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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
40章 老兵達

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第674話 ……へぁ?

 『ハロウィンズ日本支部』。

 ユニコ君の商店街の裏側に存在し、外から見れば何て事のない外見をしている新築の一軒家。常に二階の雨戸が閉まっている以外には周囲の家々の中に完全に溶け込んでいた。


「ここがサマーちゃんの家ですか~?」

「サマーの事を知ってる様だが、面識があったとはな」


 ジョージは6年前に『ハロウィンズ』の指導者“マザー”からの協力を要請されて、『ジーニアス』の本拠地を襲撃。そこから逃げ出したサマーを保護し、日本に連れてきたのだ。

 戸籍や住居に関しては『雛鳥』が『ハロウィンズ』と調整したこともあり、ジョージとサマー本人との接触は最低限だった。以降は時折、マザー経由で近況を教えてもらう程度である。


「前にアパートに遊びに来たんです~それはもう可愛くて~」


 セナは、うふふ、と再度サマーに会える事を楽しみに微笑む。


「この家だな」


 表札に『夏』と書かれた真新しい家。ジョージは門を抜けると、扉の前までやってくる。


「監視カメラありますね~」

「そうだな」


 来客を映す位置にあるカメラに気付き、セナは手を振る。ジョージは構わずインターホンを鳴らした。






「ビクトリアは何でケンゴさんを嫌うんだ?」

「ん?」


 中庭で仮面をつけて模造刀を持ち、日課となる演舞の鍛練をするショウコは縁側に座って様子を眺めるビクトリアに問う。


「え? なに? アタシがフェニックスを嫌う理由?」

「ああ。私だけが彼を特別、良い人に見えていると思っていたのだが、テツやレツ、サマーの反応を見るに、ビクトリアやミツの反応は少数派のような気がしてな」

「ショウコは嫌いな人いないの?」

「いるぞ」

「女郎花教理?」

「人の都合を考えずに一方的に己の考えを押し付ける相手を好きになれるか?」

「あはは。無・理。死ねって思うわ」


 足運びに合わせて、スゥ、と滑らかに動く白刃は身体と一体に成っているかのように美しく光に反射する。


「マザーが言うにはさ、人の事を好意的に見るには、その人物に対して“愛”があるかどうかで決まるんだって」


 次の動きに移ろうとしたショウコの模造刀が止まる。


「愛だと?」

「そー。例えば、一人の人間がゴミ拾いをしてたとするでしょ? その人の事を好意的に見てる人は“良いことしてるなー”って称賛するけど、悪い目で見てる人は“ケッ、偽善者が”って感じると思うんだよねー」

「ふむ。例え善行をしてても、人によっては不快に感じる者が居ると言うことか」

「そうそう。だから、アタシの事は気にしなくて良いよ。ショウコやサマーがフェニックスの事を好きでもアタシは二人の事を嫌ったりしないからさ」

「個人的にはケンゴさんと仲良くして欲しいんだが」

「あー、それは無理無理。アタシ、フェニックスには“愛”を全く感じないからさ」


 自分は幻想を拗らせているとビクトリアは自覚していた。

 過去に自分達を助けてくれた一人の戦場医。彼はいつも仏頂面だったが、助けた者全員を愛していた。


“最も原始的で常に近くにある武器、身体を磨くと良い。アキラを護ってやれ”


 頭を撫でてくれたドクターの事をアタシは今でも好きなんだと思う。

 幼く、頼るモノを失った故に拠り所とした吊り橋効果もあったのだろうけど、ドクターの事、忘れられないんだよぁ。

 彼は他者に対して平等に愛を向けていたのだろうけど、まぁソレに勘違いをする乙女も居るってことで。だから――


「顔が似てるのなんかムカつく」


 ドクターの顔でへなへなしやがって。あー、イライラしてきた。次に顔を見た時、一発蹴ろ。


「ふむ。誰と重ねているのかは深掘りしないが……会うのは嫌じゃないだろう?」

「ショウコかサマーが居なかったら絶対に関わらないよ」


 そんな事を言うビクトリアは苦虫を噛み潰したような心底嫌悪する表情だった。


 そんなケンゴに対するビクトリアの反応を変えられないと思ったショウコは、何か別の仲良し作戦を思い付いたらやってみるか、と鍛練を再開する。


「今の話の流れから少し、踏み込んで聞くけどさ」

「なんだ?」

「ショウコはフェニックスと、最終的にどういう関係になりたいの?」

「そうだな……」


 ショウコは再び、演舞が止まる。そして仮面を着けたまま雲の流れる晴天の空を見上げた。


 最近、母が流雲本家に認められた関係で本家の人間とビデオ通話をする機会が多くなった。母が本家で立場を損なわない様に出来る限り協力する意味で応じている。

 その何人かの異性と話をしたが、ケンゴさんを上回る程に“付き合いたい”と思う異性とは未だに出会っていない。


「その事に関しての答えを出すには、まだ見聞を広げている最中だが、今の所は……」

「今の所は?」

「誰にも言うなよ?」

「墓場まで持っていくよ~」


 ビクトリアの問いにショウコは仮面を取り、顔を赤くして照れつつ言う。

 

「彼とは“家族”になりたい」

「へー」

「む、無論! 多くの人が納得した上でだ……」


 恥ずかしい表情をしていると察したショウコは、サッと仮面で顔を隠す。

 滅茶苦茶恋する乙女で照れるショウコも可愛いなぁ。よし、フェニックスは殺そっと。


 ケンゴを殺る理由が一つ増えた所で、常に耳に着けているインカムにレツから通信が入る。


『くふふ。カツ、少々宜しいですか?』

「どったの?」

『くふふ。来客です。対応をお願いします』


 レツは現在、FPSの大会に出ており手が離せない。ビクトリアはスマホを取り出す。

 家のインターホンは押されても鳴らない。その変わりに、監視カメラの映像がリアルタイムで、ハロウィンズ各々の携帯に表示される。


「……へぁ?」


 ドアの前に立つ、超大物(ジョージ)を見てビクトリアは思わずそんな反応が出た。

ビクトリアの初恋はドクターイグルー

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