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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
40章 老兵達

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665/700

第665話 生存率は20%

 『スイレンの雑貨店』。

 商店街で一際、異彩を放つその店は店舗と店舗の間に挟まる様に存在していた。

 綺麗な外装、内装にも関わらずどこか不気味な様子を感じるのは気のせいではない。

 商店街の中で最も古い店であり、時代に合わせて店主によるリフォームが度々行われているものの、その本質は古くから変わっていないのだ。


「どうもー、スイさんいる?」


 そんな『スイレンの雑貨店』へ、店主のスイレンより直々に呼び出された阿見笠流(あみかさながれ)は昼間の扉を開けて中に入る。


「うぉ!?」


 すると、店内の停まり棒に烏のローレライが居た。他の烏に比べてふた回りも大きい身体は、普段は遠目から見かける分、至近距離で見ると迫力がある。

 ローレライは、カウンターに座り、眼鏡をかけて算盤(ソロバン)を弾く老婆を見ていた。


「イッヒッヒッヒ、ローや。様子を見に行きな。そろそろ商店街に入ってる頃さ」


 老婆の言葉にローレライはくるっと振り返ると、後ろにある小窓から外へ出て行った。


「うわー、久しぶりに見たよ、そう言うの。スイさんってマジで魔女だよね」

「イッヒッヒッヒ。ナガレかい?」


 ども、と片手を上げて挨拶するナガレは店主の真鍋翠蓮(まなべすいれん)を見る。


「店の雰囲気は30年以上も変わらなくて逆に落ち着くよぉ。ホントに何なんだろうなぁ、ココ」

「イッヒッヒッヒ。若さの秘訣かい?」

「おおっと、某有名海賊漫画の冬島ドクターの言い回し、似合い過ぎ」

「ビタミンを取りな。体内で生成出来ないモノを取ることが長生きの秘訣だねぇ。イッヒッヒッヒ」

「今日、なんかテンションおかしくない?」

「イッヒッヒッヒ」


 “イッヒッヒッヒ”のニュアンスが楽しそうに聞こえる。これは長年関わりが無いと分からない変化だろう。


「コスプレ衣装の事業が波に乗って来てね。大忙しさ。イッヒッヒッヒ」

「その歳で新規開拓してんの、世界広しと言えどスイさんだけだよぉ」

「イッヒッヒッヒ。人は歩き続ける限り、死ぬ事はないんだよ」

「すっげー名言チックだけどさ、スイさんが言うと不老不死を疑っちまうなぁ」

「イッヒッヒッヒ」


 ナガレは相変わらずなスイレンの様子に肩を竦める。店内は何処で仕入れるのか、そんじょそこらでは見かけない物ばかりだった。

 瓶に入った草。値段のついた赤い石。人の形に見えるニンジン。獣の牙。流動する煙の入った水晶。ガラス細工の人形(罠)。


「この店だけ世界観おかしいんだよなぁ」

「イッヒッヒッヒ。どれも健全なルートで仕入れてるからね。信用問題が第一さ」

「どんなルートだよぉ」


 なんにせよ、この店が閉店する事はまだまだ無さそうだ。ナガレはどう見ても加工された水晶にしか見えない赤い石を手に取り、少し眺めた後に棚に戻す。


「バイトとか入れないの?」

「イッヒッヒッヒ。今はキーボードを打つ指先だけで人を動かせる時代さ」

「恐ろしい時代だよねぇ」


 昔は自分や後輩の鬼ちゃんが度々、店を手伝っていたが、便利になればなるほど人手が要らなくなる。まぁ、ここまで社会に適応し続けているスイさんがちょっと異常だけどなぁ。


「それで、呼び出したって事はオレの依頼は終わった?」


 前に『鳳健吾』の詳細を調査して欲しいとスイレンに頼んでいた。

 スイレンの調査はどうやって調べているのか分からないくらいに、整合性が高い。事細かに調べ上げられた情報の信頼度は9割を越える。

 そして、どんな権力にも左右されない事でも知られ、前総理である森を追い込んだ資料にも『スイレンの雑貨店』のマークがあった事をナガレは見逃していなかった。


「イッヒッヒッヒ。ナガレや、お前さんはこの国で“鳥”を連想させる名字を持つ者を調べる事の意味を知ってるだろう?」

「それ込みで頼んだんだよぉ。スイさんなら損なう事は無いと思ってね」

「中でも『鳳』は一級品のタブーさ」

「そうなの?」


 スイレンはイッヒッヒッヒ、と『神島』とそこを宿り木とする“鳥”達について説明する。


「『雛鳥』『雉岡』『白鷺』『小鳥遊』『梟』。イッヒッヒッヒ、『神島』の中でより強い力を持つのがこの五羽だね。けど、『雉岡』は役割を『神島』に譲ってるし、『白鷺』に至っては国を出てるからね。今は昔ほどの力は無い。無視しても問題ないさ」

「梟医院の事は知ってるよぉ。中堅ながら、腕の立つ医師が多いって聞く。難病患者は最後にはそこに行き着くって」

「あそこにはヨミが居るからねぇ、イッヒッヒッヒ。あたしも腰痛を治してもらったよ」

「え? マジ? 腰痛って治るの?」


 身体の一部をマシーン化にでもされたのかな?


「イッヒッヒッヒ、麻酔で永眠する可能性があったから生存率は20%って言われたけどねぇ」

「それで生存してんのがヤベーって事だよぉ」


 そもそも、腰痛の手術で命を賭けるのがイカれてる。


「おかげで40代の腰をゲットさ。イッヒッヒッヒ」

「なんなの、そのヨミって人?」


 どっちも化け物じゃん。


「イッヒッヒッヒ。話を戻すね。今の『神島』は昔ほどの力はない。しかし、ソレを補う程の抑止力をジョーが国に打ち込んだ」

「『楔』ね。後、二本もあるって話だよぉ」


 力が衰えた『神島』が国から排除されるのは必然な流れだった。しかし、


「国を一個人が脅すなんて、前代未聞だよぉ」

「イッヒッヒッヒ。それだけ、人の想いは強いのさ。特にジョーは家族を誰よりも大事にしてる」

「……『鳳』もかい?」

「イッヒッヒッヒ。『鳳』はね、ジョーに限らす『神島』では特殊な意味を持つのさ。命名の権限を持つのは『神島』だけ」

「特別な意味?」

「存在しない者なのさ」


 スイレンは『神島』の中でも『鳳』の姓を持つ者の意味を語る。


「『鳳』とは霞。眼に見えるけど、近づいて触れる事は出来ない。そして、気がつくと消えている。そんな立場の“鳥”なのさ。イッヒッヒッヒ」

「どういう意味なの? ソレ」

「つまりさね、ジョーにとって“特別”と言う事さ。イッヒッヒッヒ。まぁ、アイツも息子夫婦を失ってるからねぇ」

「……」


 スイレンも一通り調べた。そして、可能な限りの情報もまとめたのだが、ソレをナガレへ即座に渡す事が出来なかった。


「……どっかで『神島』に踏み込まないと行けないけどよぉ」


 夏にジョージの元へ訪れた時は、調査を続けても構わないとお墨付きを貰った。その後、偶然、旅館で遭遇したときに詰問した『鳳』の反応を見るに――


「護ってるって事か……」


 ナガレの中である程度が繋がった。

 『楔』が一つ抜けた理由。

 現れた『鳳』。

 ジョージが調査を続けても良いと言ったワケ。


 お前は背負えるか? ワシが護ろうとしているモノ――


 そう言われている気がした。

 ジョーさんよぉ。ソレは的外れだ。オレも大切なヤツから背中を押されてここまで歩いてきた。だから――

 

「スイさん。オレは引く気はないよ」

「…………イッヒッヒッヒ。そう言うと思ったよ。だから、今日呼んだのさ」

「情報が出来上がったんだろぉ? 後金はすぐに振り込む――」

「イッヒッヒッヒ。情報はまだ調べ尽くしてないよ」

「えぇ? じゃあ何でオレを呼んだのさ」

「来るからね。イッヒッヒッヒ」

「誰が?」

「『神島』さ」

ジジィが強すぎる件について

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