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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
38章 文化祭編2 縁の交差点

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第619話 とある選手のインタビュー

「よし、意趣返しを決めてやったぞ。フェニックスよ!」


 と、サマーちゃんは帰陣しつつ嬉しそうにオレにそう言う。良い笑顔だぁ……って、ほっこりしてる場合じゃない。今のは――


「サマーちゃん。誰に『古式』を教えてもらったの?」


 形は違えど、重心を流す様に草苅君のキャッチをかわしたのは『地崩し』だった。似たような技は色んなスポーツにはあるが、念のために聞く。


「しいて言うならば、フェニックスよ。お主じゃな」

「え? ……オレ、教えたっけ?」


 オレはジジィキルが怖いから丁重にお断りしたハズ……


「『ショウコ救出作戦』の時の『Mk-VI』データを細かく確認したのじゃ。後はイメトレをのぅ」


 なんだって? オレの動きを参考に、情報とイメージだけで『地崩し』を会得したのか?

 そりゃ、戦った女郎花も即座に理解してその場でやり返してきたが、アレはヤツの異常なまでの天才性が生み出した結論だと思っていた。

 あ、そう言えば――


「サマーちゃんって天才だっけ?」

「天才じゃが、なにか?」


 うわ。驕り気の欠片も無い、当然じゃろう? と言わんばかりの良い笑顔だ。取りあえず。


「オレのおかげで覚えたって他の人には言わないでね」

「仕方ないのぅ」


 釘を指して置かねば、どこの闇からジジィがやってくるかわかったものじゃない。


「次は最後の守備(アンティ)じゃな」


 と、サマーちゃんが視線を向けた先――ただならぬ雰囲気で起き上がる草苅君をオレも見る。


「うわぁ、なぁに? あれぇ」


 思わず語彙が溶けてしまう程に草苅の雰囲気が凄まじい。なんと言うか……一切の隙を感じないと言うか……あれ、ゾーンに入ってない?


「最後の最後でヤツも本気と言うワケじゃな! それでこそ、計三回の防御(アンティ)による雪辱を晴らせると言うものよ!」


 サマーちゃんも覚醒草苅君を見てテンションが滅茶苦茶高い。

 正直な所、凡人のオレにはあの草苅君に勝つ未来は全く思い浮かばない。

 何やってもあしらわれそうな気がする。


「フェニックスよ。最後の作戦じゃ。良く聞けい」






「草苅、俺は正直驚いてるぜ。今の状態のお前が転ばされた事にな」

「俺もだ。今のテンションで黒船さん以外に転ばされる事があるなんてね」


 しかも相手は小学生くらいの女の子だ。

 大人の鳳さんとは違い、組めれば100%勝てる相手。故に組み付いた瞬間に油断があったとは言え、完璧にスカされた。


「……」


 草苅は立ち上がると、話しているサマーとケンゴを見る。

 頭の片隅に二人は“素人”と言うイメージが常にあった。どんなにこちらの虚を突いて来ても、心のどこかで侮っていたのだ。


「もしも……」


 いや、この考えは止めよう。これは公式試合でも無ければ、ちゃんとしたルールのゲームですらない。文化祭だけのお遊びだ。俺はもう――


「なんだよ、草苅。楽しそうだな」


 審判をする親友の言葉に草苅は自分が楽しんでいる事を教えられた。


「そう見える?」

「ああ。どんどんテンションが上がってるぜ?」


 それでも……この気持ちは終れば二度と感じる事が出来ない“熱”だ。だから、決めたのだ。


「紫月、多分。次が俺の中の最後で本気のレイドだ」

「そうかい。それは、残念だな」


 そう言いつつも紫月は笑う。ケンゴとサマーの準備が整った様子に草苅は一度深呼吸をし、


「カバディ」


 ミッドラインを越えた。






「いま思えば変わったきっかけは、高校最後の文化祭で出会った二人だったんです。名前は個人情報なので伏せます。あの時の私は本当に子供でしたよ。何せ、勝手に全てを悟ったつもりでいたんですから。

 私は完全な燃え尽き症候群だったんです。高校で多くのライバルと戦って、部長を後輩に譲って、もう何も思い残す事はないと思って辞めたんです」


 辞めたのですか?


「ええ。完全にそのつもりでしたよ。普通はもっと上を目指したいとか、拮抗したライバルと何度も戦ったり、一緒のチームになったりするのも考えるでしょう? けど私の場合は試合前と後でテンションの落差が激しい事もあってね。今更ながら、20年も生きてない分際で何を考えてんだ? って思いますよ」


 今となっては良い思い出だと?


「……あれはね、失敗。失敗ですよ。完全に失敗でした。途中で同期の紫月に任せれば良かった。何故なら、あの何の変哲もないミニゲームで私の人生は完璧に変わったんですから。

 本来は高校最後の大会で完全にカバディは辞めたんです。消化試合のような感覚でプレイしたのが良くなかった」


 良くなかったのですか?


 記者のその質問に対して彼は横の棚に乗っている小さな盾を見る。


「私が誰よりもカバディを楽しんでいる事を理解して、何十年も続けた挙げ句、結局はこの盾一つしか手に入れられない世界を歩む事になったんですから」


 記者のインタビューにそう答える、プロカバディ選手――草苅鳴海(くさかりなるみ)は、最年長選手にだけ贈られる盾を見ながら当時を思い返し、終始嬉しそうに応えていた。

キッカケはちょっとしたところに落ちている。

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