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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
6章 彼女のヒーロー

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第68話 サマー・ザ・ラストウィーク

 蝉の鳴き声がまだまだ止まない8月はもうすぐ終わりを迎える。

 学生にとっては多くの事が佳境に迫る最後の一週間は、宿題を後回しにし続けた者達の業で阿鼻叫喚となるラストウィークであった。


 そんな業とは全くの無縁であるリンカは宿題を盆休み前に全部終わらせ、図書館で本を借り漁っていた。


「夏祭り……」


 その図書館からの帰り道。リンカは町内のお知らせが貼られた看板の前に足を止めて、ぽつりと呟いた。

 それは夏休みは最後の土日にある中央公園の夏祭り。前にあったモノとは別の組合による催しで、出店の他に中央ステージでは様々なイベントがあるらしい。


「……二人だけは、まだなかったっけ」


 この夏休みは色々な事があったが二人だけで出掛けた事は一度もなかった。


“通りすがりの仮面ラ○ダーだ!”


 リンカは、ケンゴが帰ってきてすぐに行った夏祭りはノーカウントだと眉をひそめる。


「そろそろ、周囲のほとぼりも冷めてるかな」


 今夜誘ってみるか……






「シズカさん、ご家族の所に帰れたのね」

「はい」


 オレは昼休みに、鬼灯先輩と七海課長に誘われて食堂でシズカの事を報告していた。

 七海課長がいる事もあり、良い感じに人避けになっている。


「それにしてもよ、鳳。お前にあんな可愛い従妹が居たとはな」

「うちの実家でも突然変異レベルですよ。他は普通の田舎者です」


 ちなみにシズカが帰ると決めた時、出会った中でも好意を持てそうな人はいた? と聞くと、ケイさんじゃ! と言ってた。


「七海課長の事を結構気にしてましたよ」

「本当か? ふふふ。嬉しいね」


 七海課長からすれば妹でも出来たような感覚なんだろうけど、実際には180度逆なんだよなぁ。

 ちなみに二人にはシズカの中身が男である事は話していない。身内には打ち明けたとは言え、他には隠しておくべき秘密であることには変わり無いのだ。


「それで、お前はどうなんだよ」

「何がですか?」

「イトコ同士は結婚できるからな」

「そんな気はないですよ」

「そうね。鳳君にはリンカさんが居るもの」


 鬼灯先輩は理解してる様に告げる。誰だそれ? お隣さんよ。幼い頃から――と簡単に七海課長に説明する。


「そうですよ。リンカちゃんが成人するか、恋人を作るまでは見守りたいと思ってますし」

「おいおい。お前、マジでそれ言ってんのか?」


 七海課長は呆れた眼で見てくる。


「え……マジですが……」

「どう考えてもお前に気があるだろその娘」

「まさかぁ。こんな二十代後半の男にそんな気を起こすわけ無いじゃないですか」


 リンカも良い年頃だ。オレみたいな歳の行った社会人よりも、歳の近い者の方が魅力的に映るだろう。


「詩織。コイツ……」

「そう言う男の子なのです。七海課長」


 微笑ましく自販機で買った緑茶を啜る鬼灯先輩。七海課長の追求が始まる。


「普段は、お前ら二人は何やってんだ?」

「何って?」

「距離近いんだろ? 休みとか一緒に居ることは多いんじゃねぇのか?」

「そうですね。借りてきた映画とか見てますよ」

「他には?」

「夜通しゲームしたり」

「他」

「夜ご飯食べに行ったり、分けて貰ってたり」

「……詩織、コイツ」

「ふふ。面白い子でしょ?」


 楽しそうにする鬼灯先輩とは裏腹に七海課長は呆れる。


「よし、鳳。お前、その娘を誘え」

「映画を見るときは普通にそうしてますが……」

「二人きりで外に出ろ。祭り的なヤツにでも連れ出せ。課長命令な」


 七海課長は腕を組んでオレを見る。他課のトップに名指しで命令されるのは初めてだぁ。これって良いのかなぁ?


「鳳君。リンカさんも成長しているのだから、昔とは違った感情を貴方に抱いてるかもしれないわよ?」


 リンカの中でオレの存在は兄から父親(オヤジ)へとクラスチェンジしていると言うのか……? 確かに帰ってきてからの態度は反抗期の娘そのものだ。なんかやだなぁ……ずっとお兄ちゃんって思ってて欲しい。


「そうですね。次の休みにでも、リアクション起こしてみます」

「おお、行け行け。見逃してやるから、キチンとやることヤッて来い」


 面白そうな七海課長と鬼灯先輩。なんとなく二人にはおもちゃにされてる気がするが気のせいだろう。

 戻って来てからずっとツンツンしているリンカに対してオレはどの様に見られているのか、改めて見極めるとしよう。


 




 その夜。どうやって切り出そうか考えていると、リンカの方から晩御飯に誘ってくれた。


「セナさんは仕事?」

「今日は遅くなる」


 二人きりで晩御飯を食べるのは久しぶりだ。さて、どのタイミングで行くか……


「あのさ……今度の土日……祭りが」


 そう言えば誘う手前、どこで何をするのかを決めてなかった。


「で……予定はどう? 問題あるか?」


 どうしようか。電車で出掛けるか。それとも近くである祭りでも探す――


「おい」

「あうっ」


 と、考え事で上の空だったオレは、リンカからデコピンを食らった。


「今度の土日、祭りに行くぞ」

「あ、はい」


 あまり痛くなかったが、額を擦るオレにリンカが少しだけ恥ずかしそうに言う。

 棚からぼた餅とはこの事か? いや、少しだけ違うかも。


「仮面ラ○ダーはやるなよ」

「あれは……緊急変身だったと言う事で」


 超変身までせずに済むように色々とイメトレしておこう。

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