第681話 やっちゃえ!
「どけぇ! 貴様ごときに止められる俺ではないぞ!」
番長は、立ちはだかるルリへ拳を振り下ろす。キャアっ! ヤメロ! ウワァ! とギャラリーの悲鳴が上がるが、ルリは退かない……と言うよりも恐怖から立ってるだけで精一杯だった。
「不可抗力だ……泣いてくれるなよ?」
そのルリを背後からノリトが抱きしめるように引き寄せると、番長の拳は空振る。
「ぬぅ! まだ動けるか!」
「当然だ……クソ野郎」
ルリを後ろに回す様に逃がし、ノリトは立ち上がる。
投げられた衝撃に身体はまだ痺れ、本来なら立ち上がるまでもう少し時間が必要だった。それでも無理矢理にでも彼が立てたのは己が貫き続けてる信念があるからだ。
女を背に立てなきゃ男じゃねぇ――
「この子には指1本も……触れさせねぇぞ」
「ふん! 貴様が前に出るのならそんなチビに様はないわ!」
グォッ! と番長が掴みかかってくる。
ここが正念場だ! リョウにはあって……俺に足りなかったモノ……今ならそれが――
「わかる気がするぜ!」
ロリっ子が後ろには居る。なんなら服を掴んで俺を頼っている。なら……退けねぇよなぁ!
今のノリトはどんな相手でも負ける気がしなかった。そうか……リョウは常にこんな……そりゃ、強いハズだぜ! カウンターを合わせる!
「おい」
その声が聞こえて、番長の動きが止まった。それは振りかぶった腕を後ろから掴まれた事で全身が一瞬で掌握されて、身体全体が停止したのである。その並みならぬ技量を番長が認識し腕を掴んだ人物に振り返――
「ぬ――おぉぉぉ――」
振り返るよりも早く、番長の身体がゲームセンターの外へ吹き飛ばされた。否……腕一つを取られて直立姿勢のまま外へ投げられたのである。
「ぬっ! ぬぬぬ!」
そのまま、番長は着地するも、ズザーとゲームセンターから外へ滑って耐える。
俺の重心を残したまま……投げただとぉ!? このレインボー帯の俺を!?
「じぃ!」
「ルリ」
番長を投げたマッスラーのゲン。片手に持つチョコクレープを花束の様にルリへ渡した。
「食べてな。奴はじぃに任せろ」
「まかせう!」
「…………」
ルリが復唱する。ノリトは番長の攻撃にカウンターを合わせる姿勢でずっと停止していた。
俺……俺の……覚醒したこのやり場はどこへ向ければ……
「坊主」
「あ、はい……」
凄まじいオーラから、思わずピッ! と姿勢を整えて返事をする。
やっぱり、出てきやがった! このロリっ子のピンチをトリガーに出現するデタラメなジィさん!
「お前、夏に見た顔だな」
「あ……あの時は……すみません……」
悪いことをしてないのに謝ってしまう。それ程のオーラをゲンは放っていた。ノリトは本能が怯えているのか……カタカタと手が震えてる……
「今はルリを任せるぞ」
「ぁい……」
声が……詰まる……ちょっと噛んじゃった……
ジィさんはゲームセンターの外で器用に着地した番長へ歩いて行く。
「じぃ!」
ロリっ子が、ぐっ! と拳を突き出す。どうやらそれは、やっちゃえ! の合図らしい。
対するジィさんは後ろ眼で親指を立てて歯を見せて笑った。
「お前の笑顔があれば、じぃは無敵だ」
その背中は滅茶苦茶頼もしかった。強敵が味方になると頼もしいってリアルに経験するとは……
「ユニコ君! こっちこっち!」
「ユニコーン」
ノリトの商トモは商店街の入り口付近でマッスルポーズを極めてたユニコ君に事情を説明するとゲームセンターへ引き返していた。
「ハァ……ハァ……ユ、ユニコ君……速……」
体育以外で走ることは滅多ない商トモは往復で息が上がっていたが、ユニコ君はかなりの高速移動であっと言う間に追い抜いた。
今日のユニコ君は普段よりも大きい個体故に、メルヘンな見た目でも重戦車のような圧力に皆が思わず道を開ける。戦車通過するユニコ君を見る商店街の客は、
なんだ?
ユニコ君が走ってる。
行ってみようぜ!
と興味本位で後を追った。そして、
「ユニコーン!」
ゲームセンターの前に着くと番長が不自然に滑って耐える様に遭遇する。
「このレインボーの俺を……」
などと、意味不明な事を言っている番長はまだ現行犯でない為に即座に粛清は出来ない。
少し様子を見ていると、ゴォ! とゲームセンターから並みならぬプレッシャーが吹き出た。
「ユニコ……」
それはユニコ君でさえ手を出す事が無意味と思える程の圧力。まるでスーパーサ○ヤ人が気を全開にしたかのような勢いだ。
そして、ゲームセンターから圧力の主が出てきた。
「テメェ、ウチの宇宙一可愛い孫に手を出そうとしやがって……覚悟……出来てるんだろうな?」
「ふん! ちょっと俺が油断した所を投げたくらいで! 調子に乗るでないわ!」
ゴォ! と番長もプレッシャーを放出しゲンと拮抗する。邪なオーラ。すると、ゲンのプレッシャーの影響を相殺する。
「邪魔をするなら貴様も俺の敵よ! あの男とチビと一緒にまとめて屠ってくれる!」
番長は中腰で拳を引き、正拳を溜める様な構え。
対するゲンは臆せず番長へ歩み寄る。
そんな二人に割り込む様子のないユニコ君は腕を組んで静観の姿勢。そこへ商トモが追い付いて来た。
「ハァ……ハァ……ユニコ……君……アイツ……あの番長が……ヤバい……ハァ……ハァ……」
商トモは番長が危険であると告げる。
この商店街ではツーアウトで出禁となる。番長は既にワンアウト。これで今後は商店街へ入れなくなる。
「ユニコ君? どうしたの――うわ!? なんだ!? あのジィさん!?」
商トモはゲンのプレッシャーを認識すると、ドタァッ! と尻餅を着く。
「ユニコーン」
ユニコ君は軽く鳴く。それは、己が手を出す事はゲンに対する失礼になると理解しての静観だった。
拳を構える番長。歩み寄るゲン。
両者が間合いに入った瞬間、カッ! と閃光が弾ける――
やっちゃえ!




