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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
38章 文化祭編2 縁の交差点

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第616話 カバディ(なんて恐ろしいスポーツなんだ……)

「草苅。少しはサービスしてやれよ」

「本当はそのつもりだったけどね。つい、楽しくなった」


 草苅はこういう奴だった。

 選手として勝敗は第一に考えてはいるが、勝負に集中すればする程、彼の動きに縛りが無くなって行く。

 序盤は選手として並。点を取られる、コートから追い出されるのは試合では通例だった。

 しかし、中盤と終盤、試合を楽しみだした草苅はレイダーとして全国でも頭一つ抜けた力を発揮する。


「もう、エンジンがかかって来たか? あの二人はそんな相手かよ」


 たった二回のレイドで草苅は試合の中盤に近いパフォーマンスを発揮している。


「鳳さんとサマーさんは普通なら戦えない相手だからね。しかも素人。そんな二人が俺のレイドをあそこまで追い込むなんて、ワクワクするよ。試合じゃないし」


 タックルの仕方を見るに鳳さんは何か格闘技をかじってるだろう。

 サマーさんに至っては理解が早い分、パワー不足。

 しかし、二人が互いの欠点を補う完璧な連携を見せれば俺のレイドを止められなくはない。


「次は俺が守備だね」


 次に二人は、どんなレイドを見せてくれるのだろうか? 草苅のテンションは徐々に上がっていく。






「ごめん、サマーちゃん」

「ぜぇ……ぜぇ……気にするな。あれは仕方あるまい」


 サマーちゃんは膝に手を当てて肩で息をしながら、守備が失敗した事を気にしていなかった。


「手札が……ぜぇ……ある程度は見えたのぅ……」

「“アイソレーション”に“回転”か。まだ何か持ってそうなんだよなぁ」


 草苅君のレイドは経験の無いオレらからすれば全て初見だ。予想外の行動にこちらを振り回すと唐突に手札を切って来る。

 厄介極まりない。守備に関しては残り二回は捨てて、手札を出させた方が良いか?


「ぜぇ……とにかく……パーフェクトは無くなったが……手を抜くつもりはないぞ」


 息を整えながらサマーちゃんの戦意は落ちない。考えて見れば、こっちも全力で行かなければ草苅君は手札を切らない可能性もあるのだ。それなら、サマーちゃんの心意気に乗っかってオレも『古式』を解放せざる得ない……か。


「奴を絶対に捕まえるのじゃ! 残り二回目……ぜぇ……ぜぇ……勝ち逃げは許さんぞ!」


 どうやらサマーちゃんは守備で負け続けて悔しい様だ。後二回。何としても草苅君のレイドを止めたいらしい。


「レイドをお願いします」


 紫月君の言葉にサマーちゃんがふらりと前に出る。おっと。


「サマーちゃん。次はオレが行くよ」


 息がまだ整わないサマーちゃんを制する様にオレは名乗りを上げる。


「守備もあるし、サマーちゃんは休んでて」

「そうか……なら……ぜぇ……頼む」


 その場に座るサマーちゃんが突き出す小さな拳にオレも拳を合わせ、そのままミッドラインを越える。


「カバディ」






「鳳さん。次は貴方が来ると思ってましたよ」


 草苅君の動向をチラチラ見ながらボークラインに近づいていると話しかけてきた。

 しかし、レイド中は掛け声(カバディ)以外は喋れない。なので、オレはカバディで返す。


「カバディ(そうなん?)」

「その為にサマーさんの体力を削りましたからね」

「カバディ(計算通りってことか)」

「はい。やるなら皆で楽しみましょう」

「カバディ(これ、なにが言いたいのかわかるの?)」

「大体のニュアンスで」

「カバディ(カバディ選手って皆そんな感じ?)」

「大体は」

「カバディ(なんて恐ろしいスポーツなんだ……)」


 おっと、話している内にボークラインを越えたぞ。草苅君は――あれ? 居な――


「カバ――ディ!?」


 死角。ボークラインを踏む刹那、草苅君は真下に潜るようにオレの死角を付いたのだ。

 さっきまで話していたのですぐ近くには居ると思っていたが、正面から死角を利用されるとは思わなかった。


「カバディ!」


 足を掴んでくると予測していた事もあって、ギリギリ捕まらずに済んだ。しかし、自然と陣地の奥へ移動するしかない。


「アイソレーションを使えますか?」

「カバディ!?(そんなホイホイと誰でも覚えてるモンじゃないからね!?)」


 ボーナスは踏んだが草苅君は門番のように立ち塞がる。

 あれ? 左右には広い空間があるハズなのに小さいくぐり門みたいにコートが狭く感じるぞ……?


「カバディ……」


 そして、絶妙な間合いを草苅は維持する。こちらがどう動いても後手で反応するには十分な距離感だ。それなら――


「カバディ」

「やっぱり……鳳さんも何か――」

「カバディ!」

「持ってますね!」


 オレはサンボタックルの構えで正面から草苅君へ突撃。

 受け止めるならそのまま草苅君を持ち上げて、米俵スタイルで帰陣する。避けるならダイビング帰陣だ! 身体をピンと伸ばして、とにかく帰るぞい!


「カバディ!(さあ、選ぶが良い若人よ!)」

「これは手厳しい」


 すると、草苅君はオレよりも低くすれ違う様に潜ると、足を脇に抱える様に掴んできた。

 草苅君はそのままガッチリと脇を固定し、その場に重心を落とす。

 オレには瞬時に足に50キロ以上の重りがかかったも同然だ。ぐぬぬ……


「カバ……ディ……」


 倒れそうになるも意地で片膝と肘を地面に着いてズリズリとミッドラインに手を伸ばす。


「俺にも意地があります」

「カバディ(オレもそうだ)」


 高校生と意地を張り合うなんて、大人げないと思うかい? そんなことはねぇ! この瞬間に全身全霊を燃やせない事は相手に失礼でしかないのだ!


「カバディ……」

「くっ……」

「カバディ――」

「させ……るか!」


 草苅君が態勢を変える。その場で“重り”になる姿勢からオレの足を後ろに引っ張る様に立ち上がり――


「そこまで!」


 紫月君がレイドを止める。しまった……手を伸ばすのに集中するあまり、キャントが切れていたか!?


「フェニックスよ。届いておるぞ」


 サマーちゃんにそう言われて指先を見ると、ミッドラインに触れていた。


「レイド成功、アンティ失敗。レイダー2点」


 紫月君が改めて宣言すると草苅君が足を離す。


「負けました」

「カバディ(そんな良い笑顔で言われるとこっちが負けた感じだね)」

「もう、キャントはいいんですよ」


 と、差し出された草苅君の手を取ってオレは起き上がった。

別にカバディ選手はカバディで会話はしません

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