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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
39章 文化祭編3 姉妹

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第622話 何事だぁ!

 デパートの食品売場は人込みで溢れていた。

 平日でも多いと言うのに、休日になれば限定品の販売や季節に合わせたフェアなどを行う事もあり更に多くなる。

 ふと、ケースにあるケーキに気を取られて足を止めてしまった彼女はいつの間にか母親とはぐれてしまった。


「どうしたの?」


 道の隅に踞る彼女を見つけた女の子が居た。

 同い年で身長も同じくらいのショートヘアーの女の子。その子を見て、彼女は涙目に呟く。


「うう……お母さんとはぐれちゃった」

「はい」


 すると女の子は何の躊躇いもなく、彼女に手を差し伸べた。


「一緒にさがそ。お母さんが見つかるまで、あたしが、ずっと手を繋いでてあげるから」


 その言葉と頼もしい笑みに、彼女は差し出された手を恥ずかしそうに握る。


「あたしね、さめじまりんか!」

「わ、わたし……やたか……ひかり」

「ひかりちゃんって言うんだ。可愛い名前だね! あたしは、りんかでいいよ」

「り、りん……ちゃん?」


 不安そうにそう返すヒカリにリンカは歯を見せて笑う。


「おにいちゃんと一緒にきてるんだ。あ、おーい!」


 手を引かれる彼女にとって、手を引く彼女はとても頼もしかった。


「うぉぉ! リンカちゃん、限定ケーキ買ったよ! セナさんからのミッションコンプリート……ん? その女の子は?」

「ひかりちゃん! ともだちになった!」

「あ……う……」

「あ、ごめんね。怖いよね。お兄さん、少し距離を取るからね。泣かないで。お願い。警察来るから……」

「ひかりちゃん。おにいちゃんはとっても優しいよ! だから大丈夫!」


 それが、彼女達の出会いだった。






 オレはヒカリちゃんに誘われて次なる舞台、野球部の催し物へと足を運んだ。

 ほほう、甲子園に行くだけはあって、専用の投球練習場(ブルペン)が造られているな。そこが祭り会場と言うわけね。


「どうもー」

「らっしゃっい! よく来た――」


 ヒカリちゃんがひょこっと顔を出すと、対応してくれた女子マネっぽい女の子は稲妻が走った様に驚愕する。


「マリー先輩。来ちゃいました」

「お、おおお……谷高……何故来たのぉ!? 無料券! 無料券が足りなかったのね!!」

「「「「殺さないでください!!!!」」」」


 No~と頭を抱えるマリー先輩。そして、スライディング土下座で無料券を献上する四人の野球部員は随分と低姿勢だ。

 彼らの見た目からして、ヒカリちゃんよりも上の学年っぽい。オレはこそっと理由を聞く。


「ヒカリちゃん……何やったのさ」

「ちょっと先輩達の心臓をギュッとね」

「そんな、帯をぎゅっとね、みたいな言い方するような、穏和な感じじゃないけど……」


 ヒカリちゃんってレベルの高い容姿に注目されがちだけど、それ以上に人に対する寄り添い方がとても上手なのだ。

 エイさんの積極性と哲章さんの落ち着きを、まんま足して二で割った感じ。

 まぁ、あの二人に育てられれば抑えられた強かさの中に積極性が作られるのは必然だろう。


「大丈夫です、マリー先輩。約束は護りますよ。今日は売り上げの貢献に」

「ん? あ、ども」


 オレは、ストラックアウトが本当にあるじゃん、と見ていたら紹介されるようにヒカリちゃんから手を掲げられたので、軽く挨拶する。


「鳳健吾です。サラリーマンやってます」

「私の小学生の頃からの知り合いで、よく遊んでくれたお兄さんみたいな人です。話はわかる人なので売り上げの貢献にと」

「なんだとぉ?」


 すると、ヒカリちゃんの説明に反応した“新撰組”が居た。


 誤字かと思った? オレも何かの間違いかと思ったらマジで新撰組だった。正確には新撰組のコスプレをしている生徒だ。

 北斗の○みたいなビジュアルで、額には明朝体で“誠”と書かれた長いハチマキが吹いてもいない風に、はためていている。


「彼は何先輩?」

「野球部二年生の野村先輩。エースだよ。こんにちは、野村先輩」

「あぁ、よく来たね、谷高」


 ヒカリちゃんが手を振る新撰組の隊士、野村君はニッコリとブルペンのマウンドからこちらを見ていた。どうやらマウンドの様子を確認していた様だ。

 和服なのにグローブを嵌めて立っている様が何ともシュール。ざっざっ、とマウントから降りて歩いてくる。


「野村先輩。体格少し大きくなりました?」

「少々山籠りをな」


 冗談には思えない声圧はマジで山籠りをしたのだと思わせる。

 オオオォォォ……と明らかな強者感を漂わせる野村君。ほぅ……コイツは、中々にやるねぇ。戦士としての“格”を感じるよ。

 レベル的には……夏にシズカと会った時の嵐君ぐらいか。彼は今頃、もっと強くなってるだろうけど。


「貴方は……谷高のお兄さん?」

「近所のお兄さんみたいなモノだよ。血縁者じゃない。君はヒカリちゃんとはどんな関係?」

「ヒカリちゃん!!?」


 うぉ!? 何か凄みがあると思ったら急に声を上げてきてびっくりした。

 野村君は結構ガタイが良い。チェストー! とか言ったらマジで江戸時代からの転生者だ。

 まぁ、その掛け声は薩摩武士だけどね。


「貴方は……谷高の何を知っていると?」

「え? まぁ……色々と」

「色々ぉ!?」


 カッ! と眼を見開く野村君。さっきからどのワードに反応してるのか、いまいち解らないな。


「鳳さん」


 ゴゴゴゴ……とオーラが野村君から溢れでる。


「俺と個人的に勝負してくれませんか?」

「なんで?」

「更なる高みへ昇る為に」


 なんだ……なんだこの野村君。今でも十分に凄まじいのに、まだ足りないのか?

 そんな彼にオレは何が出来ると言うのだろうか……


「評価してくれるのは嬉しいけどさ。オレの野球経験なんてキャッチボールとバッティングセンターに行くくらいだよ?」

「構いません。俺が負けたら『舞鶴琴音のCD』を渡しましょう」

「! ちょっと待て! 雷太!」


 野村君の宣言に、一人の先輩球児が声を上げる。どうやら野村君のお兄さんの様子。野村君って下の名前、雷太って言うのか。凄い刹那を生きてそうだね。


「お前ぇ! それ親父の秘蔵CDだぞ! ここにあるだけでも殺されるってのに、賭けに使うとは何事だぁ!」


 『舞鶴琴音のCD』。テツとレツも絶賛してたアレがここにあるのか。


「大丈夫だ。兄貴……俺は負けない」


 野村君の眼に炎が……君の名前、実は“炎太”だったりする?


「いいの? お兄さんが、制止してるけど……」

「問題ありません」

「問題ある!」

「その代わり俺が勝ったら――」

「おい! 無視すんな! クソ弟!」

「谷高との交際を認めてください」

「え?」

「え?」

「え?」


 オレ、ヒカリちゃん、野村君(兄)が揃ってそんな声を上げた。

舞鶴琴音は世界を変えた

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