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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
40章 老兵達

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第662話 明日からオレの心は真っ暗よ?

「事情があるのか?」


 何事にも余裕を持って対応している、ふわふわとしたセナの口調がジョージの質問で打って変わった。

 彼女の心情が表に出るほどに話題。他の者はただならぬと察して、それ以上は追求しないだろう。しかし、ジョージは違った。


「ふふ。そこに踏み込みます~?」

「踏み込んで欲しそうだったからだ」


 ジョージの言葉はセナに対して、何か探りを入れる様なモノでは無かった。

 彼も長年、人間を相手にしてきた経歴から、話術により相手の心象を察する能力はセナより上だった。


「……そうですね~」


“……なぁ、セナ。前に親父の事を話しただろう? アレ、諦めるわ。お前とリンカを護らなきゃいけねぇよ”


 彼は私と一緒に居ることを選んでくれた。


“……あらら。ここまで来てフラれるとは思わなかったわ。言っとくけど、見た目以上にダメージあるよぉ? もう、ホントにさぁ。明日からオレの心は真っ暗よ? え? 親父の事を……”


 彼は過去を――長年追い続けた家族の事を諦めようとしてくれた。だから、私達は大丈夫だと伝えたかった。


“リンカの事、頼むな。口座は変えるなよぉ? 養育費を振り込めなくなるからさ。後、待ってる間に心変わりしても全然良いからな? 別のヤツを好きになったら応援するぜ”


 そんな事はない。

 今、一人で居る選択肢を取ったのはあの人を愛しているからだ。


「私は自分勝手な女なんです。だから、今一人なんですよ」

「……そうか。安心した」

「何がです~?」

「お前は一人で立ち上がれる人間では無い様子だったのでな」


 セナが今でも芯の強い母親として現状を歩き続けられるのは、いつの日か愛する者が帰ってくると言う、心の支えがあるからだとジョージは察する。

 ならば、自分がその事に口を挟むのは野暮と言うモノだ。


「そうですね~。こんな自分勝手な女を~皆、気にかけてくれるんですよ~」

「それだけ、鮫島瀬奈と言う人間は回りから愛されているのだろう」

「愛されてますかね~?」

「ふっ……回りに振り撒くモノが多いほど、多く返ってくるモノだ」

「ふふ。それじゃ~これからもどんどんバラ撒いて行きますよ~」


 多くの人達の幸せを見届ける事が自分の役目だとセナは思っていたが、少しだけこっちからも幸せ(あの人)に電話をしてみようと考えた。






「クソッたれが……」


 スーパーの店長はセナとジョージに言い負かされた事を改めて悔しがっていた。

 事務所にてこちらの不利になる監視カメラの記録映像を消す作業を終えると、ドンッ! と机に拳を振り下ろして奥歯を噛みしめる。


 アイツら……俺の正義を否定しやがって……許さねぇ! 興信所を使って身元を割り出して、絶対に“制裁”をしてやる!


「店長」

「なんだ?」


 バイトがモニターのある部屋の外からノックをして声をかけてくる。


「その……何か警察? みたいな人達が店長に会いたいと」


 警察? どう言うことだ? 奴らの制裁をやるのは俺の役目。警察に通報するなど野暮な真似はしない。


「開けてもらえますか?」


 バイトとは違う別の人間の声に店長は部屋の扉を開けると、ラフな私服姿ながらも、只者でない雰囲気を持つ男二人が立っていた。

 一人は短髪の刈り上げで、もう一人は帽子を被っている。


「我々は警察関係の者です。少々、協力を願いたいのですが宜しいですか?」

「は、はぁ……」


 私服警官……とは雰囲気が違う。それよりももっと……張り詰めた現場に身を置いている様な歴戦感を二人から感じる。


「こちらのご老人がこの店に入ってきましたか?」


 と、渡された写真には母屋の縁側に座って猟銃を分解整備する先程の老人の姿を見せられた。

 色々と疑問を感じる一枚だが、男の質問に優先して答える。


「入って来ました」

「老人は片腕を怪我していました?」

「は、はい!」


 店長の返答に男二人、ようやく捕まえたな、と安堵する様に息を吐く。


「店内での老人が映っている映像はありますか? 出来れば見せて欲しいのですが」

「え? それは……何故?」


 あまりにムカついた為に、老人の映っている映像は全て消していた。


「ん? ああ、すません。我々はこう言うモノでして」


 しかし、男二人は自分達が不審がられたのだと考え、名刺を手渡す。


「日本保全党……烏間美琴?」

「詳しい事は話せませんが、その方の指示で老人の所在を追ってまして。先に連絡して確認を取っていただいてからでも結構ですので、情報を提供をお願いできますか?」


 何者だ……あのジジィ? 銃を分解していた写真といい……ソレを追う屈強な男達といい……まさか……


「あの老人は何かの犯罪者ですか?」


 すると、店長の言葉に刈り上げの男は明らかに不機嫌な表情を作る。


「……情報の提供を。それ以上は話せません」

「すみません。先程のカメラの様子がおかしくて確認したら映像が消えてしまっていて……しかし!」


 店長は思いもよらない展開に、己の正義が正しい事であったと再認識する。


「相手が犯罪者と言うのであれば! 協力は惜しみません! なんなら、その老人と関わりのありそうな女も――」

「おい……」


 しかし、刈り上げの男が店長の胸ぐらを掴みそれ以上の言葉を遮った。

 一瞬で身動きを封じる力と威圧に店長は思わず黙り込む。


「お前はさっきから誰に向かって、犯罪者、犯罪者って言ってんだ? あの人は――」

「おいおい。待て待て。一般人だぞ」


 もう帽子の男が宥めた事で店長は解放される。ふんっ、と刈り上げの男は部屋から出て行った。


「な、何なんだ……」

「すみません。少々、クレバーな追跡でして。情報が無いのであれば、この件は忘れていただいて結構です」

「い、いや! 協力させてください!」


 少なからず国の絡む程の件。この正義を国に証明するチャンスだ!


「いや、もう関わらないようにしてください。後、老人のその関係者の身元は絶対に調べない様に。それが原因でナニが起こっても国は関知できませんので」


 その言葉は店長達を護る為のモノであると、帽子の男は気迫で伝えて来る。

 それでは、と帽子のツバを押さえつつ軽く会釈して男は出て行った。


「……な、なんなんだ?」


 自分には想像もつかない強大な何かが動いていると感じつつも、その手に残された名刺だけが、これ以上はあの老人に関わるなと警告していた。

店長とバイトはこの後、同じ手を使って鬼灯先輩を嵌めようとしましたが、国尾と真鍋に肉体的にも社会的にも制裁されました。

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