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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
8章 彼とリンカとユニコ君

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第99話 みんな、わたしのお願いを聞いて!

『ふむ。本当に大丈夫なんだな?』

「うん……不本意だけど。ケン兄も隣にいるし」

『そうか』

「変に電話をしてごめんなさい」

『そんな事はない。何かあればいつでも連絡しなさい』

「うん。ありがと、パパ」


 オレはヒカリちゃんを何とかなだめ、通報が誤報で済んだ様子に胸を撫で下ろす。


「哲章さんは何て?」

「何かあったら連絡しなさいって」

「調子に乗ってすみませんでしたぁ!」


 テツはずっと土下座していた。強者の風格は消し飛び、一般人としての誠意を見せている。


「もう、いいですよ。それよりも、スマホかボイスレコーダーとか持ってますか?」


 ヒカリちゃんの言葉にテツは顔を上げず、胸ポケットからボイスレコーダーを取り出すと貢ぎ物の様に差し出す。なんでそんなモン、常備してんだ?


「自己防衛のためです」

「自覚してんのかい」


 自分の風貌が原因で色々とトラブルにあったらしい。それでも、あの装いを貫くとは……オレには絶対に真似できないだろう。


 ヒカリちゃんはボイスレコーダーを受け取ると、一度声を整えてから、


「テツさん。わたしの友達を捜してください」


 と、レコーダーに自分の声を録音した。


「おお……」


 感動するテツ。オレはリンカの事を大切に思っているヒカリちゃんの行動を嬉しく思った。


「……これでいい?」

「“みんな……わたしのお願いを聞いて!” もお願いします」


 欲を出しやがるテツの野郎。ヒカリちゃんの返答は――


「……みんな、わたしのお願いを聞いて! はい」

「確かに……受け取った!」


 レコーダーをオレ経由でテツへ返す。受け取りながらテツはのそりと立ち上がった。

 ヒカリちゃんは額を押さえて、わたし何やってんだろ……とため息を吐く。


「すぐに調べよう! ターゲットの写真などは?」

「あ、これ」


 オレはスマホを取り出しリンカが部屋でジャックと猫じゃらしで遊んでいる写真を見せた。


「無防備なB! ……ソナタの嫁か?」

「違う。彼女の友達」


 Bってなんだ?


「ふむぅ……つまりこの子もJK――」

「ジロジロ見てないでさっさと捜しなさい」


 ヒカリちゃんの言葉にテツは、せっせと行動に移る。

 報酬を払った以上、こっちが上手に出れるからなぁ。テツは地べたに座り、背中のリュックを降ろすとその中から小さなPCを取り出した。


「写真を借りてもよろしいか?」

「いいよ」


 テツは先ほど見せた写真をコピーすると、スマホを返してくる。そして、自分のスマホからイヤホンマイクを繋ぐと、どこかとやり取りを始めた。

 かなり本格的。期待できそうだ。


「さっきの写真ってケン兄の部屋?」

「ん? そうだよ。今大家さんが旅行中でさ。ジャック知ってるでしょ? アイツ、オレの部屋で寝泊まりしてんの」


 キスをする前の話。夏休みにリンカとゲームしているとジャックは彼女の膝に座ろうとしてゲームを妨害してくるのだ。その時は1000円の猫じゃらしと缶詰で接待して眠りにつかせる。写真はその猫じゃらしのシーン。


「リンはよくケン兄の部屋に行くんだ」

「言っても隣だし。映画とか借りてきたら誘って一緒に観るかな。今度ヒカリちゃんも一緒に観る?」

「え? いいの?」

「全然いいよ。観たい映画とかある?」

「うーん……ちょっと思いつかないから、ケン兄のお薦めでいいよ」

「お二方、見つけたぞ」


 すると、テツが結果を報告してくる。意外と早かった。


「学生服故に少し難航したが、ターゲットは捉えた。行こう。案内する」


 テツは立ち上がると歩き出す。オレらはその後に続いた。

 昼が長いとは言え、陽は地平線に半分沈んでいる。ユニコ君の姿も見えないので商店街は本格的に夜経営に切り替わって行くのだろう。






「……多分、つけてるわね」


 あたしは、屋上の扉を開ける前にかかってきた来たヒカリとの通話を終えるとスマホをマナーモードにして仕舞う。


「いいのか?」

「大丈夫です。行きましょう」


 そして、大宮司先輩が屋上の扉を開ける。通り抜ける風と夕焼けに目が少し眩んだ。


「悪いな。こっちの都合で時間を取らせちまってよ」

「いえ……」


 目の前には夕日をバックに、小さなキャンプ用の椅子に座る筋肉質な男の人が居た。首や捲った腕には刺青が見え、明らかにそっち系の人であるとわかる。その身体を預ける小さな椅子はプルプルと震えていた。かわいそう。


「そいつか? お前の女は」


 男の人はあたしに視線を向ける。なんだか品定めされたみたいで気持ち悪い。


「……そうです」

「ははは。なる程なぁ……けどよ、本当にお前の女か?」


 まるで楽しむような口調。あまり話し続けたい相手ではない。


「彼女役でも頼んだんじゃねぇのか? お前って女っ気が無さそうな感じしてるし」

「……信じて貰うしかありません」

「あー、ダメだな。そんな不確定じゃ他に泣いてもらうしかねぇな」

「!」


 先輩が動揺した。何かを盾に取られている様な感じである。


「どうすれば……理解してもらえますか?」

「そうだな。キスの一つでもしてみてくれや」

「ふぉあ?!」


 その言葉にあたしは変な声を上げた。男の人は相変わらずニヤついている。

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