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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第623話 甘いなヒカリ。私はこっちだ

「谷高との交際を認めてください」


 ムキムキの野村君から普通にそんな事を言われた。

 オレは回りに美女とか巨乳がなんか沢山居る(鬼灯先輩やセナさん。親戚ではシズカ)から感覚が少し麻痺してるけど、ヒカリちゃんって雑誌に載るレベルの美少女だったね。


 本の向こう側に居る存在が目の前に居るならお近づきになりたいと言うのは男のサガだ。

 はっ! これが二次元を超越すると言うことなのか!?

 どこかのジョー○ター家当主も逆に考えろと言っていた。


 逆に考えるんだ……二次元に行くんじゃなくて、三次元と二次元の両方に居る存在を愛でれば良いのだと……


「ケン兄……解ってるよね?」


 おっと。ジョース○ー家当主から脳内で導かれて居た所を、現実(ヒカリちゃん)の声に引き戻された。


「野村君、その決定権はオレにはないよ。あるのは、彼女と……彼女のご両親だけだ!」


 オレは言い切る。将来ヒカリちゃんが、どんな人間と付き合おうと、オレは反対しない。寧ろ、彼女が幸せになるなら背中を押しても良いくらいだ。

 無論、ヒカリちゃんがソレを望むのが大前提だが。


「そうだぞ! 雷太! お前は一度谷高にフラられてるだろ! もう野球に集中しろ!」


 野村君(兄)から情報が入りました。

 野村君は一度ヒカリちゃんに告白して玉砕してるらしい。


「兄貴……確かに野球の為にこの肉体はある。しかし、今必要なのは――」


 野村君は自分の胸板をどんっと握り拳で叩く。


「愛だ」

「…………馬鹿野郎!」


 お兄さんはちょっと流されそうになったけど、すぐに正気に戻ったな。


「野村先輩」


 すると、見かねたヒカリちゃんが前に出てきた。


「前に私に野村先輩は約束しましたよね? 甲子園で優勝したら改めて告白するって。それは嘘だったんですか?」


 ちょっと涙目も入りつつヒカリちゃんは野村君に告げる。

 うん。演技だね。この腕前は何人もの告白を断って来て身に付いたんだと思える程にスムーズだ。


「谷高。それは一日たりとも忘れた事はない。その為に山へ入り、火を起こし、素振りし、火を起こし、ちょっと警察に注意されて、家に帰り、キャンプ地に行って、素振りして、筋トレして、ランニングして、今の俺がある」


 野村君、一回ガチ目にやろうとして、強制帰還させられるじゃん。


「肉体は更なる成長を続けている。だが……バットを振っていて気づいたんだ。この状態でマウントに立った時、俺は100%の力を発揮出来るのか? 否! 断じて否である! 精神の未熟は時に肉体の力を半減させる! 故に身体と共に心に必要なモノを置かなければならないと思ったのだ! それが――」

「愛?」

「そうです」


 ラ○ウみたいに指を天に掲げる野村君。心なしか光が降り注いでる気がする。


「谷高。君との約束は忘れていない。しかし、その時の気持ちが薄れているのも事実。だから、直接的な交際はまだでも、君の回りの人達の了承を得て、俺の中に確固たる“愛”をおいて置きたいのだ!」

「……」

「甲子園で優勝した時に、君を何の弊害もなく迎える為に!」


 すげぇ。すげぇぜ。すごい男だ、野村君。思わず挑戦を受けるべきだと思ってしまったよ。それ程の“愛”を求めているとは……

 って言うか、今世代の高校生球児ってヤバいの多くない?


「野村先輩。そんな事は認められません」


 しかし残念。リアリストな側面もあるヒカリちゃんにはその雰囲気は通じない。

 野村君は、天誅! と切り捨てられた様にガクッと膝を落とす。


 そりゃそうだ、馬鹿。と野村君(兄)も呆れて告げる。


「や、谷高。俺は――」

「甲子園で優勝してください」

「必ず勝――」

「甲子園で優勝してください」


 ニッコリ微笑んで同じことを繰り返すヒカリちゃん。あー、この状態のヒカリちゃんはもう駄目だ。哲章さんでも意見を変えさせる事は出来ない。


「だ、駄目なのか……俺の愛は――」

「そんな事は無いぞ! 少年!」

「!!!?」


 そんな声が天から響く。改めて言う。本当に天から響いた(・・・・・)のだ。


「誰だぁ!?」

「空から聞こえたぞぅ!?」

「何者だぁ!?」

「どこに居るぅ!?」

「忍者ぁ!?」

「あれ? この声――」


 動揺する野球部の皆とは別にオレは少し答えに近づく中、ヒカリちゃんは即座に理解した様に、


「ママァ……」


 恨めしそうにそう呟くと、プレハブ部室の屋根に視線を向ける。


「何をやってるの!」


 カッ! とヒカリちゃんが視線を向けた先をオレら全員が見る。しかし、そこにエイさんの姿は無い。

 代わりにオレとリンカの暮らすアパートに放し飼いにされている黒猫のジャックが、くぁ……と欠伸をしていた。あいつ、こんな所まで来るのか。


「甘いなヒカリ。私はこっちだ」


 スゥ……と後ろの壁からエイさんが現れる。音響を完璧にコントロールしてらっしゃる。もう、この人を見つける時は声を頼りには出来ねぇな。

 エイさんは世界で唯一、ヒカリちゃんの意見を変える可能性を持つ御方だ。まぁ、結構、強引な手法であるのだか。


 ちなみにエイさんの出現位置を完璧に外したヒカリちゃんは、ジャックを見つめたまま硬直し、少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 可愛い。

母は強し

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