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第113話 闇商人

 魔法陣から飛ばされた先はうす暗い森の中にたたずむ廃村のように朽ち果てた建物が並ぶ村の前。ただ、明かりがぽつぽつとついていることから、人はいるようだ。ミクたちがここがどこかを調べると地上ではなく魔界側にいることが分かった。


「ゲート以外からでも魔界に行けるんだな」


「というよりかは非合法ルートやろ、これ」


「村の中に入ってすぐ戦闘なんてことはないだろうが、気を付けたほうがよさそうかもな」


「早速入ってみよう」


「せやな、外からだけやと分からんし」


「ウチも賛成や」


「アタシも賛成だ」


 全員で村の中へと入ってみると怪しげな露天商がアイテムや装備品が売られている。そのほとんどが序盤で手に入るものや妙に安い回復用アイテムだったりするが、その一方で見慣れないものも存在している。


「ドクロの兜。HP減少する代わりに闇属性の攻撃力特大アップって書いているけど、すげー呪われそう」


「みっちゃんに似合わないよ」


「スキン変更すれば良いだけだろ。実際装備しているの水着とか下着みたいな服だし」


「あれは過激だったね~スキン、解除しちゃう?」


「ぜってー人前でやらないからな。少し高いけど買うか、どうせ当たれば吹き飛ぶ紙装甲だし。でも見た目がな、う~ん……」


「ん? これ課金アイテムの世界樹の雫ちゃうか?」


「ほんまや、ウチ見たことあるで。使うと蘇生できる奴。けど、高いな~」


「やめておけ。ぱっと見、蘇生アイテムみたいだが、末尾に?がついて別アイテムだ。効果が無くてもおかしくはない」


「詐欺やんけ」


「アタシも引っかからないように気を付けないとな」


 露店を物色や聞き込みをしながら、ルビーが売られていないかを調べていく。だが、露天商から買えば話すと言われ、買っても知らないねの一言だ。仲間をかばうために嘘をついているのか、本当に知らないのか、それすらも分からないこの状況。時間とお金ばかりが浪費していく。


「あかん、何もわからへん」


「ミク、財布の方は大丈夫か?」


「これくらいならまだへーき。と言っても、そろそろ尻尾をつかみたいところだぜ」


「だよね。すごい魔力が込められているルビーなんて、すぐにわかりそうなんだけど」


「……今、思いついたんだが、話しても良いか?」


「リン、何か思いついたのか?」


「ああ。もし、そのルビーなんだが、何らかの素材として使われているなんてことはないのか? 加工して売れば付加価値がある分売れる。もしかすると、アタシたちがルビーを取り返しに来たのを見越して、別の品みたいに誤魔化しているのかもしれない」


「ルビーそのもので撃っていない可能性か。それは考えていなかったな」


「クエストもルビーを取り戻せだもんね。別の形に変えられているなんて思いつかないよ」


「でも、リンの姉御。どうやって元の素材を見分けるんだ? 兜の額にルビーが埋め込まれているとかならわかるけど、ぱっと見で分からない可能性があるんだろ」


「アタシの職業を忘れたかい。鍛冶師の鑑定スキルなら、その武器がどうやって作られたか分かる」


「でも、それって一度買う必要あったんとちゃう?」


「ワイ、そう聞いたことあるで」


「まったく。それはサービス当初の話だ。アタッカーってのは生産職のスキルをろくに把握してなくて困る。いいかい、鍛冶師としてのレベルがあがれば見ただけで分かるようになる。もっともレシピが分かっても、素材が無かったら作れないけどね」


「よし、決まりだな。リン、鑑定しながら露店をローラーするぞ」


「あいよ」


 リンが精査しながら、露店を再度巡っていく。中々、目的のものが見つからず、この方法でもダメかと思われた時、ある一店でリンの足が止まる。それはミクがドクロの兜を購入した呪われてそうな悪趣味な装備品を取り扱っている店。その中の一つ、真っ黒な手甲を手に取る。


「おじさん、これが欲しいんだけど」


「それは……非売品だよ」


「非売品? 値札もあるのにかい」


「そうだ。さあ、帰った、帰った」


「じゃあ、一つ言わせてくれ。これ、盗品のサンシャインルビー使っているだろ」


「ギクッ……はは、何のことか分からないな~ヒュ~」


(すげーわかりやすいリアクション)


(口笛下手だし……)


(新喜劇でもここまで露骨なのはせえへんで……)


(バレバレや)


(まあ、クロ確定だろうな)


「ルビーの膨大な魔力に耐え切れずに装甲部が黒くなる。これは着色じゃない失敗作だ。だけど、内部にあるルビーはコイツをこわせば取り出すことが可能。アタシに売らないってことは特定の客に売るつもりだったってところかい?」


「ギクッ、ギクッ……そ、そんなわけ……あまりにもひどい出来なんで、貴方のようなきれいなお方に売るのはまずいなと思って非売品と……」


「ルビーは使っていないんだな?」


「は、はい。もちろんですとも……そんな訳の分からないものを使うわけないでしょ」


「だから買ってやるよ」


「で、ですから……」


「なあ、ミク。さっきの値札の3倍の値段でも買えるよな」


「さ、さんばいいいい!??」


「ごっそり持っていかれるのは嫌だけど、支払えはするよ」


「ってなわけだ。アタシが買えば3倍の大金が手に入る。悪くない条件だろ」


「そ、それは……魅力的で……」


「だけど、残念だ。顧客を大事にする商人の鏡なアンタにこんな汚い金を握らせるような真似、させようとして悪かったな」


「あ、あの~、お客様」


「ん、どうかしたのかい?」


「じ、実はですね。この商品、なぜか急に予約をキャンセルされておりまして、処分に困っていたのですよ。せっかくのオーダーメイド、売らないとこちらが丸損というわけで」


「へえ~、でも先はそんなこと言ってなかったじゃないか」


「ま、まあ、もしかすると来るかなと思っていまして……ですが、来ない客を待つより使ってくれるお客さんに渡したほうが商品も喜ぶというものでさ。決して金目的ではありませんぜ」


「そうかい、それなら買わせてもらうよ」


(買うのは俺だけどな)


 リンの代わりにミクが支払い、リンがその手甲を分解するとルビーがその手に渡る。これで一件落着かと思い、村の外の森の中へと入っていくとガラが悪そうな2人の魔族の青年が後方から現れてガンを飛ばす。


「おうおう、ワレの獲物を横取りした簾中はおめえらか!?」


「どう落とし前付けるつもりじゃあ?」


「横取り? 何を言っているんだい?」


「ワレのルビーことじゃああああ!」


「あれはアタシが買ったんだ。文句は言わせないよ」


「おんどりゃ、ふざけているんか。そのルビーはワレのもんじゃ」


「へえ~、でもこのルビーに名前なんて書かれてないけどね」


「なめとんのか!」


「そいつは魔王軍幹部のリリス様にささげるものだ。痛い目に会いたくなかったら、さっさと寄越しやがれ」


「嫌だと言ったら?」


「「ぶっ殺す!」」


 戦闘が始まるや否や、魔族の青年の一人が下半身が蛇のような化け物に変貌し、もう片割れは一回り大きくなっていく。ドスドスと音を立てて巨人がリンに殴り掛かろうとするも、リンが召喚したスーサイドがガツンとぶつかる。


「パワー比べなら、アタシのスーサイドも負けてないよ」


 ギギギときしみながらもスーサイドが背中のバーニアを一気に噴き出させる。本来は反動の大きいロマン砲を安定して撃つための大型バーニア。それを純粋な推力として使えば、その突撃力は絶大なものになる。少しずつあとずさりしていく巨人を見つつ、ミクたちは機械兵たちを盾にしながら大蛇に向かっていく。


「その程度のゴーレム、どろどろに溶かしてやる。ヴェノムミスト」


 先行していた機械兵が毒の霧に触れると装甲がジュクジュクに解けはじめ、機械兵が大蛇にたどり着く頃にはのろのろと慣性で動いている程度、まともに攻撃を繰り出すことすらできない。ミクたちは機械兵の異変に気付いたから難を逃れたものの、近づけば毒の霧でお陀仏だ。


「あぶねえ、機械兵を壁にしていなかったらアウトだったぞ」


「一撃で倒れないあたり、持続性のある強力な毒攻撃ってところか。そして、こっちには遠距離攻撃が乏しい……カエデ、対応できるか?」


「あの感じ、解毒魔法を使ってもすぐに毒になるかも。となればスタック解除目的でしか使えない。リジェネでやられるまでの時間を稼ぐくらいしか……」


「リジェネの回復量と持続時間、ヒール連打を考慮したとしても5~6分が限度や」


「それまでに毒の霧の中で戦って勝てばええ。カップ麺できる時間あるなら上等や」


「よし、視界不良の中でも戦える俺とトラキチで蛇本体に攻撃するからカエデとみやこは俺たちの支援を頼む。ミクは【絶対氷血】で後方支援をたのむ」


 フリードの言葉に頷き、ミクは青いドレス姿に変身し、毒の霧がかからない上空へと飛翔する。そして、リジェネをかけてもらった二人が毒の霧の中へと突っ込んでいく。紫色の視界の中、大蛇をしっかりと捉える。大蛇のHPが1mmも減っていないことから、自身の毒に対する抗体を持っているのだろう。毒の霧で自滅するとは考えにくい。


「数の利はこちらにある。俺は後ろから回り込む。正面からの陽動やれるな」


「もちろんや」


 フリードが迂回する中、トラキチが大蛇に向かって殴りこもうと走る。トラキチを見つけた大蛇が口を開けて毒液を飛ばし、トラキチが躱す。躱した毒液が地面をジュージューと焼く音が聞こえるあたり火力は相当なものかもしれない。


(当たったらタイムリミットが大きく近づく。思ったより厄介やで)


 つまり、チーター戦と同様にノーダメージ、いや食いしばり系スキルが使えず、時間制限がある以上、それ以上の精神的負荷がかかる中での戦闘。些細なミスが命取りになるこの状況下で震える手を握りしめながら、距離を着実に詰めていく。


「エアハンマー!」


 空気を圧縮して形成した不可視の拳を放つも、毒の霧の影響で軌道が見えてしまい、大蛇がその身をひねるだけで躱されてしまう。


「下手な単発攻撃は通用せえへんか。なら、もっと近づいてボコるだけや。ワイルドスピード」


 野生の力を開放し、脚力を大幅に強化したトラキチが大蛇も反応しきれぬほどの一瞬で近づく。


「メガトンパンチ!」


 巨大化した拳が大蛇の頭部にクリーンヒット!その小さな脳が大きく揺れ、意識が飛ぶ。その隙を逃さんと背後からフリードが強襲する。


「パラライズナイフ」


「しびれとる間にもう一発や。マシンガンパンチ!」


 トラキチがパンチで大蛇を張り付けている間にフリードが上空にいるミクに向けて信号弾を放つ。それを見たミクが光によって照らされた大蛇のシルエットを確認する。


「アイスコフィン」


 大蛇の足元が凍り付き、麻痺が解けてもしばらくは身動きができない。反抗しようと口から毒液を吐いても、トラキチならば攻撃のモーションを見てからでも躱すのは容易。背後にいるフリードには当てることすら不可能。


「あとは二人に任せるとして、問題はリンの姉御だな。こっちもやべえから手伝わないと」


 最初の方こそスーサイドがおしていたものの、無理な使用がたたり、冷却が追い付かず体のあちこちから白煙が吹き出ている。ダイヤモンドダストの冷気で冷やしてはいるものの、焼け石に水といったところだ。


「残したかったけど、仕方ねえ。アブソリュート・ゼロ」


 冷気が巨人に向かって襲い掛かり、その皮膚を凍てつかせて一部はパキパキと剥がれ落ちる。激痛が走っているはずだが、そんなことお構いなしにスーサイドとの力比べ、いや我慢比べを続けている。


「オーロラボレアリス」


 上空にオーロラのカーテンが筒状に広がり、中からオーロラ色のビームが巨人に向かって降り注ぐ。ビームによって皮膚がめくりあがり、筋肉があらわになっていく巨人。


「これで防御力が下がったはずだ。リンの姉御、いけるか」


「おうさ。ちょうど、エンジンも温まってきたところだ。スーサイド、一発ぶちかませ!」


 スーサイドが胸部の高出力砲から渾身の一撃を放ち、巨人を焼き尽くしながらぶっ飛ばす。それと同時にスーサイドが機能停止し、その姿を消す。たった1機で巨人を抑えて、無理させていた分の反動が来たようだ。


「死に打ちはあまりしたくないけど、許せよな」


 ミクがのびている巨人に向かって攻撃を仕掛けて、わずかに残っていたHPを全損させる。それとほぼ同時に、大蛇も倒したらしく戦闘は終了となった。

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