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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第654話 これでオレ達の物語は終わり

「アドバイス」


 そう言って、本郷ちゃんはオレに一つの鍵をくれた。それは旧校舎の屋上の鍵であり、何かを話すなら絶好な場所らしい。


 正直、どの辺が“アドバイス”なのかは不明だが、本来やるべき事が出来る最後の機会をもらったと解釈した。


 オレは制服姿のリンカに、行ってみようか? と、旧校舎の屋上へやってきたのである。


「流石にボロいなぁ」


 なんか、立ち入り禁止な雰囲気を受ける旧校舎の屋上は、いかにも“廃れた”と言う感じだ。フェンスはあるが錆びが目立つ。


「……こっちからは町が見えるぞ」

「ホント?」


 リンカが本校舎とは反対側を見ていたのでオレもそっちの景色を見る。

 JRや高い建物によって阻まれる人工的な地平線は、夕焼けに反射してオレンジ色に輝いていた。


「あ、サマーちゃんだ」

「どこ?」

「ほら、あそこ」


 テツがジャック・オー・ランタンの被り物を持って、コソコソしてるサマーちゃんと合流していた。何やってんだろ?

 すると、エイさんが角から出てきて、サマーちゃんを見ると鬼ごっこが始まる。


 あの二人、接触したのか。エイさんは珍しいモノが本当に好きだからなぁ。サマーちゃんは見た目も珍しいし、接触すれば絶対にああなると思っていた。


「あれ、逃げ切れるかな?」

「ふむ」


 仕方ない。オレは最後のイエローを切る。ママさんチームのLINEに『イエローカードを掲げたユニコ君』のスタンプを送った。


 三枚目は強制帰宅。エイさんはそれを見て、近くにオレが居ないか探してる。ふっふっふ。流石にここから見てるとは――


「! しゃがめ!」

「うぉ!?」


 リンカが咄嗟に引っ張ってくれたおかげで、こちらに視線を向けたエイさんに発見されずに済んだ。あの人、こっちを視認しようとしたよ……どんだけセンサー広いんだ。


『ケンゴ。どこから見ている!?』


 LINEにエイさんからの返信。


『イエロー三枚ですよ。もう帰りましょう』

『おのれっ!』


 リンカとそっと顔半分を出して確認すると、エイさんはスマホを仕舞って駅へ歩いて行った。少し離れた曲がり角で息を切らしたサマーちゃんは改めてテツと合流していた。


「何とか逃げ切れたみたいだ」

「ふふふ……」


 と、リンカが笑う。あらやだ。お兄さんに笑えるポイントがあったかしら?


「なんか……こうしてると一緒に通ってるみたいだな」


 そう言うとリンカは立ち上がりくるっと回る。制服のスカートがふわりと浮かぶがパンツはギリギリ見えない。これが鋼鉄のスカートと言うヤツか……


「どうだ?」

「え?」


 唐突なリンカの質問の意図が読めないオレは間抜けに聞き返す。


「……どこ見てたんだ?」

「…………スカート」

「正直は損だな? おい」

「ううう」


 そんな魅力的に舞ったら視線はそっちに行くでしょうよ! オレだって男だもん……


「……あたしの制服どう見える?」


 その質問は昔、彼女が中学の制服を見せに来た時と同じ仕草だった。オレは当然、


「可愛いよ。凄く似合ってる」

「ありがと」


 リンカは覗き込む様に笑う。オレも釣られて微笑んだ。


「もしさ」

「なに?」

「こうやって、二人で学校で出会えるくらい、距離が近かったらあたし達はどうなってただろう?」

「……多分だけど、リンカちゃんは別の誰かを好きになってたんじゃないかな?」


 リンカとの関係がここまで親身になれたのは、オレが社会人で責任を負える立場だったからだ。そして、タイミング的にも心の支えのなかったリンカが安心して寄り添える相手がオレしか居なかったと言う事もあるだろう。


「多分違うと思う」


 しかし、リンカは否定した。


「ただの吊り橋効果だったら、苦しくなる程に好きにはならないよ」


 夕焼けに彩られる彼女は真実のように語る。


「きっと、どんな形でも貴方は変わらない。だからあたしはそんな貴方を見つけて好きになってたと思う」

「……そうかな?」

「ああ。そうだぞ。絶対な」


 腰に手を当てて、いい加減自覚しろ、とリンカは呆れた。


「それで、先輩」


 先輩。リンカの中では今のオレは先輩設定らしい。


「あたしに、言いたい事はありませんか?」






 リンカのその言葉にオレは自然に立ち上がっていた。そうする事が当然の様に、これがずっと昔から決められていた様に……


「君の隣をずっと一緒に歩いて行きたい」


 オレの口は躊躇う事も迷いも無く、その言葉を彼女へ告げる。

 きっと……相手の心が解ってるからだ。

 遠ざかっても、切ろうとしても、こうして交わる未来に辿り着くと、心と心で繋がっていると理解しているからその告白は何の緊張もなく当然の様に伝える事が出来たのだ。


「…………」

「リンカちゃん?」


 しかし、告白を受けたリンカは眼を伏せて、次にはポロポロと泣き出す。


「!? リンカちゃん!?」


 な、なんだとぉ!? な、泣いた……何故……? オレはまた間違ってしまったのか!? 何を間違ったんや!?


「あ、い、いや……悲しいとか……じゃないんだ……ただ……」

「ただ?」

「なんか……凄く嬉しくてさ……嬉しすぎて……涙が止まらな――」


 オレは彼女を抱きしめる。可愛いからと言う理由じゃない。リンカが泣いている時、一番落ち着く行動を反射的にとったのだ。


「そう言う……行動を取ると……捕まるぞ?」

「君が泣き止むならそれでもいいよ」

「ふふ……あはは……本当にお前は――」


 リンカも抱きしめ返し、


「ばか、だな」

「そんなオレを好きになったクセに」

「……うん。あたしも……そんな貴方が世界の誰よりも好き」






 こうして、オレとリンカは恋人になった。

 文面に表すと一行で事足りるが、この一歩は本当に長かったと思う。

 オレや法律の問題があったけど、まぁリンカが成人するまではなるべく隠そうって事になった。

 ポリスさんの手を煩わせたくないからね!


 とにもかくにも、これでオレ達の物語は終わり――でも無いんだよなぁ。

 まさか……あんな事になるなんて、この時は全然思ってなかったよ。マジでさ。


 だから結果的なハッピーエンドはもう少し後になる。

 いや、ビターエンドかな。少なくとも、バッドエンドではない。皆のおかげでね。

まだ続くよ!

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