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第104話 渋谷の悪夢

「お、俺様が無名に負けた……? ありえねえ……」


「俺の勝ちだ!約束通り情報を吐いてもらうぜ」


「くっ、こんなのありえねえだろうが!もう一度だ、もう一度やれば俺が……」


「見苦しいぞ」


 地下闘技場のロビーで騒いでいるリョウに異議を唱えたのは黒い羽をもった女性。吸血鬼のような蝙蝠羽ではなく、どちらかといえば天使や鳥類に近く、色も相まって堕天使のよう。そして、彼女の顔はミクもよく知る人であった。


「こ、コクエンさん。いや、だってアイツ、ズルをして……そうじゃなきゃ、俺様が負けるだなんて……」


「ズル? 確かに見慣れないテイムモンスターを使っていたが、それ以外は実力に裏付けされたものにみえたが? 」


「うぐっ……」


「此度の非礼、【漆黒の翼】のギルマスである私からお詫び申し上げよう」


「別に良いって。ハクエ……じゃなかったコクエンさん」


「そう言ってもらえると助かる。ところでだ。何やら賭けをしていたようだが?」


「ナンパされたから、手出しするなっていうのと、少しばかり情報をな」


「情報? リョウ、KEN。何の情報を賭けたんだ?」


「多分、俺たちが独占しているスキルの在り処だとは思います」


「ったく、約束を反故にするわけにはいかない。これから、レアスキルの在り処をおくるから、私とフレンドに――」


「あっ、そうじゃなくて。渋谷の連続行方不明事件について知りたいだけなんだ」


「連続行方不明事件? テレビでやっていたやつか。二人とも、知っていることがあれば包み隠さず話すこと」


「知っていることと言われてもなぁ……」


「じゃあ、噂話みたいなものでもいいよ。何かないの、渋谷で?」


「都市伝説でいいなら……なあ」


「都市伝説? どういうの?」


「午前零時の渋谷に黒いコートの男が現れて、ソイツについていくと楽園に行けるって話だ」


「黒いコートの男と楽園か……ありがとう」


 ゲームからログアウトしたミクは時間が来るまで渋谷の街を適当にぶらつきながら、黒いコートの男についての情報を集めることにした。どうやらこの都市伝説はSNS上で広まっており、10代~20代を中心に信じられている話のようだ。


(それで、渋谷に夜な夜な若者を中心に集まっているってわけね。そりゃあ、傍から見れば立ちんぼしているようにしかみえねえわ)


 事の始まりは分かったところで、メールで龍堂にこれまでのいきさつと帰りが遅くなることを伝えて、その時を待つことにした。




「で、なんで来ているんだよ」


「未成年者が一人でこんなところでぶらついていたら警察に補導されちまうぞ」


「……それもそうだな」


 バイトが終わって合流した龍堂と一緒に車内で街、ようやく12時を指し示そうとしている。そして、時計の針が12時を指示した瞬間、ハチ公の陰からのっそりと黒いコートを着た人物が現れる。


「あれは黒いコートの男!」


「マジか。噂は本当だったのか」


「とっ捕まえようぜ」


「その前に警察に……って圏外!? 渋谷のど真ん中で!?」


 龍堂が携帯の画面を見て驚いている中、ミクが車から飛び出し、ハチ公前にいる女性を連れ出そうとしている黒いコートの男を追う。ハチ公の陰に回り込むと、そこには地下へ続く階段があった。


「隠し階段……ゲームかよ」


「俺から見たらゲームの世界だけどな。とりあえず龍堂はここで待ってくれ」


「いや、俺も行くぞ」


「ゲームの世界なら心強いけど、戦えないし……」


「お前ひとりで被害者全員を避難させるのは無理だろ。戦えなくてもそれくらいはできる」


「……わかった。でも、俺のそばから離れるなよ」


「おうよ」


 二人で隠し階段を下っていくと、シャッターが降りた地下街が広がる。地下街と言っても、多少入り組んでおり、同じ景色が続くことから、コートの男性を見失えば、どこに行けば良いのかわらなくなってしまいそうだ。


「バレてないみたいだな」


「一応、マーキングはしているから帰り道は大丈夫だ」


「サンキュー」


 帰り道の心配をしなくても良いという精神的負担も減り、目の前にいる男から目を離さないようにそっと歩いていく。何かに気づいたのか、ときどき立ち止まり、後ろを振り返ってくるときは嫌な汗が流れる。

 早く終われと思いながら、尾行していると突き当りにある扉を開けて、女性を連れこんでいく。


「ここが目的地なのか?」


「そうだろうな。お前が先に入ってコートの男を引き付けている隙に俺が女性を救出する。それで良いか」


「ああ、良いぜ」


 ミクが扉を開けると、そこにはヘッドギアをかぶせられた男女問わず数十人の人たちが座らせらていた。ヘッドギアからはケーブルが延びており、部屋の中心にある巨大な機械に繋がっている。


「4人どころじゃないぞ!? これは一体……」


「おやおや、招かざるお客さんとは感心しませんねえ」


「誰だ、てめえは」


「これは申し遅れました。ワタクシ、夢魔のナイトメアと申します」


「夢魔?」


「ええ、人に夢を見させてそれを喰らう悪魔と言えばわかりますでしょうか? 今は機械を使っていますが」


「その悪魔がなぜ人をさらうんだ。そもそも、悪魔なら機械なんかに頼るなよ」


「近年、とりわけここ100年で人々は神、悪魔、幽霊……そういった超常的存在への信仰、恐怖というのを失いました。なぜだか、わかりますか?」


「そんなこと言われても……」


「そう、人は科学という力を得た代償に信仰心や恐怖心をそれほどまでに希薄なものとした。ゆえに、恐怖心を糧とする我々、悪魔もその力を失い、ワタクシのような弱小悪魔ではこのような醜い力を借りなければ力を発揮することさえままならない」


(そう考えると、自力で超常現象を引き起こしているヨーコって凄かったんだな)


「ほう、その様子だとワタクシ以外の超常的存在に出会ったようで」


(バレテーラ)


「となれば、貴方から生命エネルギーを奪えば、私も全盛期の力に近づくというもの」


「そうはさせるかよ。ブラッディウェポン、ソード!」


「これは素晴らしい。仮想を現実に変えるほどの力。貴方一人で浮浪者数十人分を優に超えるほどのエネルギーを奪えそうだ。ナイトメアワールド」


 辺り一面の壁や機械が紫色に代わるのと同時に、ナイトメアの黒いコートがめくれ、その下に本来あるべき胴体はなく、ナイトメアの頭部と両手が宙に浮き、右手には鎌が握られている。ナイトメアの目からレーザーが放たれると同時にミクは【挑発】を使いつつ地下街へと戻り、ナイトメアを誘い出す。


「逃がしませんよ」


(壁の色が変わっただけにしかみえないけど、【鮮血の世界】みたいに能力アップみたいな効果があるのか? あの部屋にはナイトメア以外誰もいなさそうだったし、俺がひきつけている間に龍堂があの部屋に入れるはず。あとは時間稼ぎしつつ倒すだけだ)


 被害者を助けるまでの時間稼ぎ。龍堂と鉢合わせないように、逃走ルートとは異なる道へと走り、ナイトメアに向かって剣を投げつける。だが、そんな雑な攻撃ではナイトメアの鎌によってはじき返されてしまい、ダメージを負わせることができない。


「まずは距離をとる。【超加速】……ってあれ?」


 移動速度が上がるはずの【超加速】を使ったにもかかわらず、移動速度が上がらない。音声認識が行かれたのかと思い、ステータス画面経由でのマニュアル操作でスキルを発動しようとしても、うんともすんともしない。まさかと思い、ウラガルを呼び出そうとしても発動しない。


「まさか、スキルが使えないのか!?」


「おやおや、どうかしましたか?」


「てめえ、何をしやがった!」


「はて、なんのことだかさっぱり……そろそろ追いかけっこも飽きてきましたし、終わらせましょうか」


 左手が指パッチンすると、ミクの進行方向に黒い炎の壁が現れる。【灼熱の血】が使えば強引にでも突破できただろうが、今はそれすらもできない。


「こうなったら攻撃するまでだ」


 ナイトメアの振う鎌を避けて、懐に飛び込み、宙に浮いているナイトメアに向けてブラッディアローを放つ。魔法が使えることに安堵しながらも、ナイトメアに与えたダメージを見た瞬間、それは吹き飛ぶ。


「ダメージ0だと!?」


「ふふふ、言い遅れましたがワタクシは無敵なのですよ」


(無敵のボスなんているはずがねえ。何かトリックがあるはず。探すんだ、アイツの弱点を……)


「言っておきますが、この世界のワタクシに弱点は無い」


 ナイトメアが懐に潜り込まれないよう、左手から青い魔導弾を放ち、牽制してくる。逃げ場無し、無敵状態のボスを前にミクは終わりなきマラソンを続けていく。

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