


「(光源を作り【PRIDE】で氷塊をつかんでキャッチボール算段ね) いいわ、あなたの閃光弾が尽きるまで根競べしましょう」


 氷塊を這っていく【PRIDE】の黒い影。それが纏わりつき、リリスの予測通り氷塊をつかむのかと思われていた。だが、その意に反して、その影はさらに伸びていく。


「氷塊が目的じゃない……!?」


 ならば何をつかむ気なのかと影の動きの先を見る。伸ばした影がつかんだのは投げ捨てたミクの王家の剣。こんな変則的な接近戦もあるのかと感心しながらも、振るわれた剣を再度つかみ取る。


「こんな勢いもない剣で私を切れるなんて甘く考えないで」


「考えてねえよ」


「いつの間に……」


 影に気を捕らわれていたリリスはミクが氷塊の影に隠れて背後に回り込まれたことに気づかなかった。完全に不意を突かれた状態だ。


「ゼロ距離からの砲撃を喰らえ!オーロラビーム!」


 リリスへのバックアタックに成功し、ようやく大ダメージを与えることに成功する。この機を逃すまいとミクは王家の剣を回収しつつ変身を解除し、すぐさま【鮮血の世界】を発動する。


「一気に畳みかける!ブラッディウェポン、ハンマー!」


 硬いなら一気に打ち砕くと大槌でリリスをタコ殴りにする。反抗しようにも下半身の動きが封じられている今、彼女にできることといえば、口紅やマニキュアの弾幕を張ることくらいだ。


「その手の攻撃は見飽きたぜ、ブラッディレイン!」


 だが、その攻撃は【鮮血の世界】で強化された血の雨にあっけなく洗い流される。アイスコフィンの拘束時間が切れるギリギリまで殴り続けたミクは再度距離をとる。この猛攻でリリスのHPは半分を切り、攻撃パターンが変わる可能性があるからだ。


「フフフ、ハハハハハ、まさか、この私をここまで追い詰めるなんて思わなかったわ」


(やっぱ何かあるか――)


「貴女なら久しぶりにこの拘束具を脱いでもよさそうね」


「拘束具? その水着みたいのがか?」


「見せてあげるわ、私の本当の姿を――」


 黒い水着のような服が消えていくと同時に抑えられていた手足の筋肉が膨張し、たわわな胸は見事な大胸筋へと変貌し、顔も人からゴリラへと変貌していく。変身が終わるとそこには2、3mはありそうな巨大なムキムキなゴリラがドラミングしていた。


「は、ひ?」


「モハヤ小細工ハ不要。イクゾ!」


「こんなの想定してねえぞ!」


「マッハパンチ」


 リリスの姿が消えたと思うほどの速度でミクを地面にたたきつける。当然、ミクのHPは1発で全損。【自己再生】が無ければ即ゲームオーバーであった。


「フットスタンプ!」


「ブラッディボディ!」


 自身を液状にしてリリスの物理攻撃を受け流しながら、一旦距離をとる。先ほどまでとはまるで対照的な姿に戸惑いながらも、何をしでかしてくるのか見極めようとした。


「テレポート」


「瞬間移動も使ってくるのかよ!」


 先ほどの意趣返しなのか背後に回り込んだリリスに向かって大槌を振り回すも、たった1回の拳を受け止めただけで破損する。


(ここから先は武器は使い捨てってわけか。それにしてもあの巨体で瞬間移動まで使ってくるのはきついぜ)


 せめてもの救いは悪魔嬢状態とは打って変わって、口紅などを出す素振りは見せて来ないことから、あの姿では使えないのかもしれない。ひとまずはブラッディウェポンでハンマーを作り出しながら考える。


(マッハパンチと瞬間移動の攻略……これをノーミスでしないといけないのが辛いところだな)


「サアサア、ワタシヲ楽シマセテヨ」


「まずは弱点を探し出す。【機械兵召喚】」


「ソンナ絡繰リ如キニ隠レタ所デ!」


 フライヤーの銃弾に撃たれながらも、何事もなく前進してくるリリス。実際ダメージはほぼ無いに等しい。フライヤーを片手で握りつぶし、爆炎に紛れたミクをつかもうとしたとき、その姿が露となって消え、空を切る。


「分身……!?」


「喰らいやがれ!」


 ミクはただフライヤーの影に隠れたわけではない。【幻影の血】を発動させる瞬間を見せないためだ。そして、先に動かした分身にリリスの目を引き付けたところで【加速】で彼女の背後を取り、バックアタックを決めた。その結果、リリスに大ダメージを与えるも、ミクはそれに違和感を覚える。


(変身前よりもダメージが大きい?)


 もちろん、ダメージにはブレがある。とりわけハンマー系列はブレは大きめに設定されていることが多い。ブラッディウェポンで作った武器も例外ではない。だが、防御デバフはすでに消えている状態でのダメージが、デバフがある状態と比べて大きくなるということはあるのだろうか。


(変身前よりも防御が下がっている? いや、それだとフライヤーの攻撃が通用しなかった理由にはならない。この矛盾する防御力。その答えがこの戦いを突破するカギになるはず)


 一撃を入れたとはいえ、リリスの得意とする接近戦は加速系スキルが再度使えるまでしばらく控えたほうが良いと判断し、距離をとる。そして、この戦いに終止符を打つべくリリスは溜めを作る。


(あの構え、マッハパンチが来る……!)


「コノ一撃ハ絶対ニ躱セナイ」


 絶対必中の攻撃。先ほど使った【ブラッディボディ】はもちろん、【霧化】のクールタイムはあと5,6秒かかる。間に合わない。


(一か八かやってみるか……カウンター!)


 ミクは手にしたハンマーをバットでも持っているかのように掲げ、右足を上げる。それは数多くの野球のレジェンドがやってきた1本足打法。ミクの目にはリリスという球しか見えていない。

 その変わった構えを見てリリスは嘲るような笑みを漏らしながら消える。そして、ミクがハンマーを振るうとリリスの腹部にクリーンヒットする。


「グフッ……!?」


「わりいな。さすがに2打席連続三振は勘弁だ」


 強烈なカウンターが決まり、よろけるリリスに再度殴る。よろけ状態がそろそろ無くなる頃合いを見計らって再度距離をとる。


「ナラバ、テレポート」


「そう来るのは読めているぜ、【霧化】」


 霧状態になってリリスの一撃を躱しつつ、背後に回り込んで一撃を与える。これで厄介なマッハパンチとテレポートは再度クールダウン状態。そして、テレポートができるころには【ブラッディボディ】が使用できるようになる。


(やっぱりダメージは大きい。召喚系の技が駄目なのか、それとも――)


 ここまで重なれば単なるブレとは考えにくい。防御力の謎を解明すべくヴァンパイアドラゴンを呼び出す。


「これまた大物と戦っているようだな」


「お前ならパワー負けしないだろ」


「さてな。どこまで持つことやら」


 リリスとヴァンパイアドラゴンがぶつかり合い、ガチリと組みあう。単純なパワーはリリスの方が上。ならばと、ヴァンパイアドラゴンが口からブレスを吐くもまるでダメージを与えられていない。


(溜めがほとんどないブレス攻撃とはいえ、通用していない。召喚系の魔法が一切通用しないのか?)


 押されているとはいえ、リリスからしてもヴァンパイアドラゴンを無視してミクを襲うほどの余裕があるわけでもない。少しでもダメージを与えようとブラッディアローやブラッディボールを使いつつ、近づくもそれらのダメージは微々たるものだ。


(遠距離魔法も効かないか。召喚系だけじゃないとなると……)


 防御力の謎が解け始めてきたところで、リリスに向かって一撃を加える。このままではマズイと判断したのか、慌てるかのようにリリスが頭突きをかまし、ヴァンパイアドラゴンをひるませた後、地面にたたきつけて消滅させる。


「タフなトカゲ野郎も一撃かよ。こりゃあウラガルなんてデコピンでも倒れるな」


「チョコマカト逃ゲテ……許サナイワ」


「許さないねえ……まあ確かにそうかもしれないな。ようやくだけど、リリス、お前のその防御力の謎が分かったよ」


「何ヲ言ッテイル?」


「お前、変身したら接近戦でのダメージが増える代わりに遠距離攻撃はダメージが減る、いやほぼ無いに等しいまで減るが正しいか。つまり、お前を倒したかったら接近戦で倒せってことだ」


「ククク……ソレガ分カッタトコロデ何ニナル?」


「弱点が分かれば、こっちもやりようがある。行くぜ、【血限突破】!」


 赤黒く染まったミクがリリスの周りをビュンビュンと高速で回り始め、王家の剣とイモータルブレードの二刀流でその身体を切り刻んでいく。その速度にリリスの通常パンチは通用しない。それならばとリリスは両手を大きく広げ、体を竜巻かのようにぐるぐると回り始める。


「小細工しているじゃねえか」


「勝テバイイノヨ!」


「こういうのは動かない頭を狙えば――」


 リリスの頭上に向かったミクに対し、大きく口を開ける。間違いなくブレス攻撃が来るだろうという攻撃モーション。ミクの今の速度ならば逃げる余裕はある。だが、ここはリスクを取り、イモータルブレードをリリスの口に投げつける。それはさせまいとブレス攻撃をキャンセルし、歯で食い止める。


「投擲だとダメージは無いだろうが、近距離からの爆発はどうだ!イモータルブラスト!」


 剣先でしか爆発しないイモータルブラストがリリスの口内で炸裂する。いかに体が硬い皮膚や筋肉に覆われていても、体内を鍛えることは不可能。ダメージを受けつつ、よろけたリリスに向かって王家の剣による一太刀を浴びさせる。


「グヌオオオオ!!」


「おっ、ハンマーくらいのダメージ出ているじゃねえか。さすが王様の剣だ」


「小癪な。こうなれば、マッハパンチ!」


「悪いが、何度も同じコースに投げられたら、ミスはしねえよ!変化球覚えてから出直してこい!!」


「グワアアアア!」


 カウンターを決められ、地面にたたきつけられたリリスはしばらく動けず、ミクになすがままに切られ続ける。


「コレハ反撃デキマイ。テレポート」


「イモータルウィング!」


ミクの羽が後方に大きく伸びると同時に硬質化し、リリスの体に突き刺さる。背後に回っての攻撃もできず、決め手に欠けたリリスにミクを倒す手段は無く、敗北するのであった。

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