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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第628話 ジャスティスマン

「ようこそ、我が高校へ。是非とも歓迎するよ、新入生諸君。この三年間、忘れられない青春と共に過ごして行こうじゃないか!」


 お前も新入生だろうが。

 入学式の新入生代表挨拶にて、檀上に立った本郷元親は皆から心の中でそう突っ込まれた。

 それから、彼女が理事長の孫娘と言う話は瞬く間に広がり、その猫のような奔放ぶりは先生でも手を焼いた程だ。

 本郷は必然と生徒会に入るのだと思っていたが、どういう風の吹回しか、風紀委員会に入った事は誰しもが“意外”の二文字を頭に浮かべただろう。


 そんな本郷の事だ。突拍子もなく変な事を言うのはいつもの事と、割りきるのが当たり前の対応である。


「なんの告白だよ」

「僕は、誰かを助けようとする時は躊躇わないのに、自分の事になると尻込みする生徒に単語を並べて尋ねただけだよ?」


 そう言いつつ、ミニバームクーヘンを袋から出すとコーヒーと共に食べ始める。


「……余計な世話だ」

「時間が無いのは三年生は誰もが共通だ。同級生ならば外でも会う事があるだろう。しかし、歳が違う年代との再会率はそれほど高くない。未練は学校に置いていくことをお薦めするよ。その為の学舎だ」

「…………」


 本郷の言葉に対して、大宮司は完全に否定出来ない故に、言葉を閉じる事しか出来なかった。


「おやおや。しかも、良い感じに今は文化祭だ。中々のタイミングだね。君もそう思わないかい?」

「……本郷」

「ん?」

「お前とは誰もが距離を取りたいだろうよ」

「光栄だね」

「ったく……」


 否定も肯定もせず、大宮司は呆れて給仕室へ引っ込んだ。


 昨日もチャンスはいくらでもあった。ほんの少しだけ、二人きりになる様に頼めば良いだけの事。それから告白……するのか?

 呼び出しと告白。こんなモノ、呼び出した時点で察されてしまうではないか。いや……そもそも呼び出す事自体、俺にとっては中々のハードルだ。それに……


「……呼び出すのはナシだな」


 俺から彼女に何かを頼む事は絶対にしないと決めている。

 ……この気持ちは鮫島と向き合って、きちんと確認しなければならない。


「すみません」

「あ、はい。いらっ――」


 本郷に揺さぶられた心を整えて、給仕室を出た大宮司は、馴れてきた接客に自然とスマイルで、現れた来客を見て固まった。


「こんにちは、大宮司先輩。すみません。本日はお客として来たんじゃなくて……先輩?」

「良く来たね、鮫島君。ささ、こっちに」


 目の前に現れたリンカの対応を内部OSが見当している大宮司の後ろから、本郷が微笑ましく手招きする。


「あ、それじゃ……失礼しますね、先輩」

「お……あぁ……」


 何とか返事をする大宮司の横をリンカは抜けて本郷の側に寄った。


「どうぞ、席は僕の前が空いてるよ」

「鮫島さん。注文は?」


 本郷の微笑みとAIロボットの様に現れた鬼灯の二人にリンカは手を前に出して事情を説明する。


「さっきも言いましたけど、今日はお客さんじゃなくて、ちょっと電子ケトルを借りに来たんです。クラスのヤツが一つ壊れちゃいまして。職員室に行ったらここに貸し出したと」

「そう。タイミングが悪かったわ。『湯沸かしっ子(大口タイプ)』は今、家庭科室にあるの」

「え?」

「さっき『制服喫茶』に来るとき暮石君とすれ違ったが、彼女が抱えていたよ。多分、『偉人カフェ』にて働いているだろう」


 本郷の情報から本命は二年生のクラスにあるようだ。


「そうでしたか。それでは、二年生の所に行ってみます」

「しかし、一年生の君が行っても下手をすれば門前払いを食らうかもしれない」

「そんなに、あっちも忙しいんでしょうか?」

「『偉人カフェ』は家庭科室が隣接しているけど、楽したいのは皆同じさ。そこでだ」


 本郷はせっせとテーブルを拭いている大宮司に視線を向ける。リンカと対面した事による彼の動揺を見逃すワケがない。


「彼と共に行きたまえ。きっと、力になってくれるだろう」


 テーブルを拭くフリをしつつ、リンカの動向を気にしていた大宮司は、びくっ、と大きな身体を反応させた。


「でも悪いですよ。大宮司先輩も店の事がありますし……」

「なに、今の店の状況を見たまえ。見事な閑古鳥だ。10分ほど離れた所で支障はないさ」


 お前のせいだろうが……と大宮司は思ったが聞こえていないフリで忙しいのでツッコミは入れない。


「けど……」

「ふむ、それでは当人に聞こう。ちょっと、ウェイトレスさーん。そこの、テーブルクロスを磨り減らそうにしている君だよ」


 大宮司は少し恨めしく本郷に視線を向けた。


「……なんでしょう、お客様」

「彼女は凄く困っている。手を貸してやってくれないかい? ジャスティスマン」

「誰がジャスティスマンだ」

「今、君は暇だろう?」

「それを……判断するのは鬼灯だ。お前じゃない」

「暇よ」

「…………」

「おっと、店長の許しが出たね。そして、困ってる子がいるんだけど?」


 大宮司はリンカを見る。すると、リンカは申し訳無さそうに、


「あ、大宮司先輩。大丈夫です。無理に付き合ってくれなくても……何とかしますから!」


 ふんす、と腕を持ち上げて、何でもないアピールをするリンカ。目の前の三女子の中でメイド服に強調された胸が揺れた。


「ふむ、彼女は目立つね(・・・・)。きっと、その目立つモノ(・・・・・)を見れば二年生は快く『湯沸かしっ子(大口タイプ)』を渡してくれるだろう」

「?」

「…………」


 本郷の発言を理解していないリンカ。対して大宮司は理解していた。


「それじゃ、あたしは失礼します。時間を取らせてすみませんでした」

「さ、鮫島!」


 思わず、大宮司は呼び止める。この時点で本郷が背後で笑っている気がして、ハッ、とするが出した手は引っ込められない。


「……俺も一緒に行ってもいいか? 本郷の言った通り暇だし。その方がスムーズに行くと思う」


 大宮司の申し出にリンカは嬉しそうに微笑む。


「ありがとうございます! 大宮司先輩が来てくれるなら百人力です!」

「彼は本当に百人力だからねぇ」

「本郷……お前は俺が帰るまでに店から出てろよ」

『湯沸かしっ子(大口タイプ)』

定価3300円(税抜き)

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