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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
5章 盆休みリンカ編 過去の町

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第62話 盆暮れババァ

「少し遅いから、ケイタ君を送ってらっしゃいな」


 銭湯から出たセナはマッサージ機にコインをフル投入しながら、家の鍵をリンカに渡してそう言った。

 揺れる双巨山に注目が集まるも、セナは慣れた様にマッサージ機に寄りかかり、重りによる肩の疲労をほぐし始める。

 ここに来たらやっぱりこれね~、と地元を堪能していた。


 リンカはケイタと共に日の落ちた住宅街を歩く。


「昔は全部大きく見えたけどなぁ。ケイタもそうだったでしょ?」

「……俺は別に」

「そっか。こっちに住んでるから見慣れちゃってるか」


 ふと、昔よく遊んだ公園を見つけて、思わず入り込む。


「うわ、懐かしい。ここは全然変わってないね」


 住宅や道などが綺麗に作り変わった中で唯一、昔とは変わらない姿の公園はリンカとケイタが出会った場所だ。


「あの砂場とか、こっちの木に登ったりとか、スイカを仕掛けてカブトムシをとったりしたよね」

「……うん」


 ケイタにとってのリンカは明るくて、何でも出来るお姉さんだ。それがそのまま大人になってて、それで今は凄く可愛くて――


「何か悩み事でもある?」


 ブランコに座りながらリンカはケイタの様子にそんな事を聞いてきた。


「隣、座って」

「……俺はいいよ」

「いいから座って」


 リンカの昔とは変わらない優しい口調を向けられたケイタは隣のブランコに座る。


「虐められてるの?」

「……違うよ」

「おじさんと喧嘩してる?」

「……違う」

「そっか。なんか無理に聞き出そうとしてごめんね」


 リンカはケイタが深い事情を抱えているとどことなく察していた。

 しかし、当人から話さない以上は無理に聞き出す事は逆効果でしかないと悟る。


「リンカ姉ちゃんは……なんで引っ越したの?」


 この街から何も言わずに消えたリンカ。ケイタにとっては家族以外に頼れる彼女の存在は何よりも大きかったのだ。


「あたしにもよく解らない。何となく、お父さんが絡んでるんだとは思うけど……」

「セナさんに……聞いたりしてないの?」


 ケイタの言葉にリンカは首を横にふる。


「お母さんは、あたしがお父さんの事を受け入れられる歳になったら話してくれるんだと思う。まだ、話してくれないって事はまだまだ子供なんだよね」


 父絡みの事件に巻き込まれた彼は、母から父の事を聞いたハズだ。しかし、その事は教えてくれる気配が無いので、きっと今のあたしが知るには早すぎる事柄なのだろう。


「それに悩みを打ち明ける受け皿になってあげた方が心置きなく秘密を話せるでしょ? あたしは相談してくれる人にそう言う存在として信頼して欲しいかな」


 そうやって考えて見ると、母に頼られてる彼は大人なのだ。隣に立つにはまだまだ遠いと改めて意識する。


「……俺、学校に行って無いんだ」


 リンカの言葉に、彼女を信頼するケイタは絞り出すように弱々しくそう言った。





「あっ」


 セナはマッサージ機で胸の重しによる肩の負荷を限りなく(ほぐ)し終え、テーブルに移動して牛乳を飲んでいると、とあるLINEメッセージを見てそんな声が出た。


“お前に似て、良い女に育ったじゃなーい”

“買ったの? リンちゃんの特別号”

“そりゃな。前のは逃しちまったから今回はきっちりな”

“前の持ってるわよ”

“マジ? いくらで売ってくれる?”

“5億”

“おいおい、いつから金にうるさい女になったんだ?”

“愛の値段よ”

“ホ~ント、良い女だよ。お前は”


「ふふ」


 事情から直接の会話は出来ないが、それでも久しぶりの会話を楽しむとスマホを置いた。


「アンタ、それ以上デカくするつもりかい?」


 すると牛乳を飲むセナに一人の老婆が声をかけてくる。


「弥生さん。こんばんは」


 実家の隣の家に住む三鷹弥生(みたかやよい)は小柄な老婆であるが、その健脚から普通に走り回る程に健康的だ。

 盆休みに息子の元へやってくる。趣味は散歩。

 徘徊時に素行の悪い者達にはヤクザでも目くじら立てて怒鳴り散らす事からも、この辺りでは『盆暮れババァ』と言う怪談の本懐にもなっている。


「嬢ちゃんはまだ中かい?」

「いえ、私の事に付き合わせるのも悪いので先に帰らせました」

「一人でかい?」


 ヤヨイはそう言いながら、さほど広くないロビーを見回す。


「誰か捜していますか?」

「ケイタをね。もうあの子には会ったかい?」

「はい。庭の掃除を手伝ってもらいました。何も聞いてないのですか?」

「聞いてないよ」


 全く、なにやってんだか。とヤヨイは見つからない孫に手を焼いている様子だ。


「早めの反抗期ですか?」

「まぁね。息子(バカ)にも原因はあるけど、アタシが居る内に二人には一度、腹を割って話させる」

「強制は逆効果では?」

「そうでもしないと、二人の距離は離れる一方さ。特にケイタはまだ子供だからね」

「私、ケイタ君の居場所に心当りはありますよ~」


 その言葉にヤヨイは、それを早く言いな、と眼を向け、知らないとは言ってませんよ~、とセナは笑い返す。


「はい」

「なんだい?」


 差し出されるコーヒー牛乳を見て、ヤヨイは怪訝そうな顔をする。


「一杯、付き合ってくれたら案内します」

「言うようになったじゃないか」


 今は亡き友の娘であるセナはヤヨイにとっては娘のような存在だ。その申し出を受け入れ正面に座った。


 ちなみに、セナに声をかけようとしていた者達が何人か居たが『盆暮れババァ』の出現に、そそくさと逃げ出したのは知らぬ話である。

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