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第101話 マンションにて

 都心から離れた龍堂のマンションに着き、龍堂がごちゃごちゃになっている自分の部屋を片付け始める。本やチラシ、脱ぎっぱなしになっているパジャマが散らばっているものの、足の踏み場がない汚部屋やごみ屋敷というわけでもない。


「俺も手伝うよ」


「すまん。誰かを部屋に呼ぶのは初めてなんだ。その本はそこの本棚に」


 散らばっていた本や漫画を棚に入れていくが、本棚にある本の巻数の順番がめちゃくちゃだったので、ことのついでにそれらも直すことにした。そんなとき、1枚のプリントされた写真がはらりと落ちる。そこに描かれていたのは笑顔を浮かべているゲームのプレイヤーたち。


「ごめん、何かの本に写真が挟まれていたみたいで……」


「あ~、その写真は俺のじゃない。この身体の元の持ち主のやつだ」


「元のっていうと俺たちの世界にいる偽物の方か」


「そうそう。この右端に映っているのが偽物のキャラな」


「見た感じ剣士系っぽいけど、竜人じゃないんだな」


「竜人を引けなかったんだろう。おかげさまで、元々格下の相手でもごり押しできない。キャラをほぼイチから育てるのに苦労したよ。とりあえずその写真は適当な本にでも挟んでおいて」


 近くにあった本に挟み込んで、本棚に戻す。そして、一通り片付けたところで今後どうするかについて話し合うことにするのであった。


「ああは言ったけど、どうやったら元の世界に戻れるんだ?」


「Secret OS、目玉のボスを倒したら元のゲームの世界に戻れたら、今回も同じだとは思うけど……肝心のボスの場所が分からないんだよなぁ。龍堂さん、何か心当たりとか意見ある?」


「……話聞いて思ったんだが、なんでわざわざゲーム内にSecret OSを隠しているんだ? そんな重要なものならオフラインのサーバーに移しておけば、限られた人間しか手出しできない。セキュリティー方面からみても妥当だろうよ」


「そういわれても、黒幕の考えなんてわかんねえし」


「そう、そこが問題なんだ。黒幕から見ても明らかにデメリットしかないゲーム、つまりオンライン上に計画の支障になりかねないウィークポイントを置くなんて普通はありえない。でも、あり得るってことはそうせざるを得ない理由があるはずだ」


「たとえば?」


「これがアニメや漫画なら、セキュリティーの穴をわざと作ったことで制約を付けての能力の強化とか。よくあるだろう、使うごとに寿命を削ったりだとか悪人以外に手出ししたら死ぬような制約。ああいうのと同じで、弱点を不特定多数の人間に目を付けられるところにおかないといけないという制約を誤魔化すためにゲームに落とし込んだとか」


「つまり、このゲームは黒幕の弱点を誤魔化すために作られたってことか。ってことは、黒幕はゲーム会社の、しかもかなり上にいる人間の誰かってことか」


「そういうこと。あくまで漫画みたいな展開だから、そこからの推測。何の根拠もないけど」


「でも、そういう意見は重要だと思うぜ。帰ったら麗華やカーミラに話してみるよ。ところで、その肝心のSecret OSの場所ってわかる?」


「そんな怪しい場所あったら、とっくに調べているって……」


「だよな。テレビとかで怪しい場所コーナーとかやってくれねえかな」


 テレビの電源をつけると、東京の観光スポット紹介を紹介する旅番組をやっていた。芸人がおいしそうにご飯を食べていると、自分たちのお腹が鳴り、お昼からまともにご飯を食べていなかったことを思い出す。


「とりあえず、冷凍チャーハンでも食うか」


「そうしようぜ」


 電子レンジで温めている中、話を続けていく。テレビ番組のチャンネルをカチャカチャと切り替えても、野球だのサッカーだの、政治家の汚職問題だの現実でもありえそうな話しか出てこない。


「変わったニュースとかねえな」


「そうそうあるわけ……」


【続いてのニュースです。本日、上野動物園でキリンの子供を見ようと多くの観光客が――】


 パンダならともかくキリンは珍しいなと思って二人がテレビを見るとそこに映し出されたのは確かに4本足で身体は黄色ではあるが、首は長くなく、うろこがあり、立派なシカのような角が生えている。それはまるで――


「キリンはキリンでも麒麟の方じゃねえか!」


「これ、ぜってー異変だろ!」


「つーか、観光客気づけよ!」


「認識阻害がかかっているのかも」


「ああ、喫茶店で話していた親族と似てなくても違和感を覚えさせないやつか。そういうことができる奴がバックにいるなら納得……なのか?」


「とりあえずそう考えるしかないんじゃね」


「俺は明日、バイトだからいっしょに行けないけど、上野動物園なら駅員に駅を聞けば教えてもらえるだろ。お金は後でやる」


「なんだかひもになった気分」


「どっちかというとパパ活じゃね」


「変わんなくねえ?」


「やっていることは似たようなもんだな。寄生しているっていう意味で」


「うっ……お金は後で返すよ」


「それよりも元の世界に戻るのが先だ。そうしたら、この貸しはチャラだ。つまり、この金はそのための投資ってことで」


「Secret OSを倒せば元の世界に戻れるよ。多分」


「戻ったところで、こっちは元の身体を俺の偽物が使っているから、そっちも解決しないといけないんだけどな」


「そういえば……この場合、どうすればいいんだ?」


「偽物を説得させて、こっちの世界に戻させる。それで俺が元の世界に戻れば無事解決……で良いよな」


「俺に言われても……まあ、理屈はあってそう。でも、どうやって説得させるんだ。俺なんて、一度しかあってねえぞ」


「何を言っても聞く耳は持たないだろうから、負けさせて天狗になっている俺の鼻をへし折るところからだ」


「……俺、RISAに手も足も出なかったんだけど」


「そりゃあ、初めて半年のプレイヤーが廃人に勝てるほど甘くは無いからな。よし、ここにいる間限定で俺が直々にコーチしてやるよ」


「そりゃあ、元No.1に教えてもらえるなら上達も早いんだけど……良いのか?」


「ああ、情けは人のためにならず。巡り巡って自分のためになるだろ」


「……俺が教えてもらった龍堂像と大分違うな。俺のイメージだとPK推進派のヤベー奴って感じ」


「アルゴあたりから聞いたか? 俺がPK推進派なのは技量高めるためなんだけどな」


「どういうことだ?」


「対人戦には興味ないけど、強い奴ってのは少なからずいる。そういう奴と戦いたいから、PKをして本気のそいつらとやりあいたいって思ったわけ」


「バトルジャンキー……」


「まあ、当然だけどギルドの連中には反対されたし、こうなったらPK専門のギルドでも作るかーと思った矢先のコレってわけ。天罰って言われたらそこで終いだけど、誰かの陰謀ならなんで俺を巻き込んだって文句の一つや二つ言いたい」


「そうだよな。俺や龍堂を巻き込む理由なんて無いよな」


「そう、そこなんだよ。俺が分からないのは。だって黒幕からしたら、計画が露見するリスクを背負うだけだぜ。何らかの実験で選びましたならまだわかるけど、その後、何か干渉してくるわけじゃない。これってあきらかにおかしいだろ」


「言われてみると確かに……」


「つまり、これって黒幕も予想できなかった出来事じゃないのか。だから、干渉もしてこない。だって、知らないから」


「じゃあ、世界崩壊を企てる黒幕1、認識阻害をかけれる黒幕2のほかに俺たちの体を入れ替えた黒幕3がいるってことか!」


「しかも黒幕3は黒幕2と違って黒幕1と協力していない。下手すれば敵対しているかも」


「どうしてそんなことが言えるんだ?」


「だって、特定のゲームやっていたら性格が豹変していました。しかも一人だけじゃなく遠く離れた場所に住む面識のないところで二人目も。なんてなったら、間違いなくニュースになる。そうなったらサ終してもおかしくはない。だから、黒幕3はなぜか回りくどい手を使っているけど、黒幕1と敵対関係している可能性があるってわけ」


「なるほど」


「ただこの仮説があっていたとしても、黒幕3の正体がつかめない。だって、もしこれがライバル会社とかなら、正面から殴ればいい話なわけで。被害者を出すような、下手すれば自分の地位を脅かすような真似をするメリットがない」


「逆を言えば、社会的立場の無い人で黒幕1と敵対しているなら黒幕3になりうる?」


「俺みたいなプータローがそんなたいそれたことができるわけ――」


「いや、あり得るぞ」


「ない――ってありうるのかよ!誰だよ、ソイツ!」


「妖狐のヨーコだ」


「妖狐? ゲームの?」


「現実だけど」


「……そっちかよ。そっちかよおおおおお!なんで!? 現実に!妖怪がいるんだよ!」


「ヨーコが言うには他にもいるらしいけど妖怪」


「マジか……俺、妖怪系のフレンドいたけど、そいつらがマジモノの可能性があるってわけ?」


「そうかも」


「マジかよ……」


「妖怪だから社会的立場なんて無いし、あっちもこのゲームのことについて調べている、つまり、敵対している陣営だ。黒幕3の条件に当てはまっているぜ」


「そこまで話しているなら入替のことも話して良そうだけど……」


「あのときは俺らと同じ立場だと思っていて、黒幕3なんて思ってもいなかったからな。今度、も……俺の彼女と一緒にヨーコのいる場所に行くから、そこで話し出来たら問い詰めるよ」


「そりゃあいい……って彼女いるのか!」


「いるよ」


「マジか……俺と同じ持てないタイプかと……いつ、付き合ったんだ?」


「夏休みから」


「……モテるなら、今すぐ俺も女にしてください」


 かなり切実な願いと共に電子レンジの温めが終わり、二人はもぐもぐとチャーハンを食べるのであった。



 ミクがお風呂から出てパジャマの代わりに龍堂の服に着替えると、龍堂がVR用のヘッドギアを2つ用意していた。片方は新機種が出たことで使わなくなったものらしい。


「ってか、俺が使っていたやつだし……」


「だったらちょうどいいな。ダウンロード版のデータも入れておいたから、これでゲームやれるぞ」


「ゲームの中で同じゲームやるってどうよ」


「ここにいる間だけだし、細かいことは気にするなって。さすがにデータ引き継ぎはできないと思うから人間で始めてくれ」


「もしできたら?」


「そのときはもちろん、引継ぎで」


 というわけで、龍堂から受け取ったヘッドギアを被ってゲームをスタートすると、自分のゲームデータがなぜかあり、それを使ってログインする。はじまりの街で待ち合わせた龍堂と合流し、龍堂のギルドに案内される。


「今はギルドメンバーはいないから、貸し切り状態だ。ってなわけで模擬戦な」


 さっそく模擬戦を始めるが、龍堂のレベルはまだ二桁で種族は器用貧乏な人間。種族間の差が大きいこのゲームではその差はレベル以上に大きい。とはいえ、相手はNo.1プレイヤー。何を仕掛けてくるか分からない。ならば、先手必勝だと剣を振ろうとすると、あっさりと払いのけられてしまう。


「なっ……」


「隙だらけだ!」


 素早く叩きこまれた二撃目にミクの身体が吹っ飛ぶ。あくまでも模擬戦ではあるが、これが元の龍堂のキャラなら一撃で葬られたに違いない。


「なんだよ、さっきの」


「これがカウンターな。剣を振り下ろす瞬間だとか、突進が当たる直前だとかどんな攻撃でも隙が用意されている。上位のプレイヤーなら一瞬の隙で勝敗が決まるなんて多々ある。その分、狙って出すのは難しいが、積極的に狙いに行くプレイヤーは多い。知っているところだとダイチあたりか」


「あっ――」


「その調子なら見たことはあるみたいだな。なら話は早い。アイツの勘が良いのもそうだが、タンク職がゆえに攻撃を受ける回数が他の職職よりも多い。つまり、カウンターを狙う回数、コツを学ぶ回数は必然的に多くなる。そして、お前も話を聞く限り、回避盾として戦ったことはある。つまり、意識してなくても、この攻撃ならこのタイミングまでに躱せばいいというのが体で覚えているはずだ。あとはその応用」


「ってことは龍堂が俺に教えるのはカウンター戦術ってこと?」


「それだけじゃない。叩きこむのはカウンターやジャスガを含め、俺たちとまともに戦える土俵で戦えるだけのプレイヤースキル。短期間でできるとしてらそれくらいだ」


「それって簡単に身に着くものなの?」


「身に着かないけど。えっ~と、お前の好きなスポーツは?」


「野球だけど?」


「野球で例えるなら、今のお前は投げられたボールをバットに当てることができる状態。草野球ならそれだけでもいいかもしれないけど、プロならこの場面ならバントやら犠牲フライやら、レフトやライトへの打ち分けだとか、バットの芯を当ててホームランだとか、そういうことを意識してバットを振るう。そういうことを意識して鍛えるかどうか、この差は大きいだろ」


「そういうことか。良いぜ。龍堂の持っているプレイヤースキル、全部吸収してやるぜ!」


「その意気だ!行くぜ!」


 たった二人だけのギルドで戦闘音がこだまするのであった。

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