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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第627話 君は告白しないのかい?

 リンカが二人を見つける十数分前――


「まずは職員室」


 代わりの電気ケトルを求めてリンカは最初に職員室へ足を運んだ。たま職員室に用事がある時に電気ケトルを見たことがあったからだ。


「すみませーん」


 と、開きっぱなしの扉を覗く様に挨拶をすると黒い壁が目の前にあった。


「壁?」

「シツレイ。キュートガール」

「うわ!?」


 それは壁でなくガリアだった。二メートルを越える長身は扉の枠より上に顔がある。

 リンカは少し驚いて下がった。


 神父だ……。水間さんの言ってた事は半分聞き流していたが、ホントに居た。これ、ホントのホントに神父なのだろうか? コスプレとかじゃないの?

 道を開けると、センキュー、と少し屈んで扉の枠を抜けて外に出てくる。その後ろには意気消沈した二人の大学生らしき男がいた。

 彼らも、水間さんの話にあった迷惑YouTuberの二人だろう。


「ウォーク」

「はい……」

「はい……」

「ん? 鮫島か。どうした?」


 その三人の後ろから寺井がリンカに気づいて声をかけてくる。


「寺井先生。これって……どう言う状況ですか?」


 ガリアの後に続く二人は、これから断頭台へ連行される様に物静かだった。


「あの二人は強制退去する。色々と面倒なことになりそうだったが、ガリアさんが一通りを引き受けてくれるとの事だ」

「ガリアさん……って、今の神父さんの事ですか?」

「ああ。あの二人はYouTuberでもあるらしくてな。今回の件を警察沙汰にしない事を条件にチャンネルの削除を取り決めた」

「でも、それって……この場だけの言い逃れになりません?」

「そのあたりはガリアさんが手を回してくれるそうだ。だから、喫茶店の面々には今回の件は気にする必要はないと伝えて貰えるか?」

「わかりました」


 ヒカリがある程度はデータを削除したらしいが、最近のデータと言うモノはそれだけでは完全には消えない。そこを徹底的にやってくれるなら、ありがたい話だ。


「それで、鮫島は職員室に何のようだ?」

「あ、電子ケトルを借りたいんです。クラスのが壊れちゃいまして」

「そうなのか。悪いが、職員室のケトルは今、三年生のクラスに貸し出してる」

「あ、そうだったんですか」


 一応、予想の範囲内だ。


「二階の家庭科室にも幾つかあったと思うが、二年生が過剰に使ってるなら貸して貰いなさい」

「わかりました」


 新たな情報をゲットし、取りあえず二階の家庭科室へ向かう事にした。






「やぁ、どうも。お客さんだよ」


 ニコニコと王子風の笑みが素敵な三年女子生徒――本郷元親(ほんごうもとちか)は他クラスの『制服喫茶』に顔を出す。

 扉の近くに居た大宮司が対応した。


「本郷か。空いてる席は一番奥になるが、それでも良いか?」

「おっと。同級生とはいえ、お客さんに対してその言葉使いはよくないんじゃないかな?」

「……お客様、奥の席が空いておられますが、そちらで宜しいでしょうか?」

「うむ。苦しゅうない」


 大宮司の対応に本郷は満足げすると中に入り、奥の席に座った。

 その背中に、面倒な客が来たな、と大宮司は嘆息を吐く。


「お客様。ご注文は?」

「ああ、もう敬語は良いよ。僕は満足したからね」

「なんだよ、そりゃ」


 ふふーん。と微笑む本郷の笑顔に裏があると感じつつ大宮司は呆れる。

 猫の様に掴み所がなく、先の予測できない彼女をコントロールのは至難の技だ。

 主導権を彼女に渡した方がスムーズに進むのが本郷との基本的な関わり方である。


「コーヒーを一つ。後、ケーキも」

「ケーキは無い。バームクーヘンの小さいヤツならある」

「じゃあ、それで」


 すぐ、持ってくる。と大宮司は注文された品の準備へ。その様も本郷は楽しそうに見ていた。


「ふむ。実に苦戦しているようだ。そう思わないかい? 鬼灯さん」

「何の事かしら?」


 近くのテーブルを拭いていた鬼灯に本郷は話し掛ける。

 その様子を見ていた客orクラスメイトは少しだけ二人の会話に興味が出る。


 『風紀王子』。それが本郷が裏で呼ばれている異名である。普段の言動と不思議な雰囲気から知れずとそう呼ばれる様になっていた。

 同時に全校生徒のあらゆる情報を持つとも言われ、風紀委員長をやっていた時はその情報をチラつかせて秩序を守っていたと言う噂がある。(結構ガチ)


 『図書室の姫』と『風紀王子』。

 二人は三年間クラスは全て別だったので大きなイベント以外では殆んど関わりが無い。

 故に二人の会話はどんな化学反応が起こるのか。


「君は最近、男子と付き合い始めたと聞いている。その視点から見て、彼はどう見えるかい?」

「本郷さん。貴女の言いたいことは、回りくどくて良くわからないわ」

「おっと、ごめんよ。人の反応を楽しむのは昔からの癖なんだ」

「そう」


 鬼灯はテーブルを拭き終わると、給仕室へ引っ込む。本郷も特に追言する事無く、ニコニコしながら見送った。


 え? 終わり?


「え? 終わり? と、言いたげだね。諸君」


 心を完全に読まれた周囲は、ギクッ、と反応する。


「僕も君たちの事は良く知っている(・・・・・・・)よ。だから、探られる事は良い気分じゃないと、わかるだろう?」


“…………”


 すいません、お会計ー。

 休憩行ってくるわー。


 等と、ニコニコする本郷から可能な限り他の生徒は距離を取り始めた。


「お待たせしまし――人が居ないな」


 注文を持ってきた大宮司は、いつの間にか、ガラン、としている店内に何があったのかと本郷を見る。


「さぁね。僕に気を使ってくれたのかな?」


 置かれたコーヒーを手に取ると口に運ぶ。本郷は居ずらい環境を無理やり自分好みに変えてしまう様な人間だ。

 風紀委員長を辞めても、その性質はまるで変わらない。


「やれやれ。ごゆっくり」

「亮くん」

「ん?」


 カチャ、とコーヒーカップを置くと大宮司を呼び止め、


「君は告白しないのかい?」


 と本郷は彼にだけ聞こえる様な声量で問うた。

告白ラッシュ

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