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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
40章 老兵達

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第686話 友達にはなれない

 世の中には“相性”と言うモノがある。

 チョキはパーに強いとか、火は水で消えるとか、サンマと漬け物は一緒に食べてはならないとか、噛み合わない事柄は絶対的に覆る事はない。

 ある二人も“相性”の悪さから僅かな食い違いを皮切りに、本気で殺し会う事に抵抗は無かった。


「思った以上に複雑な野郎だ」


 6年前、ジョージはサマー救出の為に『ジーニアス』の研究所がある孤島に潜入した時に、同じく侵入していた赤羽と対峙した。


「想像以上に……アンテナの範囲が広いか……」


 赤羽もジョージの並みならぬ技量に感服する。

 互いに互いの姿を見た瞬間に、ジョージと赤羽は無視出来ない存在であると認識。密林環境においての、刺し刺され合いの戦いに発展した。


「…………」


 葉音を立てず、足を踏み出す先の枝にも神経を研ぎ澄ます。

 僅かな情報が死に繋がる雰囲気を生み出すのは、双方の殺意と並みならぬ技量だった。


 『ジーニアス』にこれ程のヤツが居るとは……まさかサモンか? 無力化出来ずとも、私がここで足止めせねば島内に侵入した『ハロウィンズ』は全滅する。


 驚いた。野郎の擬態技術は並大抵じゃねぇな。まさか……ワシが捕捉しきれんヤツが居るとは……。しかし、グダグダやってる時間はねぇ。


 次の接触で決める――


 全ての音と気配を消して、密林の中を進む二人。遠くで鳥の鳴き声や、虫の羽音が大きく聞こえるも二人の集中力はそれらを介さない。

 そして、1本の木に近づいた瞬間だった。

 鳥の鳴き声と虫の羽音さえも消えた。ソレは木を挟んで“居る”と言う事を互いに認識させるには十分な情報だった。


「――――」


 双方は呼吸を止める。息を吸う事さえも敗北の要因となる程に、二人の実力は刹那にて拮抗していた。


 ガササッ、とジョージが草を揺らして音を立ててしまった。ソレに赤羽は反応しない(・・・・・)

 不自然な葉揺れ音。これまで完璧に情報を隠していたにしては、お粗末過ぎるミスだ。明らかな罠――


「――――」


 真後ろにジョージが居た。ナイフを逆手に赤羽の背後を肉薄する。


 はやり……先程のはブラフか。

 コイツ……ワシの意図に気付き、誘った(・・・)か。


 赤羽は振り返りつつ、手の平をジョージへ向ける。その赤羽の動作はジョージの全てを無力化する機転となる。


 野郎……仕掛けて来たか。読み違えると制圧される。

 ナイフを諸手ではなく逆手だと? 刃の動きを読ませない為か。


 ジョージの動きが止まる。

 一見すれば赤羽による静止が入った構図に見えるが実際に二人の間で流れる攻防は他人の思考など挟む余地なしに複雑化していた。


 目線の動き、瞬きの瞬間、攻撃を仕掛ける意、息を吸う身体の動作、重心、タイミング。

 ありとあらゆる情報の“隙”を互いに探る。


「…………」


 すると赤羽がスローモーションの様にゆっくりと、ジョージの襟首を掴む様に動き出した。

 現状の最適解。場の主導権を持つのは武器(ナイフ)を持っている者ではない。

 より、情報を出し抜いた方が相手の命を握る事が出来る――


「…………」


 対してジョージは逆に動けない。

 武器(ナイフ)の優位が消えた。コレは全部コイツの読みか? いや……もし、そうだとすれば何故、ここまで慎重になる?


 そして、ジョージもゆっくりと身体を動かして赤羽の手をスローで避ける。


 “何も選ばず情報を与えない”


 ソレが互いにとっての最適解だった。まるで水中に居るかの様に鈍重になる二人の動き。それさえも相手に差し込まれる“隙”を与えない為に動きには制限がかかる。

 そして、行動に取捨選択をした結果、二人の戦いは超密着状態へ。


「――――」


 ジョージの持つ逆手のナイフ。コレを一刺しするだけで勝負は決する。しかし、その動作さえも命を決する情報になる程に、場の攻防は高度な心理戦で入り乱れていた。


 そんな中、先に仕掛けたのは赤羽の方だった。


「――カハ……」

「……」


 超密着距離で、ジョージの鳩尾に拳を押し当てて呼吸を阻害する。

 隙も情報も相手に与えない現状唯一の解。このままジョージを失神させるには十分な選択肢だった。


 下手に動けば制されるのは互いに同じか。しかし、この距離での攻防は私に一日の長があった様だな。


 己が優位に立ったと赤羽は認識した。いや……させられた(・・・・・)――


 僅かな意識の緩み。ソレに赤羽は気づいたが対応するよりも先にジョージが返す。


 古式『空気打ち』。


 同じく拳を密着させていたジョージは赤羽の心臓を狙って『空気打ち』を放つ。

 服と皮と骨の向こう側にある、臓器に挟まれた人の急所(心臓)。ソレを止めるのはほんの少しの衝撃で十分だった。


「ぐっう!!?」


 『空気打ち』が決まるギリギリで赤羽が後ろに跳んだ。

 その瞬間、ジョージの殺意が明確に赤羽の命を捉える。踏み込み、諸手に持ち替えたナイフを赤羽の心臓へ一閃――


「ストップじゃ、ジョー」


 その瞬間に割り込んだトキは、確殺となった軌道を反らしつつナイフを持つ手首のツボを強く刺激。握力を緩ませてジョージからナイフを奪った。


「……敵じゃねぇのか?」

「まぁ、そう言う事じゃな」


 トキの割り込みにジョージは全てを察する。

 すると赤羽の側にも知り合いが合流し、敵同士ではないと説明し、その場の矛は収まった。

 しかし、先程の攻防で互いの性質を強く理解した赤羽とジョージは同じことを思っていた。


 コイツ――

 彼とは――


 友達にはなれない。と――

鏡の中の自分とは会いなれない

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