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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
7章 前と同じ関係ではいられない

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第85話 兄妹キッス

「それじゃ、今日は終わりだ! 業務終了! 全員とっとと帰宅しろー」


 3課のオフィスでは課長の獅子堂の声がアラームのように響き渡り、各々が帰り支度を始めていた。


「鳳君」

「なんでしょう?」


 某天元突破ロボアニメのラスボスの様な覇気の無い顔のケンゴは鬼灯に声をかけられる。


「何か悩み事? 今夜ご飯でも食べに行かない?」

「すみません。めちゃくちゃ魅力的なお誘いなんですが……ヨシ君と加賀の先約がありまして」

「そう。七海課長と泉さんも来るんだけどね」


 七海は焚き付けた手前、ケンゴの表情がアンチス○イラルの様になっている事に責任を感じていた。


「先輩の隣は泉に譲ります。七海課長には気を使わせてしまいそうなのでまたの機会に、と」

「伝えておくわ」


 するとオフィスの窓から件の二人が、行くぞ、とジェスチャーしていた。


「お先に失礼します」


 そう行ってケンゴは鞄を持つと二人と合流。鬼灯先輩から誘われてたのか? こっちが先だからお前らに付き合うよ、と本日は男の友情を優先する。






 駅の近くをうろつき、個室の空いてる居酒屋を探して回ること数件。キャッチに捕まり、個室が空いてる事を聞いてからその居酒屋へ行くことにした。

 初めて行く所だが中々に小綺麗で、各々で酒を注文して乾杯する。


「それで、鳳殿はキスをしたのですかな?」

「ぶふぉふ! ゲボッ、ゲホッ!! おーおぇぇっほ!!」


 オレは逆流するレモンハイに喉と鼻を内側からやられた。呼吸困難になるほどの咳に目と鼻が全力で息を吸おうと異物を吐き出す。


「ほら、ティシュ」


 加賀からの援助を貰い、レモンハイの混じった鼻水を鼻孔から出す。

 あまりに異常な咳き込みに店員さんも、大丈夫ですか? と顔を覗かせる始末。ヨシ君もうちょっと段階を踏もうぜ、と言う加賀の言葉にヨシ君は、ここまで動揺するとは、とウーロンハイをぐびっていた。


「キスって? 一体、君たちは何を言ってるのかね?」


 オレは何となく隠しておくべきかと思ってしらばっくれる。


「鳳。信用しろって」

「吾輩たちはプライベートは尊重しますぞ。しかし、ここ二日の鳳殿は少々見ていられませぬ。吐きどころを作らなければと思いましてな」

「……加賀……ヨシ君」


 どこぞの暗黒面共とは大違いだ。オレは良い同僚を持ったとリアルに涙ぐむ。


 ちなみにヨシ君こと吉澤善明(よしざわよしあき)は4課に所属している。研修期間は無く、オレや加賀が他課に振り分けられた頃に鷹さんの推薦で入社したとか。無論、弁護士の資格を持っている。


「それで、何があった? キスしたのか?」

「加賀殿。吾輩と質問の意図が同じですぞ」

「それが本題だろ?」


 こいつら……オレがキスしたと確定してやる。いや、したんだけどさ……でも、なんでバレたんだ?


「カマかけただけだ。誰かから聞いたとかは無いから気にすんな」

「心を読んで来るなよ……」

「鮫島凜香殿ですかな? 相手は――」

「ぶほぉっほ!?」


 オレは再びむせる。こいつらの情報網はどうなってんだ!?


「ソースはお前の反応だ」

「ですぞ」

「…………そんなに顔に出てたか?」

「丸二日、手抜き作画の白黒だったヤツが何言ってやがる」


 と、オレの普段見ない一面を見て楽しむように加賀はソーダハイを飲む。


「……正直、対応に困っててな。どうしたら良いのかわからんのよ」

「状況を詳しく。判定してやるよ」


 男どもだけでリンカの気持ちを推測出来るかは不明だが……情報は全て開示するべきか。


「夏祭りに行ったんだ。一昨日の雨が降ったやつ」

「あれか? ハリウッド俳優が来たやつ?」

「そーそー」

「サインは貰いましたかな?」

「いや、なんかツレにちょっかいかけて来たから」

「……クモ男はお前か」


 鋭いな加賀。あの時はアレがベストだったんだよ。


「映像では中々に佐々木殿もやり手でしたな」

「まぁ、普通に強かったよ」

「あのベイ○ーとトルー○ーは何だ? 大スターのツレか?」

「この世に渦巻く、嫉妬と言う名の怨念の集合体だ」

「それは中々に……危険な相手でしたな」

「ガチで殺しに来てたからな。五体満足で帰ったオレを褒めてくれ」


 映像越しでも、どす黒いオーラでヤツらの姿は歪んでたからなぁ。心霊映像にピックアップされるレベルだよホント。


「あの仮面ラ○ダーは?」

「箕輪さんでは?」

「お、ヨシ君。正解」


 同じ課に所属している事もあり、ヨシ君は顔を隠していても特定の仕草で箕輪さんだとわかったようだ。


「まぁ、人物当てゲームはここまでにして、ほら続きを話せ。大スターと暗黒面からお姫様を救い出してから、それで?」

「一緒に帰って、アパートのとこで猫が原因で彼女が転びそうになってな。助けてあげたらそのまま、キスしてきた」


 そこまで話して、オレは心底自分が嫌になる。


「お前はどう思ってんだ? リンカちゃんのこと」

「どうって……ずっと妹だと思ってたんだけどな。向こうも頼れる兄貴だと思ってるモンだと考えてた」

「まぁ、鳳殿は少々特殊ですからな」


 加賀、ヨシ君、泉の同期三人はオレの事情を知っている。新人だけで行く沖縄旅行で計らずとも発覚してしまった事なのだが。


「……兄妹でもキスくらいするよな?」

「んなわけねぇだろ」

「ですぞ」


 少しは希望のあると思った抜け道を二人は即効で通行止めにする。


「兄妹キッスは再婚相手の連れ子が法律的に行けるパターンですな」

「正直、どうしたら良いのか迷ってる。二人ならわかるだろ?」


 今回の件でリンカがオレにどんな感情を抱いているのかはどことなく察した。

 あのキスは事故ではなく、明らかに好意を持っての行動だと。


「それで、脳をフル回転させた結果がアンチスパイ○ルか」

「まぁ……」


 答えを探す為に少しでも間があれば他の機能を全部最低限にして、脳の回転に回していた。


「ちなみに答えは見つかりましたかな?」

「いや……まだ検索中」

「多分、永遠に見つかんねぇぞ」


 この件に適切な解答は存在しない。加賀の指摘はオレが頭の片隅に追いやった結論を目の前に引っ張り出した。


「ふむ。しかし、良い機会なのでは?」

「何がだい? ヨシ君」

「鳳殿は恐ろしく深い難を心に抱えておられる。今回のキッスはソレを解きほぐす良いキッカケなのでは?」


 そうなのかなぁ。オレとしては自分の事でリンカを利用したくはない。それに……


「……悪い。オレには恐くてできねぇわ」


 もし、それでも何も変わらなかったらリンカを傷つけるだけになってしまう。それだけ絶対にやるべきではない行為だ。


「じゃあ、どうすんだ?」

「一度、話してみる」

「あの事を言うのか?」


 加賀の言葉にオレは目に見えて動揺しただろう。


「それもパス。彼女には嫌われたくない」


“ここを出る? ゲンの阿呆にほだされやがって。いいかマヌケ。良く聞け、お前は――”


「うるせぇ。クソジジィ」


 獅子堂課長に誘われて田舎を出る事を告げた時にジジィから返された言葉が頭の中で再生される。


「聞いたかよ、ヨシ君。フィクサーをジジィだとよ」

「末恐ろしいですな」

「ただの猟銃振り回してる老害だぞ? あんなん」

「この法治国家で銃を撃てるだけでフツーにやべぇよ」

「ですな」

「まぁ……リンカちゃんとは一度向かい合ってみるさ」


 簡単に見つかるような答えじゃないが、こんなオレでも気にかけてくれる親友がいる事は何よりも嬉しかった。

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