表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
6章 彼女のヒーロー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/700

第80話 気持ち悪いモノ

 心踊るシチュエーションだ。

 映画の台本にはないアクシデントの数々はリアルでしか味わえない。

 無論、演技も好きだ。自分のアクションで観客が一喜一憂する様を見るのは何よりも嬉しい。

 だが様々な役をやっていると稀に、台本が無ければ俺はこういう時はどうするのか? と考える事があった。


 まぁ、そんな台本のない台本のような場面に遭遇するなどあり得ない。そう思っていた。先ほどまでは――


「少々横槍が入ったけれど……決めようか。俺と君、どっちが彼女を護るにふさわしいかを!」

「あーもう。いいや、うん。それで」


 やる気のないクモ男君の言葉。なってないな。カメラが回っている、観客も大勢いる、唯一無いのは台本だけ。ならば、勝敗は場数を多く踏んで臨機応変に場面をイメージできる俺の方が有利だろう。

 その時、場が暗闇に包まれた。


「! これは――」


 スポットライトだけではない。会場の全ての光が消えたのだ。明るい所に慣れた眼では咄嗟の暗転は失明と同じレベルで視界を奪われる。


「――」


 観客達の動揺が聞こえる。だが、クモ男君の気配はこちらへ向かってくる。


「なるほど……これは君が作った台本か!」


 ならばこちらも引き出しを出そう。実のところ、一番ハマッた格闘技はムエタイなのだ。全神経を視覚以外に集中する。


「――え?」


 気がつくと曇りがかる夜空を見ていた。高精度の反応で気配を追い、膝を突き出した瞬間である。

 いつの間にか仰向けに倒された……と言うよりは、とん、と静かに座らされた感じだ。


「――何を」


 少しだけ闇に慣れてきた眼が通り抜ける影を見る。ソレの意識はもう俺を見ていなかった。

 何か……気持ち悪いモノに触れた様なそんな感覚が心に残る。


 光が戻り、再度場が照らされると、クモ男君は彼女を抱えて走り去る所であった。






 俺は佐々木君を優しく座らせると、ようやくリンカと合流できた。

 浴衣は走るのに適していないので彼女を抱えてこの場を離脱する。


「急げ」

「了解」


 リンカも理解してるらしく、米俵の様に担がれてくれた。


「逃がす――」

「かよぉぉ!!」


 ミサイルの様にオレに向かって走り出すベ○ダー(佐藤)とト○ーパー(田中)。しかし、箕輪ライダーが二人の肩を掴み引っ張り倒した。


「野暮だぜぇ?」


 か、カッケー! とオレが箕輪さんの様子に感銘しているとリンカが、早く行け! と言葉で鞭打つ。


「助かりました!」


 お礼を言って立ち去る際に箕輪さんは佐藤と田中の前に立ちはだかり、背中越しに軽く手を上げていた。

 オレよりも仮面ラ○ダーやってるよ、あの人。今日も地球は平和だな。






「何とかなったか」


 発電機を停止させ、ステージ会場全体を暗転させたのはキョウコだった。

 注目がカオスな対戦に向いていたからこそ出来た芸当である。

 それに、旦那は人を倒す事に関しては日本でも十指に入る腕前を持っているだろう。


「はは、顔つきが違ったな」


 クモ男と話す彼女はどこか嬉しそうだった。本当によかった。あんな風に笑えるようになって。


「ひと雨来そうだな」


 キョウコはベ○ダーとトルー○ーを正座させて法律を説いている仮面ラ○ダーの元へ歩き出す。

 ハリウッド俳優は……なんか呆けて座ったままだった。






「逃げきったか……」


 オレはリンカを担いで走り、そのまま祭り会場を後にした。暗黒面に落ちた奴らに自宅がバレるとマジでヤバいのでさっさと姿を暗まさなければ。


「もう下ろせ」


 追撃が無い事を確認してリンカをおろす。

 暗転した事で他に見られずに済んで良かった。唯一の懸念は佐々木君だが、何が起こったのか理解出来なかっただろう。


「ごめんね」

「なにが?」

「あのベ○ダーとト○ーパーはオレの知り合いだ」


 遭遇しなければ折角のお祭りを台無しにはしなかっただろう。


「仕方ないだろ。それに、あたしがお面を買うなって言ったんだ」

「いや……まぁ、でもさ……」


 誘ってくれたのに、こんな幕切れになってしまい申し訳がない。するとリンカが手を出す。


「手……もう繋げるだろ?」

「――お安いご用で」


 気を使ってくれるリンカに嬉しさを感じつつ、オレはその手を取る。


「ん?」


 と、したところで手の甲に水滴が落ちてくる。夜空を見上げるといつの間にか月は雲に覆われており、星は隠れて――


「走れ! 走れ!」


 急にバケツをひっくり返した様なスコールが降ってきた。






「うへぇ……結構濡れたなぁ」


 オレとリンカは近くの公園にある小さな屋根付きのベンチに避難していた。

 リンカと手を繋ごうとした矢先の雨。佐藤と田中の怨念が呼び寄せたのかもしれない。奴ら……空から見てるのか?


「……」


 リンカも濡れて通気性の良い浴衣は若干透けている。しかし、薄暗い事もありあまり気にならないだろう。


「スマホは無事……財布も」


 オレたちは濡れるとマズイ貴重品の無事を一通り確認して、雨が過ぎるの待つ。


「そう言えばさ、お盆休み。リンカちゃんはどうだった?」


 雨の音以外の沈黙は少々気まずかったので、それとなく話題を振る。


「霊園に墓参りに行っただけだ」

「霊園……慰霊碑には行った?」

「前を通り過ぎた程度だけどな。変なヤツも居たし」

「変なヤツ?」

「慰霊碑を背にして居眠りしてた」


 ワォ……お墓でも生きてる人間によるトラブルはあるんだ。しかし……あの慰霊碑で……か。


「リンカちゃんはその慰霊碑は何のために作られたか知ってる?」


 オレの質問にリンカは、さぁ? と、どうでも良い様子で返事をする。


「アレはね、世間から消された死を少しでも和らげるために作られたんだ」


 忘れない為なんて高尚なモノではなく、唯一の情けで作る事を許された。


「……なんか知ってるのか? あの慰霊碑のこと」

「『ウォータードロップ号』ってリンカちゃんは知ってる?」


 すると、雨はまた強くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ