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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第639話 シャーク!

「全く……どこに行ったんだよ」

「LINEも出ないわね」


 リンカとヒカリは、一通り出店で食べ物を調達すると、うぉぉぉぉ! と逃亡したケンゴを探してウロウロしていた。

 学校の敷地内の事は自分達の方が良く知っている。走り去った方向からどの辺りに行くのかを推測して探しているが中々見つからない。


「相変わらず動きに予想がつかないわね(もぐもぐ)」


 ヒカリは流石にお腹が空いた為に、たこ焼きを食べながら歩いていた。


「ヒカリ、食べ歩きは良くないよ」

「って言ってもさ。そろそろ私達は休憩終わりだから。ちょっと無理してでも食べてないと」


 メイド服の締め付けで、あまり食べられないが流石に何も食べずに午後からを過ごすのは厳しい。


「ホント、ケン兄と一緒に居るだけで退屈しないわ」

「……折角、時間が取れたのになぁ」


 残りの時間的にもヒカリとリンカは外からの来客者が帰るまで休憩は無い。すると、ヒカリは持ってる食べ物をリンカへ渡す。


「リン、これケン兄と食べて。私は先に戻るわ」

「じゃあ、あたしも――」

「リンの事は適当に誤魔化しとくから。もうちょっとだけケン兄を探しなよ」


 はい、とヒカリはリンカの落とした猫耳を手渡す。

 今しか無い特別な時間だ。ソレを察してのヒカリの気使いにリンカは感謝した。


「ありがと」

「別にいいって。二人きりだとキスするんでしょ? にゃんにゃんにゃんって。お邪魔虫は退っ散ー」

「ちょっと!」

「あはは」


 じゃあね。とヒカリは手を上げて一足先に店へ戻る。


「やれやれ。(リン)(ダイキ)の両方の事を気にかけないといけない次女(わたし)は損な役回りですなぁ」


 そう思いつつも、三人のこの距離がとても心地よくて、上機嫌に去って行った。


「まったく……」


 去るヒカリの背中を呆れて見送る。

 気を使わせてしまったか。昔はこちらが気を使ってばかりだったのに、いつの間にか立場が逆転している。

 いや……そうじゃなくて、彼との関係だけは――


「……迷惑をかけっぱなしだなぁ」


 そこへ、


「ふむ……中々に乙なモノじゃのぅ。校舎と言うモノは!」

「ナツ、よ! これが学校、だ! 通いたくない、か?」

「そんな必要は無かろう!」


 癖のある口調は聞き覚えがある。そう感じていると、角からサマーとテツが現れた。


「むっ! JK!」

「あん? ここにもメイドがおる。デリバリーのサービスかのぅ?」

「こんにちは、テツさん」


 リンカはテツにペコリと挨拶をする。サマーは良く見ると彼女がリンカである事を思い出した。


「ほう。居るとは思っとったが……鮫島凛香じゃな? ようやく会えたのぅ」

「えっ? ……君とどこかで会った?」


 年下のサマーに尋ねる。見た目や言動がここまで特徴的なら忘れないと思うけどなぁ。


「フェニックスから聞いておる! 彼奴の隣に住む巨乳JKよ!」


 フェニックスって彼の事かな? 多分そうだ。それよりも……


「あはは……あんまり“巨乳JK”って言わないで欲しいかな。恥ずかしいし」

「人によっては誇らしい特徴であると言うが……まぁ、そう言うことならば解った! わしはサマー・ラインホルトじゃ!」

「よろしく、サマーさん」

「うむ。末長くのぅ、シャーク!」


 改めて変な呼び名にリンカは苦笑いをするが、“巨乳JK”よりはマシなので素直に受け入れる。


「それにしても……シャークよ。お主も母親のDNAを濃く受け継いどるのぅ」

「え? お母――母に会ったの?」

「ショウコの件で少しばかりな……おかげで巨乳に両手を広げて迫られるのが若干トラウマじゃ!」

「羨ましきトラウ、マ!」


 テツがリアクションをする。

 お母さん……小さい子が好きだもんなぁ。特にサマーさんはオッドアイに空色の長髪って奇抜な見た目だけど、母の射程圏内だし。ん?


「……そのヘアピン」

「む? おお。忘れとった!」


 リンカは彼が持ち歩いているヘアピンに気がつく。サマーは前髪を分けているヘアピンを取った。


「フェニックスに返し忘れたのじゃ。シャークから渡しといてくれるかのぅ?」

「……いやこれは、サマーさんにあげたんだと思うよ」

「なに?」

「100均で買えるモノだけど、サマーさんに必要なモノだから。彼ならそのまま使ってて良いよって言うと思う」

「そうか。そう言うことならば貰っておこう!」


 と、サマーは改めて前髪につけ直すが上手く行かない。リンカは手荷物を置くと苦戦するサマーの前髪に上手くピンを着けてあげた。


「はい」

「世話をかけた!」

「ふふ。どういたしまして」

「微笑まし、い! 尊味っ!」


 テツがジョ○ョ立ちで天を仰ぐ。


「シャークよ」


 サマーは名刺を渡す。背景にカボチャがありハロウィンを模した可愛らしいデザインだ。


「困った事があるならいつでも連絡せい!」

「あはは。ありがとう」


 どうやらオリジナルの名刺を作って渡すのが彼女のマイブームらしい。


「それじゃあの」

「また会お、う!」

「文化祭、楽しんでね」


 そう言って二人へ手を振って見送った。

 本当に彼はあたしの知らない交友関係が多いなぁ。


 その時、足元に暖かい毛皮の感覚。視線を下に向けると、


「ジャック。また侵入したの?」


 アパートの大家さんである赤羽さんの飼い猫のジャック(♀)が、ふんふん、とリンカの置いた食べ物に鼻を鳴らしていた。


「あ、これはダメだよ」


 明らかに狙ってる様子だったので咄嗟に持ち上げて遠ざける。すると、ジャックは顔の向きを変えるとトコトコ歩く。


 ジャックは前から良く校内で見かけるけど、誰かが餌でもやってるのかな?


 そんな事を思いつつ微笑ましく見ていると、一つの木の前で止まりリンカに振り返り、にゃあ、と鳴いて幹をカリカリし始めた。


「?」


 明らかに何かを伝えたい様子に木に近づく。そしてジャックと上を見上げると、


「うぅ……なんて事だ……まさか……アレか? アレの事もショウコさん話しちゃった? ヤッベーよ。本格的にガリアさんと和解しないとマジで街を歩けねぇ……」


 ケンゴが居た。それは校内でも結構大きめな木で、大人一人は隠れるくらいの枝葉が生い茂っている為、気づかなかったのだ。


 こんなところに……まったく――


「おい」

「うへっ!」


 リンカが声をかけると、ケンゴはコントの様に驚いて木から落ちる。


「! 大丈夫か――」

「ご、ごめんなさいっ! 一昨日、説明に行った時……帰る前にショウコさんとキスしました! 多分、三回目か四回目……だと思いますぅ! もう隠してる事はありませぇん! 命ばかりはお助けをぉ!」

「…………」


 ガリアに見つかったと感じたケンゴは反応が無い様子に顔を上げる。


「お助け……ひょっ!? リ、リ、リィンカちゃぁん!?」

「おい、今の話を聞かせろよ」


 ジャックはケンゴの居た場所を取り返したように満足しつつ、そこに丸まってお昼寝を始めた。

命ばかりは助けてほしかった

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