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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第651話 神様気取りのクソ野郎じゃ!

「サマーさんは世界の仕組みを知ってるかい?」

「何を言っとるんじゃ?」


 サマーが本郷と対局を始めて盤面は序盤の駒配置から中盤。

 先手のサマーは相手の王を討ち取る為に、攻めの配置を完了させ、本郷は相手の攻撃を受けきる為の配置を完了させた。


 歩以外の駒が隅に寄る。互いに少しだけ持ち駒を抱える程度の小競り合いはあったものの、これから本格的にぶつかろうと言う所で本郷がその様な言葉を口にしたのだ。


「簡単な事さ。将棋(コレ)もその答えの一つだよ」

「このボードゲームがか?」


 パチンッ、とサマーが開戦(はじまり)の一手を打つ。歩の前進。コレを本郷が取ると雪崩れる様に駒の取り合いが始まるのだ。

 本郷は、スッと突き出た歩を取ると、自分の歩をその位置に打った。


「色々な方向に動く駒は人間の個性に似ている」

「それならば、チェスも同じと言えよう」


 その歩をサマーは桂馬で取った。


「そうだね。リバーシも五目ならべも、トランプでさえ、同じだ。バラバラの能力。数字。意味。まるで僕たちみたいじゃない?」


 その桂馬を避ける様に、かかっている駒を本郷は動かす。その空いた位置へサマーはノータイムで香車を打つ。


「随分と楽しそうな人生じゃな!」

「単純で決められた動きしか出来ないルールの中で、複雑に絡み合って僕たちの予想できない未来を作り出す」


 本郷は避けた駒を戻して香車を取る。


「ボードゲームは人間が作った“世界”だ。そして、プレイヤーが対戦を行う度に創造されていく。だから――」


 サマーは桂馬で香車を取った駒を取り、成る。


「この局面(世界)を見れば(プレイヤー)の心象が手に取る様に解るんだ」


 本郷の言葉にサマーは天井から見下ろされている様に感じた。

 コイツ……

 サマーはその雰囲気を感じた事がある。


「サマーさん。僕についてきてくれると嬉しいな」

「……上等じゃ! お主みたいなヤツをぶっ飛ばしたいと常々思っておった所じゃ!」






 本郷ちゃんの中二病みたいな言い回しにサマーちゃんは何かを感じ取った様に局面を進める。

 取って取られて、開いた隙間に駒がかかる。

 持ち時間の指定は無い。しかし、二人はノータイムの指し手が止まらない。これは……互いの“読み”が、かみ合っているのか? 素人目には全くわかんねぇ。

 そして、


「さて――」


 サマーちゃんの攻めが切れた。本郷ちゃんの王を詰まし切れなかったのである。

 盤面はスカスカだが、互いに持ち駒は相当な量だ。ここからはあらゆる場所に駒を打つ事が出来る為、臨機応変な“読み”が必要になる。

 次に攻めるのは本郷ちゃんの方だ。


「詰ませる事は出来た」


 駒を打とうとした本郷ちゃんの手がサマーちゃんの言葉に止まる。


「じゃが……それで、勝てるような相手じゃない」

「…………ふふ。君は誰を見ているんだい?」


 サマーちゃんの視線は本郷ちゃんに向いているのだが、意識は別の誰かに重ねている様だった。


「サモン・フリーデン」


 サマーちゃんが個人名を口にする。サモン……あれ? どっかで聞いた事があるぞ……


「君がそれ程に熱を上げるのなら、さぞ有名な傑物なのだね」


 本郷ちゃんが王手をかける様に角を打つ。


「奴は傑物などではない」


 サマーちゃんがそれを防ぐように経路に駒を置いた。


「神様気取りのクソ野郎じゃ!」






「くそ~」


 サマーは机に伏す様に悔しがっていた。


「ふぅ……いやはや。これは、危なかったよ」


 詰み。サマーは的確に受け続けたものの、搦め手を混ぜた本郷の多彩な攻めに僅かな刺し傷を広げられて敗北した。


「うぬぬ……わしの負けじゃ! 無料券を持っていけい!」

「ありがと。能登、もう変な事に使っちゃ駄目だよ?」

「部長~、本当にありがとうございます!」


 大切そうに無料券を抱える能登。気を付けなよ、と本郷が言うと部室を出ていった。


「おのれ……あの時のは搦め手か……くっ。終わってみれば単純な手に……」

「サマーさんは神様気取りの相手と戦う予定があるのかい?」


 本郷は駒を直しながらサマーに問う。


「可能性があると言うだけじゃ。確定ではない」

「君は能力的には劣っていなかったよ。問題は視点だ」

「視点じゃと?」

「人間は基本的には地面しか見えない生き物なんだ。だから、同じ地面に立つ人に触れられるし対応出来る。けど、鳥は違うでしょう?」

「何が言いたい?」

「鳥は地面と空を見てる。だから地面の人間を観察しつつも自分は干渉されない。それが“神様”なら、なおのことだ。鳥にも人間にも干渉されない場所から僕たちを見てる」

「…………」

「同じ視点に立たないと読みも搦め手も通じない。だから読み負けた」

「……神の視点とやらはどんなモノじゃと思う?」

「全部コレだ」


 本郷は箱に直した駒をサマーの前に出す。


「能力だけを見て動ける範囲に動かす。そして、どれだけ犠牲を伴おうとも目的を達成する」

「そんなのは御免じゃな」


 すると、サマーは吐き捨てる様に否定した。


「そうだね。でも、サマーさんが神様に挑むなら一つアドバイス」

「む?」

「神様でも駒の作る“ノイズ”だけは取り除けない。サマーさんなら、その“ノイズ”が何なのか解るんじゃないかな?」

「……まぁ、その“ノイズ”がヤツに一泡吹かせたワケなのじゃがな」


 それでも、ヤツの余裕を絶やす事は出来なかったが、次に現れるなら特大のノイズで顔を歪めてやろうと思っている。






「ナツ、よ! そろそろ帰る、ぞ!」


 漫画部に満足したテツがやってきた。サマーちゃんは席を立つ。


「おお、そうじゃな」

「……」(キョロキョロ)

「どうし、た? 鳳、殿!」

「いや……ガリアさん居るかなーって……」

「ミツは先に引き上げたぞ!」


 サマーちゃんの言葉にオレはほっと一息。そして、


「サマーちゃん。ちょっといい?」


 あるものを差し出した。


「なんじゃ? これは?」

「こ、ここここ、これ、は! 鳳殿! どこでこれを!?」


 差し出したのは『舞鶴琴音のCD』である。野球部の野村君(兄)との約束だ。


「これ、ダビングしてくれない? 色々とプロテクトがかかってるらしいけど」

「随分と古い型番のCDじゃのぅ」

「ナ、ツ! こ、これは! 人類の遺、産! 真っ先に取り組むべき、だ!」


 テツが無茶苦茶食いついてるなぁ。そんなにヤバいなら聴いてみたくなってきた。


「ふむ。まぁ、よかろう。フェニックスには文化祭でも世話になったからのぅ」

「ありがと。三枚ほどコピー出来る?」

「余裕じゃ。出来上がったら連絡するから、取りに来るんじゃぞ?」

「それは勿論」


 これでこっちの問題はオーケーだ。

 サマーちゃんは、またの、とテツと共に去って行った。


「それじゃ、鳳さん」


 部室にはオレと本郷ちゃんが二人きり。


「君を占うよ。席に座って」


 逆光の中、影になった本郷ちゃんが微笑む。

 これまで、常人を越える彼女の能力を見てきた。今の彼女の雰囲気はまるで魔王。コイツは……期待できるな!


「じゃあ、占って貰おうか!」


 取りあえず……これからの女難からね……

命にかかわるので

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