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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
6章 彼女のヒーロー

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第76話 ヤッタネ!

「流石に来てないか……」


 佐藤と田中を何とか撒いたオレは人混みに紛れて少しばかり警戒していた。

 真っ直ぐステージ会場に向かってもよかったが、リンカがまだ来てなかった時は待つ必要が出てくるので追いつかれるかもしれないからだ。


「……人間ってのは末恐ろしいぜ」


 何かのゲームで、ゾンビよりも人間の方がずっと恐ろしいって言ってたっけか。


「よぉ~鳳」


 横から名前呼ばれて確認するよりも早く離脱。奴ら……もう追いついて来やがったか!?


「おいおい。俺だよ」


 しかし、ガシッと万力のような握力で足を掴まれた。的確に機動力を奪う動き。一瞬、猛獣に食いつかれるような悪寒が走り、目を向ける。


「み、箕輪さん?」

「せっかちだねぇ。お前も」


 ネチネチした口調の箕輪さんはオレが逃げる気配が無い事を察すると手を離して身体を起こす。

 一瞬で足を掴まれた……この人何かやってるのか? 国尾さんといい鷹さんといい、四課は怪物揃いだなぁ。


「何でこんな所に?」


 箕輪さんの服装は男物の浴衣姿にサンダル。無精髭と気だるそうに肩を揉む様は、偽る事が出来ない彼の特徴だ。


「俺が居たら変かぁ?」

「あ、いえ……すみません」

「けけけ」


 なんかテンション高いなぁ。お祭りは色々な人間を昂らせる。今日は悪い方へ振り切れた奴らがいたが。


「今、ツレを捜しててよぉ。手伝ってくれねぇか?」

「いいですけど……」

「なんか予定あんのか?」


 歯切れのオレの悪い言葉に箕輪さんは察してくれた。


「会場で待ち合わせをしてまして。ちょっと連絡してみます」


 オレはスマホを取り出すとリンカに、今どこ? とLINEで打つとすぐに、会場、と返ってくる。


「ちょっと待ってろ、鳳」


 すると、箕輪さんも鳴り出した自分のスマホを取り出して会話を始めた。

 待ってる間、オレは近くにあるお面屋さんが目が行く。そこにはクモ男のお面が売れ残っていた。


「……どうしようかなぁ」


 二度目の運命の出会い。

 買おっかな……しかし遅れた分際で、買うなと言われたお面を持っていたら流石に……いやでも目が合っちゃったしなぁ……


 オレが、こちらを見る(見ているような気がする)クモ男のお面の購入を葛藤していると、


「鳳ィ、会場に行くぞ」

「はい。お連れさんは良いんですか?」

「アイツも会場に居る」


 ちょうど良かった感じか。オレは一応、ベイ○ーとトルー○ーが来ていないか周囲を警戒しつつ箕輪さんへ続く。


「なんだぁ? 誰かに見つかるとマズいなら、顔を隠すモン買っとけぇ」


 箕輪さんの言葉にオレは光を得た。そっか、それなら仕方ないな。カモン、クモ男。


 オレは大義名分を胸に、クモ男のお面を購入できた。ヤッタネ!






 会場に設置されたステージはかなり豪華な設備だった。

 人が行き来する足場に、手動で動かす大きなライトも配置されている。


『今宵お集まりの皆さんは本当に運が良い! お待たせしました! このお祭り、本日限りのスペシャルゲストが来ています!』


 マイクを持つ、アロハシャツを着た司会はステージの中央に立ち、見上げる観客達へ告げる。


『ハリウッド俳優の佐々木光之助さんです!』


 司会者は横へ手をかざし、中央から避ける様に移動すると慣れた様に佐々木が現れ、中央へ。

 その出現に会場は沸き立つ。一部の観客はステージに寄る程のモノだ。リンカは、本当に有名人だったんだー、とスマホでケンゴからの連絡が無いかを見る。


『お忍びで日本に来て見つかるとは思いませんでした。意外と日本にもファンの方が多いようで良かったです』


 マイクを持ち会話を始める佐々木。


『僕の両親は日本人ですが、育ちはアメリカなのでこう言うお祭りはとても新鮮でした』


 一部の観客達はスマホで動画や写真を撮ったりしている。


『お祭りに呼んでくれた方々に感謝を。そして、このステージで演目をする方々と出店を営む方々は引き続き、素晴らしいお祭りにして欲しいと思います。特にかき氷。あれは良いね。身体も冷えるし喉も潤う。僕はブルーハワイが好きかな』


 大勢の注目に馴れている佐々木はスムーズにトークを続けるが、ゲストと言う事で時間は短い。


『でも僕にばかり貰ってても悪いから僕から皆にもプレゼントを考えた。番号のバッチを着けてる人はいるかな?』


 会場には何人か番号バッチを持つ人達がちらほら。番号を持つ観客は何だろう? と期待に胸を膨らませる。


『それは会場に入った先着300人の中から選んだ一人が僕に一つだけお願いが出来る権利だ』


 おおー、きゃー、と老若男女問わずに声を上げる。男ならSNSの相互フォローになるだけでも価値はあり、女性なら言わずもがな。


『無論、会場に居る君たち限定だ。サッと行くよ。僕が選ぶのは――』


 佐々木は、一人のスマホを見る少女へ視線を止める。


『君だ』

「――――ん?」


 佐々木に指名され、回りからの視線にリンカはスマホから目を離す。






 あたしは妙な注目を集めている事を気がつき、辺りを見回した。

 皆があたしを見ている。彼からの連絡を待ってスマホを見ていたのが悪かったのかと思い、会場の入り口へ移動しようと立ち上がる。


『そう、彼女です』

「は?」


 カッとステージのスポットライトが向けられて、思わす手で光を遮る。なんだなんだ?


「やぁ、また会ったね」


 すると、ステージから佐々木さんが降りてくる。キャーという黄色い声援に目を向けると、大衆が彼に道を開けていた。


「??」


 あたしは状況の理解が追いつかない。佐々木さんは目の前で足を止めると、


「やっぱり来たんだ」


 笑顔でそう言う。そこであたしはようやく状況を理解し、


「……不本意です」


 狐のお面を着けて彼と対峙した。

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