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第9話 未知のイベント

 古びた外観とは裏腹に、中はきれいな城内。窓は板でふさがれており、日の光は一切入ってこない特殊な空間。頼りになる光源は揺らめくキャンドルの火だけだ。そして、ミクたちを歓迎するかのように外よりもレベルが2~3ほど高い吸血鬼たちが襲い掛かる!


「気をつけろよ。城内は昼でも夜扱いになる特殊なフィールドだ。敵の吸血鬼にバフがついている状態で戦うから、数値以上に手ごわいぞ」


「まずは大雑把に倒す!アックスブーメラン!」


 アルゴが大斧を投げつけると、何体かの吸血鬼が胴体と別れるが、一部の吸血鬼は自身の体を霧上に変える。それを見計らっての魔導士の弱点攻撃。外と同じやりようだが、彼女たちの攻撃では吸血鬼を倒し切れない。霧になった吸血鬼がヘイトをとっているダイチを倒そうと実体化して牙を向けようとした瞬間、頭を打ち抜かれる。


「実体化しているなら当てられる。まずは1アウトだ」


「助かったよ。ミク、君には倒しそこないを倒してくれ」


「リリーフだな、任せとけ」


「いくぞ!」


 5人が吸血鬼の迎撃に勤しんでいる中、これといった有効打がない暗殺者のメイはフロア内に隠されている罠の数々を地道に解除していた。非戦闘時ならば注意深く歩むが、ひとたび戦闘となれば人の意識はモンスターに向けられ足元はおろそかになる。つまり、罠にかかりやすい状態だ。


「メイ、こそこそしないで貴女も戦いなさい!」


「畏まりました」


 主君の命であれば仕方なしと壁に設置されている赤外線センサーを機械人形のスキル【機械操作】を使って無力化だけしておく。効果は一定時間だけだが、この分ならば時間切れになるまでには倒し切れるとの判断だ。


(それにしても、あの吸血鬼の子の攻撃力……少々高い気も)


 夜ということもあって、ステータスが大幅にアップしているミクは調子に乗って魔導士が攻撃していない霧状の吸血鬼にも手を出していた。その結果、始めて間もない初心者が吸血鬼をワンパンしているという奇妙な光景を見ているのだ。それは上級プレイヤーの男二人も同じことが言える。


(あの娘、攻撃極振りか?)


(投げてばかりなのは足の遅さをカバーするためかもな。極振りかそれに近いくらいに攻撃に特化しているか。どちらにしてもまともなステータスバランスじゃなさそうだ)


(独特な戦い方に極端なステータス、あの子が職業で悩むのもわかるな)


 三人が興味津々といった様子でミクの戦い方に注目しながら、目の前の敵を倒していく。そして、吸血鬼の出現が落ち着いたところで、一行はポーション等で自身のHPやMPを回復していく。


「ここに出てくるのって吸血鬼だけなのか?」


「他にもキメラとか、ゴースト系のモンスターも出てくるぞ」


「地下に向かえば空の棺桶が見つかる。そのあと上に行くとカーミラが――」


「くすくす、ごめんなさいねえ。ちょっと面白そうな子が来たからこっちから出向いちゃったわ~」


 6人の前に現れたのは、怪しげな笑みを浮かべる金髪の少女。その幼さを残す顔はミクたちよりも年下に見えるが、ミクと同様の牙と赤い瞳が人ではないことを示している。


「カーミラだと!?」


「おいおい、吸血鬼オンラインになっていたときに吸血鬼プレイヤーと手を組んだことはあるが、こんなイベント起こらなかったぞ!」


(まずっ、ぜってーこれ、俺が原因じゃん!)


「おーほっほっほ、つまり、ワタクシの美しさに魅かれてきたのですわね!」


((((コイツ、馬鹿だ――!))))


「えっ、何言っているのコイツ……大丈夫、言葉ちゃんと変換されてる?」


 カーミラも少し引いているほどの困惑ぶりである。いや、むしろ人間と宇宙人がファーストコンタクトをとったような顔だ。いや、人外である吸血鬼とのコミュニケーションなので間違ってはいないのだが……

 高笑いしているレイカをよそにカーミラはわざとらしく咳払いをして、威厳を取り戻そうとする。


「私が用があるのは、私に断りもなく姫を名乗る――」


「つまり、ワタクシですわ!なにを隠そう、ワタクシは栄光ある鈴星ふがふがふが……」


「はーい、お嬢様。少し静かにしましょうね。話を続けてください」


「……とにかく!私が用あるのはそこのアナタ!」


(あちゃ~、やっぱ俺か……)


 指をさされて指名されたミクは渋々といった様子で前に出る。初めて見るイベントに後ろにいる上級者たちはワクワクした様子で事の成り行きを見ていた。


「その名にふさわしいか、私と勝負しなさい」


「ああ、わかったよ。その勝負、受けて立つぜ!」


「おいおい、それはいくらなんでも無理だ。カーミラのレベルは67。そこに吸血鬼バフがかかるから、レベル70後半でも倒される相手だぞ。少しレベルが上がったとはいえ、レベル57の君では――」


「「外野は引っ込んでろ!」」


 すごい剣幕で睨まれたダイチはたじたじといった様子で後ろに引き下がる。突然始まったタイマンイベント、彼女たち以外には戦う資格はないのだ。


「まずはこれでどうだ!シャドーボール!」


「あら可愛い攻撃ね」


 カーミラがミクが投げたボールをわざとらしく手で受けるカーミラ。確かにダメージ自体は与えられているが、本来は6人で戦うボス。HPもそれ相応にあり、ミクの攻撃だけではHPはほとんど減っていないように見える。


「さてと、こちらの攻撃ね。ニードルレイン」


 宙に浮いた無数の血の槍がミクに向かって襲い掛かるのを、本人の持ち前の運動能力、鍛えておいた【見切り】によるサポートを駆使して、かわしていく。その様子をみたカーミラが少し驚嘆したような顔を見せる。


「今度は俺の番だ、【加速】!」


「!?」


「ダークスラッシュ!」


 急接近してきたミクがカーミラに切りかかり、一太刀を浴びさせる。さらにブラッディネイルと畳みかけていく。


「魔法を唱える暇を与えないくらいに攻撃を仕掛ければ!」


「どうにかなると思った?」


「【霧化】!? ってことはマズイ!」


 霧状態になった吸血鬼にダメージを与えられるのは弱点攻撃のみ。闇属性しかもっていないミクでは無敵だ。どこから来ても対処できるようにあたりを見渡して、霧の行き先を見逃さないようにする。


「くすくす、捕まえた」


「いつの間に!?」


「アナタにばれないように少しずつ背後に送り込んでいたのよ。おかげで私はすごく乾いているわ!」


「ぐっ……吸血か!四の五の言ってられねえ!隷属:サイクロプス!踏みつぶせ!」


 頭上から降り注いだサイクロプスにとっさに離れるカーミラ。自身の分身である霧を回収してHPを回復する。後ろへの攻撃ができないミクにとって絶体絶命の窮地を脱したことに、カーミラはぱちぱちと手を叩いて称賛する。


「ブラボー。まさか、こんなに強いとは思わなかったわ」


「ここからは手加減無しだ!隷属:人食い植物、カーミラを捕まえろ」


 カーミラが向かってくるツタをするどい爪でやすやすと切り裂く。だが、攻撃すればその分だけ、注意はそちらに向き、ミクのマークも薄くなる。早い足を生かして背後に回ったミクはカーミラに牙を向ける。


「吸血返しだ!ブラッディファング!」


「ぐっ……放しなさいよ。この!」


(サイクロプス、人食い植物、奴を取り押さえろ!)


 噛みついているので心の中で命令したが、それでもサイクロプスたちには意味が通じたらしく、カーミラの両手を、人食い植物がぬめぬめしたツタで下半身を縛り上げる。はたから見れば薄い本のような展開に目を向けられない男性陣はそっと目をそらす。


「(さっき霧になったばかりだから霧になれない)放しなさいよ!」


(やだね、このまま吸いつくしてやる)


「やだ。こんな格下に負けるなんて!」


(コイツ、俺の脳内に直接……ファ〇キチください)


「何言っているの、馬鹿じゃない!こんなバカに負けるなんてヤダー!!」


(バカって言ったやつが馬鹿なんだよ!)


 チューチューと吸っていき、HPがじわりじわりと減っていく。このままいけば倒し切れると思った時、あきらめかけていたカーミラの瞳に光が戻り、自身の体を霧状態にしてその場から離脱する。


「ちっ、また背後を狙うつもりか。だが、こっちにはサイクロプスがいる。俺の背中を守れ!」


「もう小細工はしないわ。限界開放、【アンリミテッドブラッド】」


「カーミラが赤黒く!?」


「何だあれは!? ここには何回も通っているが、あんな姿見たことないぞ!!」


「これで終わらせるわ。ブラッディスパイラル!」


 全身に血の渦を纏わせ突撃してくるカーミラに人食い植物がツタで捕まえようとするも、周りの血が高速回転するファンの役割を果たしてずたずたにする。サイクロプスが来ても素手では止めることができないだろうと思い、剣をバットのように振う。カーミラにジャストミートしたそれは脳天をカチ割ると思われた。


「な、に……」


 剣が粉々に砕かれ、後ろにいたサイクロプスの足ごと打ち抜かれるが、【自己再生】の効果により、自身は五体満足な状態で復活する。装備した剣が壊れてもバトル後には元の状態には戻るが、それまでは一部の例外を除き元に戻せない。つまり、メインウェポンを失ったも同然だ。


(杖はあるがどうする……これで殴りつけても意味はねえ。それ以外に使えるものは他にないか? 今まで得た情報を思い出せ!)


「これで邪魔は居なくなった。奇跡は二度と起こらないわ。たった一人でこの状態まで追い込んだのよ。反抗できないようにいたぶって戦意を奪って、それから私の拷問()を受けるの。こんなにかわいい子をかわいがるなんて何千年ぶりかしら。そして最後まで搾り取った血を得ることで私は吸血姫になるわ!」


「だが、俺の戦意はなくなっちゃあいない。まだゲームセットじゃねえからよ」


「じゃあ、今度は手足をはぎ取って倒してあげる。どちらの腕を失うか選びなさい!」


「俺の選ぶ道は決まっている、上だ。【飛行】!」


 空を飛んでカーミラの攻撃を躱す。だが、それではカーミラが飛んで追いかけるのではとギャラリーが思うが、それをしようとせず、ぐぬぬと悔しがる顔をする。


「やはりな。吸血鬼の覚える【飛行】はレベル100。もし、これがモンスター側にも適用されているなら、カーミラ、お前、飛べないだろう」


「ぐっ……」


「その様子だと一か八かのギャンブルに勝てたみたいだ」


「だけど、この血のバリアがある限り、私は無敵!誰もダメージを与えることができないわ!」


「確かに今の俺に有効打はない。たとえボールを投げても届かないだろうからな」


「だったら、ただの時間つぶしでしかないわ」


「だが、俺以外ならどうかな!」


 カーミラの足元から人食い植物のツタが伸びてきて、カーミラを縛り上げる。カーミラの視線を上空にいる自身に引き付けているうちに、心の中で地中にツタを這わせておいたのだ。


「走れるってことは足元にバリアはねえってことだ」


「でも、有効打がなければ、そのうち霧になって」


「その前に魅了になってもらう。【魅惑の魔眼】!」


「その程度の魔眼で……」


「だが、霧になるよりも魔眼が再使用できる方が早い……もう一度だ、【魅惑の魔眼】!」


(なんなの、この胸の高鳴り……まさか、魅惑されちゃった!?)


「どうした顔が赤いぜ」


「ぐっ……【霧化】」


 霧になってミクの背後に回り込む。霧状態になったことで血のバリアは消失しているが、背後からの吸血さえ決まれば勝負はつくのだ。


「勝負を急いだな、野球は一人で勝負するもんじゃねえ!!」


 足を失いながらも、反撃の機会をうかがっていたサイクロプスがカーミラに渾身の一撃を叩きこみ、カーミラは敗北するのであった。



ミクはレベル60にアップしました

固有スキル【霧化】を覚えました

【吸血鬼Lv4】にアップしました

【吸血姫Lv4】にアップしました

【真祖Lv3】にアップしました

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