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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第655話 私達は止まらないわ

『本日の文化祭は終了です。片付けを済ませた各クラスの生徒は担任の先生に報告後、帰宅してください』


 生徒会副会長である辻丘によるその放送が鳴る頃には生徒達は校舎から出て行く所だった。


「よう、佐久真。お仕事お疲れさん」

「ああ、ありがとう」


 風紀委員長の佐久真は腕章を外して仕舞いながら、帰りの支度を整えると鞄を持った所でクラスメイトから声をかけられた。


「これから文化祭の打ち上げに行くんだけどよ。お前も来るよな?」

「誘ってくれるのは嬉しいが……俺は風紀委員の仕事ばかりで、店はあまり手伝えなかった。文化祭の話題にはあまりついて行けないんだが……」

「いやいや。そんな事はねぇよ。なぁ? 皆」


 と、クラスメイトの後ろにズラッと集まる男子生徒は、うんうん、と頷く。


「それに明日が最終日だろう? 別に打ち上げは明日でも良くないか?」

「佐久真君よ~、俺達には早めにお前と話さなきゃ行けない事があるんだ」

「ここでは駄目か?」

「ああ。男の友情を深める意味でもカラオケにでも行って話そうや」

「別に構わんが……俺は校歌と君が代しか歌えんぞ?」

「それはそれで面白い気もするが……とにかく行こうぜ」


 佐久真がクラスの男子に連行される様を、あっ、と見ていた暮石は声を上げる。


 京平君、行っちゃった……。

 しまったなぁ。一緒に帰ろうって先に約束してれば良かった。良くも悪くも、彼にとっては約束毎を飛ばす真似はしない。今からでもダメ元でLINEに連絡してみようかなぁ……


「暮石さん」


 そんな暮石にもクラスメイトから声がかかる。ズラッと並ぶ女子軍団だ。


「どうしたの? 皆。あ、私が家庭科室を占領した件……本当にごめんね」


 暮石は自分が家庭科室に私情で立て籠った件で迷惑をかけたと考えた。


「アレは気にしてないわ。寧ろ、完璧なサポートで仕事はしやすかった部類だし。ね?」


 後ろの女子達もその意見にウンウンと頷く。


「今回はね、打ち上げに行こうかと思ってね。暮石さんも一緒にどう?」

「え? あ……うん。良いけど……」


 ちらっと佐久真を見るが、こちらには気にかける様子無く男子の群れと共に教室を出て行った。


「暮石さん」

「ん? あ、ごめん。行こう――」

「詳しく聞かせてね? 佐久真君とのLOVEを!」


 その言葉にクラスメイト達の眼が光った。それは飢えた狼が生肉を見つけた時のモノに近い。

 あ、これ……ヤバいヤツだ。


「あー! 私、やっぱり今日は! 無理ーだったかもー」

「暮石さん」


 両脇を他のクラスメイトにがっちり抑えられる。


「例え、この場に総理大臣が来ても私達は止まらないわ。うふふ」

「わーん」


 死ぬほど恥ずかしい事を聞かれると察した暮石は半泣きのままファミレスへ連行された。






「ふむ。ふむふむ。多くの者達の事情がこの日の文化祭では動いた様だ。基本的には最終日に起こるラッシュアワーだと僕は思っていたのだがね。君達はどう思う?」

「人のクラスの前で待ち伏せして、唐突になんだ?」

「……」


 大宮司と鬼灯は鞄を持ってクラスを出ると、やぁ、と待ち構えていた本郷を見る。


「連れないなぁ。校門を出るまで話をしたいと思うのは君にとって悪い事なのかい?」

「やれやれ」

「占い部はお客さん来たの?」

「それなりにね」


 本郷と論争しても勝てない大宮司は早々に諦め、鬼灯は文化祭での成果を尋ねる。

 三人は下駄箱を目指しつつ会話を始めた。


「やはり、人間とは面白いモノだね。多くの交わりがあればある程、周りに与える雰囲気は変わってくる様だ」

「そりゃあな」

「そうかしら?」

「そうだとも、鬼灯君。君も彼氏と出会ってから普段とは違う日々を感じてたりはしないのかい?」

「しないわ」

「無機質に即答かよ……」


 ノリ……鬼灯は相当曲者だぞ。


「ふふ。いやいや、鬼灯君は変わったよ。より親しみ易い方にね」

「自覚は無いわ」

「自分では中々気づけないからね。大宮司君もそうだよ?」

「……俺もか?」

「うん。立ち方にちょっとグラつきがある。意を決した決断に対して心は受け止めても身体はそうは行ってないみたいだね」

「なんでそんな事がわかるんだよ……」


 本郷には自分でさえ気づけない部分も隅から隅まで見透かされそうだと、大宮司はげんなりする。


「仕方の無い事さ。それでも大きくブレ無いのは大宮司君の持つ“強さ”なのかもね。実に羨ましいよ」

「本郷に羨ましがられる要素は何も無いんだが?」

「ふふ。僕も下段突きでコンクリートを砕きたいのさ。しかし、残念ながら。筋肉が付きづらい体質の僕には儚い夢だけどね」


 だから人を見極める眼を育てたのさ、と本郷は語る。

 お前にフィジカルまで乗ったら手がつけられねぇよ、と大宮司は心の中で突っ込みを入れた。


「もしも、僕に君と同じくらいの腕っぷしがあったら、君を助けられたかな?」

「……心配してくれた人は皆そう言う。いや……言ってくれる」


 祖父、父、母、弟、姉弟子、親友。誰もが口を揃えて、何で助けを求めなかった? と事が終わってから咎められた。


「私は言わなかったわ」

「そりゃ……鬼灯は完全に無関係だからな」


 謹慎中にノートを貸して貰わなければ鬼灯との接点は殆んど無いままに学生生活は過ぎ去っていただろう。


「だから、今度は抱えすぎない様にしてる。今日はその一歩だ」

「ダメージは思ったよりも大きそうだけどね」

「望んだ結果からズレたら誰だってこうなるだろ……」


 下駄箱にたどり着いた三人は靴を履き替える。


「唐突に正直を言うとね、大宮司君。僕は君が羨ましい」

「本当に唐突だな。けどな、身体能力の事ならあんまり気にしなくていいぞ」

「ほぅ。何故だい?」


 靴を履き替えた大宮司を本郷は見る。


「世の中には俺なんかよりも、力も弱くて体格も小さくても、一つの事に対して決して曲げずに貫き通す人が沢山いるからな」

「そうかしら?」

「鬼灯……お前もその内の一人だよ」

「ありがとう」


 と、靴を履き替えた鬼灯はピロンと鳴ったLINEを見る。


「ごめんなさい。先に行くわ」


 そう行って、二人の返答を聞かずに少し走り出すと、校門を前に違う高校の男子生徒へ駆け寄った。


“来たの?”

“腹痛ぇって早退した”

“ケイさんにまた怒られるわよ”

“姉貴よりもお前の方が優先さ。それで、お姉さんとはどうだった?”

“結果はLINEで伝えるつもりだったわ”

“とか言って。小走りに来るくらいだ。俺が来て嬉しかったんじゃない?”

“ええ。嬉しかったわ”

“正直なのは良いが……相変わらず淡々とトーンが変わんねぇな……”

“そうかしら?”


 他の生徒が注目する中、鬼灯を迎えに来た“彼氏”は大宮司に、じゃあな、とアイコンタクトを送って共に帰って行った。


「皆の疑問が一気に解けたね」


 鬼灯に彼氏が、いる? いない? ここ数日に上がった学校の話題の一つが今判明した。


 鬼灯未来に彼氏は居る。

 金髪の不良じみたチャラ男。

女子高校生にとって同級生のラブは格好の餌

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