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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
40章 老兵達

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第695話 ツンデレジジィめ

「提案だと? 今更、何を引き合いに出すつもりだ?」


 赤羽さんの言葉はもっともだ。

 大概の望みなら何でも叶うジジィにとって、提案する程の物事があるとは思えない。


「二人の娘をここに住まわせたい。双子の姉妹でな、名前は雛鳥夕陽(ひなどりユウヒ)雛鳥聲(ひなどりコエ)だ」


 あっ、オレがロクじぃに頼まれてたヤツか。赤羽さんへの相談はユウヒちゃんとコエちゃんが本格的に中学へ上がる際にしようと思ってたのだ。


「年齢は?」

「12月で11だ」

「三人部屋は空いている。同伴者は?」

「その二人だけだ。適任者は里から出れん」

「論外だ。未成年を二人だけで住まわせる事は出来ない」


 まぁ、そうなるよね。そこでオレも参戦。


「赤羽さん、ちょっと良いですか?」

「この件には君も関わってるのかな? ケンゴ君」

「二人は元々、外の人間なんです。中学受験次第ですが、早い段階で元の社会に戻したいと『雛鳥』も考えてまして……」

「そちらの事情は関係ないよ。私のアパートの部屋を貸せる最低限の条件は高校生以上からだ」


 まぁ……難しいよなぁ。オレが赤羽さんの立場でも簡単には首を縦に触れない。

 すると、赤羽さんが補足する。


「このアパートにはセキュリティの類いは殆ど無い。ドアの鍵くらいだ。階段を上がる音も響くし、多感な学生では落ち着いて勉学に専念出来無いだろう。特にこれから青春を行う女の子達には不都合な物件だよ」

「あたしは気に入ってますけど……」

「ありがとう。でも、リンカ君の場合は状況が特別だったからね」


 と、赤羽さんがオレを見る。まぁ……解らんでもない。


「他に君たちの望む条件をのんでくれる所があるかもしれない。そっちを紹介――」

「ここじゃなきゃ駄目だ」


 赤羽さんが適した物件を提案してくれた所で、ジジィが一刀両断する。

 しかし、赤羽さんは呆れた様に、


「聞いていたかい? 私の所は駄目だと言っているんだ」

「二人は遺児だ。なるべく身内の側に置いてやりたい」

「……ここを『神島』に染める気か?」

「ワシは関係ない。これはユウヒとコエの話だ」

「……すまない。そうだったね」


 ジジィを敵視する故に、冷静な判断が曇った赤羽さんは謝る。しかし、


「入居は認められないよ。それに、君と私は馬が合わない。敵視してる人間に『雛鳥』を任せても良いのかい?」

「赤羽さん、オレは?」

「ケンゴ君は獅子堂君の紹介だったからね」


 ここに入居する際に、ゲンじぃと赤羽さんは高校の同級生だったと聞かされていた。ちなみに鷹さんも同級生だったとか。

 その事実を知ったとき、オレの中での英傑達が横で繋がってて、世界狭スギィ! と感じたのは遠い記憶。


「敵視してるからだ。故に互いの事を深く理解している。だから、二人の事を任せたい。頼む」


 なんと、ジジィが赤羽さんに頭を下げた。

 神島譲治が頭を下げるなど、前代未聞を通り越えて日本政府が揺らぐ程の事態である。

 だがオレからすれば、立場など関係なしに身内の為に頭を下げる事に躊躇の無いじっ様の事は心から尊敬できるのだが。


「…………そこまで言うなら、その双子と一度会おう」


 先程まで敵対していた人間が頭を下げてくる様子に赤羽さんも、少しだけ話を進めてくれる様だった。

 なんやかんやで、二人とも相手の気持ちは無下にしない“優しさ”があるんだよなぁ。


「この場では了承は出来ない。双子に会って見てから決めよう」

「そうか。いつにする?」

「細かいことに関しては後々話し合おう」


 赤羽さんはポケットから自分の名刺を取り出すとジジィに渡した。






「ホントにさぁ……来るときは事前に連絡してよ」


 オレはアパート前で呼んだタクシーを待つ間、ジジィと話していた。


「ふん。近くを通ったから寄っただけだ。お前に会いに来たワケじゃねぇ」


 いや……じっ様がこの辺りの用事なんで無いでしょ? と言うとグチグチ言い返して来るので心に留める。


「隣の住人」

「ん? リンカちゃんとセナさんの事?」

「アレがお前の外の繋がりか?」

「大袈裟な……リンカちゃんに関しては前に里で会ったでしょ?」

「姿を見ただけだ。話したワケじゃねぇ。今回もな」


 リンカは、ばっ様とは話した様子だったけど、じっ様に関してはオレに会いに来てその後はすぐに帰っちゃったからなぁ。


「腕の手術はいつ?」

「明後日だ」


 意識を完全に失って、他に身を任せると言う行為は『処刑人』としては絶対にやってはならない事だ。

 今回の赤羽さんとの対戦のように、片腕が万全でなくてもジジィは動けない事もない。故に、リスクを取ってでも腕を治したいと考える程の“大仕事”が残っているのだと察せた。


「じっ様」

「なんだ?」

「“仕事”が残ってるならオレにも声をかけてよね。出来る事があるかもしれないし」


 バトル・オブ・熊吉の時みたいに、オレの事を思ってくれた事は解る。けど、こっちの気持ちも考えて欲しい。二度も家族を失うなんて御免だ。


「ワシのやる事でお前に回せるモノはねぇ。大人しく社会で歯車やってろ」


 このジジィ……人が気を使ったら、すーぐコレだよ。あーあ、尊敬してたのが馬鹿みたい。

 すると、タクシーの光がやってくると停止。自動でドアがパカッと開く。


「お前にはお前しか護れない場所があるだろうが、阿呆。こっちの優先順位は低くて良い」


 そう言ってジジィは停車するタクシーに乗り込む。そして、オレが何か言い返す前に、ブロローと去って行った。


「……解りにくいんだっつの」


 ツンデレジジィめ。

ツンデレジジィに需要は無い

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