第684話 お前も孫馬鹿じゃねぇか!
「手間をかける事になってすまんな」
「お茶、ご馳走でした~」
玄関を出て、門の外でガリアとビクトリアはハットを被り直すジョージと、おもてなしに御礼を言うセナを見送っていた。
あれから、しばらく話をしてサマーの帰りを待ったが帰ってくる気配はなかった。居座るのも悪いと察したジョージは本日は帰る事に。
「師父でアレバ、いつでも歓迎シマス」
「せめて来る前に連絡をくださいねー」
ショウコは急な連絡で席を外している。どうやら流雲本家である事からすぐに対応しなければならなかったらしい。
「ショウコちゃんは~電話終わらない~?」
「すぐには戻って来そうにないから。気にせずに帰っても良いよ」
ショウコにも挨拶をしたかったセナであるが、ビクトリアが構わなくて良いと告げる。
「『マザー』にはデカい情報を与えた。近い内に『ハロウィンズ』は大きな動きを起こすだろう。ソレを狙って来る可能性がある。普段から違和感には気にかけておけ」
「YES」
「任せてよ」
ガリアとビクトリアの頼もしい言葉にジョージは背を向けると、ペコリとお辞儀をするセナと共に歩いて行った。
「ジョーさんは~本当に沢山の人を気にかけているんですね~」
「身内の事を最低限、気にかけているだけだ」
ユニコ君の商店街をジョージはセナと共に歩いて抜ける。トラブルが無ければ何の変哲もない夕刻の商店街は、買い物や休日出勤の帰宅者達の通過で少し人が増え始めていた。
「面倒なヤツが多くてな。目を離すとすぐにどっかに行く。落ち着こうにも落ち着けん」
「ふふ。それは、やっぱりケンゴ君の事ですか~?」
セナは既にジョージがケンゴと近しい身内である事は何処と無く察していた。
「さすがに、か。ちなみに聞くが、いつから気づいていた?」
「ケンゴ君の部屋の前に居た時です~」
「最初からか……」
「うふふ~。それで、ケンゴ君はお孫さんです~?」
「ああ。あの阿呆は情けなくもワシの孫だ。しかし、どうしようもない阿呆でな。自分一人で何も出来んクセに勝手に飛び出してあたふたして、帰郷する情けないヤツ――何を笑っとる?」
「いえ~。ジョーさんはケンゴ君の事が大好きなんだな~って」
「バカ言え。誰が――」
否定しようとしてジョージは言葉に詰まった。彼の視線の先には、
「おお。マジかよ、ジョー。トキを差し置いて浮気デートかよ!」
「かよ!」
「ゲン……」
帰る様子の獅子堂玄と獅子堂瑠璃に遭遇した。
「獅子堂さん~こんにちは~」
「おう、鮫島さん! 夏の海以来ですな!」
「セナちゃん!」
「は~い」
ルリがダッシュの構えをすると、セナは片膝をついて両手を広げる。
その胸にルリは飛び込むと、セナとくるくる回りながらハグを堪能する。
「何で、お前がこんな所に居やがる」
「俺はお前と違って孫を家に閉じ込めたりはしねーの。やっぱりよ、成長させるのは外の環境だぜ」
うふふ~。わーい! とくるくる回るセナとルリに二人は視線を向ける。
「ワシはワシの理念がある。特にケンゴはな」
「そうかい。俺はお前との約束を守っただけだぜ?」
「約束だと? ワシがいつケンゴを里から連れ出せと言った?」
『神ノ木の里』でケンゴは一生涯、自分が護るつもりだった。しかし、ゲンが就職を理由に里を出るキッカケを与えたのである。
「ジョー。お前、言ってただろ? “ワシに何かあったら家族を頼む”ってよ」
ケンゴの事は楓(ケンゴの叔母)から相談を受けたゲンは、ルリが生まれて遠退いていた『神ノ木の里』へ様子を見に行った。
ケンゴとジョージ。その二人の様子を少し観察し、ジョージが過保護すぎる事でケンゴが窮屈な思いをしてると感じたのである。
「明らかにお前はケンゴを縛ってたからなぁ。お前らしくなかった。ケンゴは、将平よりもアキラの気質が強いってのも知ってただろ? もし、俺が連れ出さなかったら置き手紙だけで出て行ったと思うぜ」
思い詰めた孫の様子にも気づかない程にジョージは、ケンゴを護ることだけを考えていた。
「だから俺はお前に“何かあった”と判断した。そんで約束を守ったって寸法よ」
「……ものは言い様だな」
「ガハハ。隙を見せるのがわりーんだよ」
ジョージは嘆息を吐きながらも、対等に接してくれる数少ない親友は昔から何も変わらないと感じていた。
「セナちゃん! あっちにユニコ君!」
「あらあら~」
格納庫に帰宅する途中のユニコ君に最後絡みをしている、ルリとセナを見る。
「あの子がお前がバカみたいにアピールしてくる孫か?」
「否定はしねぇよ。ルリは銀河一可愛いからな」
「そうか」
「おいおい。随分と淡白だな。それよりも、お前は鮫島さんとどんな関係だ?」
「あの阿呆の所に行った。留守だったが、隣の部屋の彼女が代わりに対応してくれた」
「そっからナンパして、腕の怪我を盾に連れ回してたって事?」
「ただの成り行きだ。ナンパじゃねぇ。ついて来たのもセナ本人の意思だ、ボケ」
ジョージの否定にゲンは、そうかよ、と意味深に笑う。
「お前も孫馬鹿じゃねぇか!」
「…………うるせぇ」
ガハハ、と笑う親友の言葉に言い返すが、何も間違った事は言っていないので悪態をつくだけに留めた。
「それと、ジョー。気づいてるか?」
「ああ。ジロジロ見てる奴らがいる」
「正確に言えばお前をな」
そして、明らかにこちらへ歩み寄る背後からの気配。
ジョージは吊った包帯の腕に仕込んでいる畳針を指で挟み、ゲンはミキッと上腕二頭筋に力を入れた。
二人の意思は互いに語らずとも次の行動を決めている。
振り返ると同時に仕留める――
「待って下さい!」
ゲンは振り返ると同時に無拍子で腰と襟を掴み、ジョージは空いている肩へ畳針を押し込もうと踏み込んだ所で止まった。
「か、『霞部隊』の者です! 刺すのと投げるのは……止めてください……烏間幹事長より……私の胸ポケット携帯を受け取る様にと……」
私服姿のセグ1はギリギリで二人の攻撃を静止。両手の平を見える所に掲げながら、胸ポケットに入ってるスマホをジョージに認識させた。
最強ペア




