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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
6章 彼女のヒーロー

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第71話 血祭りに上げろってな!!

 射的の仕組みは番号の着いた缶を落とす事でその商品が手に入る。

 その為、何回かやれば必ず落ちる様になっており、財力を使えば全部取れなくは無いだろう。


 オレらの狙いはPS5一択。しかし、他が飲料缶であるのに対して、それはペンキ缶に番号が貼り付けられている。


 パン! コンッ。ころころ……


 リンカの狙いは完璧だったが、岩に松ぼっくりを投げたかのようにペンキ缶は微動だにしない。


「……」

「あれ、中に何か入ってます?」


 リンカがリロードしている間、オレがそう言うと店員さんはペンキ缶を手にとって中身が空であることを見せてくれた。


「ウチは100%健全だからね」


 こういうやり取りも何度かあったのだろう。馴れたような動きでペンキ缶を戻す。


 パン! 二射目。直立状態から撃った弾は外れた。


「ちょっとブレたか……」


 チャッと獲物を逃した猟師の眼で銃の構えを解くリンカ。


「リンカちゃん、一発貰っていい?」


 そう言うと、ん、と弾を込めた空気銃を渡してくれた。


 多分落とせる。銃身をしっかり固定し、適切な角度で撃ち続ければ――


 オレはカウンターに伏せるように上半身を倒すと肩に銃底を当てて固定。銃身と身体の重みを一体化させる。


“動くヤツには予測がいるが、動かんヤツを外すのは、自分の身体の驕りによる筒先のブレだ”


 ジジィの猟銃講座が頭を過り――


 パン! と適切な角度でコルク弾を受けたペンキ缶は僅かに動いた。

 そこまで確認してからオレは照準から眼を外す。

 

「あー、やっぱりそうか」


 なんか納得した。これは中々に面白い仕掛けだ。


「はい、リンカちゃん……あ、ごめん。待ってた?」


 オレの一射をマジマジと見ていたリンカは少しだけ顔が赤い。オレは銃を返す。


「い、いや……別に」


 銃を受け取り、弾を詰めるリンカ。うーん。仕掛けを言うべきか、言わざるべきか。悩みつつ、チラッと店員さんを見ると、こっちが察したのをわかってか両手を合わせていた。


「まぁ、これも祭りの醍醐味かな」


 不正では無いし……ま、いっか。


「……おい」


 するとリンカが銃を抱えてオレを見上げる。


「さっきの撃ち方……教えてくれ」

「いいよ」


 こうやって、ジジィショットは脈々と受け継がれていくわけだ。

 ちょっとした遅延行為だが、射的の真実を知った故に見逃してくれるだろう。


「まずは身体を台に寄せて」

「……こう?」


 さっきのオレの真似をしてリンカはカウンターに伏せるが、オレにはない大きな乳袋がクッションになって微妙に安定しない。


「うーん、そう……かな……」

「いいのか? これで」


 歯切れの悪いオレの言葉にリンカは眉を潜める。


「いいよ、いいよ。次は、銃の底を肩に当てて」


 上手く形が決まらない様子だったので、少しだけ手を添えて位置を調整してあげた。

 リンカはビクっと身体を動かす。


「照準を覗きつつ的と眼を合わせて――」


 リンカの髪の毛がコッキングに巻き込まれない様に避けてやった。


「当たらないと思いつつ撃ってみて」

「……なんで?」

「騙されたと思って」


 少し気が散ったリンカは再び集中する。

 パン! と飛翔するコルク弾はペンキ缶に当たり、少しだけ動かした。

 むふー、とご満悦なリンカ。額に汗が流れる店員。楽しんでる様子に嬉しくなるオレ。


「後、六発だね」

「任せろ」


 そう言って同じように撃つが、今度は外れた。胸部クッションによる肉体的なブレと当てる気になった精神的なブレが弾を外したのだ!


「……」

「雑念入った?」

「……こっち見んな」


 図星だったらしく、少しだけ不貞腐れるリンカ。オレはカウンターに背を向けて残りをリンカの采配で楽しませる事にした。


「ん?」


 すると、やけに注目を集めていた。






 最初は射的店の大物に動きがあった故の注目かと思いきや、男の視線が多く微妙にリンカに向いている。


「? あ……」


 前のめり。突き出るお尻。夏用の浴衣。透けるパンツ。

 外したか……とリンカは次の弾をセットする。


「リンカちゃん。立って撃とうか」

「? なんで?」

「残り四発じゃPS5は無理だよ。追い込んでも他の人に取られるのも嫌でしょ?」

「……そうだな」


 リンカはオレの言葉に納得してくれたのか、標的を残りの弾で落とせそうな飲料缶を狙う事にしてくれた。

 先程の態勢になるのが面倒なので直立してそれらを狙う。


「散った散った」


 オレの意図に気づいた野郎どもは、そそくさと去り、彼女がいる男はツレから睨まれていた。


 彼女さんそいつらシメてあげて。ツレの居ないヤロー共は感謝しろよ。オレが居なかったらたこ焼き返しで目玉ひっくり返されてたぞ。


「次で落ちるか」


 リンカは残り三発で一番小さい缶を落とした。






「なぁ、田中」

「なんだ? 佐藤」


 ひと月ほど前に、ケンゴが加勢に行った会社に勤める田中と佐藤はひと夏の思い出を狙って祭り会場に着ていた。


「俺は……女の子との夏をイメトレしてたんだ。なのに、なんでヤローと歩いてんだ?」

「それは、俺も思った」


 二人は同じ目的でばったり会場で遭遇したのだ。最初は、おー、と挨拶をして別れたがしばらくしてまた遭遇。お互いが同じ目的だと知った。


「何人に声かけた?」

「三人くらい」

「俺は二人」

「収穫は?」

「ゼロ」

「周囲は賑やかなんだけどな」

「それは言うな」


 心は寂しい。それなりにレベルの高い女子は居たが、全員が誰かのツレだった。

 冷静に考えれば、女一人で来るような場所ではない。

 家族か、祭りを楽しむ者か、デートに来る者たちがここでは生存できる。


「飯でも食って帰るか」

「だな」


 誰かと話してないと心が張り裂けそうだ。と、知った顔を見かける。


「ん? あれ鳳じゃねぇか?」


 田中の眼鏡が光る。そして、ケンゴの傍らには――


「佐藤」

「どうした? 可愛い子でもいたか? 多分ペアいるぞ」

「……ああ。ペアの居る可愛い子だ。相手は鳳だ」

「なにぃ?!」


 佐藤は少し離れた人混みに、ケンゴとその脇を歩く浴衣姿の美少女の姿を捉える。


「あれは例の……」

「多分そうだ」

「田中。俺は今……神から使命を受け取ったぜ」

「俺はガンジーが背中を押した」


 二人はゆらりと立ち上がった。


「「あのリア充野郎を血祭りに上げろってな!!」」


 二人は血の涙を流しながら目の前で楽しそうにするケンゴに照準を合わせる。

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